超能力者
書き手:朗
人の心なんて、覗けるわけないのに。そんなことが出来るのは超能力者くらいなものだ。
「なによ。またケンカしたわけ?」
ツアースキーのバスの中。出発直前。狭い座席に身を押し込みながら、順子があきれたように言う。
だって。彼、何も話してくれないんだもん。くやしいから、このツアーも黙って来てしまった。
もともと寡黙な人だったけど、付き合ってる相手には色々と話してくれるだろうと期待していたんだけど。
結局、彼の心は未だ覗けずじまい。
「いいじゃない。それでも八王子君、大沢の事ちゃんと考えてるって。」
「そんなこと言って。順子ってば超能力者なの?」
うっ、と言葉に詰まる順子。バスは、荷物の積み込みも終わったらしく、ガイドの男の人が人数確認を始めていた。そう。もちろん、順子だって超能力者じゃない。少なくとも、私の知ってる限りは。
彼に黙ってスキーに来たからって何が変わるわけじゃないけど、それでも彼が少しでもこの事で動揺してくれればと思う。もし、何も反応してくれなかったら、その時はその時考えればいいや。
甘いかな。私。
そんなことを考えている間に、バスはエンジンがかかり、そして走り出した。
そのタイミングで。
ピリピリピリ。携帯のメール着信音が鳴る。
『いってらっしゃい。ケガだけはするなよ。』
……彼からのメールだ。なんで?どうやってこんなタイミングでメールが出せるの?もしかしたら、見えるところに居るんじゃないかと思い、窓の外をきょろきょろと眺める。窓の外はビルばかりで、彼らしい人影は見つけられない。
「ほら。ちゃんと大沢の事考えてるじゃない。よかったね。」
順子が、自分のことのように喜ぶ。
「ねえ……八王子君って、超能力者なのかなあ。だから、黙ってきたのにこんなメール届くのかな。」
冷静な文面がちょっと悔しいけど、それでも帰ってきてこの事を聞けば、少しは彼の心が覗けるかも。そんな風に思った。
後書き
こういうのは、タイミングです。しかも、普段から相手をちゃんと見ていれば、そんなに難しくない。
考えてみたら、女の子の視点で書くのって初めてかもしれないです。たまにはいいかもしれません。
本作品は、「日めくり恋愛小説」に投稿したものです。 |
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