Bikkle on the Web 日記 短編小説
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書き手:朗

亀は何を考えている?

「ねえねえ、でっかい亀がいるよ。」
「ホントだ。二匹いるね。甲羅干しでもしてるのかね。」
 そんな事を言われている亀、ここでは仮にAとBとしておこう。彼らは正直、甲羅干しなんて呑気な気分でもないようだ。

A:「お、おい。どうするよ。」
B:「こら、動くんじゃない。まだこっち見てるぞ。」
A:「かといって、このままじゃ俺達干上がっちまうぞ。」
 池の向こうから来る矢のような視線。それに二匹は脅えていた。
「動いたら、喰われる。」
 それが彼らの共通した見解だった。その視線は今もこっちに向かっている。一度もこの池を出た事の無い彼らにとって、こんな強烈な殺意は生まれて始めてだった。じいさん亀が言っていた、鷹や狐に狙われた時というのはこんな感じなんだろうか。

「ぴくりともしないね。」
「あんなに踏ん張りながら、何考えてるんだろうね。」
 池の周りにはベンチが並べてあって、休めるようになっている。そろそろお昼時という事で、だんだんと人の数も増えてきた。

A:「あ、あれ?」
B:「気配が消えたな。いや、ほかの人間がちょうど壁になってるだけだ。」
 どちらにせよ、逃げるチャンスではある。今、「奴」は彼らの動向を追う事が出来ない。
B:「まて。罠かもしれないぞ。まだ動くな。」
A:「冗談じゃない。今逃げなかったら本当に喰われるかもしれないだろう。俺は逃げるぜ。」
B:「お、おい。ちょっとまて・・・」
 ドボン。見た目のんびりと、当人にとっては大急ぎでAは池に入った。Bも慌てて入ろうとしたが、すでに遅かった。

「あれ。一匹どっかいっちゃったよ。」
「ほんとだ。あ、あそこ。泳いでるよ。甲羅干し終ったのかねえ。」

 今までに増して動けなくなったB。一匹いなくなった事で、奴の目は完全に自分の方へむけられるだろう。もう逃げられない。
「くそう。憶えてろ・・・」
 自分を見捨てて逃げたAをうらみ、千載一遇のチャンスを逃してしまった自分を呪いつつ、あいかわらずじっとしているのだった。

「さ、そろそろ日も落ちてきたし、帰ろうかね。」
「そうね。はい、坊やも帰りましょうね。」
「それにしても、この子の集中力はすごいな。さっきからずっと亀の方を見てないか?」「将来大物になるかもね。」
 赤ん坊とその両親は、自分達の家へと帰っていった。

 視線を解かれた亀Aは、疲労した体をずぶずぶと池に沈めていった。

後書き
 深大寺にある池でのんびりとしていたとき、亀が甲羅干しをしていたのを見て思い付きで書いて見ました。内容的には特に意味はありません。亀が、動かないのではなく動けないとしたら面白いなあと思っただけです(^^;