運命変換機
書き手:朗
運命変換機というものを買った。
ネットワークゲームを一週間我慢すれば買える値段だから、それほどは高価な物でもない。これは、説明書によると特定の人間の運命を幸運もしくは不運の方向に軌道修正を掛ける事が出来るものなのだそうだ。
使用例を見ると、家族を亡くした人に対して幸運方向に修正する事で新しい道を歩むきっかけを与えたり、病弱な人が使う事によって健康に戻ったりするようだ。逆に自分を不幸方向に修正する事によってわざと試練を与えたりすることもできる。
僕の一番嫌いな人間。殺してやりたいくらいの人間。奴の運命を不幸方向に修正してやろう。そう思った。もし上手く行かなくても、少しでも気が晴れればそれでいい。
効果はすぐに現れた。次の日、職場に顔を出すと奴の姿が見えない。聞くと、急に入院したらしい。盲腸だそうだ。
まあ、こんなもんか。効果が有っただけマシってもんだ。
一人陰で笑っていたものだが、しばらくしてそんな気は消え失せてしまった。
奴の入院中、ずっと付き添っていたのがあの人なのだという。僕が一生懸命アタックを掛けている彼女だ。
ちきしょう。
僕は変換機の修正度をさらにマイナスに設定した。期間は100年。デフォルトでは出来ない設定だったが、リミッタを外す事によってそれを可能とできるという情報をインターネットで見つけ出し、実行したのだ。
奴はそれから、ミスから職を失い、両親を事故で亡くし、あらゆる不幸を背負うようになった。装置が順調に稼動している証拠だ。だが、どんなにマイナスに設定しても彼女が奴を離れる事は無かった。この僕が何度アプローチしても、だ。
数年後、とうとう奴等は結婚してしまった。これではまるで奴の運命は結局幸運方向に修正されているかのようではないか。そんなはずはない。僕は奴の修正期間を一生にしてやったんだ。一生不幸にならなければならないんだ。
そうか。
閃くが速いか、僕はアパートを飛び出し、奴を待ち伏せた。そして、奴の顔を見るなり至近距離から弾丸を数発お見舞いしてやった。
奴は即死だった。どうだ。やっぱりおまえは不幸になる運命だったんだ。幸福になれる訳が無い。ざまあみろ。銃声を聞きつけた警官達に取り囲まれながら、僕は歓喜していた。そしてそのまま射殺された。
葬儀が終って、彼女は一人になった部屋で疲れを癒していた。
「こんなにも効き目が有るとはね。」
自分にとって邪魔でしかない存在だった男が二人、同時に消え去ってくれた。特に、保険金と両親の遺産のためとはいえ、結婚までってのは結構憂鬱な物だったわ。
でもこれで自由になれる。お金も有る。私は今、幸せよ。
幸運方向にセットされた運命変換機を見つめながら、彼女はつぶやいた。
後書き
運命を変える事が出来たとしても、それはやっぱりあらかじめ決められた運命の一端でしかないのかも知れません。それが誰か第三者によって決められていたとしたら気持ち悪いものです。
それにしても、ちょっと怖い話になってしまいましたね。こういう場面で一番計画的で情けが無く、怖いのは男性よりも女性じゃないかと思うのは偏見でしょうか? |
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