Bikkle on the Web 日記 短編小説
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百億の婚約者
書き手:朗

「ちょうど、あの辺の星だよ。」
 男は東の方を指差した。あの辺、と言われてもぴんとこない少年は、ふうん、と興味がなさそうに相槌を打つ。
「私の宇宙船は推進システムの不調により、とある星に不時着したんだ。」
 少年に話しかけるでもなく、独り言のように男は話した。
「その星には、先住民が居た。運良く、彼らは友好的で、遭難者である私は快く迎えられた。宇宙船の修理は、物資の不足をなんとか補いながら一年ほどで完了した。その間に、私はとある女性と恋に落ちたんだ。
 ところが、それからというものの皆の私を見る目に、おかしなものを感じるようになった。変な話だが、誰もが私に恋心を抱いているかのような態度を取るのだ。彼女とのことは、このときは既に公認のものであったし、あまり気にしないようにしていた。
 そうこうしている間に宇宙船の修理も終わり、地球に帰る日がやってきた。私は彼女に求婚した。この宇宙船は一人乗りであなたを連れて行くことは出来ないが、私は地球で待っていると。
 長老には、これまた熱いまなざしでこう言われた。結婚という習慣は我々にはないが、もしそうしたいなら、この星全体と結ばれなくてはならない。それを聞いて、今まで漠然とした不安だったものが、形を成した恐怖へと変わった。
 つまり、彼らは一族で一つの生命体だったのだ。一つの星に寄生している、一つの生命。彼らはその生命体の細胞の一つに過ぎない。だから、彼女の気持ちは一族に筒抜けだったし、おかしな視線で見られるようになった。」
 星そのものに寄生する生き物。それと結婚の約束をした、この男。これからどうなるのだろう。少年は男が続きを話すのを待った。
「それでな、昨日、通信が着たんだ。……彼女達も、こちらに向かっているそうだ。」
 空を仰ぎ見ると、流れ星が一つ、二つと現れ、それは次第に空を埋め尽くしていった。
 

後書き
 本当は、もっと長い話として書くべき内容ですね。今回はひとまず下書きと言うことで、機会があればちゃんとしたものを書き上げてみたいと思います。