フレンチ姉さん
in Thailand






2005年春 タイ北部にて。


ソンテウ(トラック風バス)を気前良くチャーター。
1時間カーブのきつい山の中を走る。

久々の車酔いに耐え、やっとの思いで到着したのだった。
そして宿の確認。宿は台湾人の経営するゲストハウス。

バックパックを背負って、その宿の中に入る。
宿泊客から「Good Choice!」などと言わる。笑顔で返す。
- なんかいい雰囲気の宿だな。 -


ゲストハウスの食堂でずっと本を読んでる女性宿泊客がいた。
他の客は話しやすいのに、ずっと本を読んでいるその女性だけは何となく話し掛けにくいオーラが出ている。



しばらくして...。
宿泊客たちとおしゃべりしたくなって宿の食堂へ行く。
さっきの女性はまだ本を読んでいた。
彼女のことは特に気にせず、その近くで私はその他の宿泊客といろいろ話をする。
さて、私がそこで何か話をしていたとき、聞こえた話が面白かったのか、あの女性が振り返りこちらを見てニコッと微笑んだ。
- あのコ、意外と愛嬌あるんだぁ。 -

彼女はまた本を読み続け始める。
私もそれ以上は気にせず、また彼らと話を続ける。



宿泊客たちは暇なときに食堂に出てきて、同じく暇な者同士おしゃべりをする。
宿泊客の日本人・Aさんはさっきの女性に目をやり、そして同意を求めるように彼の連れの日本人・Bさんを見る。Aさんは彼女を気に入ったような、そんな目のジェスチャーだった。

またしばらくすると、彼女は席を離れて自分の部屋に帰っていった。
「可愛い!」と、Aさん。

- 確かに。 -





あたりが暗くなる。
夕食を取りに食堂へ次から次へと宿泊客が集まる。
私もその食堂へ再び行く。



この夜は宿泊客たちの(よくありがちな)ドリンキング・パーティー。
メンバーは、先ほどの日本人のAさんとBさん。
もうひとり日本人のベテラン・バックパッカーのCさん。
豪州人バックパッカーの『豪氏』。
米国人の『米氏』(←かなり長いこと旅を旅をしているらしい)。
『米氏』の友人のタイ人・『泰氏』(←タイ語しか話せなかった)。
それから台湾人の宿のオーナーも。
私を含めて以上が男性。
女性は、台湾人の女性(←旦那さんはどういうわけかこの日は見なかった)。
それと、昼間ずっと本を読んでいたあの女性。


話し掛けにくい彼女へ、突破口を開いたのは『米氏』だった。米氏の初対面の人に対するフレンドリーさには尊敬してしまう。

その彼女の名前はアンというらしい。

米氏はアンさんに尋ねる。
「どちらから?」
「フランスから来たの。」
- フランスかぁ...。 -

すかさず「鯖!」と私。
「サバ。有難う。」アンさんが微笑む。
周囲は「???」。
サバといえば、ボンジュールと変わらないくらい有名なフランス語の挨拶の言葉だと思っていたが、意外と知られていない言葉だとわかった。
私は説明し始めた。
「鯖ってね。日本では魚の一種なんだ。そして...」私自身、酒酔いの所為か(?)、ぶっ飛んでいた。ジョークを交えて鯖の説明をしようとしたが、なにせ英語の会話ということもあり、完結しないまま説明は終わった。


会話は英語で行われた。
次々流れる英語に対して、私とAさんとBさんはついていけてない。泰氏はさらに???であったようだった。 Cさんは流石に外語大を卒業しているだけあって話に100%参加している。

豪氏は、アンさんに話しているとき、実に楽しそうに話す。

宿で飼われている猫がアンさんと私の間に来た。 私は猫を指差してアンさんに言う。
「シャー(猫)だよね?」
アンさんはうなずく。
「フランス語話せるの?」
「全然。」
私も豪氏同様、アンさんと話しているとき、とっても楽しかった。

米氏がアンさんに尋ねる。
「何ヶ国語話せるの?」
「英語とロシア語、アラビア語、中国語、スペイン語、それからフランス語。」
「すっ、すごい。」みんなで感心した。
このとき私はアンさんがスペイン語をあげたときラッキーと思った。

さて、またみんなの英語のスピードが増していく。 そして話についていけなくなる。
つまんな〜い。もっとアンさんとしゃべりたーい。
英語がちょっと途切れた隙に、私は禁じ手を使う。

「ねえ、アンさん。」
アンさんにこちらの方へ顔を向けさせた。

「¿Donde aprendiste el español?」
「Yo lo aprendia en el colegio. ¿Y tu?」
「¿Yo? Couando viajaba por Latinoamerica, mucha gente....云々」

(ふふ。参ったか、豪氏!)

少しの間、アンさんと私だけの会話になった。
誰もついてこれない。二人だけの世界〜ちょっぴり幸せ。
流石に我ながらやることが汚いと思ったので長くは話さなかったけど。

「今の何語?」とオーナー。
「エスパニョ〜ル。スペイン語。」と私。(←カタコトのくせに。ちなみにさきほどの文章も文法的に間違ってるかも。)
もともと私はラテンアメリカ派のバックパッカー。旅行をしながら覚えた(カタコトの)それがこんなことで役に立つとは思わなかった。



アンさんが中国語を話せるというので、その話にもなった。
ちなみに私の第二外国語は中国語。ここでも....いやいや、実は中国語なんて殆ど全部忘れてる。全く役に立たないレベルなのだった。
Cさんが漢字の話をする。Aさんも私もそれにのる。
「ところでアンさん。漢字で自分の名前書くとき、どう書くの?」
「こう書くのよ。」
アンさんが紙切れに漢字を書いた。
その漢字は『安』。

「えー、そう書くの? なんで〜。『安』はチープっていう意味だよ。」
「でも、中国語では calm という意味なの。」
「ああ、そういえば日本語でもそんな意味もあった。」

漢字の話で日本人たちが盛り上がってきている。
さっきまで、元気だった豪氏がちょっと無口に。
日本人たちが盛り上がっててなんか悪いなと思ったので、話題をそろそろ変えてあげたくなった。






翌日、食堂にAさんBさんCさんと私の日本人だけがたまたま集まっていた。

Aさん 「実はきのう夜部屋に帰ったあと、すっげー落ち込んだんですよ。」
Cさん&私「なんで。どうかしたん?」
Aさん 「お二人は結構英語話されてましたけど、俺全然だめだったんで。」
私 (いや、俺の英語はちょっと怪しかったと思うけど...
Aさん 「なんで俺英語うまく話せないんだろ。」
Aさん 「二人すげーなって思ったんですよ。」
Cさん 「そんなことねぇーよー。二人とも単に年の功だよ。」
私 (ん、年の功?二人って俺も入るのか? そんなぁ、年の功はまだ早いよ...。


Aさん 「俺日本に帰ったら語学を本格的にやろうと思うんですよ。」
Cさん 「ほう。」
私 (そういえば俺も20代前半ころは旅行するたびにそう決心してたなぁ。結局はすぐ挫折してたけど。
Aさん 「フランス語勉強しようと思うんですよ!」
Bさん 「そんなに気にいったん? アンさんを。」
Aさん 「アンさんじゃなくても、アンさんみたいな人がいたらいいなぁ。」
私   「俺、『語学は下心、スケベ心』だと思う。」
Cさん 「アンタの場合はそうだろっ。」
Cさん 「きのうのスペイン語はやらしい〜。」
私   「やっぱり、やらしかった?」

Aさん 「ヨーロッパ人の女の人って、日本人の男をどうみてるのかな。」
他   「うーん...」
Aさん 「あっちの女性にもてる日本人ってどういうタイプなんだろう。」
他   「どうなんだろう。」
Aさん 「前、居たんですよ、ドイツ人女性と付き合ってる日本人。」
Aさん 「その日本人、かなり個性的なルックスで...」
Aさん 「ああいう変わったタイプのがもてるんかなぁ。」
私 (日本人と付き合ってるヨーロッパ人女性自体がちょっと変わってるような気もする。
Aさん 「白人と付き合ってみたいなぁ。とくにアングロサクソンって感じより、フレンチって感じがいい。」


Cさん 「あの豪氏、めちゃくちゃアンさんを気に入ってるな。」
Aさん 「あの野郎、モアイみたいな顔してるくせに。」
Cさん 「本当は豪氏、きのう宿を出て行くって言ってたんだぞ。」
私   「え、じゃあ、アンさんがきのう来たから、出て行かなかったの?」
Cさん 「そうに決まってるよ。」
Aさん 「あの野郎〜。」
Cさん 「んで、豪氏に言ってやったよ。」
Cさん 「『あれっ、チェックアウトするんじゃなかったの?』って。」
Cさん 「あいつ、笑ってたよ。」







この日、Aさん&Bさんとはお別れ。彼ら二人はチェンマイへ旅立つ。
Aさんはデジカメを取り出して言った。
「あの〜、最後に思い出として、みんなでカメラに写って欲しいんですけど。」
みんな勿論OKした。
宿のオーナーが撮影。 被写体は アンさん と Aさん と おまけのその他大勢( Bさん Cさん 豪氏 私 )。
Aさんはアンさんとツーショットのお願いをする勇気まではなかったようだ。

AさんとBさんはソンテウ(トラック風バス)に乗り込む。実は私も日帰りでミャンマー国境へ行って来るため、一緒に乗り込んだ。
ソンテウが走り出すと、Aさんはかばんの中からデジカメを取り出した。そして先程撮影したアンさんの写ってる集合写真をしみじみと見ている。
私もちょっと見せてもらった。
私   「おお、アンさん、ちゃんと可愛く写ってるじゃん。」
Aさん 「うん。でも、こいつが邪魔だ。」
Aさん 「この野郎、アンさんの隣で『でれぇー』っとしやがって。」
Aさん 「このモアイ野郎!」



日暮れ頃、米氏と泰氏がバンガロー部屋のすぐ外で飲んでいた。実は両者はそのバンガロー部屋を二人でシェアしている。(あやしい?)
米氏が私を見つけると、手招きする。
私はとりあえず行って一緒にビールを戴いて一緒に飲んだ。

米氏は言う。
「豪氏は、アンさんからずっと離れないんだよ。きょうは豪氏、ずっとアンさんの後を金魚の糞みたいに付いていったみたいだ。相当惚れてるんだな。豪氏は結構ハンサムだし筋肉質でいい体してるし、アンさんもまんざらじゃなさそうだ。」






夜、たまたま目撃をしてしまった。
アンさんが豪氏のバンガロー部屋へ入っていくところを。

- いつの間にそんな仲になっていったのだろう。 -



あとでわかったのだが、その夜は二人で部屋をシェアしていたらしい。


ちょっとショックだった。


ショックだったのは、まず(Aさんほどではないが)私がアンさんに多少惹かれてた為と、それから知的で真面目そうだったアンさんが実は軽い人だったのがわかった為。バックパッカーの女性ってみんな実は軽いのかな〜。


まあ、何はともあれ、豪氏おめでとう! アンタの勝ち。
Aさんがこのこと知ったらどう思っただろう。
el 02/07/2005







− フレンチお姉さん おわり ー



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