イタリアおじさん
in CUBA






1999年春 サンティアゴ・デ・クバ (Cuba) にて。


ちょっとリッチなホテルに泊まり、そこの屋外レストランで一人で夕食をしていた。
広いレストランの中で客は私のほかは少し離れたところに5人のグループ。

そのグループの話し声が聞こえた。
「...ジャポネーゼ...」と。

− ジャポネーゼ? ジャポネーゼって俺のことだ。−

彼らと目が合った。 

にっこり微笑んで「ジャポネーゼだよ〜!」と片腕をあげた。
彼らもにっこりして、「こっちに来いや。」とテーブルに呼んでくれた。

食事は一緒にすることとなった。

彼らは3人の白人のおじさんと2人の黒人のお姉さん。
どこから来たのか尋ねると、おじさんたちは「ローマから」とのこと。

− イタリア人てフレンドリーな人が多い。−

会話は結構弾んだ。


レストランでは音楽が流れていた。
食事も終わりかけたころ、サンバが流れ出した。
すると、お姉さんたちは席を立って踊り始めた。
ノリのよいお姉さんたちだった。

お姉さんたちが席に戻ってきた。

− サンバの音楽にノルっていうことは、(おじさんたちはイタリア人だけど)
   お姉さんたちはブラジル人なのだろうか。−

お姉さんたちに尋ねた。
「もしかして、お姉さんたちブラジルから来たの?」

「ええ、そうよ。 あたしたちブラジル人なの。」

− おじさんたちとはここキューバで知り合ったのだろうか。−

もう一人のお姉さんは、ニヤッと笑って言った。
「ウソよ。 ホントはねぇ、キューバ人なのよ。」



・ ・ ・ キューバ人 ・ ・ ・




「パスポートっ」

レストランの従業員の声であった。

お姉さんの「キューバ人」という言葉聞いて駆けつけてきたのだ。

お姉さんたちはパスポートの提示を要求された。
当然、お姉さんたちは持っているはずがなかった。

んっ!?
このホテル(兼レストラン)はキューバ人立ち入り禁止だったのか。
何故?

・・・もしかすると・・・

外国人とレストランで食事をしているキューバ人女性は、
売春婦の疑いをかけられるということなのだろうか...
そう思った。



それにしても、その従業員、
ずっと耳を澄ませて我々の会話をチェックしてたのだろうか。

それともテーブルのどこかに盗聴器でも付けてあったのだろうか。

二人のお姉さんたちは、従業員に連れて行かれた。

お 俺のせいだ。
俺が、ブラジルから来たのかなどと質問したために...

おじさんたちとの間にいやな空気が流れた。
おじさんたちとせっかく仲良くなれたのに。
お姉さんたちも明るく気さくでいい人たちだったのに。
私がその空気を壊した。

おじさんたちは怒った様子はなかった。
がっかりした表情を浮かべていた。

おじさんの一人が、私の足をポンっと叩いた。

「ぺルドン。(ごめんなさい)」

それしか言葉が出なかった。       (もともとボキャブラリーも少ない...)

でも自分を庇って言うと.....
もしあのお姉さんたちがそういう職業だったとすると.....
誘惑されたおじさんたちが悪いわけだし、       ← まだ決まったわけではない。
誘惑したお姉さんたちが悪いんだ。          ← 私の誤解だけかもしれない

お姉さんたち、本当にそういう人だったのだろうか。
ここはキューバ。 その可能性は十分ある.....。  ← 違ってたらごめんなさい。
もっと早く気が付くべきだった。
俺って馬鹿。


残された我々は、それぞれホテルの部屋に戻った。
途中、あのお姉さんたちが警察に引き渡されているのが見えた。


...もし、おじさんたちが俺に声をかけなければ...。

...おじさんたちは、一人で飯を食っている俺に、声をかけてくれたんだ...

...一人じゃ寂しいだろうと、食事の仲間に入れてくれたんだ...

それなのに。

...もし、おじさんたちが俺に声をかけなければ...。

俺に声をかけちゃったために...

...もし、おじさんたちが俺に声をかけなければ、
           きょうの一日を楽しく終えることができたのだろう...



ごめんなさい。

ごめんなさい、おじさん。
ごめんなさい、お姉さん。

ごめんなさい、勘が鈍くてあんな質問して。









         
朝になった。 

部屋の外から私を呼ぶ声。

「ジャポネーゼ! ハポネース! ジャパニーズ!」

− おじさんたち、怒っているのだろうか? −

− そりゃ、怒るだろうな。 −


「ジャポネーゼ! ハポネース! ジャパニーズ!」
私を呼ぶ声。

− 今出てったら、殴りかかってくるかもな。 −

「ジャポネーゼ! ハポネース! ジャパニーズ!」


とりあえず部屋の外へ出た。


− 何の用があるんだろう −




「おはよう!」
と、一人のおじさんが声をかけてきた。 他のおじさんたちは部屋の中だった。


「お おはよう。」
− ん? 怒っているのではなさそう −

「これからチェックアウトをするんだ。
他の連中は、今、荷物の準備をしてるんだ。
きょう、俺たちココへ行くつもりだ。」
とパンフレットを私に見せた。

「へぇー、面白そうなところじゃん。」

「お前も、一緒に来ないか?」

− えっ 俺も? −

本当に 全然 怒ってないみたいだった。

きのう あんなことがあったのに。


− おじさんたち、本当にカラッとした人たちだったんだ。−

− それなのに、俺なんて...
           きっと怒ってると思い込み...−

− おじさんたちを誤解してた −

− おじさんたち...−

− いつまでも根に持つタイプではなく ...−

− とてもフレンドリーで...
      ラテン人なんだ...-




私はその誘いに、礼を言った。
でも、私は帰国の日が近づいていたので、誘いは断った。

そして、おじさんたちとは握手を交わし、別れた。


おじさんたち、ごめんなさい。

そして有り難う。











注:一応、まだ彼女たちが
何者だったのか
はっきりしたわけではない。
実際のところ
誤解かもしれない。




− イタリアおじさんズ おわり ー



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