ジプシー? in 南米(チリ)
ジプシーという民族はもともとインドやペルシア方面に住んでいて、 のちに東欧を経て南欧へ渡ったとされているらしい。 私がチリのサンティアゴでバスに乗っていたときのこと...。 席の近くでおじさんが新聞を広げていた。 新聞の記事のタイトルが目に入ってきた。 そこには『GITANITA』という文字があった。 『GITANITA(ヒタニータ)』とは『ジプシーの女の子』という意味である。 チリの新聞でジプシーという言葉が出てくるとは思わなかった。 − チリにもジプシーが渡ってきているのだろうか?− − 或いは旧宗主国のスペインで起こったことが記事になっているだけだろうか?− − もしかして『GITANITA』ってジプシーの他に違う意味もあるのだろうか?− 『GITANITA』の記事がちょっと気になっていた....。 チリのやや北部のアントファゴスタという都市を訪れた。 公園のベンチに座っていると、4〜5人の女性の集団を見かけた。 黒っぽい服装をしており、独特の雰囲気があった。 キレイな服装ではないので物乞いをする人にもみえた。 彼女たちの横を、一人の老婦人が通り過ぎようとした。 老婦人は親切にも、その集団のひとりにお金を恵んでやろうと 財布を取り出してお金を渡した。 するとその集団の女性は何やら叫んだ。 その叫びの内容は私のスペイン語力では聞き取れなかった。 − もしかして『物乞い』したわけではないのにお金を渡されて プライドを傷つけられたというのだろうか?− そうではなかったらしい。 老婦人はまた財布の口を開き、追加金を渡した。 最初に恵んでもらった額が少なかったから、怒って叫んだようにしか思えない。 その女性の集団は歩き出して、ベンチに腰をかけている若い男の人の前に来た。 女性の一人が若い男の人に話し掛けた。 すると彼は片腕を差し出した。 女性は彼の手のひらを見つめる。 − あれは手相占いだ。− 『手相占い』と『"GITANITA"の新聞記事』が私の頭の中で結びついた。 − あの人たち、ジプシー? − その女性の集団は彼からお金を受け取ると、別の女性のところに歩き出した。 その女性との話し声が聞こえた。 ところどころ内容が聞き取れた。 「あなたたちはどこから来たの?」 「あたしたちは...長旅をしていて...ずっと北から...ペルー..。」 どうやら、ペルーから南下してきたらしい。 − でもどうして、(彼女たちがジプシーだとすると)ペルーやチリなどの 南米へやってきたのだろうか?− 女性の集団の一人が私のところにもやって来た。 「お前の未来を占ってあげよう。 恋愛、お金、健康...」 私は占いを信じないし、占ってもらったとしても そのスペイン語が私に理解できるかどうかわからない。 私は断った。 しかし、その女性は引き下がらない。 私はその場を立ち去った。 その女性は追いかけてくる。 無視して歩き続けた。 翌日、私はイキケという都市に移動した。 道を歩いていると私を呼ぶ声が聞こえた。 「ジャパニー! ジャパニー!」 ちょっと貧しい格好のヒゲを生やしたおじさんだった。 おじさんは私を呼ぶとき『ジャパニー』と発音した。 英語で日本人はもちろん『ジャパニーズ』である。 その『ジャパニーズ』の『ズ』の発音がされていなかった。 私がたまたま知っていたジプシーについての知識では、 彼らは子音のみの『Z』や『S』の発音が苦手らしい。 − このおじさん、ジプシーと同じ特徴である。− 『新聞記事』・『手相』・『Zの発音』と、ますますジプシーがチリにいるのだと (すなわち彼らがジプシーであると)思えてしまう。 ところで、このおじさんのスゴイところは私を日本人だと見抜いたことだ。 というのは、チリでは東洋人はたいてい中国人だと思われてしまうのだ。 しかしこのおじさんは、他のチリ人と違い私を日本人と呼んだのである。 しかも英語で。 次に訪れた都市・アリカでも、貧しい格好のヒゲの生えたおじさんに声をかけられた。 彼もイキケのおじさんと同様、私を中国人と呼ばず日本人と呼んだ。 スペイン語で日本人(男性)は『ハポネス』である。 おじさんは、『ハポネス』というとき『ス』の発音を省略していた。 これもジプシーの特徴である。 やはり、きっとジプシーなんだと思った。 でも、ジプシーか否か聞くことはできなかった。 万が一違っていたら、怒られると思ったから。 そのおじさんは話し上手で、話をするとなかなか面白かった。 (実は話し上手もジプシーの特徴であるらしい。) 多分、彼らは、本当にジプシーだったと思う。 でも何故、チリにいたのかわからない。 どうやって南米にたどり着いたのだろう。 |