安ホテルの思い出











宿泊費はもちろん安いほうがいい。
しかし安ければ安いほどいいというものでもない。
私にとってホテルを決める要素は宿泊費の安さのほか、ホテルの場所、その日の体調、ガイドブックに書かれてるコメント、人から仕入れた情報、直感などいろいろ。




今まで泊まった中で最も安かったのは
グアテマラのアンティグア市のホテルで
シングルで一泊2ケツァルだった。
(1993年春; US$ = about 5.40 Quetzales)

アジアへ多く行っている人には、
この金額は別に安いとは感じないかもしれないが、
ラテンアメリカではめったにお目にかかれない額だと思う。


残念ながらそのホテルの名前は覚えていない。


トイレ・水シャワーが共同なのはもちろん、
電気すら部屋の中になく、廊下の明かりを共有していた。

トイレ・水シャワー・洗濯場の水は1日に1時間程度
(朝の9時〜10時くらい)しか出なかった。

だから、共同トイレは前の人が用をたしたまま、
水で流されることなくどんどん溜まっていくのであった。

また夕方以降治安の悪くなるアンティグアで、
夕食でセントロまで往復するときに
かなり歩かなければならないのはちょっと怖かった。






グアテマラのアンティグアのホテルはある程度覚悟ができていたので、
苦痛感は殆どなかった。
しかし、ニカラグアのニカラグア湖の中の
オメテペ島でのホテルでは...。



オメテペ島にはいくつか町や村がある。

その中のサントドミンゴという村には2軒しかホテルがなかった。

そのうちの1軒に泊まった。

宿泊代はそこそこの額であった。
(宿泊代ははっきりとは覚えていない。)

シャワー・トイレは部屋の中についていた。
扇風機もきちんと有った。


しかし、忘れていた。
そこは中米であることを...。


チェックインしたときは、異常はなかった。

しかし、チェックインをしてしばらくすると
動いていた扇風機は止まってしまった。

  「ちぇっ、故障か。 あとでホテルの人に直してもらおう。」

そしてシャワーを浴びた。

しかし、水までも途中で出てこなくなった。

  「?」

服を着て、ホテルスタッフのところに行った。

  「ねえ、シャワーの水が止まっちゃったんだけど。
         それから、扇風機も動かないんだけど。」

ホテルの人は答えた。
「今、電気が来ないんだ。」

− 「電気? このホテルに?」

「このホテルだけじゃなくて、村全体に。」

− 「ゲッ、停電か!」

今まで中米旅行で運良く停電になったことがなかったので、
停電になることは考えていなかったのだ。

すっかり油断していた。

しかも、このオメテペ島ではシャワー・トイレ・洗面所などの
水は電気の力で水をくみ上げているため、
停電になると20〜30分後には水まで止まってしまうのであった。

心の準備ができていなかっただけにショックだった。


でも、すぐに気を取り直し、前向きに考えた。

トイレの水が流れない 
− 幸いトイレは部屋に付いていて自分しか使わないので汚さは我慢できる。

暑いのにシャワーが使えない 
− 大丈夫! 近くに湖がある。

洗濯できない 
− 湖で泳ぎながら洗えばいい。

湖が近くにあったので助かった。



実は停電・断水の他もう1つ悩みがあった。

ホテルの壁や天井が穴だらけで、たくさんの虫がいるのであった。

大きなスズメバチが数匹部屋を出入りしていたのは怖かった。

天井からはホコリや虫の糞がポロポロ落ちてくる。

白いシーツは翌朝黒い粒で覆われている。

たぶん寝ているときに、開いていた口の中にも
虫の糞が降り込んできただろう。

シーツには私の体重に押しつぶされた芋虫の死体があった。

Tシャツには芋虫の体液による茶色い染みがついていた。
(洗っても落ちなかった。)

そんなホテルで2泊3日過ごした。





いよいよ、他の町に出発することになった。

何としたことか、出発の数時間前にやっと電気の明かりが灯った。
やっと停電が治まったようだ。 今ごろになって。

そして水道もその30分後使用可能になった。


なんか私はまるで「停電を呼ぶ男」みたいだった。








安ホテルへの宿泊は、単なるお金の節約ではない。

安ホテルはなかなか日本では見つからない。 

安ホテルへの宿泊は、『海外ならでは』のことである。

私にとって、それは、自分が海外にいることを一層実感させる。


そしてまたアジア・ラテンアメリカでは、
安ホテルこそ各々が強い個性を持っている。

各ホテルの個性は、記憶として残り易く旅の思い出になる。

不便さ汚さも、旅の記憶に残り易い。




「安ホテル」終わり







NEXT        Top Page


Copyright© Masa M.