3度目のネイチャー記事 「もしも日本がこの方向に進み続けるなら、日本の科学の評価は根底からつき崩される」と警告
「意見広告の会」ニュース 270 (2005.4.12)より
【ホームページ管理人のコメント】
横田めぐみさんの(ものと称する)“遺骨”のDNA鑑定に関する過去2度のネイチャー記事については,本ホームページでもすでに取り上げた[脚注1,2参照]が,今回,ネイチャー誌が3度目の記事を掲載した.ネイチャー誌が,この種の同一テーマをわずか2ヶ月間で3回にわたって取り上げるのは異例のことではないか.
2度目の記事で,ネイチャー誌のシラノスキー記者はつぎのように指摘した.《・・・問題は科学にあるのではなく、政府が科学の問題に干渉していることにある。科学は、実験、およびそこから生じるすべての不確定性が精査に開放されるべきだという前提の上に成り立つ。鑑定はもっと大きなチームでなされるべきだという他の日本人科学者の主張は説得力をもつ。日本はなぜ一科学者だけに鑑定を委ねたのか。そして彼はもはや鑑定について語る自由さえ失っているかに見える。》そして,今回の3度目の記事では《・・・しかし批評家たちは吉井富夫氏の帝京大学から警視庁科学捜査研究所法医科長への転進は彼のDNA鑑定に関する問い合わせから彼を守るために計画されたと主張している。》と述べ,民主党の首藤信彦議員の口を借りて,「もしも日本がこの方向に進み続けるなら、日本の科学の評価は根底からつき崩される」と警告した.
1度目の記事で,吉井氏(当時,帝京大学講師)はネイチャー誌のインタビューにたいして《・・・遺骨は何でも吸い取る硬いスポンジのようなものだ。もし、遺骨にそれを扱った誰かの汗や脂がしみ込んでいたら、どんなにうまく処理しても、それらを取り出すことは不可能だろう》と,自分の鑑定結果がコンタミ(汚染)によるものである可能性を排除できないことを認めたが,この吉井氏の発言は,すでに横田めぐみさんの遺骨が“偽物”であることを“吉井氏のDNA鑑定”により断定して,“日本のDNA鑑定技術の高さ”を誇った上で,“北朝鮮はニセの遺骨を渡した”“経済制裁だ”と大々的キャンペーンを展開していた日本政府にとって甚だ都合が悪く,この記事にたいし“鋭敏”に反応した.すなわち,《内閣官房長官細田博之氏は記者会見において、ネイチャーの記事は“不適当な表現”を含んでおり、科学者の発言を誤って書いていると主張した。細田氏は記事のなかの意見は“一般論”であって、当該ケースについて述べたものではないと語り、このことは科学者にも確認していると付け加えた。一方、その科学者自身は、見るところ、もはやインタビューにも応じられない状況にある。(2度目のネイチャー記事より引用)》この細田官房長官の記者会見が2度目のネイチャー記事を誘発し,さらに,この2度目の記事にたいする“吉井氏の科捜研への転職”という姑息な対応が,今回の3度目の記事を誘発するという連鎖反応となった.
吉井氏の口を封じるために,帝京大学から(管理・統制の容易な)警視庁科捜研へ転職させたとするネイチャー誌の指摘は当たっていると思われるが,もしそうなら,今回の日本政府の汚いやり口が世界中の科学者の目の前で白日の下に暴露され,科学技術立国を基本政策としているにもかかわらず,科学や科学者を単に政府(や企業)に奉仕すべきものと考える日本政府の後進性と無理解ぶりが露呈したことになる.国公立大学の独法化問題の過程で明らかになったように,大学を管理・統制下におくことで,「学問の自由」を抑圧して学問を管理・統制することを当然視しているように見える日本政府も,日本国憲法第23条で保障された「学問の自由」が“国民の真理・真実を学び知る権利と一体のものである”(堀尾輝久著『いま,教育基本法を読む』岩波書店
2002)ことをよく認識し,これを尊重することなく無思慮に踏みにじったりすれば,今回のように世界に赤恥を曝すことになると知るべきだろう.
なお,伊豆利彦氏のホームページでは,「2173. 米専門家も日本の遺骨鑑定に疑問」(2005.4.10)のタイトルで,米誌「TIME」アジア版最新号(4月4日付)もこの問題を取り上げたことを紹介している.http://www1.ezbbs.net/27/tiznif/
[脚注]
(1)問題は科学にあるのではなく、政府による科学の問題への干渉【Natureの論説】 05-3-22
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/050322asyura-nature.htm
http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/05-03/050322asyura-nature.htm
(2)科学誌「Nature」が横田めぐみさん「ニセ遺骨」に関する記事 火葬された遺骨は誘拐された少女の運命を証明できない?(2005.2.11)+谷内正太郎外務省事務次官の反応(2005.2.12)
05-2-11
http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/050211Nature-asyura.htm
http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/05-02/050211Nature-asyura.htm
【以下,「意見広告の会」ニュース270 (2005.4.12)より】
転職は日本の拉致調査を阻害する デイビッド シラノスキー
he-forum 4/10より
ネイチャー2月3日号で記事を書いたシラノスキー記者が4月6日号で、再度、吉井講師
の転職に関して記事を書いています。(ネイチャー記事としては3度目)
http://www.nature.com/news/2005/050404/pf/434685a_pf.html
その全訳を紹介します。(局所的誤訳はお許しを!)
転職は日本の拉致調査を阻害する
デイビッド シラノスキー
遺伝学者の新たなポストはDNA鑑定に関する彼の証言を阻む恐れ
北朝鮮に拉致された日本人の運命に関する騒動に再度、火をつけた一人の遺伝学者が
、そのほんの数週間後に、東京都警の要職に就いた。
しかし批評家たちは吉井富夫氏の帝京大学から東京都警科学捜査研究所長への転進は
彼のDNA鑑定に関する問い合わせから彼を守るために計画されたと主張している。野
党民主党の首藤信彦議員は3月30日の議会における町村外務大臣との激しいやりとりの
なかで、政府が吉井氏を新地位に移すよう影響力を行使したことをほのめかした。
日本政府は吉井氏のDNA分析は、昨年北朝鮮から提供された火葬遺骨が1977年に拉
致された横田めぐみさんとは別人のものであることを疑いもなく証明していると主張し
た。日本は横田さん、そして拉致されたとされる他の数名の消息の詳細を求めている。
しかし吉井氏はネイチャーとのインタビューにおいて彼の結果がコンタミ(汚染)の
結果でありうることを認めた。(ネイチャー433号 445ページ2005年参照) 日
本政府高官は、吉井氏は自らの発言が誤って引用されたと言っていると主張し、ネイチ
ャー記事に反論した。以後、オーストラリア、韓国のドキュメンタリーフィルム制作者
また他のリポーターが吉井氏にインタービューを試みたが成功していない。
首藤氏は吉井氏にこの件に関し、議会外務委員会で証言して欲しいと言っている。し
かし吉井氏の警察の新地位においては、彼の雇用主が、ある手続き(首藤氏によれば障
碍)に同意しないかぎり出席できない。30日の議論のなかで首藤氏は町村氏に、一民間
人のおよそ警察的な訓練を受けていない人が突然、警視庁のトップの地位に就くという
のは「驚き」だと語った。彼は「これは証人隠しではないのか」と尋ねた。
遺骨からはDNAは検出できなかったという、千葉の科学警察研究所の正反対の報告
にもかかわらず、政府は吉井氏の結果を断定的なものとして受け止めた。
首藤氏は町村氏に「巨大な研究機関の言葉を越えて、一私立大学の一研究者の言葉を
受け入れるというのであれば、そのような研究機関は廃止してしまうべきではないのか
」と迫った。町村氏は首藤氏の質問を“侮辱”と呼び、内閣は真剣に調査に取り組んで
きたと述べた。彼は「私どもは予め決まった結論を出そうとしたのではない、委員はも
っと慎重に言葉を選んで欲しい」と抗議した。
首藤氏はなお吉井氏を証言に喚問することを計画している、そしてなぜ政府が吉井氏
の結果からそんな結論を出したのか、その真相に迫ると首藤氏は言っている。彼は「も
しも日本がこの方向に進み続けるなら、日本の科学の評価は根底からつき崩される」と
警告している。
【オリジナル記事】
Nature
Published online:
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Geneticist's new post could stop him
testifying about DNA tests.
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But
critics are claiming that the transfer of Tomio
Yoshii from
The
Japanese government has claimed that Yoshii's DNA analysis proves beyond doubt
that cremated remains provided by the North Korean government late last year
were from someone other than Megumi Yokota — a Japanese woman kidnapped by
North Korea in 1977.
But
in an interview with Nature, Yoshii has
conceded that his results could have been the result of contamination (see Nature 433,
445; 2005). Japanese government officials have disputed the Nature article, claiming
that Yoshii says he was misquoted. A documentary film-maker from
Suto says he wants Yoshii to testify on the
matter before parliament's foreign affairs committee. But in Yoshii's new
position with the police force, he can only appear if his employer agrees — an
arrangement that Suto says is being used as an
obstacle. During the 30 March debate, Suto told Machimura that it was "surprising" that "a
civilian without real police training" should suddenly obtain a top
position in the police department. "Isn't this just hiding a
witness?" Suto asked.
Yoshii's
results were taken as conclusive by the government despite contrary reports
from the National Research Institute of Police Science in
Machimura called Suto's scepticism "an
insult" and said that the ministry had taken the investigation seriously.
"We were not just trying to pull out some predetermined conclusion,"
he protested. "I wish you would choose your words more carefully."
Suto still plans to call Yoshii to testify, and
says he will get to the bottom of why the government set so much store by
Yoshii's results. "If
Additional
reporting by Junko Chikatani.