(1)政教分離原則守れ 高橋哲哉、(2)戦後日本の「出生の秘密」 姜尚中(2006.8.16)

 

 

関連資料

■【抜粋】 『天皇の玉音放送』 小森陽一 (五月書房 2003年8月15日 第1刷発行)(2005.8.3)

 

 

(1)「政教分離 原則守れ」 高橋哲哉氏(東京大学大学院教授) 夏期集中講座 靖国考(下) 『東京新聞』2006年8月4日付より(2006.8.16)

 

―― 靖国神社とはどういう存在か。

 「靖国神社は、戦争に向けて国民精神を総動員していく中心的装置だった。「お国のために命をささげ、靖国の神としてまつられ、そこに天皇陛下もお参りしてくれる」といって、遺族の悲しみを名誉、誇り、喜びに転化させる感情の錬金術にほかならない」

 

―― 首相の参拝はどう考えるか。

 「靖国神社の第一の役割は英霊の顕彰。同神社境内にある展示館「遊就館」では今も、かつての戦争を侵略戦争でなく、自存自衛の戦いだったと基本的に正当化している。思想的にそこが問題で、一国の首相が平和を誓いに行くとか、二度と戦争を繰り返さない気持ちで行く場としてふさわしくない。戦没者の追悼施設ではなく、顕彰施設であることは否定できない。中国、韓国の反発も理解できる。首相の参拝は(政教分離を定めた)憲法違反の疑いも強い」

 

―― 問題解決として、A級戦犯分祀(ぶんし)論が強まっている。

「分祀ができれば、外交問題は解決するが、首相や天皇の参拝に道を開くことになり、大きな問題が残る。軍国主義復活というと、あり得ない話になるかもしれないが、憲法九条が改定されれば、戦争ができる国を支える装置にもう一度なっていく」

 

―― 新たな追悼施設を模索する動きもある。

 「政治的選択肢として、靖国よりもベターというのは理解できる。しかし、追悼施設でも追悼するけれど、靖国神社にも参拝するというのでは意味がない。中身も重要で、第二の靖国神社のような顕彰施設になってはいけない」

 

―― 一番の解決策は。

 「首相が参拝をやめるしかない。中国、韓国に言われたからでなく、憲法の政教分離原則を守れば、外交問題もなくなる。国が靖国神社を利用して、国民の精神を動員することをストップするために政教分離原則がある。この意味を理解することが重要だ」

 

たかはし・てつや

1956年、福島県生まれ。20世紀の西欧哲学を研究する一方で、日本の戦争責任や歴史認識に関しても積極的に発言する。昨年「靖国問題」を出版した。反戦を訴えるNPO「前夜」の共同代表も務める。

 

 

(2)戦後日本の「出生の秘密」 小泉首相の8・15靖国参拝についての姜尚中氏の発言 『東京新聞』社会面2006年8月16日付より(2006.8.16)

 

姜尚中・東大大学院教授の話 

 

首相の参拝は戦後日本がタブーとした「A級戦犯」「靖国神社」というパンドラの箱を開けた。それは戦後日本の「出生の秘密」に触れる。戦後日本の出発点には旧体制と占領国である米国との「談合」があった。

 

すなわち、象徴天皇制の導入と引き換えに、A級戦犯七人が絞首刑になったことには目を向けずにきた。戦後は惨禍をもたらしたあの戦争を問い直さなければ始められないはずだったが、戦没者を英霊としてまつった靖国神社が国民の思考を遮った。だから、日本人は戦後一貫して戦争の「原罪」を清算できないままだ。靖国問題の本質は今に続く日米関係にあるのだ。逆説的だが、今回の参拝を機にこうした問題をとらえ直したい。