昼間は沢山の人で賑わうDDセンターも、夕方になれば途端に静かになる。
そんな、人気(ひとけ)の無いセンター内を俺はある場所を目指して歩く。
"関係者以外・立ち入り禁止"
そう書かれたこの区域に俺の探す人は居る。
− 裏球へ行け −
RI−OMからそんな命令が出されたのはつい先日。
初めての裏球行き、戸惑いはしたが、親父が喜んでくれるのなら俺は迷わずそれに従う。
けど、裏球へ行くのはどうも俺一人じゃないらしい。
だから今、こうしてその人を探している。
聞く所、その人はDDで結構上位に位置する人らしい。
エージェントLの妹で、毎日トレーニングルームへ通うという熱心な子。
「・・・裏球なんて、俺一人で充分だってのに・・・」
目の前の扉の向うに居るであろうそいつの事を考えると、不意に、そんな言葉が漏れた。
扉を開けると、予想通り、一人の女の子が居た。
どうやら帰り支度をしていたらしく、突然入ってきた俺に驚いていた。
「あんただよね。エージェントLの妹さんってのは。」
最初に口を開いたのは俺の方。
「そう・・・ですけど、あなたは・・・?」
彼女の瞳が不思議そうに俺を見つめる。
「俺?・・・俺の名前は・・・・・戸岐 航平。」
状況が飲み込めていない彼女の手をそっと取る。
「DDの"裏ゲーム"って、興味無い?・・・・・メグルさん。」
・・・それが、俺と彼女の最初の接触だった。
「Gさんっ、連れてきたよっ。」
転送室の扉を開け、俺の教育係も兼ねているエージェントを呼ぶ。
「ちょっ・・・戸岐君・・・勝手にこんな所入っていいのっ・・・?」
大分慌てた様子で、メグルさんは俺に詰め寄った。
「いいのいいの。俺、ここの社長の息子だし〜」
「う・・・うん・・・それは判ってるけど・・・」
ここに来るまでの道すがら、俺が彼女を連れてきた理由を話したりしていたが、
それでも、まだ理解できてないらしい。
「ご苦労だったな、航平。」
部屋の奥からGさんが出てきた。沢山の資料を抱え、しばしば疲労の色が伺える。
「君がメグル・・・さん。だね?」
「はい。あの・・・"裏ゲーム"っていうのは一体・・・?」
「あぁ・・・。少し時間を取らせることになるが、良いかな?」
「えぇ。構いません。」
まぁ、最初からそのつもりで連れてきてたし。
ふと、時計を見上げ、軽いため息をつく。
折角、今日行けると思ったのに、これじゃぁ無理っぽい。
仕方ない。探すのに手間かかったんだから・・・・・。
翌日。休日だったこの日は朝から転送室に居た。
流石に、メグルさんも昨日みたく制服じゃない。
Lさんと何か話してるけど・・・あれじゃどっちが姉だか判りゃしねぇ。
「ゲート、開くぞ。」
奥からGさんの声が聞こえ、しばらくすると、ゲートが光りだした。
ここをくぐれば、裏球に。・・・親父が、喜んでくれる・・・。
「じゃ、行くとしますか♪」
不安はあったけど、それを無理矢理仕舞い込んで。
顔に、"余裕"の笑みを浮かべる。
「それじゃいってきま〜す」
無邪気にバイバイ、と手を振って、俺はゲートに飛び込んだ。
・・・・・どれ位、無音の時間が続いていたのだろう。
突然聞こえた風の音に目を見開くと、そこは小高い丘の上。
これが・・・・・異世界、"裏球"・・・。
別に何の変哲もなさそうだけど。
辺りを見回すと、俺の龍(ドラゴン)、ライトナイツナイトが居た。
その横に、おそらくメグルさんの。ジゲンジョーカ。
「ここが・・・裏球・・・?」
「そ。早速で悪いけど・・・出発するよ」
「うん・・・。」
ぼんやりと、彼女は返事する。
「・・・?どうかした?ボーっとして・・・」
「あ・・・。別に・・・。ただ、しっかりしてるなぁ、って思って」
「・・・俺のこと?」
「うん。まだ、小学生、って聞いたのに、何か私と変わらなく見える・・・」
・・・・・・・。G君め。言わなくても良い事を。
「後一ヶ月もすりゃ俺だって中学生だよ。」
「一ヶ月・・・ね」
口を尖らして言った言葉に、彼女は苦笑した。
出発。といっても特に当てはなく。取り合えず片っ端から街に降りてみる。
「"神竜石"かぁ・・・。何の情報も無いね・・・」
「ほ〜んと。珍しそうな物だから、すぐ見つかると思っていたのに・・・」
街の市場を、二人して溜息つきながら歩く。
神竜石探しは予想以上に困難を極めた。
「いっその事・・・片っ端から壊してってみる?」
「駄目よそんなのっ!!」
半ば冗談で言った一言に過剰反応するメグルさん。
「そんな事したら、神竜石も壊しちゃうかもしれないでしょ。
・・・それに、幾ら"ゲーム"って言われてても無闇やたらと物を壊すの、良くないと思うの・・・」
真面目すぎる彼女の考えに思わず呆気に取られる。
「・・・じ、じゃぁ、他にどーしろってゆーんだよっ」
我にかえり反論すると、メグルさんはにっこり、と笑った。
「勿論。根気強く情報収集しましょv」
そう言って、俺の手を取る。
「・・・あっそ・・・・・。まぁ、いいよ。好きにすれば。」
何だかそれ以上反論する気が失せて、俺は力無く笑った。
月日が経つのが早い。
最近、強くそれを感じる。
そう思うのは多分・・・メグルさんが居るから。
何故だか、彼女と居るとそれなりに楽しかったりする。
裏球に来はじめて早二週間。相変わらず神竜石の手掛りは掴めない。
・・・まぁ、俺らが結構気ままにぶらぶらしてんのも悪いんだけど。
"経験値稼ぎ"といっては其処ら辺の野生龍を倒す。
今日も、それを繰り返していた。
「戸岐君・・・」
あらかた龍を片付けた俺に、メグルさんが声を掛けた。
「・・・やっぱり、なんか可哀相だよ・・・」
「何が?」
肩を竦めて見せると、怪訝そうな声が返ってきた。
「この龍たちの事・・・。幾ら経験値稼ぎでも、少しやりすぎだと思う・・・」
無残な屍となった龍たちに眼をやりながら、彼女は言った。
「あのね、メグルさん。これはゲームなんだよ♪可哀相とかそーゆーの関係ないし。
それに、強くなんなきゃ負けちゃうじゃん。いざって時、自分の身を守るのは自分だよ。」
予め、用意していたかのような答え。
前々から何か言いたそうな顔してたけど、この事だったんだ。
それが彼女の性格、優しさだってのは判るんだけど。
「優しすぎても、この裏球じゃ生きていけないよ。」
それがこのゲーム。中途半端にやっても命を落とすだけ。
「そんな事・・・無い。」
不意に彼女が口を開き、意外な事を言い出す。
「優しさがあるから、生きて行ける。私は・・・そう思う。」
あどけなさの中に、強い意志が、彼女の瞳にはあった。
「・・・・・。馬っ鹿みてぇ・・・・・・・」
ぼそり、と呟き、顔を背ける。
真面目すぎる考えに逆に呆れた。
・・・それもあるけど、何より。あの眼から、逃げたかった。
「まぁいいや・・・」
俺が立ち上がるのと同時に、ライトナイツナイトが飛び立つ準備をする。
「休憩おーわり。次の稼ぎ場所でも探そっか。」
慌てる彼女を置いて俺が自分の龍と飛び去ろうとした。
その時だった。
背後の屍の山から、龍の叫び声が聞こえた。
「!!」
驚いた俺が後ろを振り返ると、仕留め損ねていた龍が間近に迫っていた。
明らかに、捨て身の攻撃するつもりだ。
「(やばっ・・・!!)」
次の攻撃まで間に合わない。咄嗟に両腕を構えると、突然、
何かが俺と相手を遮った。
「メグルさんっ!!?」
− 刹那・・・・・
攻撃を受けたジゲンジョーカがふっ、と揺らいだ。
何が起こったのか理解できない頭に、二体の龍が倒れる音が響く。
空白の時間はほんの一瞬。けど、目の前の出来事はいまだに理解できない。
少しふらつく意識の中、俺はメグルさんの方へと向っていた。
「・・・。戸岐君・・・・・」
地面に投げ出されていた彼女が俺を見上げる。
「・・・・・」
俺は無言で近づくと、彼女が後ろに隠していた右腕をぐいと持ち上げた。
「つっ・・・・!!」
やっぱり。
さっき怪我したのだろう。隠していた右腕から少し血が流れている。
痛みに顔を顰めた彼女に、俺は言った。
「・・・・・馬鹿じゃねーのっ?」
「・・・!!」
明らかに傷ついた表情になり、彼女の眼が潤む。
けれども、泣き出すのを必死に堪えているのか、引き結んだ唇に力が篭もる。
俺が手に取った腕からは、未だに止まらない、一筋の血を流して。
「・・・。何で、飛び出したりなんかしたんだよ・・・」
「えっ・・・」
さっきとは違う、少し震えた声に、彼女は顔を上げた。
「怪我する事位、メグルさんだったら予想つくだろ・・・」
痛々しい腕を見てると、何だか急に、胸が苦しくなった。
「・・・黙って、見ていられなかったの。それに、証明したかった・・・」
「何を?」
「・・・。"優しさがあるから、生きて行ける"」
呟かれた一言に、はっ、とする。
「けど・・・あれでもし、死んじゃったら・・・全然駄目じゃん、矛盾してる。」
言葉の意味が判らず、俺は吐き捨てた。
すると、彼女は意外にも、少しだけ笑って見せた。
「仮にその"優しさ"で死んだとしても、私の気持ちは
私が守った人の中で生き続ける。・・・そういう意味なの・・・・・」
その一言に、何だか大きな衝撃を覚えた。
決して、その言葉の意味が分かった訳では無いけど、
彼女の想いは、とても大きな気がした。
「わっかんねぇー・・・」
「・・・・・」
「わかんねぇ・・・。でも・・・」
彼女の目線まで屈み、その手を静かに放してやる。
「そこまでゆーんだったら・・・。認めてあげるよ、あんたの"優しさ"・・・♪」
それだけ言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「それから・・・さっきは・・・どうも・・・。」
おもいっきし背を向けて、遅くなった礼を言う。
らしくない。とは思ったが、彼女に怪我させたのもまた事実。
「・・・ね、メグルさん」
「なぁに?」
彼女が小首を傾げる。
「・・・今度何かあったら・・・次は俺が守ってあげるからね。・・・お姫サマっ・・・♪」
あんたの傷は、もう、見たくないから・・・・・
To be continued.
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後書です。ってゆうか余りにも長いので二分割!!(強調)
初・戸岐メグ小説。何とゆうか、私の考えてる戸岐メグ話、
それをまとめてったらこんなのが出来上がりました。
いわばこの話は伏兵っ!!!(何が言いたい)
内容の話をしなくちゃね。ご覧の通り、戸岐とメグルの過去です。
ずっと暖めてたお話。まさか公の場に出ようとは。(笑)
約束、っていうのは最期のあれです。それを使って霜庵さんは
また脳内妄・・・じゃなかった。小説を書きます。
どうせだったら続きも読んでください。ぜひ。(笑)
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