自由の出された昼下がり。
特にする事も無く、リリスは外に出ていた。
・・・いや、勿論防寒対策なんてしてあるけどさ。(私論)
数日前は大分吹雪いていたらしいが、
今日はすっかり晴れている。
「うわあぁぁ・・・・・雪だぁっ・・・・・!!」
山育ち。とはいえ、リーネは一年中温暖な気候の為、
雪が降る事はない。
閉鎖的なラディスロウから出たリリスは、
本日、初めて雪を目にした。
「・・・。(冷たっ・・・)」
白い雪は、彼女の手の熱を奪い、ゆっくりと、水へ姿を変えた。
「(平和そうに見えても、ここは今戦争の真っ最中なんだよね・・・。)」
眼前に広がる雪景色を見ながら、リリスは溜息をつく。
吐く息も白い。
その時だった。
「君、こんな所にいては危ないぞ。
ここは一般人立ち入り禁止となっているはずだが・・・・・。」
不意にかけられた声。
それが自分にかけられているのだと判ると、リリスは振り返った。
二人の青年。一方は黒いコートのような服を身に纏い、
もう一人は長く伸びた青髪が印象的な男性だった。
「えっ・・・あ、私は・・・」
「ディムロス中将。その子はきっとハロルドが連れてきたというあの子ですよ。」
ディムロス。
不意に出た言葉に、リリスは硬直した。
あの青髪・・・この人があの・・・ディムロス=ティンバー・・・・・!?
突然の出会いによる感動と驚き。
自分の体が小刻みに震えているのが判った。
「・・・と、言うと。君は・・・調理班の・・・?
し、失礼した。まさか新しく入ってきた者が・・・その、こんなに幼いとは思わなくて・・・。」
彼女の気持ちなどいざ知らず、
ディムロスは慌てて謝った。
「・・・えっ?あ、あぁっ、いいんですよ、そんなっ!」
リリスも、別の意味で慌てながら言葉を返す。
「それにしても・・・。大変だったでしょう。
突然調理班配備なんて・・・・・。あいつも・・・悪気は無いんですけどね・・・。」
穏やかに笑いながら、ディムロスの隣、赤髪の男性は苦笑する。
「あ、あいつって・・・・・ハロルドさんの事ですか・・・?」
大分動揺が収まったリリスは、その言葉から親しげな感じを受け取り、
二人の関係を尋ねるような感じで聞く。
「えぇ。私の妹、が。」
「お兄さんっ!!?」
さすがに、驚きが隠せなかった。
「はい。私はカーレル。我侭な妹が大変、迷惑をかけた様で・・・。」
そう言って、彼は笑いを漏らす。
言われて見れば、何処と無く顔つきが似ているだろうか・・・。
しかし、こちらは妹とは違い、穏やかな感じが伺える。
「所で、食堂の方は大丈夫なんですか?」
ふと、思い出したかのようにカーレルが聞く。
「アトワイトさんがお休みをくれたんで・・・。今は平気です。」
自由時間をくれた彼女に、改めて感謝といった所である。
「おかげで、こんな綺麗な雪も見れましたしv」
「雪?」
ディムロスが首を傾げた。
「はい。・・・真っ白な、綺麗な雪。
踏んじゃうのが、ちょっと・・・勿体無いですよね・・・。」
陽光が雪に反射し、眩しく輝いた。
「でも・・・踏んじゃうんですよね。・・・戦いに行く為に・・・。」
その雪が、戦いの為だけに汚れるのかと思うと
何ともいえない哀しさが込み上げた。
「あなたは・・・優しい人ですね。」
ぽつり、とカーレルが呟く。
「あなたの心は純粋です。私達には眩しいくらいに。
あなたの言いたい事はよく判ります。・・・・・しかし、人々や、この世界、
この真っ白な雪を永遠に失わない為にも、私達は行かなくてはいけないんです。」
「永遠・・・に・・・・・?」
意外な一言に思わず聞き返す。
「ミクトランだ。」
ディムロスが、低い声で呟いた。
「奴を倒さなければ・・・この世界が無くなるに等しい。
外殻が完成すれば地上に光は届かず、この美しい雪原も、消える・・・。」
目の前に広がる光景。
それが突如として消える・・・。
「そんなの・・・嫌っ。
この光景が消えるなんて、考えたくないよっ・・・!」
闇に閉ざされた世界。
自分の時代にもやってきたあの世界がずっと続くなんて。
・・・考えたくなかった。
「だから。戦うんだ。・・・この雪を踏み越えてでも・・・。
・・・そんな哀しそうな顔をするんじゃない。」
ディムロスの大きな手が、金髪を優しく撫でた。
そして、リリスの目線まで屈む。
「足跡をつけた雪は、確かに汚れてしまう。
・・・だが、それはいつか必ず。再び綺麗な雪原へと姿を変える。
約束しよう。お前に、もう一度この雪を見せる事を・・・。」
「・・・ディムロス・・・」
未来なんて判ってる。
彼の言ってる事は本当になる。
そう、判っていても、彼女にとってこの約束は
とても・・・大きな意味を持つものとなった。


問題の三日目。
あの日、ハロルドが言った事を信じるのなら
今日、剣の方のディムロスは戻ってくる。
「リリス〜、居るぅ〜?」
その日の朝。
スープを作るリリスの元に、当のハロルドはやってきた。
「ハロルドさん!あぁあ、ちょっと待ってください!
このスープ、一区切りつけますからっ・・・」
愛用のお玉を手に、慌ただしい様子で彼女は言った。

「はい。コレ、例の剣ね。」
スープを仕上げ、奥から出てきたリリスに
ハロルドは紅い柄の剣を手渡す。
久々に感じたその重みを、リリスは強く抱きしめた。
「ありがとうございますっ・・・!ハロルドさんっ!!」
「別にい〜けどぉ〜。
所でそれ。調べてみたいんだけどぉ〜・・・駄目?」
愛らしい乙女の瞳。
それには有無を言わせぬ何かがあった!・・・が。
「あ・・・あはは・・・。それはちょっと・・・。」
さり気なく、かつ、断固として譲らぬリリスに、
ハロルドはあからさまに眉を顰めて見せた。
「むー・・・。残念ねぇ。一科学者としては非常に気になるのだけれど。」
仕方ないわね。
そう呟いて、彼女はディムロスから手を引いた。
リリスも安堵の溜息をつく。
「とぉにかく。大事な物なら以後離さないよーに。そいじゃ〜ね〜。」
それだけ言うと、ハロルドは食堂から出ていった。
バタン、扉の閉まる音。 恐る恐る、手元の剣に眼を向ける。
「大馬鹿者。」
「あう・・・」
久々の再会でこれは痛い。
更に手元の剣は喋る。
「馬鹿も大馬鹿。どうしてこう、エルロン家は馬鹿ぞろ・・・」
「ちょっ・・・!!」
言いかけてリリスは口元を押さえる。
流石に、このまま喋っては訳判らん独り言だ。
剣に顔を近づけ、声を潜める。
「そんな言い方無いじゃないっ。私だって今まで大変だったんだよぉっ。」
「あー・・・判った判った。」
聞いてないし。(私論)
「さ、とっととお前の時代に戻るぞ。」
「え・・・。」
リリスの返した言葉にディムロスが反応する。
「どうかしたか?」
「あー・・・そうよね。帰んなくちゃ・・・いけないんだよね・・・。」
その声からは名残惜しさが感じられる。
途端、剣の溜息が聞こえた。
「この地に愛着でも湧いたか・・・?しかし・・・これ以上、
お前が過去に関わるわけにはいかない。」
今だから、まだ間に合う。
ディムロスはそう言った。
「・・・判ってる。我侭言わないよ。」
リリスも納得し、剣を掲げる。
「じゃぁ、ディムロス。お願いね。」
そして、あの時と同じように、光が少女を包み込んだ。

その日は静かな夜だった。
フィッツガルドの片田舎、リーネ村。
満天の星空、蒼黒の闇。
そんな中、空よりずっと低い所で何かがきらめいた。
ドサっ。
刹那に現れたのは金髪の少女、手には大きすぎる剣。
「っ・・・たたた。もぉちょっと丁寧に扱えないの〜?ディムロス〜・・・。」
「仕方なかろう。この身では時空転移だけで精一杯だ。」
そりゃ確かに。(私論)
「それにしても、大分遅くなっちゃったね〜・・・。
あっ!!ねぇ聞いて!ディムロス!!今日、お兄ちゃんの誕生日なの!!」
「ほぉ。スタンの。それはめでたい。で、プレゼントは用意したのか?」
しばしば沈黙。
ただ一言、リリスがあっ、と呟いた。
「用意・・・してないのか・・・?」
ディムロスが重い溜息と共に呆れる。
しかし、その瞬間、リリスの顔が輝いた。
「ううん、用意してあったv凄っっっっっく、良いもの♪」
和気あいあいと続く会話。
しかし、その時のディムロスには、そのプレゼントが何かなんて知りもしなかった。
何故なら、
自分こそが、その兄へのプレゼントだったのだから・・・。

To be continued.


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後書です。最期、無理矢理ファンダムの終わりに持ってきて
見ました。災難やったね、ディムロス・・・・・・。(苦笑)
私がディムリリとほざく理由はここにあります。人ではなく、剣。
カプではなくコンビなんですね。そのうえ、友達以上恋人未満的な
関係だといいな〜、と。・・・剣とか?(笑)
てか。まだ続きがあるんか・・・。本当、短い奴ですが・・・。
気になる方は"Next"でどうぞ〜。