「ハ、ハロルドさんっ!!」
アトワイトに言われた部屋に入るや否や、
リリスは顔も知らぬその人の名を呼んだ。
返事はすぐに返ってきた。
「ほ〜い。人の部屋に勝手に入ってきたのは
何処のどなたーっ?」
奥から出てきたのは奇妙な服装の・・・少女、位だろうかとリリスは思った。
「あら?あんた・・・。よく無事だったわねぇ〜。
私の晶術くらってこんなにピンピンしてるなんて・・・・・
んふふ〜、興味深いわぁ。データ採らせてっ!!」
何処から取り出したのか、注射器を構え彼女に、
リリスは慌ててストップをかける。
ハロルドは小さく舌打ちすると、注射器を収めた。
「それで?この天才・ハロルド=ベルセリオス様に何の御用かしら。名無しさん。」
手頃な椅子に座るよう勧めてから、自身も椅子に座る。
「・・・名無しじゃなくてリリス=エルロンです。
えっと・・・ハロルドさん。私を拾った場所で赤い柄の剣を見ませんでしたか?」
対して、ハロルドはそうねぇ・・・と宙を見上げる。
彼女はしばらく考えた末、
「さぁ。どうだったかしらね。」
あっけらかん。と答えを出した。
それを聞いたリリスはただ慌てるしかない。
「どうしよぉ〜っ!!あれが無いと家に帰れないのにーーーーっ!!」
「あら、そんなに大事なもんだったの?」
意外な一言にハロルドはきょとんとした。
それからしばし考え込むと、パンっと手を打った。
「じゃ、その剣取りに行ってあげる〜★」
「えっ!!?」
今度はリリスがきょとんとする。
突然何を言い出すのかと思えば・・・・・。
取りに・・・行く?
余りにも唐突、簡単に言われたので、もう一度、リリスは訊く。
「取りに・・・行くんですか・・・?」
「うん。だってあんた、あれ無いと家に帰れないんでしょ?」
「た・・・確かに・・・そうですけど・・・」
「じゃ、決まり★三日もあれば充分ね♪どうせあいつ暇だから。」
すっかりハロルドのペースに乗せられ、リリスは
多少、しっくり来ない感もあったが、とりあえず従う。
「それで、ただ漠然と三日過ごすのは無駄でしょー?」
「えぇ・・・まぁ・・・」
おそらく、退屈で仕方無いに違いない。
「だ・か・ら。リリスっ。あなたには重っ大な任務を与えるわ。」
そう言って、ハロルドは彼女を何処かへと連れ出した。

連れられた先で、まず、リリスが思った事。
「せ・・・戦場・・・・・っ!!?」
多くの女性達が所狭しと部屋中を駆け回る。
そう。
ここはラディスロウの厨房。
まさに女性達の戦場!!(違)
「リリス。料理は得意?」
「は、はい。・・・一応・・・。」
「良かったあv最近ここの料理不味くってね〜v」
一瞬、殺意の篭もった視線が彼女に向けられたが、
そんな事には動じずに、ハロルドは奥に向かって叫ぶ。
「料理長ぉーーーーっ、調理人一名追加ねーーーーーっ!!」
あぁ、やっぱり。
リリスは肩を落とした。


リリスはリーネの誇る、名・料理人だ。
そして、その腕はエターニア界のキッチン・スター、
ファラ=エルステッドにも勝る。
何時の時代。
何処の世界だろうと、彼女の料理は輝ける。
包丁を持たせれば、食材は奥義の前に散り、
フライパンを持たせれば、絶妙な火加減を成し遂げる。

−極めつけは。

彼女がお玉を携えれば、究極の味が生み出される。
その味に魅せられた者は数知れない・・・・・。
リリスはあっという間に副料理長の座に就いた。
・・・・・が。
それは、彼女の終わり無き戦いの幕開けだった・・・・・−
「リリスーっ!!オムライス作ってーっ!!!」
「リリスちゃ〜ん。サンドイッチお願〜いv」
「今日もおいっしー奴頼むよ!リリス!!」
「は〜いっ!今すぐっ!!」
多忙過ぎるこの時間・・・・・
ラディスロウは何処もかしこも戦場。そう感じたのは二日目の事だった。

「お疲れね・・・リリス・・・。」
「アトワイトさぁ〜ん・・・。」
一時の休息時間。
アトワイトはぐったりとしているリリスの前に紅茶を置いた。
白い湯気と共にほのかな香りがのぼる。
「ハロルドに上手くはめられたそうね。」
自らも彼女の前に座り、アトワイトは苦笑した。
「ハロルドさん、っていつもあーなんですか?」
「まぁ、ね。」
歴史上では希代の天才と謳われていた人が、まさかあんな人物とは・・・。
歴史というのは長い年月の間でしばしば捻じ曲がる事が有るというが、
果たしてここまで変わってしまう物なのだろうか・・・。
そんな事をぼんやりと考えながら、リリスは紅茶をすする。
そして。
気になる事がもう一つ。
他のソーディアン・メンバー。
特に・・・取り分け気になるのが・・・・・

− ディムロス=ティンバー・・・・・ −

剣の姿でしか見たことの無い彼は、
一体・・・どんな人物なのか・・・・・。
それは、リリスの好奇心を強く、かきたたせた。
「・・・。やっぱり、ちょっと大変だったかしら・・・。」
不意にアトワイトが呟く。
「大変・・・・・って、何がですか?」
リリスが聞き返すと、彼女は少し、吹き出した。
「あなたの事よ。昨日からずっと働き詰め。」
ここの兵達も見習って欲しいわ、と苦笑する。
「私から料理長に頼んで、休憩取らしてもらうわね♪」
「えっ!・・・で、でも、そんな事したら・・・」
立ち上がったアトワイトを彼女が止めると、アトワイトは悪戯っぽく笑い
「大丈夫v何処かの素敵な料理人さんが大活躍してくれたおかげで
食堂の手は大分足りてるから。・・・ちょっと待っててね。」
と、奥へと消える。
「リリス自由宣言」
それが出されたのは彼女が消えてから数分と立たない頃だった。

To be continued.


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後書です。正式にはこれは"後書"ではなく、もっと別の言い方が
有るらしいと知ったのはつい最近の事。(笑)
長さがまちまちな小説ですね。霜庵は気まぐれ人です。
今回はリリスのラディスロウでの活躍について。
彼女は本当、料理上手ですよね〜♪見習うべき所。銀のお玉は
必須です。実際、ファンダムだとファラに勝てますし。(笑)
その腕はきっと、食糧難に見まわれてそうなラディスロウも
どうにかしてくれそうな気がする・・・。
全然関係無い話。カーレル兄貴とシャルは甘党派な気がします。
・・・気がするだけですよ・・・?