出会いは
唐突にして偶然
流れゆく時間の一瞬
それを切り取って、出会いは生まれる
・・・・・また
別れも
唐突にして偶然
過ぎ行く時間の一瞬
それに触れたが為に、別れが生まれる
黒い髪だった
夜を思わせる、深い黒
纏ったマントは鮮やかな緋色で
都会の中、よく映えていた
「お前は・・・ちゃんと前を見て歩いているのか・・・!?」
それがその人の第一声
「ご、ごめんなさいっ!!」
大荷物を抱えた私の視界は狭く
それは、散らばった品々が物語る
「もっと気を付けて歩け。もしくはそんな大荷物、一人で抱えない事だな」
緋色のマントが遠ざかる
「あ!ちょ・・・ちょっと・・・!!」
慌てて呼び止めると、あからさまに、「迷惑だ」
とでも言いたげな顔が向けられた
それでも私は気にしない
・・・いや、気にしてられない・・・
「そんな事ゆーなら、手伝おう、とか思わないのっ!!?」
現に
落ちた物が拾えない・・・
「・・・。思わんな。僕は忙しいんだ」
少しだけ眉間に皺を寄せ、彼は言う
「ひどぉーいっ!薄情ものぉーっ!あぁぁ〜落ちるうぅぅぅ〜っ!」
徐々に落ち行く食材etc・・・に悲鳴を上げていると
不意に
視界が開けた
荷物の半分は不服そうな彼の腕の中
「・・・・・あ、あり・・・」
「勘違いするな」
礼を言いかけた私を一瞥する
「・・・周りの視線が気に入らなかっただけだ・・・・・」
気づけば、
私達の騒ぎは、街の人々の失笑を買っていた
何故
こんなことになっているのだろう・・・
僕はただ、イレーヌの所に用が在っただけなのに・・・
今日初めて出会ったコイツの為に
何故、僕は荷物運びをやらされているのだろう
「そう言えば・・・。まだ、名前言ってませんでしたよね?」
前を歩く金髪が、突然振り返る
太陽を思わせる、明るい金髪
触れればもしかしたら
温度さえも伝わるかもしれない
・・・それくらい、暖かな色をした金髪
「リリス。リリス=エルロン、って言います」
明るい口調で彼女は笑う
同時に、気づく
コイツが、スタンの言ってた妹だという事に
「あなたは?」
─── リオン・・・・・
その名は、言えなかった
「・・・・・別に。お前には関係の無い事だ」
「関係あるよぉっ!!」
僕の答えに不満を示す
・・・当然の事だろう。・・・・・が、
「お礼しなくっちゃ♪」
・・・迷惑だ
「僕はお前に付き合ってられるほど暇じゃない」
「付き合ってくれてるじゃない。こーやってv」
「・・・・・・・・・・。」
勝手に荷物を持たせて置いて・・・・・
「さ、おうちにとうちゃ〜く♪」
何時の間にか
僕はコイツの家の前に居た
「・・・・・・・・・・。」
重く漏れた溜息は
そのまま自らの不機嫌を代弁した
「お疲れ様。助かっちゃったv」
一緒に荷物を運んでくれた彼の前に
感謝の意を込め、紅茶とお手製のクッキーを出す
対して彼は椅子に座ったまま
フン、と言っただけ
こんな無愛想な人、初めて見た・・・
それとも、やはり怒って居るのだろうか・・・
暇じゃない、って言ってたし
長く続く沈黙
家の中は彼と私の二人だけ
名前も教えてくれないこの人は
ただ、黙って横を向いていた
・・・私の顔すら見たくないってゆーの!?
「・・・ねぇ・・・」
長い沈黙の末、口を開いたのは私
「クッキーだけでも食べてよ」
「いらん」
クッキーの方も見ずに答えた・・・
その様子に、カチン、と来る
「自分で言うのも何だけどぉ・・・」
それ、結構おいしいよ
挑発の混じった声と瞳
すると
彼は少しだけ反応を示した
でも
その相手はクッキーではなく私
「・・・何がしたいんだ、お前は」
「お礼」
再び流れる沈黙
やがて、彼がその沈黙を破った
「僕に・・・関わるな・・・」
「えっ・・・?」
その言葉に驚き、顔を上げると
彼はまっすぐと玄関へ向かい
そして
バタン、と扉の閉まる音が響いた
どうして兄妹そろいも揃って
僕に構うというのだろう
あいつの家を出て
あいつの村を出て
ノイシュタットへ向かう途中
僕はそんな事を考えていた
・・・僕はこれから
この世界全てを、裏切る事になる
・・・かつて、仲間だと思ったあいつらも・・・
僕の我侭で、あいつらは・・・
でも、何よりも大切な彼女の為だから
─── 裏切り者 ───
・・・判っている
だから、僕はこれ以上関わってはいけない
関わる事は傷つく人を増やすだけ
それが、「世界」と「彼女」と言う
二つの選択に見出した僕の答え・・・
「ねぇっ、待って!待ってよぉっ!」
聞き覚えのある声に思わず振り返る
「!!・・・お前・・・・・!?」
ゆれる金髪
荒い呼吸と共に肩が上下する
何処までもお節介な奴め・・・
「何の用だ」
「お礼っ、まだ終わってないものっ!!」
口を尖らせ、彼女は僕を見上げる
「僕に関わるな、と言ったはずだ・・・」
「せめて私のクッキーを食べなさいっ!」
ずい、と出された青い包み
「・・・いらない・・・」
「ほら!あそこの丘!ね、一休みしよっ♪」
「なっ・・・!?」
食い違う会話
いや、奴には会話する気すら無いかも知れない
無遠慮に引っ張られる腕
僕の気持ちとは裏腹に、
彼女は楽しげだった
「・・・くそっ・・・・・・・・」
腕を振りほどいても、きっと結果は同じ
ほんの少しだけ、悔しくなった