D「お昼のマンマ」



「だんな様、そろそろお昼の時間でございますが」
「おうおう、もうそんな時間かえ?美咲ちゃんとお遊びしていると、時間がアッという間に過ぎていってしまうね〜。そろそろ着替えて食堂に行こうね、美咲」
「ウムッ、ンッンッ」
「よしよし、疲れただろ?おなかもへったね。たくさん食べようね。初枝が愛情こめて作った赤ちゃん食だよ。残したりしたらいけないよ〜。おじいちゃんと一緒に食べようね。育児室まで戻るよ、美咲。オイッチニサンシ、オイッチニサンシ。アンヨがだいぶ上手になったね。毎日練習しようね」
「ウクックッ、ムムッ」

「ほら、いい子にして。」
美咲は老人の膝の上で、赤ちゃん用の併せの下着の上から、幼稚園児が着るような黄色のスモックを着せられていた。紺の提灯ブルマーの代わりにハローキティのベビーブルマーを穿かされていた。
「よしよし、これでいい。目隠しをしてと。お爺ちゃんが手を引いてあげるからね。心配ないよ。さあー、タッタしてごらん、食堂に行くよ」
「あ〜ん、お爺ちゃま、目隠しを取ってください。自分で歩きます」
「またまたわがままを言って。赤ちゃんが一人で歩いたらおかしいだろ?歩けないようにアンヨをナイナイして欲しいのかえ?悪い子にするならお手手も後ろにナイナイして、オシャブリもするよ。そうしたら自分では何も出来ない赤ちゃんになるだろ?そうして欲しいのかえ?」
「ああ、お爺ちゃま、ごめんなさい。わがままはいいません。だから縛らないで」
「よしよし、いい子にするんだったらお手手もアンヨもナイナイしないよ。いつもいつもナイナイじゃ辛いものね。手を出してごらん。しっかりお爺ちゃんの手を握っているんだよ。いいね、美咲」
「はい、お爺ちゃま」
「いい子だよ、美咲は。さあ、行くよ。ゆっくり、ゆっくり」
老人に手を引かれながら、美咲は食堂に向かって歩かされていくのであった。後ろ手高手小手に縛り上げるのが大好きな老人が、全く拘束しないということは珍しいことなのである。美咲もそのことは十分に分かっているのである。せっかくのチャンスを駄目にはしたくない。後ろ手に縛られていない自由を少しでも長く感じていたいのである。黄色の幼稚園スモックに赤基調のハローキティのベビーブルマー姿の美咲がそろ、そろっと一間幅の廊下を歩かされていた。歩きながら美咲は何回目かのオモラシをして、オシメをさらに濡らしていた。

「やっと着いたね。さあ、ここにお座り。そうそう、いい子にじっとしているんだよ。」
「お爺ちゃま、目隠しを取ってください。自分で食べさせて〜」
目隠しさえなければ自分で食べられるのである。手も足も自由なのだから。ただ手首にはミトンが装着されてはいたが。
「おやおや、またわがままを。でも、いい子に頑張って食堂まで自分のアンヨで歩いてきたからね〜。自分で食べられるなら食べてごらん。」
「ありがとう、お爺ちゃま。いただきます」
捕らわれて一週間にもなるのに、育ちのよさは失われてはいなかった。強要されてもいないのに、「いただきます」と自然に口をつくのである。
テーブルの上には蒸かしたじゃがいもやさつまいも、ポタージュにホウレンソウ、白身の魚などが置かれていたが、みな食べやすいように加工してある赤ちゃん食ばかりなのであった。美咲はミトンの不自由な手でポタージュスープを飲もうとしたのであるが、スプーンを滑らせて落としてしまった。
 チャリーン
「アーア、美咲ちゃん、お行儀が悪いよ。マンマの最中にスプーンを落とすなんて。見てごらん、床が汚れてしまったよ。やっぱり美咲は赤ちゃんなんだね。一人ではマンマはまだ無理なんだよ。さあ、お爺ちゃんが食べさせてあげるよ〜」
「嫌〜、自分で食べられます。滑っただけなんです。このミトンがなければちゃんと食べられます。ミトンも外してください。」
「またまたわがままを。美咲、いい加減にしなさい。自分で食べられるというから食べさせてあげているのに、失敗をミトンのせいにしたりして。悪い子だよ。さあ、おとなしくして。お爺ちゃんが食べさせてあげるから。」
「いや〜、お爺ちゃま。」
暴れて嫌がる美咲の手が老人の顔に当たった。
「あっ、痛!美咲、なんてことを」
「あっ、ごめんなさい、お爺ちゃま。そんなつもりは。許してえ〜」
「許して欲しかったらおとなしくしなければいけないよ。お手手はここにナイナイしておこうね。」
椅子の肘掛に革ベルトで固定されてしまった。
「お洋服を汚すといけないね。初枝、涎掛けを」
「はい、こちらに」
ピンクのタオル地に大きな子猫の顔が。赤いリボンを頭にチョコンと付けている。ローマ字で「HELLO KITTY」と子猫の下に赤い文字で刺繍してある。
「よし、これでいい。マンマのおねだりをしてごらい、美咲」
「お爺ちゃま、美咲にお昼のマンマをください」
「よしよし、上手に言えたね。まずボタージュスープだね。アーン」
ピンクのベビースプーンに老人が咀嚼したカボチャが盛られた。美咲は食べたくなかった。しかし、食べなければどんなお仕置きをされるかわからないのである。目をつぶって必死に食べる美咲であった。



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