F「3時のおやつ」



「美咲、オッキだよ。もうすぐ3時になるからね。おやつにしようね」
「ムムッ、ムーン、ムム」
 老人に横抱きされて、メリーゴーランドの吊るしてある寝室から、育児室に戻された美咲は老人の膝の上にお座りをさせられた。
「美咲、お爺ちゃんのお膝の上にお座りしたら、アンヨはどうするのかな?」
「ウググッ、ムムムッ」
「よしよし、いい子だよ、美咲。」
 慌てて胡座に組んだ美咲は老人に褒められ頭をなでなでされたのである。
「可愛い赤ちゃんになれたかなあ〜。どれどれ」
黒光りするなめし革の猿ぐつわを外され、鼻を覆っていたハローキティーのオシメが取り除かれると、呼吸がかなり楽になった。布1枚でも鼻にかかっていると苦しいものである。1時間半近くもその苦しさに耐えていたのである。
「美咲、お口の中のオシメを吐き出してごらん」
「ムッ、ムムッ、アウッ、アウッ、ゲェ、ゲェッ、ンゲェー」
「おうおう、なかなか上手だねえ〜、美咲。そうそう、慌てなくていいんだよ。ゆっくり、ゆっくり吐き出して。そうそう」
 舌で口中のオシメを懸命に押し出し、やっと最後の1枚が吐き出された。
吐き出されたオシメは蓋付タッパに保管された。
「あ〜ん、お爺ちゃま、オシメの猿ぐつわは許してください。とっても苦しいの」
「おうおう、苦しかったね。美咲がいい子にしていればもうしないからね。それに猿ぐつわだなんて、赤ちゃんが言ってはいけないよ。オシャブリだよ。オシャブリ。わかったたい?」
「はい、お爺ちゃま」
「素直になれたね、美咲。『オシャブリ』と言ってごらん」
「オシャブリ」
「そうだよ、オシャブリだよ。今度は『オシャブリをください』と言ってごらん」
「オシャブリをください」
「よしよし、赤ちゃんになれたのかなあ〜。今度は『美咲は素直で可愛い、お爺ちゃまの赤ちゃんです』と言ってごらん」
「美咲は素直で可愛い、お爺ちゃまの赤ちゃんです」
「よしよし、お口をゆすいでおやつにしようね」
 コップの水で、口をすすいでから、初枝に暖かいタオルでお顔を綺麗にしてもらってから老人のお膝の上でおやつをあたえられた。バレリーナの女の子のイラストが描かれた可愛い涎掛けも掛けられたのである。可愛い涎掛けも13歳の赤ちゃんの必需品である。フリルに縁取られた少し上には『13歳の赤ちゃん美咲』の刺繍が光沢のある赤い糸でなされていた。
「まず、カステラだよ。まずお爺ちゃんがやわらかくしてあげるね。モグモグモグ」
 口移しで与えられるおやつ。毎度のことであるが屈辱的である。今回は『赤ちゃんのお口』は装着されていないので、かなり楽である。しかし、,老人の口中で咀嚼されたカステラは食べたという感じにかなり欠ける。が、とてもおいしいと感じているのである。
「あっ、美咲、ご挨拶を忘れたね。今からでもいいから言ってごらん」
「あっ、お爺ちゃま、ごめんなさい。お仕置きは許して」
「お仕置きなんてしないよ。言ってごらん」
「お爺ちゃま、美咲に3時のおやつを頂戴」
「うんうん、それから」
「口移しでください。いただきます」
「いい子だ、いい子だ。さっ、食べようね。モグモグモグ」
「ンッンッ、おいしいお爺ちゃま」
「おいしいかい。それは良かった。喉が乾いたろ?ジュースをあげようね」
 哺乳瓶に入ったジュースを胡座座りのまま与えられた。13歳の赤ちゃんに用意された哺乳瓶は500ccも入る特注品なのである。もちろん利尿剤もたっぷり入っているのである。今回は下剤も入れられている。喉が渇いているので、強く吸っているためか、チュパチュパといった音が育児室に流れている。まことに育児室にふさわしい音である。
「カステラの次はメロンだよ。美咲一人で食べられるかな?」
「はい、お爺ちゃま」
「よしよし、スプーンにとってあげるからね。こぼさないようにね。はい、アーン」
「アーン。モグモグ。あ〜ん、お爺ちゃま、おいしい!」
「よしよし、上手に食べられるようになったんだね。これからは少しずつ自分で食べる練習をしようね、美咲」
「はい、お爺ちゃま」
 自分の口で最初から食べられる。そんな当たり前のことがこの育児室では今までほとんどなかったのである。『赤ちゃんのお口』を装着された不自由なお口で、老人の口中でドロドロに咀嚼された食べ物が口移しで与えられていたのである。蒸れに蒸れ、気持ち悪くなっているオシメのことなど忘れて夢中でメロンを食べている美咲であった。



戻る 目次に戻る ホームに戻る 続き