「おば様の赤ちゃん」二



「そうそう、もっと元気よく。苦しくなったら顔をあげて」
バシャバシャバシャ
「膝を曲げない方がいいわよ。そうそう。だいぶいいわね」

「疲れた?」
「疲れました。」
「頑張ったわね。まあ焦っても急に泳げるようにはならないわ。少しずつ頑張りましょう。午後も泳ぐの?」
「いえ、今日はもう。疲れましたし」
「そう。あらっ、ちょうどお昼ね。どう、お昼一緒に食べましょうよ。御馳走するわ。車を下に待たせてあるのよ」
「えっ、お昼ですか?でも〜」
「でも〜って。何か予定でもあるの?」
「いえ、予定はないんですけど、初めて会った人にご馳走してもらうなんて」
「あらっ、子どもは遠慮なんてしないものよ。それにうちの子に秋夫くんの根性を叩き込んで欲しいわ。ね、ぜひそうして」
「でも、遅くなると」
「車で30分くらいしかかかならないし、食べ終わったらおうちまで送るわ。何も心配ないわ。エレベーターで地下1階に降りて。運転手をエレベーター前に待たせておくから」
「わかりました。でも本当にいいんですか?」
「いいのいいの。これも何かの縁。縁は大事にしないとね。おばさんは着替えてからいくから先に行っててちょうだい」
「はい」

「秋夫さんですか?」
「あっ、はい」
「奥様から車でお待ちいただくようにと言われております。こちらにどうぞ」
「あっ、はい」

「うわ〜、なんて大きな人なんだろう。おばさんも大きな人だったけど、この人もおおきい」と見た瞬間に思ったけれども口には出さなかった。
「どうぞ、こちらです」

「うわ〜大きな車ですね。キャンピングカーですか!」
「あらっ、キャンピングカーだなんて良くご存知ですね」
「車は好きですから。これって特注ですか?」
「もちろんです。中も素敵ですよ。どうぞ」
大柄の女性運転手がリモコンのスイッチを入れると、静かにスライドドアが開いた。
「凄い!まるで応接間のようですね!」
「あらあらそんなに気に入った?どうぞお座りになって。今ジュースとケーキをお出ししますね」
「えっ、ジュースにケーキ?」
「キャンピングカーなんですからそのくらいは当然ですよ」
冷蔵庫からケーキとジュースを取り出すとテーブルの上に置いた。携帯で連絡を受けてたので準備をしておいたのである。
「おいしそう」
「どうぞ、遠慮なく召し上がれ。おかわりもありますよ」
「えっ、おかわりもあるんです」
「ええっ、ショートケーキとグレープフルーツジュースはお好き?」
「はい、大好きです」
「なら、どんどん食べて」
「いただきま〜す」
「子どもらしくなってきたわね。遠慮しなくていいのよ」
「おいしい!とってもおいしいです、このケーキ」
「そうでしょ。純粋の生クリームを使っているのよ。ジュースも最高のフルーツを絞って作ってあるの。100%ジュースなのよ」
秋夫をおなかがすいていたし、大好きなショートケーキとグレープフルーツジュースなので夢中で食べて飲んだ。いつもより喉が渇いていたので、ジュースもがぶ飲み状態であった。
「そんなに慌てないでも大丈夫よ。おかわりはたっぷりあるし、逃げたりしないから。でもあんまり食べてしまうと奥様のお昼のご馳走を食べられなくなるわよ。」
「大丈夫です。別腹ですから。あっ、手に力が入らない。ああっ」
「どうしました?」
「ああっ、ううっ」
「あら、もう薬効いてきたの!早いわね。はいはい、ケーキはそのくらいにして着替えましょうね、坊や」



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