いじわるな聖母たち 〜天使の微笑・その後〜 (後編)



「これでいいわ。次は髪ね」
 オムツでもこもこと膨らんだブルマーの股間に並んだボタンを留めてしまった幸子はにっと笑うと、床に膝をついたままメグミの背後にまわりこんで、両手でメグミの横髪を一つの束にまとめた。
 耳のすぐ前から少し後ろにかけての髪を束にしてつかんだ幸子は慣れた手つきで編みこんでいき、その端を小さな赤いリボンでくくってしまう。左右の横髪を耳の前でまとめた後、幸子はメグミの後ろ髪を内側から優しくブラシでとかしつけて微かなウエーブをつけ、前髪をおろして真っ直ぐに整えた。
「わあ、かっわいい」
 ベビーワンピースを着て(脚を伸ばした格好で床にぺったり座っていると、スカートが短いせいで、ふっくら膨れたブルマーが京子の目にも丸見えだった)髪を幼女のようにまとめたメグミの姿を見た京子は目を輝かせた。それは実際、少女というよりも、幼児とかミルク飲み人形のような、言葉では表現しようのない可愛らしさだった。
「よかったわね、メグミちゃん。京子ちゃんも気に入ってくれたわよ」
 幸子は低く笑った。
「……」
 メグミは何か言おうとして口を開いたけれど、どこから取り出したのか、幸子がゴムのオシャブリを咥えさせたせいで言葉にならなくなってしまった。
 普通なら、オシャブリを口にふくんだくらいで言葉が出なくなってしまうようなことはない。唇と舌が多少動きにくくなるだけで、少しくぐもったような声にはなるけれど、ちゃんとしゃべることはできるし、だいいち、オシャブリを吐き出すのも決して難しいことじゃない。それなのにメグミがオシャブリを吐き出そうともせず、まるで何もしゃべれないようになってしまうのは、これまでに何度も味わってきた羞恥に充ちたオシオキのせいだった。もう何ケ月も前、初めて里美とお揃いのベビー服を着せられたうえで幸子の手によってオムツの中に射精させられて以来、メグミは幸子の部屋にいる間はずっと赤ん坊のような格好をすることを強要され、里美と同じくらいの年齢の赤ん坊として扱われてきた。そうしてメグミが一言でもさからおうものなら、その度にオシャブリを咥えさせて言葉を奪おうとするのだった。最初の頃はそのオシャブリを吐き出していたメグミも、その度に想像を絶するようなオシオキを与えられ続け、遂にはオシャブリを口にした時には反射的に自ら口を閉ざすようになってしまったのだ。幸子は決してメグミの体に傷をつけるようなことはしなかった。むしろ、わざとのように優しい仕種で幸子はメグミに接し、優しい口調で話しかけたものだった。しかしそうして行われるオシオキがどれだけ屈辱的でメグミの羞恥を激しく刺激するものかは、とても一言で説明できるようなものではない。
「オモラシが治らなくていつもいつもオムツを汚してるメグミちゃんにはお似合いよ。ね、京子ちゃん?」
 幸子が、少しばかり淫靡な笑顔で京子に同意を求めるように言った。
「……」
 京子は無言だった。けれども、幸子の表情にどことなく似た顔つきで大きく頷いてみせる。
「めーみたんは、さとみのいもうとなのよ。さとみがてつだってあげないと、ごはんもたべられないのよ」
 すっかり赤ん坊の姿になってしまったメグミを嬉しそうに見守っていた里美が、京子の顔を見上げて言った。
「うふふ、そうね。里美もお腹がすいたでしょうし、メグミちゃんの着替えも終わったことだから、お昼ごはんにしましょうね」
 里美の言葉を耳にした幸子がにっと笑って言った。
「いつもみたいにここへ持ってきてあげるから待っててね。――わるいんだけど京子ちゃん、手伝ってもらえるかしら」

 幸子に従ってキッチンに入った京子の目に、カウンターの上に置いてある二つのトレイが映った。一つはわりと大きめで、少し冷めかけているスパゲティミートソースの入った大皿が二つと小皿が一つ載っていて、もう一つの小さなトレイには、どろどろしたペーストやパテといった離乳食が入ったプラスチックの食器や哺乳壜が載っていた。
「京子ちゃんはそっちの小さい方をお願いね」
 スパゲティのトレイを両手で持ち上げながら、幸子が京子に言った。
「あ、はい。――これ、里美ちゃんのですか?」
 離乳食が入った皿を目にした京子がなにげなく訊いた。
「あら、いやーね。里美はもう大人と同じ物を食べるわよ」
 京子の言葉に、幸子はクスクス笑って応えた。
「え、でも……」
「里美はもう赤ちゃんじゃないんだから。うふふ、まちがってそんなことを言ったら里美に叱られちゃうわよ。――それはメグミちゃんのよ」
「メグミちゃんのって……じゃ、赤ちゃんの格好をしてるだけじゃなくて、ごはんまで……」
「そうよ。ここにいる間はメグミちゃんは完全に赤ちゃんなのよ。里美よりもずっと手のかかる小っちゃな赤ちゃん」
「……」
「最近じゃ、里美がメグミちゃんにごはんを食べさせることもあるのよ。でも、せっかくだから今日は京子ちゃんにお願いしようかしら」
 幸子は悪戯っぽく目を輝かせた。
「できるわよね?」
「あ、はい」
 京子は反射的に応えた。
 二人はなんとなく顔を見合わせて笑みを浮かべると、めいめいのトレイをそっと持ち上げて廊下に出た。

「あ、まま」
 二人が元の室に戻ると、それを待ちかねたように里美が立ち上がった。
 幸子は室の隅から小さな座卓を持ってくると、キッチンから運んできたトレイを置いた。その横に、京子がメグミ用のトレイを並べる。それを見たメグミの頬にさっと朱がさした。しかしオシャブリのせいで言葉を奪われているメグミは何も言えない。
「じゃ、お昼ごはんにしましょうね。あ、メグミちゃんはその前に……」
 幸子は里美とメグミの顔を交互に見比べてからベビータンスに近づいた。そして、上から二番目の引出しを開けて、そこから白い布を取り出した。幸子はその布をメグミの目の前でさっと広げてみせると、僅かに首をかしげて言った。
「ごはんをこぼすといけないから、これをしましょうね」
 それは、吸水性の良さそうな生地でできていて周囲が細かなフリルになった大きなヨダレかけだった。
 メグミは力なく首を振りながら、お尻を床にぺたりとつけたまま後ずさりをした。
 けれど、それよりも早く幸子が背後にまわりこんでメグミの動きを止めると、手早く大きなヨダレかけを首に巻きつけてしまう。
「京子ちゃん、ちょっと来てちょうだい」
 幸子はヨダレかけをメグミの胸に押し付けたまま京子を呼んだ。
「あ、はい」
 京子は少し慌てたように返事をしてから幸子の傍らに膝をついた。
「いまのうちに、ヨダレかけを着ける練習をしておきましょうね。まず、その紐を首の後ろで――そうそう、肩の上で結んでね……あと、ヨダレかけがずれないように下の紐を背中へまわして……」
 幸子は片手でヨダレかけを支えながら、空いているもう一方の手で京子の手を導くようにしてメグミの首に大きなヨダレかけを着けさせていった。
「……そうそう。京子ちゃん、とっても上手よ。オムツの交換もちゃんとできるんだし、いつ赤ちゃんができても心配いらないわね」
「え? やだー、からかわないでくださいよぉ」
 京子が少し頬を赤らめてククッと笑った。
「うふふ、本当のことよ。さ、次はごはんを食べさせてあげる練習ね」
 京子が結んだヨダレかけの紐を軽く引っ張るようにして点検を済ませた幸子が言った。京子もまんざらではない顔つきで明るく頷いてみせる。
「え〜、さとみがめーみたんにたべさせてあげるんじゃないのぉ?」
 それまで幸子と京子の会話をおとなしく聞いていた里美が恨めしそうに言った。
「ごめんね、里美。でも、お姉ちゃんは学校でもメグミちゃんのお世話をしなきゃいけないのよ。だから、少しでもメグミちゃんのお世話をする練習をしておいてもらわなきゃいけないの。里美はいつでもメグミちゃんと遊べるんだから、今日はガマンしてちょうだい。ね?」
 幸子はちょっと困ったように、穏やかな声で里美に言った。
「でも、めーみたん、きょうからがっこうなんでしょ? あさからおうちにいなかったもん。そんなんじゃ、あそべないもん」
 里美は頬を膨らませた。
「うーんと……じゃ、公園で一緒に遊ぶっていうのはどう? お休みの日に朝からお弁当を持って公園で遊ぼ?」
 幸子はあやすように言った。
「だけど、おでかけするときにはめーみたん、おっきいこみたいなかっこするよ。あかちゃんじゃないめーみたん、さとみすきじゃないもん」
 里美は尚も言い募る。
「はいはい、わかりました。赤ちゃんの格好で遊ぶのならいいのね? じゃ、メグミちゃんは赤ちゃんのままで公園に連れて行ってあげるわ。それでいい?」
 幸子はちらとメグミの顔に目を向けた。
「うん、それならいいよ。やくそくね」
 里美は大人びた仕種で頷いてみせた。
「そうね、約束ね。――メグミちゃんもいいわよね?」
 有無を言わさない強い調子で幸子が言った。
 メグミにしてみれば、それに対してはいと応えられる筈もない。が、一度言い出したことは何があっても撤回するような幸子ではないことも身にしみて思い知らされてもいる。メグミは首を横に振ることもできずにいた。
「あの、おば様……」
 里美に聞かれないように幸子の耳に唇を押し当てて京子が言った。
「……もちろん、そんなこと嘘ですよね? いくらなんでも、メグミちゃんを赤ちゃんの格好で公園に連れて行くなんて……」
「あら、どうして?」
 幸子も声をひそめて、しかし京子の耳にはちゃんと届くようにはっきり言った。
「本当は男の子のくせに女の子の格好をして、その上スカートの中にはオムツをあてて学校へ通ってるのよ、メグミちゃんは。それに比べれば、あまり人目のない公園でベビーとして遊ぶことなんてどうでもないことじゃないかしら?」
 幸子の口調は、それが本気なのか冗談なのか、どちらとも判断できそうにもなかった。京子の頭の片隅に、ベビーワンピースのスカートをオムツで大きく膨らませ、髪をおさげにして胸を大きなヨダレかけで覆われたメグミが里美と一緒に公園の芝生に座りこんで遊ぶ様子がふと浮かんできた。自分のことでもないのに京子の胸が高鳴り、顔が熱くなる。
「里美がまたご機嫌をわるくしないうちに食事にしましょ。さ、そのスプーンを持って」
 赤く顔をほてらせた京子の顔を面白そうに覗きこんで、幸子は笑い声で言った。
「あ……」
 恥ずかしい想像の世界から現実に引き戻された京子の口から小さな声が洩れた。
「野菜のペーストから始めましょうか。知ってるでしょうけど、赤ちゃんの食べ物は薄味にしなきゃダメなのよ。まだ香辛料の刺激に慣れてないんですからね。それに、栄養のバランスも――」
 京子が手にしたスプーンで緑色のペーストを掬ってメグミの口許に持って行く様子を見守りながら、幸子は、初めて子供を育てる母親に助言を与えるベテランママのような調子で話しかけた。それは聞きようによってはごく普通の母親どうしの会話でしかなかったけれど、当のメグミにしてみれば、十七歳にもなって赤ん坊扱いされているんだということを痛いほどに思い知らされるようで、一言一言ごとに心をずたずたにされる思いだった。
 京子が近づけたスプーンを拒否するように、メグミは頑に口を閉ざしていた。
 もういやだ。もうこれ以上、恥ずかしい思いをするのはいやだ。
 メグミの体は小刻みに震えていた。
「せっかく京子ちゃんがごはんを食べさせてくれてるのに、困った子ね。――ああ、喉が渇いてるのかしら?」
 メグミがいつまでも口を開けようとしない理由をわざと取り違えてみせて、幸子は哺乳壜を持ち上げた。
「ごめんなさい、京子ちゃん。先にミルクを飲ませてみるわ」
 京子が移動すると、代わって傍らに膝をついた幸子が哺乳壜の乳首をメグミの唇に押し当てた。スプーンに掬った食べ物とはちがって、哺乳壜に入ったミルクなら少々乱暴に扱っても床にこぼれる心配もない。幸子は左手でメグミの後頭部を支えるようにして、哺乳壜を右手で容赦なく押しつけている。
「ん、む……」
 根負けしたようにメグミの唇が僅かに開き、その隙間にゴムの乳首が滑りこんだ。
 乳首の先に開いた小さな穴から白いミルクが流れ出し、哺乳壜の中に小さな泡ができる。
 ミルクはメグミの舌の上に広がり、そのうちの幾らかが唇の端から顎先へと溢れ出た。白い雫が細い条になって唇から顎先へ、そして首筋へと滴り落ちる。
「あらあら、哺乳壜はいやなの? やっぱり母乳の方がいいのね」
 幸子がすっと目を細めて言った。
「母乳……?」
 驚いたように京子が訊き返した。
「そう、ママのおっぱいよ。メグミちゃん、毎晩ママ――美和のおっぱいを吸いながら眠る癖があるの」
「そんな……それじゃ、ほんとに赤ちゃんみたい……」
 京子は持っていたスプーンをカタンと皿の中に落とした。
「だって、メグミちゃんは赤ちゃんだもの。ママのおっぱいに顔を埋めて眠りながらオネショでオムツを汚しちゃって、朝になればママの手でオムツを取り替えてもらって離乳食を食べさせてもらう赤ちゃん」
「あむ……」
 メグミは弱々しくかぶりを振った。その拍子に、ミルクが再びこぼれ落ちる。
 幸子はメグミの口から哺乳壜を引き抜いた。ゴムの乳首の先に一雫、白いミルクが朝露のように付いている。
 哺乳壜をトレイに戻した幸子の手が延びてヨダレかけの端を持ち上げた。
「念のためにヨダレかけをしておいてよかったわね。せっかくのお洋服がミルクで汚れちゃうところだったわ」
 幸子はそう言いながら、フリルいっぱいの生地でメグミの唇から顎先を丁寧に拭ってやった。幸子のなすがままにされているメグミが身に着けているベビーワンピースのエプロンがふわふわ動く様子が、京子にはとても愛くるしく思えた。
「……おば様……」
 京子はどことなく夢見心地の眼差しで言った。
「あら、何かしら?」
 頬についたミルクの跡をきれいに拭き取ってからヨダレかけを元通りに戻して幸子が京子の方を振り向いた。
「私のおっぱい……」
 京子の鼻の先が微かに震え、頬が真っ赤になっている。
「京子ちゃんのおっぱいがどうかしたの?」
 幸子は京子の胸元をじっとみつめた。京子がぎゅっと拳を握りしめる。
「メグミちゃん、私のおっぱい、いやがるかしら?」
「え?」
「メグミちゃん、梶田先生のおっぱいを吸いながら眠ってるんですよね? それを聞いた途端に、すごく梶田先生が羨ましくなってきて……可愛いメグミちゃんにおっぱいをあげることができるなんて、とっても素敵なことだもの……でも、私の小っちゃなおっぱいじゃダメですよね……」
 言いながら、京子の声は次第に細くなってきた。幸子の言葉に刺激されて突然に思いついたことだけど、ちゃんとした大人の女性である美和と、中学校に入ったばかりのまだ嘴の黄色い子供の自分を比べてみれば、それがどんなにだいそれたことなのかということは考えなくてもわかってくる。
 ついさっきまでの少し興奮ぎみの目の輝きが、いつのまにかしゅんとおとなしくなってしまっていた。
「そんなことないわよ、京子ちゃん」
 京子とは対照的に、幸子が明るい声で応えた。
「でも……」
「心配しないで――見せてごらんなさい?」
 そう言うのと幸子の指が指が京子のブレザーのボタンにかかるのとが同時だった。
「……」
 京子が思わず幸子の手を払いのけようとしたのは一瞬だけだった。異様に強く妖しい光を帯びた幸子の目に絡めとられるように、京子の体は動きを止め、両手がいつしかだらりと垂れ下がる。それは催眠術とかいうものではない。ただ、留守がちな夫の目を盗んで美和に女性どうしの愛の行為を教えこみもした幸子の異形の心の動きが、まだ若く純真な幸子の心を強く厳しく縛りあげてしまったのだ。
「そうよ。そのままおとなしくしていればいいのよ」
 幸子は京子の目を見据え、真っ赤な唇を舌で湿らせながら、ブレザーのボタンを次々に外していった。
「……」
 京子の方は抵抗する素振りもみせず、幸子のなすがままだった。
 力なく体の横に垂れ下がった京子の両腕を僅かに持ち上げてブレザーを脱がせてしまった幸子の手は次に、清潔そうなブラウスのボタンにかかった。メグミが着ていたものに比べれば飾りフリルもない極めてシンプルなブラウスだったが、そのぶん、中学生になったばかりの汚れない少女そのもののようにプレーンで真っ白に輝いている。幸子は慣れた手つきで京子のブラウスのボタンを外してしまい、ブレザーと同じように京子の腕を後ろの方に伸ばさせてすっと袖を引いた。一瞬、純白のブラウスが淡い羽根のように揺らめいて、京子の姿をはかない妖精のように思わせる。
 幸子は唇の端を歪めるような笑みを浮かべた。
 ブラウスの下から現れたのは、普通のブラジャーよりも少し厚手の生地でできたスポーツブラだった。激しい運動の時にも京子の乳房を保護するための伸縮性に富む素材の生地が、ブラジャーというよりも、丈をうんと短くしたフレンチシャツのような形に縫製された薄いブルーのそのブラのカップは、幸子が想像していたよりも少しばかり大きく盛り上がっていた。
「へーえ。中学校に入ったばかりとは思えないくらい発育してるわね」
 幸子は視線をスポーツブラのトップに釘付けにして感心したように言った。
「そ、そうですか? あの……テニスをやってるから……」
 力の抜けた掌を自分の膝の上でもじもじ動かし、僅かに目を伏せて京子が応えた。
「あら、そうだったの。それで体の発育もいいし、バストも平均以上に大きくなってるのね」
「でも、腕も太くなっちゃって……」
 京子は、はにかむような表情になった。
「いいのよ、それで。これからの女の子は逞しいくらいでなきゃ。それに、そうじゃないと、メグミちゃんのお世話もきちんとできないわよ?」
 いつのまにか京子の背後にまわってブラのホックを外しながら、幸子は甘い声で囁いた。
「あ……」
 京子は慌てて胸を押さえた。けれどその顔には、どこかうっとりしたような表情が浮かんでいる。
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。女の子の乳房は、可愛い子供を育てるための誇らしい体の一部なんだから」
 幸子は京子の手首を握り、固い乳房を覆い隠している掌をすっとどけさせた。
 もう、京子は抵抗しなかった。ほのかに赤く染まった体を小刻みに震わせながら、それでも、正面から幸子の顔をみつめている。
「さ、メグミちゃんの横に座って」
 幸子は僅かに頷いてみせると、座卓を少しずらした。
 促されるまま、京子は膝歩きでメグミのすぐ側まで近づき、微かにこわばったような笑みを浮かべて床に腰をおろした。メグミが慌てて目をそらせる。
「……こっちを向いてよ、メグミちゃん……」
 震える声で京子が言った。
「……」
 けれどメグミは俯いたまま、唇を噛みしめて何も言えない。
「ね、メグミちゃん?」
 とうとう京子が意を決したように、メグミの体に手を伸ばした。
 その手を、びくっと肩を震わせたメグミが振りはらおうとする。
「私と一緒にいるのはいや?」
 華奢なメグミの抵抗なんて気にもとめず、今度はメグミの体を抱きしめるように両手をまわして京子が僅かに恨めしそうに言った。
 体育館から保健室へ行く途中の廊下で、京子が少女から女性へと着実に変貌しつつあることを実感して思わず気圧されるように彼女の傍らから離れて歩いた時の光景がメグミの頭の中に蘇ってきた。その途端、京子の体から発散する強い匂いが自分の体を包みこむように漂い出ていることにメグミは気がついた。廊下で嗅いだあの匂い――メグミは直感した――女性特有の(たぶん、強烈なフェロモンを含んだ)、生命の輝きを感じさせるひどくなまめかしい匂いだ。
 メグミは一瞬、眩暈を覚えた。ふと、自分のすぐ横にいるのが美和のような気がしてくる。
 そしてその直後、まるで自分の意思とは無関係に、逞しい手に抱かれるようにふらふらと京子の体にしなだれかかっていくメグミ。
「メグミちゃん……」
 京子の顔が輝いた。
 京子は右手でメグミの頭を支えるようにして、そっと体を捻った。それは誰に教わったのでもない、いわば本能的な身のこなしだった。
 メグミの目の前に、固い蕾のような京子の乳房があった。そして、つんと上を向いたピンクの乳首。
 京子はメグミの頭を持ち上げ、その薄い唇に自分の乳房を押し当てた。
 美和の豊満な乳房とはまた別の、こりこりした固く張りのある感触が唇から伝わってくる。その時になって、それが京子のまだ発育途中の乳房だということをぼんやり思い出したメグミだが、そこから唇を離そうという気にもならなかった。美和の、どちらかといえば蠱惑的な体臭とはまた違った、どこか青臭い、けれど妙に甘くもある京子の香りに包まれながら唇に触れるぷるんとした乳首に魅せられたように、メグミは舌を動かした。
「は、ん……」
 京子の口から、喘ぐような声が洩れ出した。
 それは、中学校に入ったばかりの少女に似つかわしい声なんかじゃなかった。魂の震えがそのまま声になったような、生命の息吹を凝縮したような喘ぎ声――それは、自分の命と引き換えに新しい生命を生み出し、育むことを無情の悦びとして表す『雌』のおたけびだった。

 京子は目の下を真っ赤に染め、熱くほてった頬をメグミの頬にこすりつけながら授乳を続けた。まだ発育していない、そして実際にはまだ子供を生んだわけではないその乳首から乳白色の母乳が迸る筈もなかった。それでも京子は、これまで感じたことのない下腹部の痺れに酔うように、メグミの口に自分の乳首をふくませ、指でしごくような仕種さえみせるのだった。
 十七歳の少年が幼女のような格好を強要されて、十二歳の少女の乳房に顔を埋めている。幸子が目にしている光景は、一言で言ってしまえばつまりそういうことだ。しかし、幸子が実際に見ているのはそれだけではなかった。まだ充分に発育しきっていないながら健気に赤ん坊に母乳を与える幼い母親。その母親に全てを委ねて無心に乳首を吸うあいくるしい赤ん坊。成育途中の、しかしそれだからこそ輝いてみえる固い乳房。知らぬまに手を伸ばして乳房を求める赤ん坊。うっとりしたように赤ん坊の顔を見守る母親の目。その視線の先で無邪気に目を閉じる赤ん坊の安心しきった表情。――幸子は、二年前の自分と里美の姿を京子とメグミに重ね合わせて見ていた。
 母親と赤ん坊――そこに、肉体的な年齢は意味を持たないのかもしれない。
 生まれたばかりの赤ん坊と二十六歳の母親。それと同じように、十七歳の赤ん坊と十二歳の母親とがいてもいいのかもしれない。そして、ペニスを持った十七歳の幼女がいたとしても……。美和がメグミをマンションに連れてきて以来、幸子はメグミを珍しいペットとしか思ったことがない。それが今、京子とメグミの姿を目にした瞬間から、幸子の胸の中で何かが変わろうとしていた。
 が、同時にそれよりも激しく、体を巡るレスボスの血が妖しく騒ぎ出す。
 美和に異形の愛の営みを教えてその体を貪り、あるいは美和の指技に体をとかす思いを覚えながらも、いつしかそれだけでは最初の頃のようなぞくぞくするような悦びを感じなくなっている幸子の目の前に現れた京子が幸子の血を沸きたたせたとしても不思議もないことだろう。まだ熟れきっていないどころか、子供と大人とが微妙に混在し、はちきれんばかりの若さ(あるいは、幼さ)を体の隅々にまでまとわりつかせた京子――特に、メグミに授乳を行っている時にみせる神々しいまでの表情と乳房の揺らめき――を目にした途端、幸子の胸には、荒々しい欲望が渦巻き始めているのだった。
 幸子は京子の方にすっと体を滑らせた。
 と、メグミが妙な動きをしたのが幸子の目にとまる。
 京子の乳首を吸うことに夢中になっているのかそれまで全く体を動かさなかったメグミが、不意に両脚の膝を擦り合わせるように動かしたのだった。
 幸子の頭に閃くものがあった。
 ……京子ちゃんを手に入れることはいつでもできるわね。それよりも今は、うふふ、メグミちゃんを悦ばせてあげることにしましょうか。幸子は体の動きを止め、メグミの下腹部を包みこんでいるブルマーに目を向けた。
 メグミは尚も激しく両脚を動かし続けていた。幸子は目を細め、右手をメグミの股間に伸ばした。
「あん……」
 京子の乳房に顔を埋めたまま、まるで少女のようにメグミが呻いた。
 幸子の掌に伝わってきたのは、ブルマーを僅かに突き上げるようにエレクトしているペニスの感触だった。もう九ケ月も前に幸子がその白い指でたっぷりいたぶり、オムツの中へ強引に射精させてからはだらしなく垂れ下がっているばかりになってしまっていたメグミのペニスが今、突然のように屹立しているのだった。身体の他の部分と同様に発育不全のそのペニスがいくらエレクトしたとしても、オムツカバーの上に穿いているブルマーが目で見てわかるくらいに変形することはない。それでも、幸子の掌はその微かな兆しをはっきりと感じ取っていた。
 幸子は唇の隙間から真っ赤な舌をのぞかせると、裾にフリルがあしらわれたブルマーの股間に並ぶボタンに手をかけた。
 はっとしたような表情になって、メグミが身を起こそうとした。
 けれどそれを京子が強引に押さえつけて、それまでと同じように自分の乳首をメグミにふくませ続ける。
 その間に幸子は手早くボタンを外してしまい、前後に割れたブルマーの生地をさっと捲くり上げた。そして、その中から現れたレモン色のオムツカバーのボタンを外して腰紐をほどき、前当てを広げる。オムツカバーの横羽根でずれないように固定してある布オムツの中央よりも僅かに下の方が少しだけ膨らんでいる様子が幸子の目に映った。
「京子ちゃん、これを見てごらんなさい」
 幸子はメグミの股間の膨らみを指差した。
 自分の乳首を口にふくんで盛んに唇を動かしているメグミの様子をうっとりした目つきで見守っていた京子が、その声にのろのろと視線を動かした。
「それ……」
 京子の顔に訝しげな表情が浮かんだ。
「男の子は時々こうなるのよ。――知らなかった?」
 幸子は目を細めて言った。
「あ……」
 少し間をおいて、京子が僅かに口を開いた。小学校四年生になるまで父親と一緒に入浴したこともある京子が、幸子の言ったことの意味を理解したのだ。
 けれどじきに激しく首を振って、京子は幸子に言った。
「でも……でも、メグミちゃんは女の子です。そんな……おちんちんを大きくするような男の子なんかじゃありません」
「そうね、メグミちゃんは京子ちゃんの可愛い妹だったわね」
 幸子はクスッと笑った。それから、オムツカバーの横羽根のマジックテープを優しく外しながら言った。
「それに、もしも男の子だったとしても、赤ちゃんのくせにおちんちんを大きくするのは変よね。じゃ、早いこと、このおかしなおちんちんを元に戻してあげなきゃね」
 メグミのお尻を包みこんでいたオムツカバーの横羽根が床の上に広がった。幸子は続いて横当ての布オムツをメグミのお尻の左右に広げ、股当ての端を持ち上げて両脚の間にずらした。幼児のもののように小さな、そのくせ精一杯いきり立ったメグミのペニスがオムツの中から姿を現した。
 幸子が慌てて目をそむける。
「あら、公園でオムツを取り替えてあげたんじゃなかったっけ? いまさら恥ずかしがることもないでしょうに」
 幸子が面白そうな口調で京子に言った。
「え、だって……」
 京子は耳の先を赤くして口ごもった。
「うふふ、しようのないお姉ちゃんだこと……仕方がないわね、これでいいかしら?」
 幸子は股当てのオムツを一枚だけ持ち上げてメグミのペニスを覆い隠した。一枚だけの布オムツはこんもりと盛り上がってはいるけれど、ペニスの形がはっきり見えることもない。
 京子はおどおどした様子で微かに頷いた。エレクトしたペニス(それは、京子のような少女にとってはひどくグロテスクなものだった。例えそれがいとおしいメグミの物だったとしても)さえ隠れてしまえば、そこにあるのは、まだ当分オムツを手放せない小さな妹の下腹部でしかなくなる。
「じゃ、腫れちゃったペニスを小っちゃくするおまじないをかけてあげましょうね。そうすれば、つるりとした女の子みたいなお股に戻れるから」
 幸子は舌なめずりをしてから、オムツに隠されたメグミのペニスの先をつんと指で弾いた。
「ふ、ん……」
 メグミは僅かに唇を開いて弱々しい声を出した。そして、これから自分の股間がどんなふうにいたぶられるのかを目にすることを避けるように、これまでよりも激しく京子の乳首を吸い、より深くその乳房に顔を埋める。
 そんなメグミを庇うように、京子がメグミの背中を撫で、優しく叩く。
 幸子の掌がオムツの上からメグミのペニスを包みこんだ。
「やだ……」
 まるで泣き出すようなメグミの声が室の空気を震わせた。
 幸子の掌が、メグミのペニスを包みこんだまま上下にゆっくり動き始めた。
 メグミが下半身をくねらせ、何かに耐えるように左右の内腿を擦り合わせる。
 布オムツの柔らかい肌触りに幸子の手の動きが加わり、メグミの股間に切なく甘い刺激を与え続けた。
 メグミが僅かにお尻を浮かせる。
 ゆったりと、ねっとりと、幸子の掌が絡みつくように動きまわる。
 メグミが体をそらせ、膝を震わせた。
 幸子の左手がメグミの陰嚢の裏側を探るようにくすぐり、右手の掌がペニスをきゅっと握りしめた。
 身をよじるメグミの体の下で布オムツとオムツカバーが小さなシワになる。
 布オムツの端が、皮をかぶったままのペニスの先をさわっと撫でた。
「痛い……!」
 突然、京子が体をのけぞらせて叫んだ。
 幸子が与える刺激に耐えられなくなったメグミが思わず京子の乳首を噛んだせいだ。
 京子が叫ぶのと同時に、メグミのペニスがドクンと脈うった。
 メグミのペニスを伝って白い液体がとろりと流れ落ちる様子が、オムツの僅かな隙間から見えた。
 なぜだか、里美がきゃっきゃっと声をあげて笑った。
 メグミの体中から力が抜けていった。
 京子が腕に力を入れてメグミの体を支える。
 オムツの裏側に広がった精液が柔らかな布にじわりと滲みこんで、京子から見える側にも微かなシミをつくった。
 京子はメグミの体を抱きしめた。
 メグミの頬を涙の雫が流れた。同時に、精液の微かなシミしかなかった布オムツが不意に重くなってメグミの肌にまとわりつき始める。
「あらあら。緊張がとけたせいかしら、ガマンしてたのがとうとう出ちゃったのね」
 幸子は慌てるふうもなく言うと、メグミの両脚の間に広がっていた股当ての残りを持ち上げて股間に重ねた。それから、左右の横当てを丁寧に三角形にたたみ直して、それを股当ての上に重ね合わせる。
 幸子と京子が見守る中、布オムツに大きなシミができたかと思うと、それがさーっと広がった。一番外側の布オムツの表面にオシッコの雫が幾つか浮き出て、それがゆっくりと滴り落ちてオムツカバーの裏側を濡らしていく。
 その様子を、好奇心いっぱいの表情で里美がじっとみつめていた。
 けれどメグミ自身は、自分の股間がオシッコで濡れていく様子を目のあたりにすることを拒否するように、更に激しく京子の胸に顔を押し当ててぎゅっと瞼を閉じていた。
「濡れちゃったオムツなら何度も見たことがあるでしょうけど、濡れていく途中のオムツを見るなんて初めてでしょ?」
 幸子は唇を歪めるような笑顔になって京子に言った。
「え……あ、はい……」
 メグミの下腹部を包みこんだ布オムツがぐっしょりと濡れていくのを大きく見開いた目で見守っていた京子がぽつりと応えた。
「これで、京子ちゃんも立派にママの仲間入りね」
 幸子はメグミの耳にもはっきり届くように声を強めて言った。
「ママの仲間……?」
 不思議そうな表情を浮かべて京子が訊き返した。
「そうよ。今、メグミちゃんにはママが二人いるの……」
 幸子は、京子の乳房に顔を埋めたままのメグミの体をちらと見て言った。
「……一人は美和。ずっとメグミちゃんのお世話をしてる一番身近なママね。メグミちゃんが眠る時にはいつも添い寝をしてあげるし、お風呂でもメグミちゃんの体を隅から隅まで奇麗に洗ってあげる優しいママ。そしてもう一人は、この私。美和がお仕事の間は私がメグミちゃんの面倒をみてるんだもの、私だってママだわ。里美はメグミちゃんを妹みたいに思ってるんだしね」
「……」
「これまでは、メグミちゃんはずっとこのマンションにいたから二人のママで間にあってたの。でも、今日から学校へ行くことになったでしょ。だからもう一人、学校でメグミちゃんのすぐ側にいるママが必要になったんだけど――京子ちゃんなら大丈夫ね」
「私がメグミちゃんの……」
 少し照れたように、京子がためらいがちに微笑んだ。
「そう、可愛いメグミちゃんの優しい三人目のママよ」
 幸子は軽くウインクしてみせた。
「……はい、がんばります」
 学校からの帰り道の公園で自分のことをメグミにお姉ちゃんと呼ぶことを強要していたのが、今度はママと呼ばれる立場になったことを知って、京子は有頂天だった。実際、京子の乳首を口にふくんだままの姿で白いオシッコを洩らしてしまい、そのすぐあとに本当にオシッコでオムツを汚してしまったメグミの姿は、京子の目から見ても、幼い妹というよりも何もできない娘のようだった。特に、京子の胸にしがみつきながら布オムツを濡らしてしまう姿を目にしてからは、既に初潮も迎えて次第に大人の体になりつつある京子の心の底に潜む幼い母性本能が心地好くくすぐられるようで、メグミのことがたまらなくいとおしく思えるのだった。
「それでいいわ。それじゃ、すぐにでも育児の特訓を始めなきゃね」
 幸子は明るい声で言った。




 翌朝。
 美和と一緒にマンションを出たメグミは、校門をくぐった所で美和と別れて教室に向かった。
「おはよう」
 メグミの肩を誰かが後ろから叩いた。
 どきっとしたように体を震わせて振り向いたメグミのすぐ近くに立っていたのは、穏やかな笑顔の京子だった。
「あ……お、おはよう」
 京子の顔を目にした途端に昨日のことを思い出してしまったメグミが、かっと顔をほてらせて口ごもった。

 昨日、幸子の言う『育児の特訓』は美和が帰ってくるまで休む間もなく続けられた。オムツカバーが開いたまま布オムツの中にオモラシをしたためにオシッコがオムツを濡らしていく様子をみんなにたっぷりと見られた後、メグミは京子の手でオムツを取り替えられることになった。「ダメよ、もっとちゃんとおちんちんをオムツで包んでおかなきゃ。メグミちゃんは女の子のくせに時々おちんちんを腫らして、とんでもない方向にオシッコをこぼしちゃうことがあるんだから」とか「ほらほら、オムツカバーの裾からオムツがはみ出てるわよ」とか事細かに注意を与える幸子の言葉は、京子に対する指示というよりも、メグミ自身の羞恥を激しく刺激し続けるためのものだった。けれど、実際に京子の乳房にむしゃぶりついたままの姿でオムツを汚してしまったメグミには、返す言葉もない。メグミはただ瞼をぎゅっと閉じてその長い時間を耐えるだけだった。
 そして、やっとのことでオムツの交換が終わってブルマーのボタンが全て留められた後も屈辱の時が終わることはなかった。ベビーワンピースのスカートの乱れを整えた京子は、あらためて離乳食のスプーンを手にしてメグミの口許に近づけ、今度こそ半ば強引にそのスプーンを口の中に押しこんだ。自分がメグミの三人目のママなんだという自信がそうさせるのか、初めて離乳食のスプーンを持った時のようなためらいはもう微塵もなく、いやがるメグミの口をムリにでも開かせてスプーンをねじ込む京子だった。それから京子は哺乳壜を持ち上げてゴムの乳首をメグミの口にふくませ、唇の端から流れ出すミルクを幸子の指示に従ってヨダレかけできれいに拭き取ってから再びスプーンを手にするといったふうにしてメグミに昼食を与えた。
 ほんとうの赤ん坊のように離乳食とミルクを与えられる屈辱のためにメグミがなかなか口を開かないせいで昼食の時間はいくらでも長くなり、最後の一掬いが口の中に消えた頃には二時間近くが経過していた。そうして、残ったミルクを飲ませるために京子が哺乳壜の乳首を口にふくませた時、メグミの表情が僅かに変化した。ゴムの乳首を咥えた唇を半ば力なく開き、微かにうっとりしたような目つきで、助けをもとめるように幸子の顔を見るメグミ。幸子は軽く頷くと、京子の耳元に「メグミちゃん、またしくじっちゃったみたいよ」と囁いた。「え、だって……」京子は呆れたように問い返したが、幸子の言葉は本当だった。学校の保健室で美和が京子に話したように、メグミがオシッコをガマンできるのはせいぜい二時間、ひどい時には一時間おきにオモラシを繰り返してしまう体になってしまっていたのだから。そのことを思い出した京子はにこっと微笑むと、持っていた哺乳壜をメグミの手に持たせてからベビーワンピースのブルマーに指をかけて股間のボタンを外し始めた。自らの意思ではないにしても、哺乳壜を胸の上に抱えてゴムの乳首からミルクを吸いながらワンピースのスカートを捲くりあげられてオムツを取り替えられるメグミの顔の上で、里美が手にしたガラガラを盛んに振ってみせた。それに合わせるみたいに、幸子がスイッチを入れたサークルメリーからは軽やかな音楽が流れ続けている。室の中央に横たわるメグミは、優しい家族に取り囲まれた、自分では何もできない小さな赤ん坊そのままだった。
 そんなふうにして、羞恥と屈辱に充ちた育児の時間は、夕方になって美和が帰ってくるまで続けられたのだった。とはいえ、その後京子が自分の家に帰ってからもメグミの置かれた状況が変化したわけでもない。今度は美和が母親になって、京子の時よりももっと念入りに赤ん坊扱いされる夜の時間が始まったのだから。

「私のおっぱいと美和ママのおっぱい、どっちが好き?」
 昨日のことをありありと思い出して頬を赤く染めたメグミに向かって、京子が悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「……」
「あら、昨夜も美和ママのおっぱいを吸いながら眠ったんでしょ?」
「……」
 メグミはうなだれるように顔を伏せた。
「ま、いいわ。――ところで、どのクラブに入るのか、もう決めた?」
 押し黙ったままのメグミに、京子は笑顔で尋ねた。
 スポーツ振興を校是としているK女子中学校では、全ての生徒が体育系のクラブに入部することを校則で義務付けている。病気などによる場合は特例として免除も認められてはいるが、まさか、「オモラシ癖があるからクラブ活動はできません」と申告できるわけもない。ただでさえ、注意して見ればメグミのスカートが不自然に膨らんでいることは誰の目にも明らかなのだ。そんなところへ、オモラシ癖を担任に話して、それがクラスメイトの耳にでも入ろうものなら、メグミがスカートの下にオムツをあてていることはあっという間に全校生徒の噂になってしまうだろう。
「まだ……」
 メグミは弱々しく首を振った。
「じゃ、テニス部に入ろうよ。私と一緒なら、着替える時にも庇ってあげられるもの」
 京子は明るい声で言った。
「でも……」
「でも……じゃないわよ。ソフトボール部のユニフォームはショートパンツだし、体操部はレオタードよ。オムツをあてたまま、そんなユニフォームなんて着られないでしょ? でもテニス部ならスコートだもの、オムツカバーの上にアンダースコートを穿いちゃえば、それほど目立たないと思うわ」
「だけど……」
 メグミの頭の中に、テニスウェアに見を包んだ自分の姿が浮かびあがってきた。小柄で華奢な体つきのメグミに、純白のテニスウェアは意外に似合うかもしれない。けれどそんなことになったら――制服だけじゃなくてクラブ活動でもそんな女の子の格好をしなきゃいけないなんて……。それに、フリルいっぱいのアンダースコートをオムツカバーの上に穿いたりしたら、それこそ、赤ちゃんのオーバーパンツみたいになっちゃう……。
「いいわね?」
 幸子はメグミの返答も待たずに勝手に決めつけた。
「え、ちょっと……」
「あら、いやなの? メグミちゃんはママの言うことがきけない悪い子なのかしら?」
 京子は腰に手を当て、メグミを見下ろすようにして言った。
「そんなこと言ったって……」
 メグミは京子の視線から逃れるように、身を縮めて言った。小柄な体がますます小さく見える。
「ふーん。それならそれでもいいわ。でも、今度オムツを取り替える時にはたっぷりオシオキをしてあげるからね。昨日、幸子ママに教えてもらったとっても恥ずかしいオシオキをね」
 京子は目を輝かせ、スカートの上からメグミのオムツカバーをさわっと撫でて言った。
 メグミは胸の前に腕を寄せて、ぶるっと体を震わせた。
 偽りの女子中学生の、羞恥と屈辱と奇妙な悦びに充ちた学園生活は今始まったばかりだった。


いつか書くかもしれない続編に続く(^^;


中編へ 目次に戻る 本棚に戻る ホームに戻る