美奈の夏休み

6〜屈辱のオモラシ




「あ……あん、もう……」
 もうやめてくださいと美奈は言いたいんだろう。でも、玲子は決して手の動きを止めようとはしなかった。最初の頃に比べれば手の振り上げ方は小さくなったものの、それでもパシッビシッと皮の弾ける(聞きようによってはいっそ小気味好いといっていいかもしれない)音を周りに撒き散らし続ける。
 とはいえ、そのオシオキは見た目よりも美奈には苦痛じゃない筈だった。というのも、ちょっとばかり心配になってきた私が玲子の手にしがみついてやめさせようとした時にそっと囁くように教えてくれたからだ。──そんなに心配することはないわよ、亜紀。よく見てごらんなさい、あまり痛くないようにわざわざ狙って手を振りおろしてるんだから。──痛くないようにぶつ? そんなことができるの?──うふふふ、簡単なことよ。脚の付け根や肌の薄いところは避けるようにして、ほら、叩く時には掌の当たり方をこうするのよ。──だって、あんなに赤く腫れてるじゃないよ。──よくごらんなさい。それは最初の一つだけよ。あとは、うっすらと赤くなってるだけでしょ?
 たしかに、本当に痛いのは最初の一発だけのようだった。たけど美奈にしてみれば、その痛みが強烈な印象だったせいで、あとのもひどく痛いように思いこんでるだけなんだって。それでも、実際にはあまり痛くないにしても、まるで幼児みたいにショーツをずりおろされてお尻をぴしゃぴしゃされたら、その羞恥だけでも充分なオシオキの効果があるにちがいない。(でも、それにしても、いったいどうして玲子はそんな効果的なオシオキの方法、特に、あまり痛みを感じさせずに女の子のお尻を叩く方法なんてものを知ってるのかしら? まさか大学の心理学の講座でそんなことを教えてくれるわけもないでしょうに)
「もうそろそろいい頃かしらね」
 真正面から掌のお腹の部分を真っ直ぐに美奈のお尻にピシリと当てた玲子が、ふっと軽く息をついて言った。
「どう、いい子になるって約束してくれるわね?」
「あむ……え……えっえっえ……」
 美奈は応えなかった。応えずに、その代わり、いかにも悲しそうな声を喉の奥から押し出すようにむせぶ。
「そう、まだダメなの……。仕方ないわね、もう少し教えてあげましょうか」
 しかし玲子は、そんな美奈の様子にもちっとも心を動かされないように平然とした声で言い、もういちど手を振り上げた。
「だめぇ」
 美奈が慌てて首を振る。
 美奈のお尻が派手な音をたてた。
「あ……ああ……あぁん……」
 そしてその途端、美奈は返事をせずにほんとにちっちゃな子みたいに泣き出しちゃったんだ。両手で顔を隠すこともしないで、それこそあたりかまわずって感じで涙をこぼしながら。
 ついでに言っとくと、こぼれ始めたのは涙だけじゃなかった。
 緊張の糸が切れたっていうか、もうどうしようもなくなったっていうか、それまでガマンにガマンを重ねてたのが耐えられなくなったんだろうね。泣きながらお腹をぴくぴくと震わせ、もぞもぞと腰を動かしたかと思うと、美奈のショーツの様子がさっと変化したんだ。さっきも言ったように、美奈のショーツは前の部分が恥ずかしいところをかろうじて覆ってるだけで、後ろの方は殆どお尻の裾の方までずり下げられちゃってる。股間の方から見てるとよくわかるんだけど、その前の方が急にぼんやりと膨れた(うーん。我れながらわけわかんない表現だとは思うけど、でも、こんなふうにしか言えないんだもん)かと思うと、冷房のためにひんやりした空気のせいなのか、ふわって感じで微かに湯気が立ちこめ(あ、このせいで”ぼんやり”した感じに見えたのかしら)て。で気がつくと、ショーツの、両脚に挟まれた船底の辺りもぽわっていうふうに膨らんで(っていうか、寝台の素材に貼り付くみたいに広がって?)、どういえばいいのかな……とにかく、横になってる美奈の体の下から両脚の間までの部分が急に重くなったみたいに体が離れようとしてるのね。
 それで、一瞬は何が起きたのかわからずに私がじっと見守ってるうちに、ショーツの残りの部分(つまり、まだ濡れずに乾いたままの部分)にもじわっと滲みが広がってきて。あれあれって見てると、もうその滲みはお尻の裾のところでくしゅくしゅと皺になってる後ろの部分まで広がってきた。そうやって濡れてるところの方が多くなってくると、それまでは重みに耐えかねてみたいにだらしなくずり落ちかけてたショーツが今度は、ぴとって感じで美奈の下腹部の肌に貼り付きだすんだね。もともとは白いショーツが、吸収した水分(それも、とっても羞ずかしい水分だ)のせいでほんのりと美奈の肌の色が透けて見え、ほのかなピンクとも見間違うような色に変わって、張りのある若々しい肌に不埒にもなまめかしく貼り付いてるんだ。美奈の穿いてるのがナイロン素材のスキャンィとかだったら一つ所が濡れるだけですんだかもしれないんだけど、発育途中で新陳代謝も盛んな中学生が身に着ける下着っていったら大概は吸水性のいい(だって、汗を吸収してもらわなきゃいけないんだから)コットンのショーツというのが定番で、その吸水性の良さのために、こういう時はすごく速やかに水分はショーツ全体に広がって行くんだね。
 もっとも、美奈の膀胱はオシッコでぱんぱんというわけでもなかった筈だから、たとえオモラシしちゃったとしてもその量はさして多くはない。だからショーツ全体がぐっしょりにってことにはならないんだけど……でも、恥ずかしいところから溢れ出たオシッコの幾らかが行く場を失ってショーツの船底から滲み出すくらいの量はあったみたいだ。
 そしてショーツから滲み出し、あるいは雫になって内腿の内側をツーッと伝って寝台の方に溢れ出たオシッコは、美奈の下腹部の下に広げられている水玉模様の布オムツに吸いこまれることになる。
 それは。それは──なんて奇妙でいかがわしてくなまめいて見える光景だったことでしょう。まだまだ成長の途中とはいえもう幼児でもない中学生の女の子がオシオキとしてお尻をぶたれ、その(ほんとうはさしてひどくもない)痛みと激しい羞恥のせいで尿意に耐えられなくなり、うつ伏せの姿勢でショーツからオシッコを滲み出させていて、しかもそのオシッコが、体の下に敷かれた布オムツにじんわりと吸収されてゆく光景。私はなぜとはなしに、ぞくっと体を震わせてしまった。


 いつのまにか、美奈は泣くことさえやめていた。彼女の年齢には全くふさわしくない幼児の下着であるオムツを着けられることを意識としては拒否していたかもしれないけど、でも、もうそれを表現してみせるだけの気力が残っていないことは私の目にも明らかだった。
「やっとおとなしくなってくれたわね、美奈ちゃん」
 玲子が、まるで舌なめずりでもしそうな声で言った。それから美奈の細っこい腰に両手をかけ、ちっとも体重を感じさせないようにふんわりと抱え上げてしまう。そして、何も見えていないような虚ろな瞳を壁の方に向けている美奈の体をそのまま寝台に手をつかせるようにして立たせると、耳元に真っ赤な唇を寄せてねっとりした口調で囁いた。
「じゃ、オムツを取り替えてあげましょうね。準備をするから、いい子で待ってるのよ」
 美奈の頬がぴくっと引きつった。玲子が口にした『オムツを取り替えてあげましょうね』という言葉が、心の奥底にまだ残っていたなけなしの羞恥心をくすぐったのかもしれない。だって、オムツを”取り替えてもらう”ということはつまり、美奈がオムツを汚しちゃったってことを自分から認めることになるんだよね。初めてオムツをあてられるだけなら、それがいくら羞ずかしい経験だったにしても、それは初対面の怖くて陰湿な玲子の訳のわからない意地悪なんだと思いこみ、なんとかして忘れられる悪い夢のようなものだって自分自身に言い訳できるかもしれない。だけどオムツを取り替えられるということは、それがどんな事情にせよ、一度は自分のオシッコでその羞恥に充ちたオムツを汚してしまった──まるでちっちゃな赤ちゃんみたいにオムツのおかげで洋服やスカートを汚さずにすんだんだってことを自ら告白するようなものなんだもの。
「いや……オムツはイヤ……」
 美奈は力なく首を振り、最後の気力を振り絞りでもするみたいに弱々しく応えた。
「あら、イヤなの?」
 玲子は下唇を尖らせ、悪戯っぽく笑って言った。
「そう、イヤなの……」
 そしてもう一度、確認するように繰り返す。
「……」
 玲子が何を言いたいのかわからずに、美奈は少し脅えたような顔つきになって黙ってしまった。
「じゃ、仕方ないわ。オムツを取り替えるのはやめておきましょう」
 玲子はすーっと目を細めた。
「あ、ええ……はい、じゃ……オムツをあてなくていいんですね?」
 美奈は予想外の言葉を聞いたように、ちょっとばかりどもりながら問い返した。その顔には、明らかに安堵の表情が浮かんでいる。
「え、誰がそんなことを言ったの?──オムツをあてなくていいなんて」
 だけど、玲子はわざとのように意外そうな表情をつくって問い質す。
「だ、だって。さっき……」
「あらあら。私の言ったことをちゃんとわかってないようね、美奈ちゃんは」
 玲子はにっと笑った。
「え……?」
「私はね、『オムツを取り替える』のをやめてあげるって言ったのよ。……でも、おかしな子ね、美奈ちゃんは。濡れたオムツのままがいいだなんて」
「あ……」
 やっとこさ玲子の言ったことがわかったのか、美奈はぶるっと肩を震わせて、目の前にある寝台を睨みつけた。そこには、ついさっき美奈がショーツから溢れさせたオシッコで濡れちゃったオムツが広がっていた。美奈の膀胱に溜まっていたオシッコは(いつものことだけど)あまり多くはなかった。だからオムツが濡れたといってもさほどひどくじゃないんだけど、それでも、美奈の秘部が当たっていた辺りはくっきりした滲みになっていて、淡いブルーの水玉模様の色が少しぼやけて見えるような感じになっている。そのオムツは美奈の股間に直に触れていたものじゃない。美奈のオシッコを吸収するにしても、ショーツを通してだった。だけど、でも、それでもそのオシッコは確かに美奈のピンクの谷間から流れ出したものには違いない。──玲子は、その恥ずかしく濡れたオムツで美奈のお尻を包みこんじゃうつもりなんだ。
「お願いです。もう……」
 もうやめて、と言おうとした美奈の言葉は、だけど途中で途切れてしまった。
 美奈が口を開いた途端、玲子がまたまた右手を振り上げて美奈のお尻をチェック柄のミニスカートの上からぶったからだ。スカートの上からだから、さっきまでのオシオキのような鋭い音は響かなかった。ちょっとくぐもったような、なんとなく鈍い音が周囲の空気を僅かに震わせる。その中に濡れた雑巾を手に叩きつけたみたいなビショッという音が混ざっていることに気がついて、私はふと美奈のお尻の辺りに目をやってみた。
 短いスカートの裾から、お尻の膨らみからずり落ちかけている(玲子がむりやりずりおろしちゃった時よりも、オシッコを吸った重みのせいかますますよけいに落ちかけている)ショーツが僅かに見えている。もともとは中学生のものらしく純白だった生地なのに、美奈の体から流れ出したオシッコのせいで微かに黄色く染まり、だらしなく垂れ下がっているそのショーツの裾ゴムから滲み出すように、一雫の水滴が内腿から膝の裏側をツツーッと伝って行く様子が私の目に映った。その雫は天井からの照明をきらきらと反射しながら、まるでこの世に二つとはない宝石のように妖しく輝いて膝からくるぶしへと滑り、白いルーズソックスに吸いこまれて行った。
 オシッコの雫が脚を伝って落ちて行く感触に美奈は体をビクッと硬直させ、口を半開きにしたまま押し黙ってしまった。
「わかったわね? 美奈ちゃんはおっきな体をしてるけど、ほんとはオモラシの治らない赤ちゃんなのよ。赤ちゃんにはちゃんとオムツをあててあげなきゃね」
「……」
「それとも、その羞ずかしいオシッコを吸ったショーツのままでいたいの? それならそれでもいいわよ。ショーツからオシッコを滴らせながら、亜紀のマンションまで歩いて行くといいわ」
 美奈は左手のこぶしを右手の掌で包みこむようにして、その手を胸の前で小刻みに震わせながら玲子の言葉に無言で立ちすくんでいた。




 そうして美奈は抵抗することを諦めた。
 玲子に指示されるまま自分のスカートの裾をぎゅっと握りしめ、そのままおどおどと持ち上げる。
 そんな美奈の足下に膝をついて、私は彼女のショーツに指をかけた。微かな尿臭が鼻をくすぐる。私は玲子と美奈の顔をちらと見比べてから、すっと両手を引き下げた。
 オシッコを吸収して美奈の下腹部の皮膚にぴったり貼り付いていたショーツをむりやり剥がすみたいにしてくるっくるっと丸めてずりおろしながら、私は真正面にある美奈の秘部に目をやった。水泳の授業のためだろう、手も脚も殆どが小麦色にやけているのに、紺色のスクール水着に覆われている体や下腹部はなまめかしいほどに白い肌のままだった。そしてその白い肌を覆い隠してしまう黒い茂みはまだ生えていない。
最近の平均では、初潮を迎えるのが小学校五年生、アンダーヘアが生え始めるのが中学校二年だから、美奈の下腹部にもそろそろ黒い陰が現れてもいい頃かもしれないけれど、小柄で少しばかり成長の遅い彼女の秘部はまだ固く、熟れ始める頃のような豊かな肉づきや微かな重みといったものは殆ど感じ取ることはできなかった。白く固い下腹に一条の線のように刻みこまれたピンクの秘所。まるで童女のそれのように淡く白い光に包まれてまばゆく輝いてさえいるように思える美奈のそこに無粋な黒い茂みがないことを確認して、私はなぜとはなしに安堵のような甘く切ない溜息を洩らしてしまった。
 そして気がつくと、美奈のショーツはもう、ぷむぷむと足首にまとわりついているようなルーズソックスのすぐ上までおりてきていた(正確にいうと、私がずりおろしちゃってたんだけど)。で、私はちょっと迷っちゃったんだ。さて、このショーツを完全に脱がせるにはソックスがジャマになるんだけど、立ったまま靴も脱がせようか、それとも、寝台に横たわらせてからの方がいいのかしら?
 でも結局、私がそんなことで迷う必要なんてこれっぽっちもなかった。私の手が止まった途端、玲子の右手がさっと動いたからだ。そんで玲子の右手は、包帯を切る時にでも使うんだろう鋭い刃のハサミを持っていた。その銀色に光るハサミは私の視界に入ってきたと思ったら、次の瞬間には、自らの意思を持ってでもいるもののように美奈のショーツに向かって行ったんだ。そうして、腿と裾ゴムの隙間からするりとショーツにもぐりこむと、ジョキンと人の心の中にひどい不安をかきたてるような音をたてて、裾から船底にかけて一筋に切り落としちゃった。それからもう一度ジョキン。
たったそれだけで、それまで美奈の大事な部分を隠していたショーツはただの布きれに変わってしまった。
 美奈のオシッコを吸ったショーツは、ひらひらと床に舞いおりることはなかった。
ポトッと、その重さを誇示するような質感を感じさせるような音をたてて(その音は同時に、ほらごらん、私は美奈の羞ずかしいオシッコを吸っているんだよと布きれが囁きかけてでもいるように聞こえたんだけど)床に落ちていった。
「ちょっと、玲子……」
 いくらなんでも、それは……というように、私はちょっとばかりきつい目つきで玲子を睨みつけた。
 でも、玲子は澄ました顔でおもしろそうに言葉を返してくる。
「これでいいのよ。だって、美奈ちゃんには普通の下着なんて必要ないんだもの。これからずっとオムツを着けて生活する赤ちゃんに、ショーツなんて要るわけないものね?」
「え……? そ、そんな……」
 玲子の言葉を耳にした美奈は、左手のこぶしを唇に押し当てた。
「え、そんな……じゃないわよ。美奈ちゃんはこれから、その恥ずかしい病気が治るまでオムツを着けて生活するのよ。食事の時も眠る時も、もちろん外出の時もね。うふふ、なにをそんな変な顔してるのよ。オムツをあててれば安心よ。いつトイレに行きたくなっても、わざわざ探し回ることもないんだから」
 玲子は美奈の目を覗きこみながら、わざとのように明るく言った。



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