偽りの保育園児



               【三】

「さ、どれにしようかな。葉月ちゃんが女の子になって初めてのお出かけだから、うんと可愛い格好をさせてあげなきゃね」
皐月はそんなふうに呟きながら、壁際に置いてある整理タンスの一番上の引出を開け、しばらく中身を探っていたが、やがて一着の衣類を取り出すと、左右の肩紐を両手に引っかけるようにして葉月がいる場所に戻ってきた。
この時の葉月は、通園帽と制服だけではなくソックスも脱がされて、キャミソールとショーツだけの下着姿に剥かれ、目の前にある大きな姿見の鏡に映る自分の姿に羞恥で胸をこがしている最中だった。そうして、皐月がタンスの前から戻ってくる気配に、これでやっとのこと恥ずかしい下着姿を隠すことができるかもしれないと一縷の期待を託し、姉が広げ持った衣類に目を向けたのだが、それは儚い望みにすぎなかった。
「そ、それ……なの? 制服の代わりに着る洋服って、それなの? 僕、制服を脱いだ後も、そんな洋服を着なきゃいけないの、姉さん!?」
葉月は、皐月が両手で広げ持っている衣類を目にした途端、悲痛な叫び声をあげた。
それは、十八歳の大学生にはおよそ似つかわしくない、スカイブルーとライトスカイブルーとのギンガムチェックの生地でできたサンドレスだった。それも、大人用のややタイトなラインに仕立ててあるようなものではなく、少しハイウエスト気味のウエストラインから下がふわりとした感じで丸く広がったラインの、ついさっきまで着せられていたセーラーワンピース同様、いかにも子供向けに仕立てたという印象の強いサンドレスだ。しかも、ウエストラインにはサンドレスと共布でできたウエストリボンがあしらってあって、更に可愛らしさを引き立てているという念の入れようだった。
「ほら、また呼び方を忘れちゃってる。バスの中じゃお利口さんだったのに、お家に帰ってきたら途端に困ったちゃんになっちゃうんだから。――葉月ちゃん、明日から保育園に通うことになってるけど、本当は小学校の五年じゃなかったっけ? だったら来年は六年生で最上級生なんだよ。なのに、いつまでも、お姉ちゃまや自分の呼び方を間違えるような困ったちゃんじゃいけないよね。それとも、葉月ちゃんは本当は五年生なんかじゃなかったのかな? ううん、でも、ひょっとしたら、葉月ちゃんが間違ったんじゃなくて、お姉ちゃまの聞き違いだったのかもしれないわね。じゃ、どっちだったか確かめなきゃいけないから、もういちどさっきと同じように呼んでごらん」
葉月と並んで大きな鏡の前に立った皐月は、僅かに首をかしげ、鏡に映る葉月の大きな目を見て言った。
バスの中で教えた通りの呼び方をしないなら、あんたが本当は大学生の男の子だってことをお母さん連中にばらしちゃうわよ。皐月が暗にそう告げているのは明らかだ。
「あ……ご、ごめんなさい。は、葉月、お利口さんにする。葉月、もう間違えない。だから……」
皐月が口にした言葉の意味を読み取った葉月は、これ以上ないくらい弱々しく首を振り、ようやく絞り出した掠れ声で応じた。
「だから、もういちど、今度はちゃんと言うんでしょ? ほら、さっき言ったこと、もういちど言ってごらん」
「……それなの? 制服の代わりに着るお洋服って、それなの? は、葉月、制服を脱いだ後も、そんなお洋服を着なきゃいけないの、お姉ちゃま!?」
皐月に急かされ、さっき口にした言葉を思い返しながら、屈辱にまみれつつ幼い女の子の口調を真似る葉月。
だが、皐月はまだ満足しない。
「うん、呼び方は間違ってないみたいね。でも、『制服を脱いだ後も、そんなお洋服を着なきゃいけないの』だなんて、まるで、お姉ちゃまが選んであげたサンドレスが気に入らないみたいじゃない? いいわよ、これが気に入らないんだったら、どんなのがいいか、葉月ちゃん自身に選ばせてあげる。このサンドレスを買ったお店に連れて行ってあげるから、どれがいいか自分で選ぶといいわ。可愛いお洋服がたくさんあるから、いっぱい試着して楽しめるわよ。もちろん、試着室にはお姉ちゃまも一緒に入ってアドバイスしてあげる。でもって、お洋服がいっぱいありすぎて選びきれない時は、お店の人に葉月ちゃんのキティちゃんのパンツを見てもらって、こんな可愛いパンツを穿いている妹ちゃんに似合うのはどんなお洋服でしょうかって訊いてあげるわね」
皐月は、ようようの思いで葉月が言い直した言葉の一節を責めたて、鏡の中の葉月の瞳を再び覗き込んで言った。
「でも、もしも葉月ちゃんがこのサンドレスを気に入ってくれてるんだったら、暑い中をわざわざお店まで出かけなくてすむんだけどな。だから、もういちど訊くわね。葉月ちゃん、お姉ちゃまが選んであげたサンドレス、あまり好きじゃないのかな?」
そんなふうに迫られては、もう返す言葉などない。
「……だ、大好きだよ、お姉ちゃまの選んでくれたサンドレス。保育園の制服も可愛いけど、それに負けないくらい、とっても可愛いよ、そのサンドレス。せっかくの可愛い制服を脱いじゃって、葉月ちょっぴり寂しかったんだけど、その代わりにお姉ちゃまが選んでくれたサンドレスを着せてもらえるなんて夢みたい。は、葉月、早く着てみたいな、そのサンドレス。
……お、お願い、お姉ちゃま。早く葉月にそのサンドレスを着……着せてちょうだい」
皐月が自分に言わせようとしているに違いない言葉を、姿見の鏡から目をそらしながらそんなふうに口にするのが、葉月にできるただ一つのことだった。
「そう、本当は気に入ってくれていたのね、お姉ちゃまが選んであげたサンドレス。なのに、葉月ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから、照れちゃって本当のことを言えなかったんだ。うふふ。なんて可愛いのかしら、葉月ちゃんは。小学五年生にもなって恥ずかしがり屋さんで本当の気持ちもちゃんと言えないだなんて、なんて可愛い妹なのかしら、葉月ちゃんてば」
ようやくのこと皐月は満足げに微笑むと、顔をそむけた葉月の耳元に唇を寄せて甘ったるい声で囁きかけた。
「でも、恥ずかしいのが当たり前だよね。葉月ちゃん、年少さんの女の子なんかじゃないし、小学五年生の女の子でもなくて、本当は大学一年生の男の子だもん、恥ずかしくてサンドレスなんて着られないよね。だけど、葉月ちゃん、自分で言ったんだよ。『お姉ちゃま、早く葉月にそのサンドレスを着せてちょうだい』って言っちゃったんだよ。そう言いなさいって、お姉ちゃま、命令なんかしてないよね? お姉ちゃまは、ただ、『可愛いお洋服がいっぱいあるお店に連れて行ってあげようか?』って言っただけ。なのに、葉月ちゃん、自分から言ったんだよね。『早くサンドレスを着せてちょうだい』って、おねだりしたんだよ?」
笑いを含んだ声でそこまで囁きかけた皐月は、葉月の耳元からすっと唇を離して、勝ち誇ったように続ける。
「いいわよ、着せてあげる。葉月ちゃんが着たくて着たくてたまんないサンドレス、すぐに着せてあげる。お姉ちゃまも、葉月ちゃんが喜ぶお顔、少しでも早く見たいもん。だから、ほら、お手々を上げて。園長先生のお部屋でキャミソールを着る時はお姉ちゃまがお手々を上げさせてあげたけど、今度は自分で上げるのよ。だって、早く着せてって葉月ちゃんが自分からおねだりしたんだもの。お姉ちゃまは葉月ちゃんのおねだりをきいてあげるだけなんだもの」
それに対して、葉月は何も言い返せない。ただ、皐月に言われるまま、のろのろと両手を上げるだけだ。
「そう、それでいいのよ。お姉ちゃまの言いつけ通りにできてお利口さんね、葉月ちゃんは。ま、でも、葉月ちゃんが自分でおねだりしたことなんだもの、それも当たり前なんだけど」
皐月はくどいほど『葉月ちゃんが自分からおねだりした』と繰り返し言いながら、両手で広げ持ったギンガムチェックのサンドレスを葉月の頭にすっぽりかぶせた。
「はい、もうお手々をおろしていいわよ。お手々をおろして体の横にぴったり付けていてね、肩の紐を結ぶのに邪魔にならないように」
皐月はいったん上げさせた葉月の両手を、サンドレスがずり落ちないよう押さえる形で体の両側におろさせ、サンドレスの左右の胸当がそのまま上に伸びてホルターネックの留め布になっている箇所を首筋の後ろにまわし、大きなリボンみたいにきゅっと結んだ。
「もうすぐだから、ちょっとの間だけじっとしているのよ。あとは、ここをこうして、と」
皐月は葉月の首筋の後ろでリボンに結んだ留め布の長さを細かくいじることでサンドレスを微妙に上げ下げし、キャミソールのバストラインを縁取るフリルのレースがサンドレスのざっくり開いた胸元から僅かに見え隠れするように調節してから、裾の乱れを整えた。
「うん、これでよし。とっても可愛くできたから、葉月ちゃん、自分のお目々で見てごらん。すっごく似合ってるから、ほら」
皐月は、葉月の全身を眺めまわして満足そうに頷くと、手を上げている間もホルターネックの留め布を結ばれている間も裾の乱れを直してもらっている間も決して自分の姿を見まいとしてそむけていた葉月の顔を強引に鏡に向けさせ、優しくも威圧的な口調で命じた。
「こ、これが……!」
皐月に命じられるまま鏡に向かって顔を向け、おそるおそる瞼を開いた葉月の口を感嘆の声が衝いて出る。
「そうよ、これが葉月ちゃんよ。すっかり女の子になっちゃった葉月ちゃんなのよ」
瞳に妖しい炎を宿した皐月が大げさな仕草で頷いてみせた。
二人の目の前に置いてある大きな鏡に映っているのは、どこからどう見ても男子大学生などではなかった。仕事着であるジャージに身を包んだ大柄な皐月の横に佇んでいるのは、肌が透けて見えそうな薄手の生地でできたキャミソールの上にホルターネックのサンドレスを着た、華奢で可憐で清楚な少女だった。それも、夏だというのに肌は磁器のように滑らかで白く、眉の上でざっくり切り揃えた髪があどけなさを引き立て、まるで膨らんでいない胸が却って無垢な色香を漂わせる、滅多にお目にかかれないほどのとびきりの美少女だ。サンドレスがホルターネックになっているため、脇の下や背中が大きく開いていて、下に着ているキャミソールのバストラインやサイドラインが見え隠れするのだが、それも決してだらしない感じを与えず、幼くしどけない奇妙な淫靡さを感じさせて、それが男性であれ女性であれ見る者の目を例外なく虜にしてしまうほどだ。そう思って見れば、まるで袖がないどころか肩布さえないサンドレスのせいであらわになった撫で肩に微かに食い込むキャミの肩紐さえもが、その美少女の儚げな佇まいに彩りを添える繊細なアクセサリーにさえ思えてくる。
保育園の制服であるセーラーワンピースに身を包まれていた時はあどけないだけだった葉月が、露出の多いサンドレスに着替えると、本当の性別や年齢を想像することさえ困難な、子供用のファッション誌のグラビアを何ページもソロで飾ることさえ難しくないほどの蠱惑的な少女に変身してしまっていた。
「やれやれ、妹がこんなに可愛くなっちゃうと、同じ血をひく姉さんとしちゃちょっぴり妬けちゃうな。こっちは年がら年中子供たちと一緒に走りまわってるから、どうしてもがさつになっちゃうし、日に焼けてばっかなのに」
皐月は、『妹』という部分をわざと強調して呆れたように言い、ひょいと肩をすくめてみせた。
「これが、ぼ……あ、ううん、葉月!?」
思わず「これが僕」と呟きそうになり、皐月に睨みつけられて慌てて「葉月」と言い直しながらも、どこか陶然とした表情を浮かべて、葉月の目は鏡に釘付けになってしまった。
恥ずかしい着姿を見まいとし、サンドレスを着せられる様子を直視しまいとして、あれほど頑なに顔をそむけ瞼をぎゅっと閉じていたのに、いざ自分の幼女姿を目にすると、今度は一転、どうしても視線を外すことができなくなってしまったのだ。しかも、いいようのない下腹部の疼きさえ覚えてしまう。
「そうよ、何度も言うけど、これが葉月ちゃんなのよ。セーラーワンピースを着せてあげた時も可愛かったけど、サンドレスもとってもよく似合ってるわね。制服の時は葉月ちゃんに自分がどんな格好をしているのか見せてあげられなかったけど、今はこうしてちゃんと見せてあげられるからお姉ちゃまも嬉しいのよ。自分で見てみてどう思う? 自分でもびっくりしちゃうほど可愛いよね、葉月ちゃん。もしも葉月ちゃんが男の子だったら、自分で自分に恋しちゃうくらい可愛らしいよね」
皐月は悪戯っぽくそう言うと、頬をうっすらとピンクに染めて尚も鏡に見入っている葉月の両脚の間にさっと右手を差し入れた。
そうして、差し入れた右手の中指と人差指をさわさわ動かして、ショーツとナプキン越しにペニスの様子を探ろうとする。
「や……」
思いがけない皐月の行動に、葉月は反射的に腰を退いた。だが、そのせいで却って皐月の指によってペニスを押さえつけられ、じんじんと疼き始めていた下腹部が尚のことかっと火照りだしてしまう。
「可愛い声を出すのね、葉月ちゃん。可愛いお顔にお似合いの、とっても可愛いお声ね。その可愛いお声、お姉ちゃまにもっともっと聞かせてちょうだい」
ナプキンの中でもぞもぞと蠢くペニスの様子をはっきり指先に感じながら、皐月は熱い吐息を葉月の耳たぶに吹きかけた。
「くぅ……」
皐月は葉月のペニスを激しく揉みしだいているわけでは決してない。さっきは皐月が急に腰を退いたから二本の指の腹部でペニスを押さえつけてしまったが、少し力が入ったのはその時だけで、あとは、指先で軽くペニスの様子を探っているだけだ。なのに、葉月はあえかな呻き声を漏らしながら、はしたなくペニスをエレクトさせている。それは、これまで一度も目にしたことのないような美少女に自分が変貌させられてしまったという倒錯感と、自分が変身した美少女に自身が心ときめかせてしまったという背徳感と、美少女さながらの格好を強要された上で感じやすい部分を実の姉に責められているという被虐感とがない混ぜになった、いいようもなく奇妙な、甘ったるい腐臭にも似たフェロモンを嗅いだ時のような、異様な感情の昂ぶりのせいに違いない。
「そ、そんなところ、いじっちゃ……」
発議は「そんなとこ、いじっちゃ駄目」と言って皐月の手を振り払いかけた。けれど、下腹部の切ない疼きが、「駄目」という言葉を途中で押しとどめさせてしまう。
「いいのよ、出しちゃって。遠慮なんかしないで、存分に出しちゃっていいのよ。葉月ちゃんのおちんちんからいやらしいお汁が幾ら溢れ出しても、お姉ちゃまの貸してあげたナプキンがちゃんとしてくれるから。でも、用心のために持ち歩いているナプキンが『弟』の役に立つなんて今まで考えたこともなかったわ――ああ、ううん、今は可愛い『妹』だったっけ。
だったら、不思議でもなんでもないのかしら。でも、体の大きさとか出血の量とか人によっていろいろだから、ナプキンもどれがいいか、自分に合うのをきちんと選ばなきゃいけないのよ。いいわ、今度、薬屋さんに連れて行ってあげる。ちゃんと薬剤師の資格を持っている店員さんに相談して、葉月ちゃんに合うナプキンを選んでもらおうね。経血じゃなく白い澱り物でパンツを汚しちゃう葉月ちゃんに合うナプキンを」
ナプキンの中で窮屈そうにのたうつ醜悪なペニスの持ち主である葉月だが、外見だけは女の子だ。姉に付き添ってもらってやって来たドラックストアで生理用ナプキンの選び方を相談する小学五年生の少女など、特に目を惹く存在ではない。しかし、可憐で清楚そうな少女の口から「精液でパンツを汚さないようにしたいんですけど」というような言葉が発せられたら、相談にあたった薬剤師はどんな顔をするだろう。そんな情景をちらりと脳裏に浮かべて、葉月の顔は歪み、一方、皐月は舌なめずりせんばかりの表情を浮かべていた。
「は、葉月、薬屋さんなんて行かない。葉月を薬屋さんなんかに連れて行ったりしないでね、お姉ちゃま」
下腹部の疼きに息を荒げながら、葉月は必死の思いで女の子らしい言葉遣いを真似つつ懇願するしかなかった。
「そう、薬屋さんへ行って店員さんに相談するのが恥ずかしいのね、葉月ちゃんは。ま、それも仕方ないかな。お姉ちゃまだって、初めての時はとっても恥ずかしくて、ナプキンを買うのだって自分でできなかったくらいだもん、内気な葉月に急に店員さんに相談しなさいって言っても無理だよね。うん、わかった。じゃ、自分で買いに行けるようになるまで、お姉ちゃまのを貸してあげる。貸してあげて、パンツに付けるのもお姉ちゃまが手伝ってあげる。
だって、葉月ちゃん、本当は小学五年生のくせに、自分でパンツも穿けない年少さんになるんだもん」
皐月は葉月の股間をまさぐり続けながら、『本当は小学五年生』という部分を殊さら強調して言った。
「ち、ちがう……葉月、本当は……本当は……」
本当は大学生。けれど、この状況でそれを口にするのは、却って自分の羞恥を煽る結果にしかならない。
「お姉ちゃまのナプキンだから、ひょっとしたら葉月ちゃんの体に合わなくて、パンツを汚しちゃうこともあるかもしれないわね。でも、心配しなくていいのよ。葉月ちゃんが汚しちゃってもいいように、パンツはたくさん買っておいてあげたから。園長先生もパンツを用意しておいてくれたけど、あれは、制服を試しに着てみるためのものだから二枚しかなかったよね。でも、お姉ちゃまは、うんとたくさん買っておいてあげたのよ。お部屋の模様替えが終わって可愛いタンスを並べたら、タンスの中に入れておく下着やお洋服もいっぱい買っておいてあげなきゃって思って、お給料をはたいちゃったの。葉月ちゃん、背の高さは百六十センチだけど、華奢で全体に線が細いから、百五十サイズのでも窮屈じゃない筈だし、パンツとか伸縮性のいい生地でできてるのだったら百四十サイズでも大丈夫どころか、物によっては百三十サイズくらいでも穿ける筈だから、本当に小っちゃい子が身に着けるのと同じような可愛いのを選んであげられたのよ。もちろん、今着てるサンドレスもね。買ってきた時に数えたら、パンツは三十枚くらいあったし、シャツやキャミは十五枚くらいあったかな。
それと、ソックスも綿や絹を合わせて二十足はあるし、あ、そうそう、冬になっても大丈夫なように、毛糸のパンツとかオーバーパンツとかも買っておいてあげたのよ。まだ夏なのにって思うかもしれないけど、必要な物は思いついた時にさっさと買っとかないと、その時になって買い忘れに気づいて慌てちゃうことが多いから。もちろん、上に着るお洋服なんかも、秋物や冬物も買っておいてあげたから心配しないでね。シックなワンピースも、ふかふかのフード付きコートも、元気に走り回れるようにデニムのサロペットスカートも、お友達の誕生日パーティーに呼ばれてもいいようにふりふりのドレスも、みんな買っておいてあげたんだから」
皐月は、ショーツとナプキン越しに葉月のペニスを弄びながら舌なめずりせんばかりにして言った。言われる方が本当の幼女なら、自分のために優しい姉が買い揃えてくれた衣類の種類と数の多さに目を輝かせることだろう。けれど、皐月が声を弾ませて話しかけているその相手は、大学生の男の子なのだ。
そして皐月は、ほんの短い間を置いた後、こんなふうに付け加えて言った。
「葉月ちゃんが本当に年少さんだったり五年生だったりしたら、こんなにたくさんまとめ買いなんてできなかったのよ。だって、保育園に通ってる子とか小学生とかは育ち盛りで、今買った洋服や下着がいつ窮屈になっちゃうかわかんないもん。だから、成長に合わせて少しずつ買い足していくのが普通なの。でも、葉月ちゃんはもうこれから大きくなることなんてないよね。だって、十八歳の男の子だもん、成長期なんてとっくに終わっちゃってるもん。
だから、安心してまとめ買いできたのよ。これ以上おっきくならないから、今年の夏に買ったお洋服は来年の夏にも再来年の夏にも着れるし、今年の冬のために買っておいた物もやっぱりこれから何年経っても冬になるたびに着れるんだから。それに、まとめ買いをするからって店員さんに交渉してちょっぴりだけど値段をひいてもらえて安くすんだし。うふふ。お姉ちゃま、お買い物上手でしょ?」
そんな皐月の言葉に、葉月は何か引っかかるものを感じた。切なく疼く下腹部。皐月の指にいじられながらも皮膚が接着剤で固定されてしまっているせいでもぞもぞと蠢くしかないペニス。自分が本当は男子大学生なのだと改めて思い起こさせられ、煽りたてられる羞恥と屈辱。まともに物事を考える余裕などない筈の中、葉月の意識にちくりと突き刺さる細い針のような違和感。
「お、お姉ちゃま……」
下腹部の疼きに耐え、皐月の言葉を何度も頭の中で反芻を繰り返すうちに、その言葉のどこに自分が引っかかりを覚えたのかを唐突に理解した葉月は、今にも消え入りそうな声で言った。
「お姉ちゃま、今、『今年の夏に買ったお洋服は来年の夏にも再来年の夏にも着れる』とか、『今年の冬のために買っておいた物もやっぱりこれから何年経っても冬になるたびに着れる』とか言ったよね? それって……それって、どういうことなの? 葉月、保育園に通うの、夏休みの間だけなんでしょ? 遠藤先生が元気になるようにって葉月が一緒にいるの、この夏休みの間だけなんでしょ? 夏休みの間だけのアルバイトなんでしょ? なのに、どうして、来年や再来年のことまでお姉ちゃんは言ったりするの!?」
葉月の声は、注意していないと聞こえないほど小さく弱々しい。だが、その響きは悲痛だ。
「あら、私は『夏休みの間だけ』なんて言ってないわよ。『いいバイトの口があるからやってみたら』とは勧めたけどね。たしか、契約書にも、期間を夏休みに限定するとは書いてなかったんじゃないかな。たしか、遠藤先生のケアに必要な間とか、そんな表現だったと思うけど?」
葉月の問いかけに、皐月はわざとのような冷たく事務的な口調で応じた。
「じゃ、じゃ……遠藤先生が元気にならなかったら、夏休みが終わっても保育園に通わなきゃいけないの? 葉月、ずっとずっと保育園のままなの?」
葉月の脳裏を、夏用の制服を合い服に替え、更に冬服に着替えた上にふかふかのコートを着て保育園の送迎バスに乗り込む自分の姿がおぼろげに浮かんだ。
とても屈辱的な光景の筈なのに、なぜだか、その姿にさえ下腹部が疼く。
「さあ、それはどうかしらね。でも、そうなったらそうなったでいいじゃない。明日から保育園に通うようになったら、葉月ちゃん、きっとたくさんお友達ができるわよ。こんなに可愛い年少さんの女の子だもん、年上の子に可愛がってもらえて、他の年少さんとも仲良しになって、いっぱいいっぱいお友達ができるわよ。お友達がたくさんできた後、ばいばいしちゃうなんて寂しいでしょ? だったら、ずっと保育園でいいんじゃないかな」
葉月が重ねて訊くのに対して皐月は皮肉めいた口調でそう言い、人差指と親指でペニスの先をきゅっと挟んだかと思うと、
「それに、ほら、葉月ちゃんは女の子の格好をしておちんちんをおっきくしちゃうようなはしたない子なんでしょ? なのに、男の子に戻って大学へ行くようになったら、大好きな女の子の格好なんてできなくなっちゃうんだよ? だけど、保育園に通ってる間は、好きなだけ女の子でいられるの。葉月ちゃんが女の子でいる間はお姉ちゃまも葉月ちゃんが喜びそうなお洋服やパンツをもっとたくさん買ってあげる。だから、それでいいんじゃないのかな。
――でも、今はそんなこと気にしてないで、気持ち良くなっちゃえばいいのよ。ほら、こんなふうに」
と甘ったるい声でねっとり囁きながら、二本の指をペニスの付け根の方へつっと動かした。
「ゃ、ゃだ……」
とうとう我慢できなくなって葉月が身をよじると同時に、ペニスが激しくどくんと脈打った。
けれど、ペニスを後ろ向けに折り曲げられ接着剤で固定されてしまっているため、普段のマスターベーションのように精液が勢いよく噴き出ることはない。なんだか、トイレが近くに見あたらなくて我慢しているおしっこがいつの間にか少しずつ溢れ出る時みたいにじくじくとしか出てこない。それでも、さんざ弄ばれなぶられた後の絶頂感は一際だった。あまりの昂ぶりのため、全身から力が抜け、その場にへなへなとへたりこんでしまう。
「園長先生のお部屋でもそうだったけど、白いおしっこを出しきっちゃうまでには時間がかかるのよね。いいわ、しばらくそうしてなさい。葉月ちゃんがそうやって白いおしっこを全部出しちゃうまでの間にお姉ちゃまも着替えてお出かけの準備をしておくことにするわ。ちょっと遅くなっちゃいそうだけど、水無月さんにはお姉ちゃまが謝ってあげる。だから、葉月ちゃんは何も心配しないで、白いおしっこでナプキンをべとべとにしちゃえばいいのよ。
自分の準備が終わったら、あとできちんとお姉ちゃまがナプキンを取り替えてあげる。だから、だ・い・じょ・う・ぶ」
いわゆる『とんび座り』とか『女の子座り』とかいう姿勢で床にお尻をつけてへたりこみ、
僅かに首を反らせて喘ぐ葉月。そんな実の弟の顔をちらと見おろして、皐月は真新しい部屋をあとにした。



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