化け猫情報処理論文集 システムアナリスト平成12年問1



 不朽の名作(?)の改訂前の論文。これは改訂前までは山口さんちで上級シスアドに分類されていたような気がする。(=^^=;;


 
問1 インターネットをビジネスに活用する情報戦略について

 インターネットをビジネスに活用する情報戦略は、顧客満足度や利益率の向上などの経営目標を達成するための有力な手段として期待されている。このような情報戦略の例としては、次のようなものがある。

  • 在庫の削減や顧客の望むものの提供を可能にするBTO(Build To Order)方式による生産
  • 顧客層の拡大と販売コストの削減を目指す顧客へのダイレクトな販売
  • 情報システム化にかかわる社内のテーマ・資源・コストの管理統制の仕組み
  • 調達コストの削減やリードタイムの短縮を目指すダイレクトでオープンな調達
 このような情報戦略の実現のためには、既存のビジネスプロセスでは対応できないことも多く、個々のプロセスの見直しや、新たなプロセスの設計も必要となる。これらの例としては、次のようなことが挙げられる。
  • BTO方式の実現及び顧客へのダイレクトな販売のための、受注・与信・決済・物流プロセスなどの見直し
  • ダイレクトでオープンな調達のための、見積り・発注・決済プロセスなどの見直しと認証プロセスの設計
 インターネットとビジネスを取り巻く環境が急激に変化している中で、このような見直しは短期間で実施することが重要である。そのために、システムアナリストは企業全体のビジネスプロセスを見渡し、場合によっては社外で既に実施されているサービスの利用や社外への業務委託などを計画し、短期間でインターネットをビジネスに活用できるようにしなければならない。
 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア〜ウに従って論述せよ。

 
 設問ア あなたが策定に参画したインターネットをビジネスに活用する情報戦略について、その概要を800字以内で述べよ。 
 設問イ 設問アで述べた情報戦略の短期間での実現に向けて、どのようなビジネスプロセスの見直しを行ったかを述べよ。その中で、あなたが特に重要と考え、工夫したことは何か、具体的に述べよ。 
 設問ウ 設問イで述べたビジネスプロセスの見直しについて、あなたはどのように評価しているか、簡潔に述べよ。

 



(平成12年11月執筆)
(設問ア)
1.インターネット上でのワインの小売販売計画
1.1.新事業企画の背景
 当社は高知市で酒類卸売業を営んでおり、年商は約5
億円である。資本金一千万円の株式会社組織で数名の従
業員を雇用しているが、実質的には家族経営の個人商店
に近い。私は一昨年、当社社長の三女に婿入りして以来
経営に参画し、妻とともに取締役として新事業の推進と
情報化にあたっている。
 近年の不況と販売条件の悪化のため、当社の売上高・
営業利益はともにジリ貧になりつつあった。そこで三年
前から新事業としてワインの小売販売を始め、ある程度
の利益を確保することができた。しかしその販売額は年
間数百万円に過ぎず、会社全体の売上減を補うには至ら
なかった。私はインターネットを利用したワインの通信
販売を始めることを考え、社長の決裁を受け、妻と二人
でプロジェクトを組み、検討を開始した。        400
1.2.新事業実現のための情報戦略
1)仮想ショッピングモールの利用
 私達夫妻はある程度のレベルのホームページを自力で
製作するスキルを持っていたが、顧客の個人情報保護な
どのセキュリティ管理には自身が持てなかった。また、
独自にホームページを開設しても告知が難しく、新規顧
客を大量に獲得することは困難であると考えられた。そ
こで、当初は既に実績のある大手ショッピングモール「R
市場」に出店することにした。
2)オンライン発注システムの導入
 ワインはその商品特性上、多品種少量販売となるが、
全品目を十分量在庫しておくことはコストが掛かって望
ましくない。しかし従来通り受注後手作業で発注してい
ては、多量の小口注文を迅速に捌くことが困難である。
そこで、オンライン発注システムを導入し、タイムリー
な発注によって在庫金額を圧縮することができた。    800

(設問イ、ウ)
2.新事業実現のためのビジネスプロセスの見直し
2.1.「R市場店」の概要
 まず仮想ショッピングモール「R市場」内に作成した
当社のページ(当社R市場店)の概要について述べる。
 R市場ではワープロ操作程度しかできない者でも容易
にホームページを作成することができるようになってい
る。店の紹介や商品情報を入力し、画像ファイルを送る
だけでページが完成し、顧客からの注文が受けられる体
制が整うのである。一方、HTMLタグが使える者は凝
ったページを作成することもできるようになっている。
私達はまず最小限の機能で「R市場店」を開店し、徐々
にページのデザインに工夫を加えることにした。
 R市場に出店しているだけで、商品を検索して入って
来た顧客から注文を受けることもあるが、多くの顧客を
獲得するためには懸賞の実施やメールマガジンの発行が
必要となる。R市場ではこれらも容易に実行できるよう  400
になっているので、私達は開店時と、以後年に数回懸賞
を実施し、また「化け猫ワイン通信」と「Y子のワイン
日記」の2種のメールマガジンをそれぞれ週1回発行す
ることにした。
 懸賞やメールマガジン等で当店を知った顧客から注文
が入ると、R市場から私宛に電子メールで連絡が来る。
私は毎日メールをチェックし、注文があればR市場にア
クセスして、受注内容の詳細を確認し、商品の出荷手配
をすることになる。当初は自ら倉庫へ行ってワインをピ
ッキングし、売上伝票を記入し、荷造りをして宅配便の
伝票に記入して貼りつける作業を行っていた。
2.2.売上増に伴う帳票等の電子化
 リアルの店舗での小売は多い日でも顧客が十数人、売
上高十万円未満であった。そのため、売上伝票や種々の
帳票類は全部手作業で作成していた。しかし、「R市場
店」には従来の数倍から数十倍の注文が入ることが予想  800
されたので、私はパッケージソフトを利用した会計シス
テムの導入を予め検討しておいた。しかし、リスクを避
けるため、「R市場店」開店当初は発注せず、受注増に
よる事務量増大が現実のものとなると同時に、この会計
システムを導入した。
 R市場では受注情報をCSVファイルとしてダウンロ
ードする機能を備えている。私はこのファイルを表計算
ソフトのマクロ機能で処理し、それを新会計システムの
受注情報として自動的に入力する機能を自作した。これ
によって従来の受注伝票記入から一連の経理処理作業ま
でを自動化することができた。また、当日の受注品目別
数量を印字することにより、倉庫でのピッキング作業の
効率化にもつながった。更には、ダウンロードした顧客
情報から宅配便の伝票を印刷するマクロも自作し、省力
化を図っている。
 なお、この新会計システムは事業種目毎に別々にデー 1200
タを集計し、予実管理を行う機能も備えているので、R
市場店だけでなく、リアルの店舗での小売や、本業の卸
業のそれぞれの経理を一括してこのシステムに移行し、
事務の効率化を図った。
2.3.オンライン発注による在庫削減
 R市場店の売上は順調に増加し、平成12年には毎月
300万円程度の売上となった。顧客から電子メールで
寄せられる希望を取り入れて品目を増加させたこともあ
って、在庫金額が常に800万円を超えるようになって
しまったため、私は在庫削減のための方策を考えること
にした。当時、零細卸売業である当社は一次卸業者へ手
書きのファクシミリを送信して商品を発注していたが、
近年大手の卸は発注のオンライン化が進んでいた。一次
卸業者のセールスに照会したところ、約200万円の投
資によって当社で正午までに入力した主要大手メーカー
の酒類が翌日中に配送されるシステムを導入できること 1600
が分かった。私はR市場からダウンロードしたデータを
そのままこの発注システムに送れないかと考え、このシ
ステムを扱うベンダの技術者に相談した。R市場では任
意に商品コードを設定できるが、当社R市場店ではメー
カーの商品コードをそのまま使用していたため、そのデ
ータを発注システムで容易に利用できることが確認され
た。私はこのベンダに連結部分のプログラム開発を依頼
し、これによって単に受注データを発注システムに送信
するだけでなく、当社会計システムとのデータ受け渡し
機能を実現させた。このプログラムは会計システムの在
庫データを照会し、受注によって適正在庫を下回る場合
に必要量を発注するとともに、仕入伝票を会計システム
に入力する機能を備えている。このシステムの導入によ
り、売れ筋商品は常に適正在庫を確保し、受注頻度の低
い商品は受注後発注するという作業が自動化され、在庫
金額が500万円前後に圧縮された。         2000
3.新しいビジネスプロセスの評価
3.1.予想以上の売上増加による業務負荷の増大
 平成12年は最終的に3800万円の売上があり、平
成13年は6千万円程度の売上を見込んでいる。当社は
本来酒類卸業であるため、倉庫や作業場所には余裕があ
り、荷造りをするアルバイトを1名雇うことで出荷は順
調に行われている。
 ところが、R市場は本来零細な店が容易にインターネ
ットビジネスを行うためのシステムであり、多量のデー
タをやり取りするには不向きである。例えば新商品を数
十種類導入する場合、データベースファイルをまとめて
アップロードすることはできず、1品目毎に所定の書式
を埋めて送信しなければならない。また、受注データを
一括してダウンロードすることは可能であるが、セキュ
リティの問題があるため、決済用のクレジットカード番
号はブラウザでしか確認することができない。このため、2400
カード番号をいちいちブラウザで確認して表計算ソフト
にコピーする作業などで時間を取られている。
3.2.顧客データの分析と今後の施策
 R市場のシステムではこれ以上の受注を捌くことは困
難であると考えられる。しかしR市場の集客力には捨て
難いものがある。私はまず顧客データを分析することに
した。その結果、受注の9割はメールマガジンの読者か
らのものであり、更に受注の半分以上は繰り返し注文し
てくる優良顧客からのものであることが分かった。
 以上の結果から私達は新しいホームページの製作につ
いて検討を始めることにした。このホームページは当社
独自のドメインを取得し、商品データの整備から受注、
決済までを効率よく行うための要件を満たすものとする
予定である。従来のR市場店はそのまま継続し、既存顧
客をメールマガジンを用いて自社のホームページに呼び
込むことで、業務の合理化を図るのである。      2800
 この新ホームページのシステムの開発には、R市場店
の平成13年度の営業利益予想額とほぼ同じ、一千万円
が必要と見込まれている。現在は今後の市場の可能性を
考えながら、社長をまじえて導入の可否を検討している
ところである。


<みなさんのコメント要旨>

  • (工事中)。068 074 078






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