化け猫情報処理論文集 システムアナリスト平成6年問2



 論文中に表を組み込んだ強引なレイアウト。(=^^=;;


 
問2 費用対効果の評価について

 情報システムの開発計画を立案する場合,開発予定のシステムの費用対効果を十分に分析・評価しておくことは,システムアナリストにとって重要な作業である。
 期待効果は在庫削減や経費削減など直接的に金額換算できる定量的効果と,競争力の強化や顧客サービスの向上など直接的には金額換算しにくい定性的効果に分けて考えられる。特に定性的効果については,情報システムが効果に寄与する度合いや,効果の客観的な評価尺度が明確でない場合があり,システム導入による効果の評価が難しいケースが多い。
 システムアナリストは,こうした定性的効果が中心である非定型業務のシステム化などについても,合理的な評価尺度を設定して導入効果を適切に判断し,システム開発計画を立案しなければならない。
 あなたの経験と考えに基づいて,設問ア〜ウに従って論述せよ。

 
 設問ア あなたが参画した情報システムの開発計画立案について,対象業務とシステム化の背景を800字以内で述べよ。 
 設問イ 設問アで述べた情報システムの開発計画において,費用対効果をどのように評価したか,具体的に述べよ。効果は定量的効果と定性的効果に分け,特に定性的効果については,どのような工夫をして効果を把握しやすくしたのか述べよ。 
 設問ウ あなたは,稼動後の効果把握のための体制や方法について,システム開発の計画段階でどのように配慮したか,簡潔に述べよ。

 



(平成13年8月執筆)
(設問ア)
1.新しいウェブサイト開設計画とその背景
1.1.L社の業務の概況と経営環境
 L社は欧米からある種の食品を輸入・販売することを
主な業務とする,年商約2百億円の中堅商社である。近
年の不況による売上不振,円相場の弱含みに加え,バブ
ル期の海外投資による損失と金利負担によって,L社の
業績は思わしくない。
 このような環境にあって,L社では広告宣伝費等諸経
費を削減する一方で,売上増加を目指している。
1.2.新しいウェブサイトの開設計画
 L社では,5年前にグループ企業数社と共同でホーム
ページを開設し,各社の主要商品の広報活動を行ってき
た。そのホームページの運営の費用は微々たるものであ
る一方,目に見える効果も期待出来なかった。
 L社では,今般独自のサイトを開設し,広報活動のほ
か,電子商取引にも参入することになった。このサイト  400
の機能は大きく分けて,以下の3つになる。
1)広報活動
 L社の代表的な商品に関する情報提供や,商品に関連
した読み物,懸賞等を掲載する。
2)消費者への小売販売
 L社の商品の中でも比較的販売量の少なく高価なもの
を中心に,通信販売を行う。いわゆるBtoCである。
3)取引先への情報提供と電子商取引
 L社商品の大口顧客である飲食店チェーンや,中小の
飲食店を対象とした,いわゆるBtoBである。主要取引
先にはIDとパスワードを発行し,BtoB専用ページに
アクセスさせる。そこには飲食店用の情報があり,また
商品を発注する機能が備えられている。
 L社経営戦略室次長の私は,この新サイト開設にあた
って,費用対効果の分析を担当した。
                           800

(設問イ、ウ)
2.L社新サイト開設計画の費用対効果分析
 L社ではバブル期に商品とは直接関係のない文化活動
に投資し,約6億円の赤字を出している。その事業につ
いては,L社のイメージアップという目に見えない効果
があったとする評価がある一方で,具体的な売上増や広
告宣伝費削減につながっていないという批判もあった。
この時の反省から,L社では新事業についてはその費用
対効果を数字で詳細に評価することが求められている。
私はこの新サイトの費用対効果の評価をする際,定性的
効果についても極力数値化することを目標とした。
 以下に新サイト開設に要する費用と,定量的および定
性的効果の評価について順に述べる。
2.1.新サイト開設に必要な経費
 L社では独自にシステム開発をする要員を持たないた
め,新サイトの開発・運用・保守はすべてSIベンダに
委託する。システム開発および専用サーバ・回線等の費  400
用の合計は約5千万円,年間の運用・保守費用は約2千
万円と見積もられた。また,本事業遂行のため,L社で
は正社員5人からなるネットワーク営業室を開設した。
その人件費・諸経費の合計は年間約5千万円である。そ
して,情報ページ等コンテンツ制作のための諸費用は年
間約3千万円となる。したがって,初期費用5千万円,
年間運営費用1億円が当サイトに要する全費用となる。
2.2.新サイトの定量的効果
 サイトによるBtoCおよびBtoBの売上の利益がその
まま定量的効果となる。しかし,ここで注意しなければ
ならないのは,サイトでの売上高をそのまま売上増と考
えるのではなく,既存チャネルでの販売から移行した分
を差し引いて考慮する必要があることである。
1)消費者への直接販売の売上・利益見込
 既存小売店への影響を考えると,輸入商社による直接
販売で大きな値引きをして大量販売を目指すことは不可  800
能である。販売するアイテム,数量ともに限定されたも
のにならざるを得ず,売上は初年度4千万円,粗利益2
千万円,3年後以降でもその倍程度と見積もられた。
 この小売販売は限られた特殊なアイテムを中心にする
ので,既存チャネルからの移行分は無視できると考えら
れた。
2)取引先との電子商取引による売上・利益見込
 取引先企業との電子商取引は当初年間1億円,3年後
には5億円以上に拡大すると予想された。しかし,既存
の取引先からの受注が従来の方法から電子化されただけ
の取引も当然多くなる。実質的な売上増加は初年度2千
万円,3年後に1億円程度と予想された。飲食店への販
売の利益率は売上高のおよそ3割であり,3年後の貢献
利益はおよそ3千万円と試算された。
2.3.新サイトの定性的効果の数値評価
1)L社商品の認知度上昇による売上増         1200
 新サイト開設に伴って期待される定性的効果は,顧客
へのL社商品の宣伝効果と,きめ細かな情報提供による
顧客満足度向上である。これらの効果も最終的には売上
増に結び付かなければ意味がない。サイトを開設するこ
とによって見込まれる顧客増・売上増の予想がそのまま
定性的効果の客観的な評価となる。
 私はこの効果をなるべく正確に把握するため,二つの
調査を行った。一つは様々な業種において,ホームペー
ジ上で自社商品を積極的に宣伝した会社についての調査
である。そしてもう一つは,L社商品の購入者に対する
アンケート調査で,様々な項目とともにインターネット
に対する意識調査を加えた。これらの調査の結果,新し
いウェブサイトの開設によってL社商品の認知度が高ま
り,年間1億円程度の売上増が見込まれた。粗利として
3千万円の効果があることになる。
2)広告宣伝費の削減                 1600
 L社では新サイト開設の原資として,広告宣伝費の削
減を予定している。現在年間約7億円使用している広告
宣伝費のうち,テレビCMを中心に約5千万円を削減す
る予定である。これによる売上減は約1億円と見込まれ
るが,これはちょうど上述の新サイトの効果による売上
増と同じである。
 したがって,広告宣伝費5千万円の削減が,正味の定
性的効果として認められた。
2.4.費用対効果の検証
 以上の考察を総合すると,新サイトの収支は以下のよ
うになる。なお,初期費用は5年間の定額償却で計算す
するため,毎年の費用は1億1千万円である。
        初年度     3年後 (万円)
 BtoC利益  2000    4000
 BtoB利益   600    3000
 広告費削減  5000    5000      2000
  合 計   7600   12000
 このように,3年後には単年度で黒字になるため,こ
の新サイトは十分採算性が見込めるものと判断され,L
社経営陣は開設を決裁した。
3.新サイト稼動後の効果把握について
 従来のL社では,新しいプロジェクトが一旦稼動して
しまうと,当初の採算見込を大きく下回っても,そのま
ま運営されることが少なくなかった。私は新サイト稼動
後にもその効果を適宜評価し,必要に応じて対策を打つ
必要を痛感している。そのため,特に定性的効果につい
ては以下の二つの方法で常に調査を続け,新サイトの効
果を評価して行く予定である。
1)売上高の分析
 L社全体の売上高の変化を詳細に分析する。売上高を
増減させたと考えられる個々の要因を勘案して補正を加
え,新サイトの効果による売上高増加を客観的に評価す 2400
るものである。
2)顧客の意識調査
 新サイト上でL社の商品を購入した顧客および一般の
顧客に対してアンケート調査を行う。これによってサイ
トが提供する情報の評価をし,またサイト全体の効果を
評価する際の参考にする。なお,BtoBの顧客である取
引先への調査も同様に検討している。


<みなさんのコメント要旨>

  • (工事中)。155 168






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