化け猫情報処理論文集 システムアナリスト平成7年問1



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問1 開発計画策定における合意形成について

 情報システムの開発計画を立案し承認を得ることは、システムアナリストの重要な課題である。そのためには、計画の立案段階において関連部門長の参画を得て、計画への承認が得やすい体制にしておくことが必要である。また、関連部門にシステム化の必要性や効果を十分アピールし、理解を得ておくことが重要である。
 関係者間での意見の相違や個別の利害の対立がある場合などには、全社的な視点に立って、できる限りそれを調整し、合意形成を図ることが必要である。このような場合、関連部門長やキーパーソンを集め、重要案件についての検討会を開催し、意見の調整を図ることや、意見の相違点を明確にして経営トップの判断や指示を仰ぐことなどが考えられる。
 このように、システムアナリストは、開発計画についての合意形成のため、必要情報の提供や異なる意見の調整、計画骨子の効果的な説明などを実施する必要がある。
 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア〜ウに従って論述せよ。

 
 設問ア あなたが計画策定に参画したシステム開発の目的と概要及び開発計画立案体制について、800字以内で述べよ。 
 設問イ その計画立案時に、開発の必要性や新システムにおける実現機能、開発スケジュール、開発予算などについて、関係者間で調整すべき意見や利害の相違には、どのようなものがあったか述べよ。また、それらの点についてどのような方法で合意形成を図ったか、工夫した点を中心に具体的に述べよ。 
 設問ウ 設問ア及びイで述べた計画立案体制や合意形成の方法について、あなたはどのように評価しているか、今後の改善点も含めて簡潔に述べよ。

 



(平成13年8月執筆)
(設問ア)
1.M社生産物流管理システム開発計画の概要
1)システム開発の目的
 M社は一部上場の中堅製造業で,全国の9工場におい
て,食品,医薬品,飼料を生産している。近年の不況下
における業績不振を挽回すべく,M社経営陣はコスト削
減のための5ヶ年計画を策定した。
 この5ヶ年計画は,生産・物流体制の抜本的な見直し
によるコスト削減と,売上至上主義を排し利益に貢献す
る販売体制の構築を2つの柱としている。生産部門担当
専務はこの方針に基づき,従来別々の部が管理してきた
生産技術,原料調達,生産管理,物流の諸部門を統合し
て生産物流本部を発足させた。本部長に任命されたM氏
は「コストを下げ,在庫を減らせばみんなが幸せになれ
る」をスローガンに改革を開始した。
 M社では従来各工場が別々に原料・半製品の在庫を管
理し,また製品の生産量を集計していた。生産物流本部  400
では在庫削減と原料調達のコスト削減のため,全工場の
原料・半製品在庫と,工場・物流拠点の製品在庫を一括
して管理するシステムを構築することになった。
2)生産物流管理システムの概要と開発体制
 M社では全社を結ぶ社内ネットワークが完成し,各工
場でもデスクワークをする者全員にパソコンとIDが支
給されている。新システムはこのパソコンを端末として
必要なデータを入力し,本社のサーバで集中的に処理・
管理して,全国の端末から参照できるものである。
 M社では独自に情報システム部門を持たないため,開
発は関連会社にすべて委託することにした。開発期間は
要件定義確定後半年,総費用5千万円の予定である。
 経営戦略本部情報戦略室に所属していた私は生産物流
本部次長に任ぜられ,本システムの計画立案を進める責
任者となった。
                           800

(設問イ、ウ)
2.生産物流管理システムに関する各工場の意見調整
2.1.M社9工場の概要
 M社は数社が順次合併してできた会社であり,工場毎
に異なった歴史と業務内容を持つ。これらの工場を分類
すると概ね以下の3つに分けられる。
1)首都圏3工場
 2工場はM社が最初から建設したもの,1工場は戦前
に買収されたものである。いずれの工場も食品の主力製
品の生産を分担しており,工場相互間の原料・半製品の
移動が多く,人事交流も少なくない。
2)九州工場
 食品,医薬品,飼料の生産を行うM社最大規模の工場
である。食品は首都圏3工場と共通するものも一部生産
しているが,独立意識が強い。
3)その他
 北海道から関西地方までに点在する5工場は,それぞ  400
れに別々の会社であったものが近年合併された歴史を持
つ。生産品目も独自のものが多く,社員のM社への帰属
意識が低いが,現在は原料や製品で他の工場と共通する
ものもある。
2.2.システム開発の問題点と各工場の意見対立
1)新システムへの移行による業務の変化
 本システムを計画するにあたって,私たちは主として
首都圏3工場を参考に計画を立案した。これら3工場で
は主力商品を多品目生産しており,さらには原料や半製
品も含め,過半数の品目を取り扱っていたからである。
原料・半製品のコード体系や入力方法などもこれら3工
場の現場担当者の意見を参考にして概要を設計した。
 このようにしてまとめられたシステム化計画は,他の
6工場から予想外の反発を受けた。九州工場ではすでに
独自のシステムを使用していて,そのコード体系やユー
ザインターフェースが大きく異なっているため,私たち  800
の計画に猛反対をした。また,他の工場では品目数が少
ないこともあり,大規模なシステムに馴染みがない上,
本社主導のシステムへの反発もあったのである。
2)システム開発スケジュール
 生産物流本部が本システムの調査を開始したのは平成
11年9月のことである。当初の計画では12年3月に
は要件定義が完了し,4月から開発開始,9月から10
月にかけて最終テスト・移行の予定であった。ところが
山梨県のK工場は秋期が最も多忙であり,時期をずらす
よう強く要請された。計画の前倒しは日程的に困難であ
るため,数ヶ月遅らせることを検討したところ,今度は
冬期に多忙になる兵庫県のN工場が反発した。
3)システム開発・運用費用の負担
 従来からM社では各事業場で使用する情報システムに
関する費用は当該事業場の負担とされていた。本システ
ムの費用も各工場の費用に振り分けられる予定であった 1200
が,コスト削減が厳しく求められる中で,全工場長が費
用負担に難色を示していた。
2.3.各工場間の合意形成のための工夫
 以上の問題点を解決し,システム開発を円滑に進める
ため,私は以下の点を工夫して,各工場を説得した。
1)新システムの利点の説明
 地方の工場は首都圏3工場をモデルとしたシステムに
合わせる格好になり,反発が強い。しかし,これらの工
場にも本システムを導入することによって,全社的に効
率が上がりコストが削減できることを納得させる必要が
あった。私は定例の工場長会議に各製造課長の出席も求
め,以下の点を繰り返し説明し,理解を求めた。また必
要に応じて各工場を訪問し,現場で実際にシステムを扱
う社員にも協力を求めた。
・コード統一の必要性と効率
 システム化するためにはコードの統一が不可欠である 1600
こと。そして首都圏3工場のコード体系に統一すること
が全社的に見ても最も変更が少なく効率的であること。
・全工場一元管理によるコスト削減
 本社による一括調達でスケールメリットによるコスト
削減が図れることと,各工場の業務が軽減されること。
また過剰在庫の削減による金利・倉庫料削減効果。
2)システム開発スケジュールの調整
 N工場の繁忙期が終わる平成13年春まで計画を引き
伸ばすことは許されなかった。私はK工場の繁忙期終盤
である平成12年10月中旬からN工場の繁忙期初期で
ある12月上旬まででテスト・移行を完了させることで
両工場長を説得した。そして,システム会社のプロジェ
クトマネージャと綿密に打合わせを行い,計画の進捗管
理の徹底を確認した。
3)費用負担の本社一元化
 前述のように,本システムの開発費用を各工場の減価 2000
償却費にすることには全工場長が激しく反発した。私は
今後工場間の原料・半製品や人員の移動が活発化するこ
とを踏まえ,工場に関わる費用であっても全社的に考え
るべきものは本社生産物流本部の予算とすることを経営
会議に提案した。私の提案は経営陣に受け入れられ,本
システムの費用のほか,ISO認証取得に関わる費用等
も本社の負担となった。これによって各工場長は概ね私
たちの計画に好意的になった。
3.本プロジェクトの推進方法の評価
 以上の方策によって本システムは予定通り開発・移行
を完了し,現在まで順調に稼動している。しかし,本プ
ロジェクトを推進するにあたり,以下に述べるように若
干の問題点もあった。
1)システムの計画立案体制に関する反省点
 本システムは前述のように私が中心となり,本社の生
産物流本部で行った。生産物流本部の要員は工場経験者 2400
が殆どであり,また首都圏3工場を中心に工場の担当者
の意見も参考にしていた。しかし,上述のような事情を
考えると,各工場の担当者をチームに加え,定期的に会
議に参加させることで,よりスムーズに計画を進めるこ
とが出来たであろう。
2)合意形成過程の問題点
 上述の工夫によって,概ね各工場長の合意を得ること
が出来たが,東北地方のA工場長は最後まで反発した。
A工場長はM社に合併された時の経緯とその後の待遇へ
の不満から,いまだにM社に遺恨を持っており,必要以
上に反発したのである。A工場長は経営陣の判断で解雇
され,製造課長・総務課長ともども本社から転勤した社
員たちがこれに代わることになった。
 この事件によって,他の工場の社員たちもM社本社へ
の不信感を持ち始めている。今後全社一丸となって5ヶ
年計画を推進して行く上で,このような不信感が障害に 2800
ならないよう,全社の一体感を醸成することが,私たち
生産物流本部に与えられた課題である。


<みなさんのコメント要旨>

  • (工事中)。160 172






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