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(平成13年8月執筆)
(設問ア) |
1.M社におけるパソコン利用状況 1.1.M社におけるパソコン導入の背景 M社は従業員千人強の中堅製造業である。本社に約3 百人と全国の営業所・工場に約2百人の事務職員が,ま た全国に約3百人の営業要員が勤務している。これらの 従業員は業務上様々な文書や伝票を作成しているが,従 来は手書きやワープロ打ちの文書を,手渡し,郵送,フ ァクシミリ送信等の手段で遣り取りしていた。 近年の不況とバブル期の無理な投資の後遺症のため, M社の経営環境は厳しいものとなっている。こうした状 況にあって,事務作業の効率化・コスト削減は重要な経 営課題の一つであった。近年の情報技術の進歩と機器の 低価格化を受けて,M社でもパソコンを本格的に導入し て業務の効率化を図ることになった。 1.2.パソコンの導入過程と現在の利用状況 事務系・営業系の全社員にパソコンを配布し,社内ネ 400 ットワークで結ぶ計画が平成7年にスタートした。開始 当初は各部署の組織長に配布し,順次管理職,一般職へ と配布して行った。平成11年春には,ほぼ全員にパソ コンとメールアドレスの配布が完了している。 当初はパソコンをワープロの新型機程度にしか考えて いない社員も多かった。また,ネットワークはプリンタ が共有されるシステムであるという程度の認識しかなさ れておらず,情報の授受は紙ベースで行われることが少 なくなかった。しかし,パソコンの配布が一般社員にま で及び,若い社員がパソコンを日常的に使用するように なって,状況は徐々に改善した。今日では多くの社員は 各自のデスクのパソコンを中心に仕事をし,社内ネット ワークを利用して業務を進めている。 M社情報システム部次長で,経営革新プロジェクトの メンバーでもある私は,平成11年より社員の情報リテ ラシ教育を担当している。 800 |
(設問イ、ウ) |
2.M社における情報リテラシの向上策 2.1.M社における情報リテラシ向上計画の概要 1)平成10年までのパソコン研修の概況 私が現職に就く前にも社内でのパソコン研修は行われ ていた。しかし,これは部署毎に希望する社員を集め, ワープロソフトや表計算ソフトの基本的な使用法を学ぶ ものであった。当初は外部講師を招いていたが,経費削 減のため,平成9年頃から情報システム部員が担当する ようになっていた。 この研修は各部署における実際の業務内容に合わせた 内容ではなく,ワープロや表計算の一般的な使い方を教 えるもので,初級と中級に分かれていた。 2)本格的な情報リテラシ教育の導入と業務の見直し 上述の研修では,実務に直結するスキルの習得には結 び付かないという批判が社内から上がっていた。また, 同じ研修を受けた社員の中でも,研修が難しすぎるとい 400 う者と簡単すぎて役に立たないと言う者がいた。 私は平成11年にパソコン研修の担当になったとき, 従来通りの画一的な研修を廃止することにした。そして 各部署・各役職の実態だけでなく,各個人のスキルに合 わせた研修を行うことにした。そして,情報リテラシの 高い社員に役職を与え,各部署の情報化を推進する役割 を担わせることにした。 さらには,情報リテラシ向上のためには,情報システ ムを利用しなければ業務が遂行できないシステムにする ことも有効である。私は各部署と調整の上,後述するよ うに社内の諸業務のルールを見直した。 2.2.情報リテラシ向上のための新しい研修制度 私は各社員のレベルと業務内容の実態に合わせた研修 を行うため,従来のパソコン研修を改廃して,以下の二 つのカリキュラムを設けた。 1)パソコン入門講座 800 従来のパソコン研修初級に相当し,ワープロや表計算 の初歩を学ぶものである。私は電子メールやインターネ ットの初歩についてもカリキュラムに追加した。 なお,従来の研修で問題となっていたのは,キーボー ドの操作が極度に遅い社員が原因で,研修全体が進まな いことであった。私は自信のない社員は事前にキーボー ド操作を練習する講座を社外で受講できる制度を設ける ことにした。 2)パソコン応用講座 これはワープロや表計算の高度な使用法を学ぶ従来の 中級講座とは異なり,社内業務の処理に直結した内容で ある。研修は営業系,事務系A,事務系Bの3コースに 分け,それぞれの業務内容に必要な,具体的なパソコン 操作について学ぶものである。 2.3.ヘルプデスクとシステム化推進員制度の導入 平成9年より,情報システム部内に通称「パソコン相 1200 談係」と呼ばれるヘルプデスクが設置されていた。しか し,ごく初歩的な相談が頻繁に掛かってきて,通常業務 に支障を来たすこともあった。私は全社員の情報リテラ シ向上も大切であるが,むしろ各部署に情報推進のキー パーソンを置くことが有効であると考えた。 私は人事部長および担当役員と協議し,上述のパソコ ン応用講座の修了者を対象に試験を実施し,優秀者を認 定して手当を支給することにした。この制度で認定され た「システム化推進員」は,各部署においてパソコン操 作を指導するとともに,社員の要望等を情報システム部 へ伝える役割を担うことになった。また,副次的効果と して,システム化推進員に認定された社員のいない部署 は社内での立場が悪くなる雰囲気が醸成され,各部署競 って社員教育に励むようになった。 情報システム部内のヘルプデスクは従来通り継続した が,システム化推進員からの比較的高度な内容の問い合 1600 わせへの対応が主な業務となった。 2.4.電子決裁等の導入 パソコンの導入の目的はそもそも事務の効率化である が,情報リテラシが高まらないと業務に情報システムを 利用できない。逆に業務に情報システムを利用すれば情 報リテラシが高まるという,表裏一体の関係にある。 私は,社員の情報リテラシがある程度のレベルに達し たところで,半強制的にシステムを利用しなければなら ない業務フローを構築することにした。 私の着任以前にも,一定の業務は社内ネットワークを 通じて行わなければならないことになっていた。しかし これらの業務の多くは,一部のパソコンが得意な社員に 集中し,全社員にパソコン使用を動機づけるものとはな っていなかった。とりわけ,管理職のパソコン利用が十 分でないことが問題になっていた。 私は,管理職や,特に各部署の長しか行わず,部下の 2000 社員に代行させることの出来ない業務を電子化すること を計画した。すなわち,各部署の長による決裁書の本社 への届け出と,書面の回覧で行う稟議を電子化したので ある。稟議や決裁が部員全員の希望に添った内容のもの であれば,部下にパソコンを打たせることも出来る。し かし,中には人事異動に関するものや,部下には秘密に しておきたい内容も多々あり,部長らはやむなく自らパ ソコンに向かうようになったのである。 3.M社における情報リテラシ向上策の評価 以上に述べた私の諸施策によって,社員全体の情報リ テラシは確実に向上した。私の施策は成功を収めたとい うことが出来るが,今後に残された課題もある。特に, 一部の社員はいまだに情報化の必要性に対する意識が低 いことである。 以下に,一般社員と管理職の場合に分けて述べる。 3.1.一般社員の情報リテラシ 2400 若い社員はほぼ全員が完全にパソコンを使いこなして 業務を遂行している。しかし一部の年配の社員は,いく ら研修を受けさせてもパソコンアレルギーが治らず,業 務の遂行に支障を来たしている。本人の意欲や適性によ っては,配置転換や解雇の対象とすることも検討しなけ ればならない。 3.2.管理職の情報リテラシ 上述した施策の実施にもかかわらず,いまだに電子メ ールを部下に打たせたり,ホームページを印刷させて読 んだりする部長がいる。情報化推進に支障を来たす者に ついては,何らかのペナルティーを科す制度の導入が必 要である。 いずれにせよ,ある程度まで機会を与えた後は,付い て来れない者を思い切って切り捨てることが,他の社員 への動機づけとしても有効であると考えられる。 |
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