化け猫情報処理論文集 システム監査技術者平成10年問1



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問1 システム監査人のコミュニケーション能力について

 システム監査人は、情報システムの信頼性、安全性及び効率性を確保するコントロールの妥当性を点検・評価する為に、ヒアリング、閲覧、現地調査など様々な監査技法を利用し、各種情報の収集と分析を行う。
 情報システムのコントロールの実態を正しく把握する為の情報収集、指摘事項の伝達やフォローアップの為の情報提供などにおいて、システム監査人には優れたコミュニケーション能力が求められる。
 システム監査人は、必要な情報を効率的に収集する為に、被監査部門における業務分掌や職務権限など、個々の担当者のおかれた立場や背景を理解し、より正確な情報が収集できるように適切な方法を選択する必要がある。また、収集した情報に齟齬が発見されたり、情報の正確性に疑問が生じたりした場合には、より正確な心証を得るために、新たな情報の収集と分析が必要になる。
 すなわち、システム監査人のコミュニケーション能力によって、システム監査がもたらす効果は大きく左右される事になる。
 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア、イ、ウについてそれぞれ述べよ。

 
 設問ア あなたがかかわった情報システムの概要と、その情報システムのコントロールにかかわる問題について、800字以内で述べよ。 
 設問イ 設問アで述べた情報システムを監査するに当たって、監査目的を具体的に設定した上で、どのような情報を収集すべきかについて述べよ。また、収集した情報を分析し、正確性を確かめるための手続きについて述べよ。 
 設問ウ 設問イに関連して、情報の収集、指摘事項の伝達及びフォローアップのための情報提供におけるコミュニケーション上の留意点について具体的に述べよ。

 



(平成13年3月執筆)
(設問ア)
1.X社の情報システムの概要と問題点
1.1.X社の業務と監査対象となる情報システムの概要
 X社は中堅酒類メーカーの子会社で、グループ企業の
社員等に対して酒類を販売する、年商約5億円の株式会
社である。X社で販売する酒類は全て親会社から仕入れ
ていて、通常は在庫を持たずに即日出荷している。しか
し、同じ商品を多数の人に販売するキャンペーンなどの
ために、まとまった数量を引き取って、在庫に入れてか
ら払い出すことも少なくない。
 X社では一昨年秋に西暦二千年問題対応措置をきっか
けに新しい販売会計システムを導入した。このシステム
は市販のパッケージソフトを利用したもので、仕入伝票
と売上伝票等の入力をもとに、在庫管理や会計データの
出力等を行うものである。経理担当者が毎日の伝票を入
力し、月次及び年次処理で会計用の帳票や在庫表を印刷
している。                      400
1.2.会計監査で指摘された当該システムの問題点
 昨年度の会計監査において、当システムで処理された
会計データと在庫表についての調査が行われた。その結
果殆どの項目で大きな問題は指摘されなかったが、在庫
表の在庫金額の正確性に疑問が持たれた。X社では月単
位の総平均法で在庫品の単価を計算しているが、会計監
査人の試算と一致しない商品がいくつか発見されたので
ある。
 X社監査役はこの点を重視し、仕入の入力と売上時の
払出の入力処理のコントロールを中心にシステム監査を
実施することを決定した。X社の親会社のシステムコン
サルタントである私は、X社監査役からの依頼により、
当システムの監査を担当した。


                           800

(設問イ、ウ)
2.本システム監査の目的と監査手続
2.1.予備調査に基く監査目的の設定
 私はX社監査役及び会計監査に関った公認会計士から
のヒアリングを行い、1年分の在庫表を入手して問題点
を洗い出した。その結果、以下の点についての調査が必
要であると結論し、本調査を行うことにした。
1)入力データの承認手続
 入力されるデータがそもそも正当なものであることを
確認する必要がある。そのため、経理担当に渡される伝
票の内容について、記入する者とその根拠、責任者によ
る承認手続について調査する。
2)入力されたデータの正確性
 1)の伝票のデータが、当システムに正しく入力されて
いることを確認する。
3)データ処理の正確性
 入力されたデータが正しく処理され、在庫数量及び在  400
庫金額が計算されていることを確認する。
2.2.本調査で実施する監査手続
 本調査では上述の3項目について、以下のように監査
を実施することにした。
1)入力データの承認手続
 営業と経理の責任者に対するヒアリングと実際の伝票
の調査により、以下の点を確認する。
 ・伝票起票者と起票の際のルール
 ・伝票の承認手続
2)入力されたデータの正確性
 伝票が遺漏なく、あるいは重複することなく入力され
ていることを確認するため、伝票枚数と入力件数が一致
することを確める。次に伝票のサンプリングを行い、正
確に入力されていることを確認する。また、仕入金額の
合計と、親会社からの請求書を突き合わせ、一致するこ
とを確認する。                    800
3)データ処理の正確性
 指定された1つの商品に対して、在庫数量及び金額を
計算する監査用プログラムを準備する。これを用いて、
いくつかの商品のデータをサンプリングして計算する。
また、架空の商品について作成したデータを本システム
に入力し、監査用プログラムと処理結果を比較する。
3.監査実施時におけるコミュニケーション上の工夫点
 システム監査を実施するに当たり、最初に問題となっ
たのは、X社社員の不安感である。外部から監査が入る
ということは、自分達が不正な行為をしていると疑われ
ているのではないかと感じていたのである。私は最初に
彼らと酒を酌み交わし、世間話を交えながら不安感を取
り除きつつ情報収集することにした。システム監査とは
情報システムを正しく有効に使うために点検することで
あり、不正を摘発するための調査でないことはすぐに理
解された。また、X社内の役割分担や人間関係を知るこ 1200
ともできた。
3.1.本調査の実際
1)入力データの承認手続
 X社では仕入部門は存在せず、営業担当者が販売する
ものを適宜親会社に発注していた。発注・売上は各営業
担当者が営業部長に伝票を見せて確認印を受けた上で行
っており、特に問題は見出されなかった。
2)入力されたデータの正確性
 経理担当者は几帳面な性格の役職者1名のみである。
1日分の伝票入力に立会った際にも、伝票入力の前後に
枚数や内容を綿密にチェックしていた。過去3ヶ月の入
力内容を調査した結果も、親会社の売掛データと完全に
一致していた。
3)データ処理の正確性
 8種類の商品について監査用プログラムに1年分のデ
ータを入力して計算したところ、商品Aについて、在庫 1600
金額が在庫表のデータと大きく相違していた。商品Aに
ついて全ての伝票を調査したところ、通常の販売が通年
行われていた他に、3月に特売が行われていることがわ
かった。この特売では、外装に汚損のあるB級品を半額
で仕入れ、安く大量に販売していた。そして、それ以降
在庫表の在庫金額が合わなくなっていたのである。
 私は総平均法による在庫単価計算方法に誤りがあると
考え、架空の商品のデータを本システムに入力して調査
した。その結果、過去に存在して既に払い出されている
在庫を全て平均して単価計算をするように設定されてい
ることが確認された。
3.2.改善勧告とフォローアップ
 私は3.1.3)の問題点を経営者及び経理担当者に説明し
たが、最初はなかなか理解が得られなかった。前任者が
親会社の経理に相談してベンダに設定させたので間違い
ない筈だと強く主張していたのである。        2000
 私は彼らの責任を追及するのではない姿勢を明確にす
るため、きっと前任者の説明をベンダが良く理解してい
なかったのであろうと言うことにした。次に、1月に1
本を1円で仕入れてすぐに払い出し、2月に1本を9円
で仕入れて在庫する架空のデータを本システムに入力し
た。その結果、2月末には1本が5円で在庫されている
結果が出力された。このデータを用いて説明を加え、現
在の計算方法の設定に誤りがあることを納得させること
ができた。
 私は在庫単価の計算方法修正を緊急改善事項として勧
告し、X社はすぐにベンダを呼び、修正させた。
 翌月半ばに私がX社を訪れた時には、修正後のプログ
ラムが正しく処理を行っていることが確認された。また、
X社では前年度のデータを修正後のプログラムで処理し
直して、修正申告を済ませたとのことであった。
 その夜、私はX社社長、監査役、経理担当者と4人で 2400
旨い酒を飲んだ。


<みなさんのコメント要旨>

  • (工事中)。111






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