化け猫情報処理論文集 システム監査技術者平成11年問1



 平成13年の試験から、業務経歴書の提出が不要になることになった。以前に経歴書が不要だった頃には、冒頭に400字以内で論文の要旨を書くことになっていたので、試しに要旨をつけてある。(=^^=;;


 
問1 電子商取引のシステム監査について

 受発注や決済をディジタルデータで行う電子商取引は、インターネットの普及に伴って、特定の企業間を対象とするものから不特定多数の企業や個人を対象とするものへと拡大している。
 電子商取引は、取引にかかわる事務処理の効率化を実現するだけではなく、新たな取引先の開拓や調達コストの低減、個々の顧客ニーズに応じたサービス提供や商品販売を可能とする新しいマーケティングの展開など、ビジネス活動に及ぼすメリットも大きい。
 しかし、その一方で、取引データの破壊・改ざん・漏えいなどのリスクは、企業活動に大きな影響を及ぼすので、企業では、システムの可用性確保、取引データの機密保持やインテグリティ確保の対策に加えて、監査証跡への配慮などが必要になる。
 システム監査人は、電子商取引のリスクを認識した上で、システム監査を実施しなければならない。
 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア、イ、ウについてそれぞれ述べよ。

 
 設問ア あなたが携わった電子商取引にかかわる情報システムの概要を、800字以内で述べよ。 
 設問イ 設問アで述べた情報システムに関連して、電子商取引の導入に伴ってビジネス活動上新たに生じるリスク、及びリスクを低減するためのコントロールを具体的に述べよ。 
 設問ウ 設問ア及び設問イに関連して、取引にかかわる書類のディジタル化によって監査手続がどのように変化するか、その特徴を述べよ。

 



(平成13年3月執筆)
(要旨)
 当社は大手仮想ショッピングモールのシステムを利用
して、ワインの通信販売を行っている。そして、そのシ
ステムから入手した受注データを当社のシステムで処理
して、在庫管理や決算データの作成を行っている。
 このようなシステムにおいては、以下のようなリスク
が想定される。
 ・受発注データの亡失・改ざん・消滅
 ・当社システム内でのデータの改ざん・誤処理
 これらのリスクを低減させるためには、セキュリティ
の確保やデータの確認の徹底などのコントロールが必要
とされる。
 このようなシステムを監査する場合、通常の書類等の
調査の他に、以下のような監査手続が必要となる。
 ・データの送受信記録の調査
 ・データ改ざんの有無を調べるための監査証跡の入手
                           400

(設問ア)
1.当社の業務と情報システムの概要
 当社は高知市で酒類卸・小売業を営む、年商5億円、
資本金1千万円の株式会社である。従来は市内の酒販店
への卸売、料飲店への納入、直営店舗による小売販売が
主であったが、2年前よりインターネットを利用した、
ワインの通信販売を開始した。
 通信販売のためのサイトは大手仮想ショッピングモー
ル「R市場」のシステムを利用し、R市場から受信した
データを当社の販売会計システムで処理している。本シ
ステムの概要とデータの流れは以下の通りである。
1)R市場からのデータ受信
 顧客からの受注データは、その概要がR市場から当社
へ電子メールで送信される。更に当社からR市場にアク
セスして、受注データを第1正規形のCSVファイルと
して受信する。また、受注データはいつでもR市場に接
続し、ブラウザで確認することができる。        400
2)当社システムにおけるデータ処理
 R市場の受注データを当社システムにおいて日次処理
し、売上計上、在庫管理等を行う。このデータと、後述
する仕入データを合わせ、月次処理によって月末決算の、
年次処理によって年度末決算のデータを出力する。
3)発注処理
 上述の当社システムによる在庫管理によって発注の必
要が生じた商品については、自動的に発注書が作成され
る。発注書は通常プリンタ出力され、社印押捺後ファク
シミリ送信される。数社の仕入先に対しては、発注デー
タが電子メールで送信されるが、オンライン自動発注シ
ステムではなく、内容を確認後手動で送信している。発
注データは仕入データとして記録され、月次及び年次決
算データ作成や在庫管理のために使用される。

                           800

(設問イ、ウ)
2.電子商取引の導入に伴うリスクとそのコントロール
 当システムでは顧客からのインターネット経由による
受注と、一部仕入先への電子メールによる発注データ送
信が電子商取引に該当する。また、これらのデータを当
社システムで処理する際のコントロールも重要になる。
以下に、これらの処理に伴って生ずるリスクと、そのリ
スクを低減させるためのコントロールについて述べる。
2.1.R市場からのデータ受信
 顧客がR市場のサイトで発注をしてから、そのデータ
が当社に届くまでに考えられるリスクには、以下のよう
なものが想定される。
1)データの亡失・改ざん等
 顧客が入力したデータが何らかのトラブルにより、当
社に届かない危険性が考えられる。また、何者かの悪意
またはシステムのトラブルによって、データの一部が変
化した状態で届くことも懸念される。          400
 このようなリスクを低減させるため、R市場及び当社
では、以下のようなコントロールを行っている。
 ・受注確認のメールはR市場から顧客及び当社に対し
  て同じものが同報通信によって配信される。
 ・当社ではR市場からのメールの有無に関わらず、毎
  日R市場にアクセスし、受注データを確認する。
2)顧客データの漏洩
 受注データの中には顧客の住所、電話番号、電子メー
ルアドレス等の個人情報も含まれている。これが当社に
届くまでの間に漏洩した場合、プライバシー保護の観点
からも、当社の営業機密保護の観点からも問題がある。
 このようなリスクを低減させるためには、データを暗
号化して送信することが必要となる。R市場のシステム
では、データ入力やダウンロード、ブラウザによる確認
等の際にはhttps を使用している。しかし電子メールの
送信は暗号化されておらず、漏洩の危険性は否定できな  800
い。
2.2.発注データの送信
 当社が作成した発注データを仕入先に電子メールで送
信する場合にも、2.1.と同様に以下のようなリスクが想
定される。
1)データの亡失・改ざん等
 発注データが届かない、または変化した状態で届く危
険性がある。当社では仕入先から受注確認のファクシミ
リを受信することにより、このようなリスクを低減させ
ている。
2)データの漏洩
 送信途上の発注データが第三者に漏洩することを防ぐ
ため、当社では必ずS/MIMEを用いて送信している。
2.3.当社システムにおけるデータ処理
 上述のようにデータの受信・送信に注意を払っても、
当社システムにおけるデータ処理に謝りがあれば、誤っ 1200
た商品の発注や配送、決算データの誤り等の問題が発生
することが懸念される。このようなリスクを低減させる
ため、以下のコントロールを行っている。
1)受注データと売上伝票の照合
 顧客に商品を配送する際には納品書を同封するが、こ
れと同じ内容の売上伝票を当社で保存している。商品配
送前に必ずこの売上伝票と受注メールを照合することに
よって、受注データが正しく処理されていることを確認
している。
2)仕入伝票と仕入先の納品書・請求書の照合
 仕入先への発注書と同じ内容の仕入伝票を出力し、保
存しているが、商品到着時に必ず仕入先の納品書とこの
仕入伝票を照合している。また、後日贈られてくる請求
書はか習う納品書と照合している。
3)決算データと伝票の照合、棚卸
 月次の決算データと仕入伝票の金額の合計を突き合わ 1600
せて確認している。売上伝票を手作業で合計することは
現実的でないが、システム開発時に十分なテストを行っ
ている。また、月末毎に出力される在庫表と現場の在庫
を照合している。
3.電子商取引に関るディジタルデータの監査手続の特徴
 以上のシステムを監査する場合、多くのデータがディ
ジタル化されて保存されているので、従来の監査手続と
は異なる点が多々ある。以下にその特徴を述べる。
3.1.R市場のシステムの監査
1)受注データのインテグリティ
 顧客からの受注記録と確認メールの送信記録、保存さ
れている受注データをそれぞれ取り出して照合する。こ
こでは紙ベースのデータは存在しないので、電磁データ
の改ざんの有無を判断するための監査証跡の収集が必要
とされる。
2)受注データの機密性                2000
 R市場へのアクセスログを収集し、第三者が不当に当
社受注データにアクセスしていないかを調べる。アクセ
ス者のIPアドレスやパスワード誤入力の記録を調査す
る必要がある。
3.2.仕入先への発注データ送信の監査
1)発注データのインテグリティ
 これは通常の伝票・納品書等の照合で問題がなければ
良い。しかし不審な点があった場合、当社と仕入先の電
子メールの送受信記録等を調査することになる。
2)発注データの機密性
 S/MIMEによって正しく暗号化され送受信されているか
を確認するため、当社と仕入先のメールの送受信記録を
調べる。必要に応じてメールが経由した途中のサーバの
管理者に依頼してログを入手する。
3.3.当社システム内のデータのインテグリティの監査
 決算書類や伝票等の照合で問題がなければ良い。しか 2400
し不審な点があれば、データ改ざん等が行われていない
かを調べるため、トランザクション記録を調査する等、
監査証跡の入手が必要とされる。


<みなさんのコメント要旨>

  • (工事中)。103 106 107






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