虹の黄昏

―7話・森が喚ぶもの―



ささやく
森の木々の声が雪を呼んだ
ささやく
深い雪の中から聞こえてくる

冷たい雪の下に息づく命
ひそかなその息吹は 森を満たす


封魔の森は、にわかに降り出した雪でますますその雪化粧を濃くしていた。
しんと静まり返った森に、ふわふわと細かい雪が降り積もる。
一見すれば美しい情景だが、ただでさえ歩きにくい道が、
余計歩きにくくなることは目に見えていた。
木が密に茂っているところはまだいいが、
今歩いている道の上は枝もまばらで、降ってくればもろに直撃される。
「降ってきたな……。」
「まずいなこりゃ。吹雪く前に、さっさと里にたどりつかねーと……。」
チッ、とデルサスが短く舌打ちする。
積もった雪と吹雪の厄介さを、雪国育ちの彼は良く知っているからだろう。
もちろん雪国育ちではない他のメンバーも、
レイナンを出てからその厄介さは嫌というほど思い知らされてきたが。
「そうだな。吹雪になったら動けなくなる。」
「吹雪はいやにゃ〜……風がうなって怖いのにゃ〜。」
「うん、確かに怖いよね。色々な意味で……。」
風がうなって怖いだけならまだましなのだが、
吹雪というものは視界も体温も奪うので始末に終えない。
体温はライフウォーマーが守ってくれているので、
低下することはないにしても、視界は確実に奪われる。
もし猛烈な吹雪になれば、確実に足止めを食らわされるだろう。
いいことなど一つもない。
「あ、あんなところが光って……。」
マレッタの目に、木の陰で輝く光が目に入る。
そこで周りをよくよく見回すと、
雪にまぎれてキラキラと細かい光があちらこちらで光り輝いていた。
「マナか?」
「たぶん。どうもこの森は、元々マナが多いみたいだな。
森全体に、マナの力が満ちるのを感じるんだ。」
入ってすぐの段階では分からなかったものの、この森は非常にマナの力が強い。
感じ取れない者にも分かりやすく言えば、
住むマナが他と比べて極端に多いということである。
キラキラと輝く光は、恐らくマナの姿だろう。
「へ〜……きれいだね〜……。」
そうやって、徐々に魔道士が住む森にふさわしい神秘性を増していく森。
奥に進めば進むほどその数は少しずつ増えていき、
それに伴ってこの森の現実性も薄れていった。
歩きにくさも、現実感すらも忘れて、
クレイン達はその光景に見とれながら進んでいく。


そうして、30分ほど歩いただろうか。
景色にも慣れ、また元のように前だけを見て歩いていたそのときだった。
“―――引き返せ。”
突然森に木霊した、不吉な声。
数人の男女の声が重なった声が、やまびこのように何度も木霊する。
それに呼応するように木々がかすかにざわめき、
クレインたちを排除せんとする空気を作り出す。
「な、なんだ?!」
「今、どこかから声が……上か?」
突然森に木霊した、不吉な声。
男女の声が織り交じった声が、山彦のように何度も木霊する。
引き返せという声はやがて反響するごとに雪に吸収され、
やがて聞こえなくなるまで小さくなる。
だが、木々のざわめきは収まらない。
声が響く前と変わらないのは、木々の陰から見え隠れするマナの光だけだ。
「今の声は……気のせい、かにゃ?」
どう考えても気のせいでないことは分かりきっているのだが、
怖がりなノルンは、気のせいにしてしまいたいらしい。
その気持ちは、他のメンバーも分からないわけではないが。
「わかんねぇ。とりあえず、無視して進むか?」
「当然だろ。ここまで来たのに、
手がかりもつかめないまま引き返せないじゃないか。」
聞くまでもないと言外に主張するクレインの様子には、
先程の不気味な声で怖気づいたような色は一切ない。
むしろ、姿を見せずに声だけ聞こえたことに憤ってすらいた。
「それにしても、なんだか不気味だな……。」
「うん……。」
きょろきょろと辺りを見回しても、
静まり返った森には特に妙なものは見当たらない。
そうやって少し会話を交わしているうちに、程なく木々のざわめきも収まった。
――今のは、一体なんだったんだ……?
不気味に思いながらも、クレイン達は先へ進むことにした。
魔道士の住む森なのだから、変なことがあっても当然だと無理に割り切った上で。

だが、ほんの3,40m進むか進まないうちに、またあの不気味な声が聞こえてきた。
今度は、数人の低い男性の声だった。
――忌まわしき錬金術士よ、引き返せ。
声は、いっそう強く非難の色を強めている。
うるさいというほどではないが、音量も増しているようだ。
「また……。」
「どっから聞こえてくるんだろ……なんか、怖い。」
リイタとノルンがクレインの横に身を寄せ、
他の3人もお互いを守るように身を寄せる。
そして気がつくと、全員一ヶ所に固まっていた。
声は、なおも続く。
――我らの警告を聞き入れよ。
得体の知れない恐怖や不信感を努めて抑えて聞いてみれば、声は先程と違う。
音源を捜して辺りを見回してみるが、
やはり姿は見えず、ただ声ばかりが森に反響して消えていく。
それと対照的に、森のざわめきは大きくなっていった。
――どうしても引き返さぬというのか。
ようやく消えたと思ったとたんに、また声が響く。
先程とは違い、半ば諦めたような色が漂う。
しかし、背筋をぞくりと震わせる凄みがあった。
――ならば、実力を持って示すとしよう。
静かな怒りを伴った声は、なぜか反響することなく消えた。
その後、クレインの道具袋に異変が起きる。
「な……源素が?!」
色とりどりの淡い光にも似た源素。それらがどんどん袋から漏れ出ているのだ。
アイテムで膨らんでいた袋はどんどんしぼみ、
しまいには元の半分ほどになってしまった。
「クレイン、マナアイテムが源素に還元されてしまった!」
「お、おいマジかよ?!」
ラプラスが急に現れ、非常事態をクレインたちに知らせた。
そんな馬鹿なと、クレインやデルサスは目をむく。
他のメンバーも驚き、平静ではいられない。一体どうしてこんなことがおきたのか。
錬金術に関してはパーティで一番くわしいクレインさえも、その理由は見当すらつかない。
「ああ、ほんとうだ。何か特別な魔力を感じたから、間違いない。
とりあえず、全員で手分けして源素は回収したが……。
何か嫌な予感がする。引き返したほうが良い。」
自らが司る時素が入った源素専用の試験管を手に、ラプラスがそう勧めた。
だが、そう勧められてもクレインは困ったような顔をするしかない。
彼の中には、引き返すという選択肢はまったくといっていいほどないのである。
妙な事件の解決の手がかりをつかむことしか頭にないので、
致し方ないことではあるのだが。
「クレイン、君の意志が強いところは評価に値すると思う。
だが、時には他人の忠告を聞くことも大事なことではないのか?」
ラプラスが最後にクレインにそう諭すと、返事を待たないで彼は消えた。
彼の言葉で、クレインにわずかに迷いが生まれる。
目の前で起きた出来事の意味を分からないほど、子供ではない。
それでも先に進むと決めているはずなのにと、クレインはこぶしを固める。
「……私も、引き返したほうがいいと思う。」
「マ、マレッタ!」
意外というほどではないが、
マレッタがラプラスと同意見を持っていたことにクレインは驚いた。
だが、そんな彼の様子にはかまわず、マレッタは真剣な面持ちでこう続けた。
「これで、警告はもう2回目だ。
今までは不気味な声だけで済んでいたかもしれないが……。
ここでマナアイテムが源素還元されてしまった以上、相手は本気ではないのか?」
「だけど、ここまで来ちゃったのにゃ。
マレッタの言うことも正しいとは思うけど、
ここまで来たらもう無視して進むしかないのにゃ!」
彼女の言うことは分かると言ったものの、
ノルンの頭の中にも引き返すという選択肢はない。
恐怖よりも、事件を解決するという使命感が強いらしい。
「ちょっと、このまま行ってほんとに大丈夫なの?!
もし何かあったらどうするのよ!」
警告に続いて起きた源素還元に嫌なものを感じたのか、
リイタは必死に2人を説得しようとした。
「いや、ノルンの言うとおりだ。確かに気になるが、行くしかない。」
「確かに、もう引き返せなくなっちまってるしな……。」
ちらりとデルサスが背後を見返す。
それにつられて背後を見ると、そこには見たこともない屈強な魔物がいた。
はっと気がついて前方と左右を見れば、そこにも同じような魔物がいる。
頭に生えた4本の角。太い前足は、悠久の時を生きた大樹のようだ。
黄金に輝く瞳は獰猛な光を湛え、金属のような銀の爪が光る。
明らかに、フラン・プファイルやバロンと同クラスの魔物だろう。
少なくとも、その辺りにいるような雑魚ではない。
「ゴルトホルン……?!」
アーリンが、驚いて息を呑む。
なぜこんなところにと、普段は表情に乏しい彼の顔にはっきりと書かれていた。
「ゴルトホルン……?」
「魔界に住んでるっていわれてる、とんでもない魔獣にゃ。
伝説だと、その爪は、牙は……硬い岩をもえぐるって……いうらしいのにゃ。」
説明しながらも、ノルンの声は明らかに震えていた。
だが、そんなことはお構いなしにゴルトホルンたちが近づいてくる。
戦う気なのかとクレインたちが身構えたその時、
不意にクレイン達の正面、つまり進行方向に居る一頭が口を開いた。
「お前達に、最後の選択肢を与えよう。」
「命を惜しみ、ここで引き返すか。」
「愚を貫き、魔道士の里を目指すか。」
「さあ、選べ。」
最初の一頭に続き、次々と残りの3方を塞いだゴルトホルンたちが朗々とした低い声で語った。
その言葉は、まるで決まりきった口上のようにすらすらとつながっていく。
これが魔物でなければ、詩の朗読と間違えそうなくらい見事だ。
「もし、このまま進むと答えたら、
あんた達はおれ達をどうするつもりだ?」
クレインは、ゴルトホルンたちをキッとにらみつけた。
もちろん、彼に引き返すという選択肢は存在しないも同然だ。
そしてその意思は、彼の目を通してゴルトホルンたちに伝わった。
「決まっている。」
「マナの恵みを搾取せし愚かなる錬金術士よ。」
「汝が得るものは唯一つ。」
「永劫に渡る……眠りのみ!!」
言うが早いか、4頭は地を蹴り、一斉にクレインめがけて飛びかかった。
剣のように鋭い爪と牙が、クレインの体を引き裂かんと迫りくる。
「クレイン、危ない!」
「くっ……!」
リイタが間に入ろうとしたそのわずかな時間。
4方向から飛び掛ってきたゴルトホルンたちをとっさに投げたクラフトで一瞬ひるませ、
クレインは転がるように脇へと逃れる。
しかし、足をとられる深い雪のためによけきれず、
クレインの左腕からジワリと血が滲む。
厚い毛皮のマントすら引き裂くその爪が直撃すれば、人間などバラバラだろう。
「ちくしょう、何がどうなってやがる!」
軽い傷を負ったクレインの前に、デルサスが立ちはだかった。
やや遅れて、リイタも同じように立ちはだかる。
「邪魔立てをするな。我らが殺めるのは錬金術士のみ。」
クラフトの一撃程度では、かすり傷程度の傷も負わない。
ただクレインだけを、憎しみすら感じさせる視線でにらんでいる。
「命惜しくば、錬金術士を置いて去るがよい。」
「ふざけるな!誰が仲間を見捨てるものか!お前達こそ、なぜクレインを襲う!
彼がどんな罪を犯したというのだ!!」
マレッタが、鋭い声で彼らに問いただす。
いきなり襲ってきた理由が分からないわけではないが、聞かずには居られなかった。
「聞くも愚かな問いを。」
「この森は錬金術士禁制の地。」
「われらは今まで幾度となく警告した。」
「たとえどのような事情があろうとも、
禁を犯すものを見逃すわけには行かぬのだ。」
最初と同じように、4頭が次々と言葉を連ねていく。
その言葉に情けはない。
「むちゃくちゃにゃー!」
「……っ!」
ノルンは無茶苦茶だと言い切ったが、
クレインは歯噛みすることしか出来ない。
確かにゴルトホルンたちの理論は強引すぎる。
だが、こちらの非も大きい。
この森の先にある魔道士の里で錬金術士が嫌われていることを知った上で、
なおかつ道中の警告を無視し続けてここまで来たのだから。
だが、それに相応するだけの理由もある。
しかしそれを告げたところで、どいてくれるとも思えない。
「……戦うしかないな。」
「んなこたハナから分かってただろ。……やるっきゃねえよ。」
慣れない寒さ、動きを極端に制限する深い雪。
それだけでも十二分に悪い地形条件に、今もゆっくりと降り続く雪が視界を悪くする。
そしてダメ押しが、防寒のために着込んだ丈の長い毛皮のマント。
これでまた、動きは鈍くなる。
悪い条件ばかりが重なり、勝ち目が薄いことは全員知っていた。
「こ、こんな怖いのを4頭も相手にするのかにゃ……?」
「仕方ないでしょ!倒さなきゃ……進めないんだから。」
最強クラスの魔物を4体も相手にするとなれば、
クレインたちとて生き残れる保証はない。だが、やるしかないのだ。
「いや、何も全部倒す必要はない。」
「ど、どういう意味かにゃ?!」
ノルンは意味が分からずにうろたえるだけだが、
デルサスは長い付き合いからマレッタの作戦に勘付いた。
にやっと、不適に口元をゆがめた。
(要は逃げられればいいんだよ。サポート頼むぜ。)
「……わかったにゃ。」
デルサスが小声で話した作戦にうなずいて、ノルンはすぐに呪文の詠唱に入る。
この2年で大分腕を上げた彼女の魔法は、
以前の旅以上に威力が増し、バリエーションも格段に増えた。
彼女の攻撃魔法と補助魔法があれば、少しは不利を埋めることが出来るだろう。
「竜のうろこのごとき堅牢な守りの力よ、我らの身を守る防具へ宿れ。
フォース・バリアにゃ!」
パーティ全員の武具を、硬質的な鋭い光がらせん状に包み込む。
光は瞬間的に締め付けるかのように、収束し、防具へと溶け込み消える。
直接攻撃に対する防御力のみを飛躍的に高める、中級の補助魔法の一つだ。
主に物理攻撃を得意とする魔獣系のモンスターには、うってつけである。
「てぇい!」
リイタがクロウを振るい、正面をふさぐ一体の側面から奇襲を試みる。
だがその程度の小細工は、ゴルトホルンにとって真正面から向かってくることと大差ない。
太い前足の片方だけでやすやすとその攻撃を受け止めると、
一気に彼女の体ごと攻撃を弾き飛ばす。
「くうっ!」
だが、それしきの事であっさりと打ち倒される彼女ではない。
空中でくるっと一回転して、手近な木の太い枝に着地する。
それとほぼ同時に、ゴルトホルンにボウガンの矢が次々に刺さった。
さらにその直後には、マレッタが放った雷神が命中する。
矢は浅くしか刺さっていないようだが、雷神を受けた跡は黒くこげていた。
「よそ見してんじゃねーよ。」
「……。」
デルサスが、にやっと意地の悪い笑みを浮かべた。
だが、ボウガンを放ったデルサスの方はちらりと見ただけで、
その双眸は明らかにクレインのみに集中しているようだ。
それは、他の3体も同様で。
3体のうちの一体はアーリンが相手にしていたが、そちらもどこか攻撃の手はぬるい。
「何なの?……こいつら。」
「もしかして、馬鹿にしてるのかにゃ?!」
「いや、違う。こいつらは『我らが殺めるのは錬金術士のみ』と言っている。
その言葉を守る気なんじゃないのか?」
ゴルトホルンの攻撃をかわしたアーリンが、確信の色を持ってつぶやいた。
たしかに、これほどの魔物となれば相手を殺さずに戦うほうが至難の業だ。
本気で殺しにかかるのはクレインだけだとすれば、
その他のメンバーとの戦いには手を抜かざるをえない。
確かに、前足ではじかれるだけでも強烈な一打だ。
だが、最初にクレインに襲い掛かったときに比べればはるかにましである。
無傷ではすまないが、いきなり命を奪うことはない。
「なめやがって……。」
デルサスが忌々しげにはき捨てる。
もちろん、標的となっているクレインも逃げてばかりではない。
反撃のために、マナアイテムの生成を試みる。
「おれ達を甘く見るな!ラプラス、プルーア!」
いかに強力な魔物といえども、ラルバの鍵なら確実に一体は次元の狭間に葬り去ることが出来る。
クレインに呼ばれ、ラプラスとプルーアが彼の周囲に現れた。
「……ラルバの鍵だ。いくぞ。」
「クレイン、それは……無理だわ。」
クレインに命じられたものの、
プルーアは途方にくれたように首を横に振った。
「何でだ?……まさか。」
先程ラプラスが感じたという、
特別な魔力のせいなのかとクレインは思い当たる。
そして彼のその推測は、当たらずとも遠からずといったところだった。
「この森に働く強力な結界が、クレイン、おまえの錬金術の力を封じている。
マナアイテムの生成自体が不可能な状態になっているのだ。」
ラプラスとプルーアの言葉に、クレイン達は少なからずショックを受けた。
予想はついたとはいえ、実際に不可能といわれたその衝撃は大きい。
「そ、そんにゃあ〜!」
「……まずい、な。」
マレッタの背に、暑くもないのに汗が伝う。
クレインのマナアイテムの力は、うまく使えば魔法同様の威力を誇る。
ノルン1人では援護の手が回りきらない時も、
マレッタの術やで他のアイテムでは回復が追いつかない時も、
彼のマナアイテムでしのいだ局面は数知れず。
よって、それが封じられると言うことは。

すなわち、地形条件を凌駕するほどの劣勢を招く元となる。

「愚かな……この場でマナの恵みを受けようなどとはな。」
「もしかして、だから封魔の森っていうわけ……?」
ラプラスの言葉とゴルトホルンの言葉。
まさかと思いながらも、リイタはそう口に出さずにはいられなかった。
魔道士が住む里があるのに、森の名前は魔を封ずると書く。
考えてみれば、少し奇妙な名前だった。
名前だけをぽんと聞かされれば、魔物が封じられた場所、
あるいは魔法が使えない森と感じるだろう。
だが、現実に使えないのは、魔法ではなく錬金術。
と、いうことは。
「そうだ。マナから恵みを搾取せし愚か者……。
貴様の精神は、我ら魔界のものにも劣る!」
「魔とはすなわち貴様らの術。愚かな錬金術士よ……滅び去るがいい!!」
4体の魔物が、天を仰ぎ咆哮する。
その雄たけびは大気を震わせ、地を揺らす。
ピキピキと空気が音を立て、巨大な氷柱がクレインの周囲に何本も生成されようとしているのだ。
その規模は、同じ氷属性の魔法・アイス・ヴェレをはるかに超える。
そして、4体が同時に叫ぶ。
『貫け!アイス・ジャベリン!!』
渦巻く魔力は、今までに体験した魔法の中でも最大級。
まず持ちこたえられないと反射的に判断したクレインは、急いでアイテムを使って結界を張った。
しかし、ごく弱い魔法からしか身を守ることの出来ないそれでは、
狼の牙を絹の薄衣で防ぐようなものだ。
「クレインーーー!!」
渦巻く魔力に圧倒されたのか、あるいは、これも4頭の力なのか。
どちらかはわからないが、魔法に心得のないメンバーは身動き一つ取れない。
このままではクレインが危ない。そう分かっていても、
手足は凍ったように動かなかった。
どうすることも出来ない彼らをあざ笑うかのように、
完成した氷柱は冷たい輝きを放ち、クレインに向かって放たれた。
そして誰もが、その魔法を止めることは出来ないかのように信じてしまった。
しかし一人だけ、己の特技ゆえにあきらめなかったものが居た。
「魔術を内に封じる水晶よ、彼の者の術をその煌きによって跳ね返せ!
リフレクト・マジックにゃ!」
大魔法が当たる寸前ぎりぎりで放たれた、
透明な水晶の輝きを持った反射鏡がクレインの身を包む。
恐るべき威力を伴って襲い掛かる魔法の前には、あまりに無力なその鏡。
氷と反射鏡の壮絶なぶつかり合いは、青い光の奔流となって森を青く照らす。
ほどなく、魔法で作られた反射鏡は大魔法の威力に耐え切れず、それでも半分以上は跳ね返して崩壊する。
パァンと澄んだガラスのような音がはかなく響いて、
暴走した魔法が引き起こした轟音にかき消された。
「みんな、伏せろ!!」
いつの間にか体が動くようになっていたことにすら気がつかず、
5人はあわてて雪に埋もれるように身を伏せる。
激しい音が伝えてくる強烈な光と力の暴走は、永遠に続くかのように思えた。
だが、実際はものの1分ほど。
光が消え、音も消えた。
そこでようやく、伏せていた5人は雪に埋もれた身を起こした。
柔らかな新雪は、あれほどの力からも彼らの身を隠し通してくれたようだ。
辺りを見回すと、死んだのか逃げたのか、ゴルトホルンの姿はない。
「クレイン……クレイン!」
「くそ、おい、無事か?!」
魔法の衝撃のためか、もうもうと雪煙が立っている。
リイタとデルサスは、必死にクレインの無事を確かめようと声を張り上げた。
果たして、無事なのだろうか。



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話の流れが予定を微妙に変わって、気がついたら魔物が4体居ました(爆
ちなみに魔物のステータスは下の通り。(一番下にあります
今回の話は、もしBGMをつけるなら前半はFF5の「大森林の伝説」って気分です。
と、言うかそれを聞きながら書いてました。後半は6の「決戦」を。バトルバトル。
つーか森に反響する声……モデルはFF4のミストの谷で響くあの声です。
でも、自分で書いておいて言うのもなんですが、
いきなりこんな声が響いたらホラーですよ。
そして、文字数が10000オーバーしたせいで戦闘シーンが途中で切れたという情けないオチも。


ゴルト・ホルン(ドイツ語でそれぞれ金・角の意)
種族・魔獣 還元すると魔素×20
HP2300・MANA500
攻撃力480・魔力270・速度270
属性の耐性……炎100・氷200・雷150・闇450