Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

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 大通りの側に大きく取られた窓から射し込む明るい陽射し。それを横合いから広い胸板に受けつつ入って来て、名指しで声をかけて来たマスターへと軽く会釈する彼に、
「いつものか?」
 サンジが短く訊く。
「ああ。」
 こちらも短く答えながらカウンター前を通り過ぎかかり、ルフィの頭にぽそんと乗っかったのは大きな手のひら。わざわざの挨拶はないが、ポンポンと軽く叩かれて。それへと顔を向けると男臭く"にやっ"と笑ってくれるのへ、ルフィの側でも嬉しそうに笑い返す。そのまま通路を進んで、腰掛けるのはいつもの窓辺の2人掛けの席だ。髪を短く刈った、口数少ない、上背のある男性。近所の大学に通う大学院生なのだそうで、サンジとは同じ高校に通っていた同窓生なのだとか。
『俺は育ての親だった爺さんが亡くなったんでな、大学には行かないで此処を継いだんだがよ。奴は民族学の研究がしたいってんで、専門の研究所がある大学に進学したんだ。見かけによらねぇだろ? しかもこのままそこの研究員になるつもりらしいぞ。』
 いつぞやサンジがわざわざルフィにそんな説明をしてくれたのは、
「…そんなこそこそと見てないで、こっちからももっと話しかけりゃあ良いのによ。」
 それまでサンジと交わしていた会話もどこか上の空な"気もそぞろ"状態になってしまうほど、どう見ても"あなたに関心ありますvv"という態度になる少年であるからだ。
"あんな面白味のない奴になぁ…。"
 第一印象のインパクトはともかく、本人の気性・気質は武骨の一言に尽きる男だ。着痩せする性分
たちなのか暑苦しいほどの筋肉質ではないものの、それでも一見して何か格闘技系統のスポーツを嗜んでいる人だなと分かる、いかにも強かそうな良い体格をしている彼である。綿密な鍛練を積んで育まれたものだろう、見るからに頼もしい腕に、広い肩幅と大きな背中。窓から射し込む柔らかな陽射しを受けている、セーターに包まれた胸板もそれは広々とお見事で。夏場の陽盛りの中、タンクトップだのTシャツだのという薄着姿になると、あまりに肉惑的で眩しくて…シンパシィであるルフィには正視出来ないくらいだったとか。骨太で大きな手は、だが、いつも無駄なく機能的に動いて。しかも、とっても温かいのだそうな。
『そうか、手をつないでもらったんだな。』
『………あっ。えと、うと…。/////
(あはは/笑)
 子供の頃から親戚の道場にずっとずっと通っているという青年で、サンジと同窓の高校生時代も"剣道一直線"だった生粋の武人。名前をロロノア=ゾロという。親しい間柄な相手には、先程ルフィにやって見せたような気さくな茶目っ気を示しもするが、それ以外へは"にこり"ともしないし関心も寄せない、至って無愛想な彼。上背があってきっちり鍛えられた肢体はすっきりと見栄えがよく、ちょいと恐持てで鋭角的な顔立ちながら…目許涼しいそのルックスも悪くはない。あまり愛想はよくないが、礼儀はきちんとわきまえていて、しかも成績だって優秀で。そんなせいで女生徒たちからも人気は結構あったのだが、本人が自分の道しか視野にないというタイプだったがため、GFだの恋人だのはいなかった様子…と。訊かれもしない内からそこまでの情報をルフィへと授けてやったサンジだったのも、あの彼ならば…この、どこか心細げな"異邦人"の少年が頼りにしても構わないと、それほど"良い奴だ"と思っていればこその事だろう。そのサンジが彼の"いつもの"であるBランチを作っているその間。何となくの肩越しに、ちらちらと彼のいる方ばかりを眺めていたルフィであり。ジャケットを脱いで背中の後ろ、しわも気にせぬ無頓着さで、脱いだそのままの裏返しに背凭れへと引っ掛け終えたゾロが、顔を上げて…くすりと笑った。サンジの好みから穏やかな曲想のインストゥールメンタルだけが流れる静かな店内には、たった二人しか客はおらず。その一方が、こうまで慕わしげに"きゅう〜ん"という眼差しを向けて来るのに気がつかないほど鈍感では、剣道、合気道、空手に柔道、各種武道に於ける師範クラスの有段者にはなれないというものだろう。声は立てずに"くすくす"と笑いながら、片手を挙げると軽く倒して"こいこいこいこい…"と手招きする彼であり。これもまたいつもの呼吸であるらしく、途端にルフィの方も、
「………vv
 スツールから立ち上がり、ぱたぱたぱた…っとボックス席まで駆け寄った。
「こんにちは。」
「ああ。今日は早かったんだな。」
「はい。」
 ゾロの方でも、この小さな彼がアラバスタ保育園のメンテナンスのお兄さんであることは知っていて、
「この間はありがとな。」
「あ、いえ。大したお手伝いも出来ませんで。」
「何言ってる。皆も喜んでたぞ。」
 親しい者へは柔らかく笑う彼の、眩しげに少し細められた目許が何とも言えず温かくて。ついついルフィも含羞
はにかむように笑い返している。そんな二人へ、カウンターからサンジが声をかけて来た。
「何の話だ?」
「ああ、こないだな、ウチの大学で付属の幼稚舎の小さい子供たちを呼んでのイベントがあったんだ。そこに来合わせてたこの子が、子供の扱いがうまくて随分助かってな。」
 さらりと説明してから、
「あん時のチビさんたちからもな、構内なんかでたまに顔を合わせると"あの時のお兄ちゃんは?"って、よく聞かれるぞ?」
 これはルフィへの付け足し。間違いなく"お褒めのお言葉"に、小さな肩をますます縮めて、少年はそれはそれは判りやすいまでの恥ずかしそうなお顔になっている。そんな彼へ、
「もうすぐ春休みだろ? 何か予定はあるのか?」
「え? …あ、ああ。はい…でも…。」
 思いも拠らないことを訊かれて、ルフィがしどろもどろになりかかったのへ、
「ばっかだなぁ、お前は。」
 じゅうじゅうと香ばしい匂いの立つ、今日はポークジンジャーとナポリタンのセットだったBランチと、こちらはルフィへのスペシャルランチのおまけ、ふかふかパンケーキと自家製ストロベリーアイスのセットを運んで来たサンジが口を挟む。
「ルフィはアラバスタ保育園専属ではあるけれど、メンテナンス会社の社員なんだぜ? だから、園が長期休暇に入ると他に派遣されんだよ。」
「ああ、そうだったな。」
 夏休みがそうだったろうがと呆れたように付け足して、こそりとルフィに目配せを送る。一番最初に危惧したように、怪しい素性の何物かに狙われかねない存在のルフィであるがため、保育園自体に居候させるのは危険だということで"通いのメンテナンス業者だ"という口裏を合わせたのだが、となると…保育園が休みなのにその近所を徘徊するというのも妙なもの。
"確か夏休みは…。"
 隣町のファーストフード店の、閉店後のメンテナンス担当に回されたということにしておいたんだったっけ。
「で、そんなことをわざわざ訊くってことは。何かへのお誘いか?」
 ふふんと笑って訊くサンジに、
「…なんでお前に言わにゃならん。」
 ナイフとフォークをまとめて包んだ紙ナプキンをほどきつつ、どこかムッとしたよな顔になり、
「俺が誘いたいのはルフィの方だ。客の会話に割り込んでくるんじゃねぇよ。」
 包み隠さずあっさりと、胸を張って言いのけた。それへと、
「へいへい、判りましたよ。」
 サンジが"くくっ"と笑ったのは、ゾロの明らさまな言いようへ"えっ"と息を呑み、大きな眸を尚のこと大きく見開いた少年だったからだ。ちらっと見やったルフィのあまりに愛らしい様子へ薄く笑ってから、カウンターへと戻ってゆく彼であり。一方で、
「あ、あ、あの…。/////
 急な成り行きへ頬を真っ赤に染めている少年へ、
「俺の方もな、レポートの資料集めやら、教授の手伝いやらがあるんでいつでもって訳には行かないが、それでも昼はかなり時間が自由になるからな。少しくらいなら遠出も出来るから、どこか出掛けないか?」
 さっき頬張ったパンケーキの蜂蜜がぽちっと塗りつけられていた、ルフィの小さな口の端。腕を伸ばしたその先の、長い指先でぐいっと拭ってやりながら、そんなお誘いのお言葉をかけてくれるお兄さんへ、
「………嬉しいです。/////
 もぞもぞと応じて俯いてしまう、今だけは何とも純情な男の子であった。




            ◇


 食事を取りつつ他愛ないことを小半時も話しただろうか。午後からの講義があるからと、店を後にしたゾロであり、
「こういうことを聞くのは失礼かも知らんが。」
 常連やらお買い物途中のマダムたちやら、お昼どきのお客たちで適度に忙しくなりつつもきっちり捌き終えたサンジが、二人分の食器を下げて来てくれたルフィへ、妙な前置きをしてから訊いて来たのが、
「お前のいた世界では、同性同士が…その、なんだ。恋仲になっても問題はないのか?」
 こちらの世界でだって、結局のところは本人同士の問題であり、周囲が何を言おうと喚こうと"知ったことか"で通して良いっちゃ良いのだが。それでも…非生産的な間柄には違いなく。時空犯罪者への対応などから察するに結構杓子定規な土地柄だったらしいから、そっちもご法度だとかなら…と、気を回してみたサンジだったらしい。
"単なる"好意"や"友情"みたいなもんだったなら、妙な気を回してやることもないんだが。"
 お節介にも程があるよなと内心で自分に呆れつつ、客の途切れたタイミングであるのを良いことに、ちょいとデリケートなことを訊いてみると、
「こ、こここ、恋仲ですか?/////
「…いや、そんなまで狼狽しなくても。」
 カウンターに置いたところだったトレイが直下型地震に遭ったかのように震え出し、皿やグラスががちがちと触れ合って音を立て始めるほど。そこまで動揺しなくてもと、トレイを預かるサンジへ、
「………こちらで言うところの"結婚"は出来ませんけど、ただ一人の人だと誓うのは個々人の自由ですから、あのそのあの…。/////
 成程、恋人が同性でもかまわない風潮ではあるらしく。なればこそ、あのムサイ男に惹かれてしまった自分の気持ちを、さほどには疑問にも感じぬまま、その胸の奥にて…憧憬の想いを可愛らしくも育て続けている彼なのだろう。
「それにしてもなぁ。」
「はい?」
「選りにも選ってあいつとはな。」
「何かある方なんですか?」
「いや、あんな野暮天のどこが良いのかと思ってな。」
 油を簡単に紙ナプキンで拭き取った食器たちを自動洗浄器へと並べてスイッチを入れ、新しい煙草に火を点けながら、くくっと笑ったサンジであり、
「ウィンタースポーツは何が好きかって訊かれて"寒稽古"って答えるような奴だぞ?」
「………☆」
 それは…確かに"冬のスポーツ"だけど…う〜ん。
(笑)
「悪い奴じゃあないってトコへは太鼓判を押してやるがな。とことん気が利かない奴だ。何かしら面倒だなとか困ったなって思うようなことがあったらいつでも言いな。執り成すなり諦めさせるなり、何とでも口利いてやるからな。」
 こらこら、サンジさんたら。
(笑) 悪気はないのだろうが、それでもどこか冷やかし半分、からかうように見やってくるのを何とか躱そうと思ったか、
「ナミさんは…どうされたんですか?」
 別の話題を引っ張って来て、こちらからそうと訊いてみるルフィである。あまり踏み込まれまいとするポーズなのか、ちょいと気取ってたり皮肉屋さんだったりするマスターだが、
「ああ。実家の花屋さんが忙しいんだと。」
 奥様の話題になるとこれがもうメロメロ。先程までのルフィと変わらないくらいに、どこか純情そうなまでの含羞
はにかみ顔になって、春は祝い事が多いから、ベルメールさんやノジコさんていう現役アレンジメントさんたちがフル稼働しても追っつかない注文が入るらしくてなと、この街一番のフラワーショップ"ココヤシ"の看板三人美女の話に花が咲くのであった。





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