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い〜き〜な〜り、天井から降って来た 縫いぐるみ調・直立型トナカイさんは、名前を"チョッパー"といい、ルフィとは幼なじみの…やはり時空関係の公安係官であるそうな。彼は話が出来るだけでなく、人と変わらぬ…いやいや、どうかするともっともっと高い知性や感受性、モラルを持ち合わせた種族であり、ラフテルには他にも色々な種族の獣人が…比率的にはヒトの総数にやや負けているものの…沢山居て、一般人としてごくごく普通に生活しているらしい。
『まあ、よその次元の常識だから、ビックリされても仕方ないけどな。』
居合わせたサンジやイガラム園長から、人と変わらぬレベルで会話が出来る点なぞを少なからず仰天されたことへもさほど憤慨はしない、なかなかに温厚なトナカイさんであるらしい。それとも、こういう"他次元"へ出向くという職柄から、そういう点の対応力も必要とされるのかも。何とか落ち着いたサンジから、ソファーを勧められると、
『どうも ありがとだぞvv』
にこぱっvvと笑って会釈を見せる様が、何とも可愛らしくって。
"向こうの世界ってのは、こういう可愛い系ばっかいるのかねぇ。"
ルフィといい…とばかり、ついつい ほのぼの微笑って見せるサンジさんで。…って、おいおい。そんな場合じゃないだろう。(笑) 問題の"来訪者"は、先程までイガラム園長とサンジがそうしていたように、ソファーに座って、しょぼんと肩を落としたルフィと向かい合っていて、
「…まあ、知らなかったことならしようがないけどさ。」
だというのに、ちょいと大人げなくも叱ってしまったことを少々反省したらしく、小さな蹄の先を口許へ寄せて"んんんんっ"と咳払いして見せる。先の章にて判明したのが、彼ら"時空警察"の異次元担当・実践施行官たちが携帯している"エターナルポース"という指針に関する新事実。不時着の衝撃にてばっきり折れて割れてしまっていたがため、故郷のラフテルまで帰れなくなってしまい、已なく…迎えの捜索隊が来るまで此処で待ちつつ、"時空法"を犯した怪しい不法渡航者たちを取り締まろうと頑張っていたルフィだったのだが、何とその装置、本体が壊れてもストラップの先に緊急救援信号用の仕掛けがあったらしく。それを稼働させれば、ラフテルの側からこちらの位置が判ったらしいのだ。…というのに、そんな点を全く知らなかったルフィだったという訳で。
"…まあ、らしいっちゃ らしいよな。"
こらこら、サンジさんてば。(笑) 面目ないとか申し訳ないとか。そんな気持ちで"しょぼしょぼぼん"と落ち込んでしまったルフィには、彼より幼く見えるチョッパーも"あまり責めても何だし"と、とりあえず話題を変えてみせる。
「Prof.ヒルルクが新しい"エターナルポース"を開発したんだ。」
壊れやすいという点へは前々から苦情が殺到していたらしくおいおい、
「それを使って、ルフィたちの船が航行した軌跡をって、本局に残ってた記録を片っ端から洗ったんだ。」
本来なら、先の章にて出て来た"緊急救援信号"というのをキャッチして迎えに行くのが通例なのだが、今回ばかりはその信号がどんなに待っても送られて来ないものだから。
「本局が始まって以来の事態だってんで、そりゃあもう大騒ぎだったんだからな。」
チョッパー曰く、ルフィはなかなかルックスが良いものだから、公安局のいわゆる"公告塔"のようなもの、つまりはアイドルでもあったらしい。
「…いや。それでってことから皆が必死になって構えたって訳じゃないけどね。」
そらそうだろうが。
………で。
「ということは、だ。」
外出先から帰って来たばかりのルフィと新たにやって来たお客様とに、はちみつ風味のレモネードを作って出してやったサンジが、その細目の顎に手をやって…少々口ごもった。だってサ。こらこら
「もしかして"お迎え"に来たのかな?」
トナカイさんが感極まって言ったように、ルフィはあくまでも…こちらの世界から戻れなくなった"遭難者"だ。彼の本来の居場所は"ラフテル"という名前の異次元世界であって、此処ではない。………だが。何となく及び腰な訊き方になるサンジだったのも、イガラムさんが何へか心配そうな案じるようなお顔になったのも、これまた仕方のないこと。1年間を一緒に過ごすうち、この…ちょぉっと頼りないが屈託なく明るい少年のことを、もうすっかりと 憎からずという以上の"可愛い隣人"として把握していたからだろう。いつかは"故郷"へ帰る人物だと分かってはいても、心のどこかでは…このまま此処で気軽に顔を見ることが出来る、いつでも逢える存在だと親しんでいればこそ、現実のこととしてその離別がこんなにも突然やって来たことへ、何となく…浮足立ってもいる様子。
「それなんだけどもさ。」
甘酸っぱいレモネードにニコニコと御機嫌そうなお顔を見せていたチョッパーくんは、不意に真面目な表情となり、傍らに腰掛けたルフィの方へと向き直った。
「ルフィ、お父さんは…シャンクスは、どうしたんだ?」
えと。覚えていらっさるでしょうっか。前回の…4月に公開致しましたお話の中、保育園のシーンにて。イガラムさんと三笠まんじゅうを食べながらお話ししているシーンがありましたが、その中に、こういうやり取りがありましたよね?
『…それで。お父さんの行方の心当たりは掴めそうですか?』
『父は…やはり捕らえられたと見る方が良いようですね。』
そう。このルフィくん、実はたった一人でこちらへやって来た訳ではなく、お父さんと一緒だったらしいのだ。
「お父さんが一緒なら、こんな無様をする筈ないもんな。」
「…うう。」
はっきり言いはる。(笑)
「そもそも、お父さんが補佐についての"候補生出動"だったんだぞ。体力とか戦闘能力はずば抜けてるけど、まだまだ応用が利かない新米も良いとこだったんだからな。」
DNA消滅だなどという恐ろしげな権限まで持つ係官…にしては。何だか頼りないよなと、事ある毎に感じていたサンジさんやイガラムさんも、先程の"緊急救援信号を知らなかった"というのが決定打になって、その点では今更驚きはしない。むしろ、
"…やっぱりなぁ。"
確信を得てホッとしたようなくらいである。(それもどうかと…/笑)
「だからさ。」
大事そうに抱えて味わっていたレモネードのグラスをテーブルに戻したチョッパーは、ルフィの方へと体ごと向き直り、改まったように構え直して、
「どうする? 引き続き残って一緒に探すか?」
「…え?」
そんな風に訊いたのだった。真面目なお顔になってもどこか愛らしい気配の抜けない、ムクムクふかふかな時空警察の同僚さんは、キョトンとしているルフィに向かって言葉を続けた。
「1年も異郷に居たんだ、里心も強いだろうからってことで、このままラフテルに帰って来ても良いって。でもな、この土地に馴染んだルフィが、このまま引き続いてその捜索任務を引き受けてくれないかなって打診もあるんだ。」
本部からの指令、というほどの"命令"ではないらしく、
「土地勘だけじゃなく、此処の此処なりの常識とか風俗とかにも馴染んでいるだろうし、何より、知り合いやお友達っていう心強い"協力者"も作っているみたいだし。」
傍らで二人の話を聞いているサンジらを見やって、ニコォと笑って見せたチョッパーである。
「それって。」
つまり。本人が選べということであるらしい。
「どうする? 帰りたいなら、すぐにも連絡をつけて船を呼んでやる。懐かしいラフテルに戻れるがその代わり、当分は…向こうでイヤってほどに補習講座を受けさせられる。」
「ううう…。」
こらこら、そんなさらりと脅してどうするね。(笑) 昔からお勉強は苦手だったらしい、俯きかかった幼馴染みさんへ、チョッパーは"くすくす"と笑って見せ、
「此処で引き続きの任務に就くんなら、この人たちともまだ少し、一緒にいられるぞ?」
あらあらまあまあ、そこまでもが"お見通し"だったらしくって、
「そりゃあ、あのその…。」
どこか子供じみた駄々に近い感情まで読まれていたことへか、頬をほやりと赤くしたルフィが。チョッパーからの問いかけへ、
――― 此処にまだ残りたい。
そうと答えたのは、ほんの1分ほど逡巡してからのことであった。
"何への未練からなのかは、分かったもんじゃないけどな。"
おいおい、サンジさん。(笑)
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*何だかのんびりとした更新になってるような気が。
ど、どうか気を長くお待ちくださいませです。 |