Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

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 わざわざルフィを探して異次元からやって来た、直立トナカイのチョッパーが提示したのは"今すぐ戻るか、まだ少しばかりここに居残るか"という選択。いきなり現れたチョッパーであったから尚のこと、このまま慌ただしく旅立つのは何とも気が引けたし、こちらで仲良くなった人たちとも別れ難かったルフィは、引き続き此処にいるという方を選んだ。

 という訳で。こちらの"現地"にて、父上捜索という新しい任務に就くこととなったルフィだが、
「…謎の組織?」
 新たに加わった新顔であるチョッパーは、ルフィやサンジから聞いた"こちらでのこの一年間"という情報の中の"それ"へと大きな瞳をキョロキョロさせて見せた。
「うん。何だか奇妙な怪人を仕立てていてね、どうやら時空トンネルを探してるみたいなんだけど…。」
 ルフィはそうと言ったものの、
「でもな、こないだ対決することになったその怪人は、組織が開けたらしい"次元穴"で逃げたんだ。」
「"次元穴"?」
 そんな付け足しを聞いて"うむむ"と考え込むチョッパーである。場所は先程と変わってはいない、喫茶"バラティエ"の奥の居間だが、さすがにイガラムさんは保育園へ戻った後であり、
「それはおかしい理屈だな。」
「何がだ?」
 二人へ晩ごはんの支度をしてやって、そのまま話にも加わっているサンジが口を挟んで来たのへ、
「"次元穴"を開けられるのに"時空トンネル"を探してるって理屈が、何か変だ。」
 大真面目に鹿爪らしい顔をするチョッパーだったが、
「………それって不思議なことか?」
「えと。」
 サンジから訊かれたルフィが小首を傾げ、
「"次元穴"を開けられるということは、空間と空間の間を通り抜けられるということです。そんな能力があるということは、ラフテルとか他の次元世界へ跳躍するための"時空トンネル"を、自分では開けられなくとも"察知する"だけならそんなに難しいことではない筈だって思ったチョッパーだろうと思うんですが…。」
 ………おおお、長い説明台詞を、一気によくもまあ。

  「ちなみに…ルフィ、意味分かってるか?」
  「んにゃ、全然。不思議穴がどうかしたのか?」

  そんなところだろうなぁ。
(笑) 話を戻そう。

「この次元世界内でだけ行き来出来る穴しか開けられないのか、やっとそこまで出来るようになったか。そのどっちかだろうな、うん。」
 独り言のようにそうと結論づけたチョッパーは、
「ルフィは…不審には思わなかったのか?」
 一応そうと聞いて来る。どうやらこのトナカイくんは頭脳型の係官らしく、実行班系で時々考えが先まで及ばないことの少なくないルフィを、いい機会だから教育するつもりでもあるらしい。だが、
「その点にはイガラムさんが、今チョッパーが言ったのと同じ意見を下さったよ? 同じ空間の中での壁と、他所の空間との境目の壁とでは、厚さとか構造とか何とか、要素的に随分と違うもんなんでしょうからねって。」
 けろりと言い返す彼だったものだから。
「ふ、ふ〜ん。それは良かった。」
 あはは、センセーになれる機会を逸してしまいましたな。
(笑) だがだが、それはまあ置いといて。
「どっちにせよ、そこまでの技術があるというのは捨て置けない存在だよな。」
 チョッパーくん、再び鹿爪らしく考え込んだ。
「そいつらは間違いなく、此処ではない次元から来た存在だろうからな。」
「ラフテルの住人…じゃあないのか?」
 だったなら、身元やら能力やらをもう1ランク絞り込めるんじゃないか?とサンジが訊いたが、
「う…ん。確かに、此処以外の、他の次元世界の存在というのは、向こうでも理論でだけしか把握されていないから。こんなことして此処の世界に潜り込んでるだなんて、ラフテルからの人間だろうって見なして間違いはないと思うんだけどね。」
 チョッパーは少々言葉を濁す。それまでのかっちりしたお返事とは、何となくトーンが違うようで、
"???"
 小首を傾げたサンジだったが、それへはルフィが、
「あのね。チョッパーは他の次元のお友達を見つけたくって研究してるんだ。」
 こそりと囁いて補足をした。
「此処の世界ではさ、例えば太陽系には地球以外には生物が存在し得ないって言われてるでしょ? でも、もしかしてもしかしてって、信じてたり研究してたりする人もいるでしょう?」
「…成程ねぇ。」
 普遍的な定説や理論ばかりを鵜呑みにして育った、がっちがちのクールな科学者って訳でもないらしいということか。そういえば、数学や物理学に長けた天才肌な人の中には、そういう世界では認めがたいものだろう"ファンタジー"や"オカルト"の熱烈なファンが少なくはないとも聞く。サンジはほのかに目許を緩め、小さなトナカイ博士にやさしい視線を送ったのであった。



            ◇



 とりあえず。彼らが直接向き合わねばならない問題は、行方不明のままなルフィの父上と、その謎の組織と。
「くどいようだが、半人前の候補生を補佐出来るほどの係官だったシャンクスが、ただの遭難とか迷子になっているとは考えにくい。」
「…ホントにくどいぞ。」
 方針は定まったが、では。
「やっぱ、相手が殴り込んでくるのを取っ捕まえるしか策はないなぁ。」
 翌朝の開店前の"バラティエ"の店内。ルフィが店の前から戸口までを丁寧に掃除していて、その手つきはさすがに慣れたもの。
"凄いな。向こうじゃ掃除どころか、横のものを立てにしないような奴だったのに。"
と、こちらはカウンターやテーブルの上を磨いている愛らしいトナカイくんで、
「おや、二人ともありがとな。」
 フレッシュな果物やら焼きたてのパン、ランチセット用の具材のあれこれを配達して来たフード会社のお兄さんとの応対にと、裏へ引っ込んでいたサンジがやっと戻って来て、きちんと掃除がなされた店内の様子へ"ほほう"と感心する。
「そうそう、チョッパーの方は、悪いが昼間は此処の二階にいてくれないか?」
 すぐにも使う、モーニング用の食材をカウンターの中のパントリーや冷蔵庫へと仕舞いながら、サンジがそんな声をかけたのへ、
「うん。オレからもお願いしようと思ってたんだ。」
 さすがは優等生で事情を飲み込むのもお早い。
「此処は獣人は居ない世界みたいだから、明るいうちにオレが外をうろちょろするのは不味い。」
 そうと言い、
「昨夜の内にテレビやネットなんかでざっと調べてみたけれど、ロボットや縫いぐるみに絞ってみても、まだまだいかにも人形って感じの支援ロボットとかがいる程度らしいからね。」
 おおお、一応はリサーチしてみた辺りが頼もしい。ちなみに、開発中の様々なロボットたちだが、どうしてまたエンジニアリング系の科学者の皆様は"二足歩行"とか"人型"にこだわるのか、ご存知だろうか。産業ロボットに見られるロボットアームのように、1つか2つの目的にだけ合わせて、独立した機能を持たせたもの…という方が採算も効率も良いに決まっている。昨年末だったか今年に入ってからだったか、完全自律型をうたった掃除機が発売に至ったのをご存知だろうか。部屋の隅の充電ブースに装着しておくと、決まった時間や留守中などに勝手にそこから走り出し、壁や障害物、段差を器用に避けながら、床全部を掃き清めてしまうという円盤型の掃除機で。この、いかにもSFなんぞに出て来そうなマシンもまた、掃除をするという機能だけをクリアするためには何も人型にする必要はない。ぶっちゃけた話、アイボくんに掃除機を操作させるという形にすることはない。だのに何故、人型にこだわるのかと言えば、その新しい隣人に"多機能"という性能を装備したいのである。掃除機も洗濯機も食器乾燥機も操作出来る多機能。足腰が不自由なお年寄りに肩を貸せる一方で、お食事の給仕も出来る多機能。掃除しか出来ない掃除機や洗濯しか出来ない洗濯機を、仕事に合わせて使いこなせる多機能。メイドさんや執事さんとしての、人間の代理としての多機能。

  「脱線が好きな筆者さんだなぁ。」
  「まあ、ロボット関係は得意分野だったらしいからな。」

   あはは…、ごめんなさいです。/////

「でもさ、フィギュアや人形造形の分野も物凄く発達してるのに、どうしていかにも縫いぐるみって感じの人形しか作らないんだ?」
 生活支援ロボットや癒し効果を狙ったお人形にも、いかにも縫いぐるみとかいかにもロボットという形のものがあまりに多い。それへと小首を傾げるチョッパーへは、
「リアルにすると色々と弊害が出るからだと思うぜ?」
 コンロの前に立って二人への朝食を作りつつ、サンジがそんなお言葉を放って寄越す。
「弊害?」
「ああ。人ってのはサ、それが人形や縫いぐるみみたいな生きものの形をしていないものへまで、名前をつけることがあるだろう? そうやって、まるで兄弟や友達みたいに大事にする。」
 ある意味、愛着という観念。好きな人にもらったブローチ、お気に入りの車、大好きな鉢植えの花、毎朝通る路傍に立つ樹。名前をつけて向かい合い、呼びかける。疑似人格を持たせる行為。
「大切にする反面、壊れたり無くしたら、そりゃあ哀しいと思う。それが工業製品ならば、同じものがいくらでもあると言われてもサ、自分の大好きだった"それ"は、それ1つしかないからな。」
 それは分かると頷く二人へ、
「そんな感覚を持つ人間に、例えば人そっくりのロボットを与えたらどうなる? 支援機械だってのに"人間"扱いしかねない。優しい心を持つのは良いことだし、癒しって方向ではその方が良いかもしれんがな。」
 サンジは此処で言葉を区切り、煙草を咥えて火を点けると、
「深い思い入れを持ってから、その相手が…痛みを知らない、人間ではない、教えたことをこなしているだけ、そんな事実を改めて思い知るような何かが起こったら。人の傷つきようは只事じゃないかも知れないだろう?」
 例えば恋愛感情を抱いたら? でもでも相手は誰にでも同じ笑顔を見せるロボットさんだったら?
「そんな弊害を恐れて、わざと、掛け離れた姿にしているんだって聞いたことがある。」
「へぇ〜〜〜。」
「サンジ、凄げぇ。」
 こらこら、あんたたち。また素に戻っとるぞ。
(笑) ちなみついでにもう1つ。映画のSFXもまた、わざと"CGでございます、SFXでございます"という使い方をすることがあるそうな。獰猛そうな動物たちがゲーム盤の中から次々飛び出して来る『ジュマンジ』という映画でも、もっとリアルなライオンやゾウ、サイを描く事が出来たにもかかわらず、いかにもな映像に押さえたのは、映画で初めてそれらを見た子供たちが本物の動物たちを怖い生き物だと思わないようにという配慮から。確かに野生の動物たちには"怖い生き物"な面もあるけれど、映画から入ってそんな先入観を植え付けられるのは順番がおかしい。自分の生の感覚で把握してほしいことだから…と、そういう配慮からそんな処理がなされたということです。………閑話休題。

「ルフィのお父さんって、やっぱり…その怪しい組織に連れてかれたってみた方が良いのかなぁ。」

 お揃いのトレイに出されたモーニングセット。カウンターに並んでぱくぱくと食べながら、チョッパーは話を一番最初の話題に引き戻し、どこか遠慮がちな口調でそれを持ち出した。
「うん。ただの行方不明とは考えられない以上、それしかないと思う。」
 妙な言い方になるが、だとしたら無事でいるという可能性も高くはなる。
「けどな、あれほど優秀な航海士だったシャンクスさんだ。それを手に入れたんなら、連中が時空航行用の次元穴を見つけられないまま、ずっと手をこまねいてるってのは訝
おかしいぞ?」
 そう。彼が無事なままならば、例えばルフィに危害を加えるぞとか何とか脅されたりして、何らかの利用をなされている筈ではなかろうか。1年もの間、捕らわれの身のままで"貴様らの良いなりにはならん"と頑張ってらっしゃるということか。
「意志の強い人だったから、そういうの、出来なくもないけどな。」
「…う〜ん。」
 その問題へと思案を向けると、どうしても堂々巡りになってしまう彼らであり、
"………大変な事なんだよな、実際の話。"
 日頃明るく振る舞う彼なものだから、ついつい忘れてしまいがちだったが、お父さんの安否という大変な問題を抱えているルフィなのだ。そうまで重い鬱屈を抱えてもなお、お日様のように振る舞えるところは、考えようによっては…彼の心の強さや頼もしさでもあろう。そんな彼だからこそ、故郷のラフテルとやらでも人気を集めていたのだろうなと思いつつ、
"頼りないだなんて思うのは、こっちの驕
おごりだったのかもな。"
 そんな風な感慨も新たに、サンジは可愛らしい二人を眺めやっていたのだが、

  「………っ!」

 不意に。もうあらかた食べ終えていたチョッパーに目配せをする。チョッパーの側でも気づいたらしく、ちょっとばかりお行儀は悪かったがトレイはそのままにスツールから飛び降りて、慌てて店内の奥へと掛けて行き、住居部分へと飛び込んだのとぎりぎり入れ替わりのように、
「…よお。」
 ドアベルが"ころろん"と鳴って、今日一番のお客様が入って来たのである。おおお、間一髪でございましたねぇ〜。………で。
「あのな。まだ"準備中"だぞ。」
 サンジが苦々しい顔を向けたのは、
「でも、ドアは開いてたぜ。」
 無理からこじ開けちゃあいないと笑った、ロロノア=ゾロさんだったのである。





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 *他のにばかり手が行くもんだから、話がなかなか進みませんね。
  あああ、こんな調子で大丈夫なんだろうか。