Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

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 そういえば。長々と別場面が挟まったが、ルフィがゾロさんにお花見へと連れてってもらったのは"昨日"のことである。更新に時間が掛かってるせいで、季節までがかなり通り過ぎてしまったが、これは一重に筆者の筆の遅さから。どうも すみません、すみません。
(汗)
「お、おはようございます。」
 こちらも食事中だったルフィがフォークを片手にカウンターから振り返り、
「昨日はありがとうございました。」
 とってもとっても楽しかったですと、含羞
はにかみに染まったお顔で微笑って見せる。そんな少年へ、
「こっちも楽しかったよ。レポートだ何だって、書きもの仕事が続いていたからな。遠出をしたのも久々だったし。」
 にっこり笑い返してから、サンジの方へと向き直り、
「今日は注文があってな。ウチの教授んトコにお客様が2人ほど来るんで、昼にサンドイッチのセットを届けてほしいんだ。」
 ははあ。それで、いつもは昼に来るものがこんな早くにいらした彼なのね。
「学食も休みだしな。それで、ここのセットなら美味いし配達もしてくれるって進言したって訳だ。」
 売り上げに貢献してやったんだ、感謝しなと。腐れ縁の旧友へ、いかにも男臭くにんまり笑う彼であり、
「へえへえ。」
 気のない返事を返しつつ、それでも…内心でホッとするサンジだ。
"あっぶねぇ〜。"
 チョッパーが慌てて住居部分の奥へと飛び込んだのが、どうやら彼の目には留まらなかったらしい。
"………。"
 こんなに警戒しなくとも、もしかしてこの彼もまた…自分たちだけが抱えている事情を知ったとして、快く協力してくれる側の、気の良い奴だと思わないではないのだが。違った場合のルフィの受けるだろう打撃を考えると、ここはやはり慎重に構えたい。武骨で強壮、それはそれは頼もしき青年へほのかな恋心で懐いている少年は、今も ほややんと憧れの滲んだお顔を彼へと向けていて、
「それじゃあ、昼にな。」
「ああ。12時で良いんだな。」
 そんなやり取りの後に忘れず視線を向け直してくれたゾロへ、あわわと真っ赤になっている始末。それへと軽く手を上げる会釈を残して、軽快な足取りで店から出てったお兄さんの存在感の余韻を"ほう…っ"と堪能しているルフィの背中を、こちらは少々複雑な思いから眺めていると、
「あれがゾロって人なのか?」
 こそこそっと。足元からの愛らしい声が掛けられて、サンジは苦笑しながら…這うようにして戻って来ていたチョッパーをひょいと両手で抱えてやった。
「ああ。ルフィがぞっこん首っ丈なお兄さんだ。」
「ふ〜ん。」
 緋色の山高帽子をひょこりと傾げて、ドアの方を見やっていたチョッパーは…どこか曖昧な声を出す。
「どうしたよ。」
 ルフィ本人は別に禁じられてはいないという言い方をしていたが、やはりラフテルでは"同性愛"というもの、異端視されていることなのだろうか。案じるような声になり、こそっと訊き返したサンジへと、
「あ、ううん。うん、大したことじゃあないんだけれどもね。」
 チョッパーは慌てたように首をぶんぶんと横に振って見せた。帽子から飛び出している枝分かれした角が当たりそうになって、
「わ、分かったって。」
 サンジが慌てて見せたほどだったが、

  "でも、なんかあの人…。"

 おやや? 何か曰くがあるんですかね、チョッパーさんたら。






            ◇



 ご飯も食べ終わって、さてとてと。保育園は来週の末までお休みだから、ルフィにはすることがない。時たまはお店のお手伝いをすることもあるが、ここいらは保育園に通ってる子供やそのお母さんなぞがよく通る場所なので、いくら"下宿先"だとはいえ…そうそう"お掃除の会社のお兄さん"が此処でばかり働いているのも妙なもの。今日は手伝いは良いからとサンジに言われて、
「なあ、チョッパー。」
 奥の居間にて、これまで唯一の武装として使って来た"ヴォイド・ソード"や、あのジャンプスーツのような衣装を普段は指の先くらいに小さなカプセルに収めて隠しておく"粒子変換ベルト"の調子を点検してくれていたチョッパーのお手伝いをしながら、ルフィはぽそっと訊いてみた。
「父さんを探して見つけて、さ。任務が全部完了したらさ。」
 あのさ…と、そこで何となく言い淀む彼に、
「…帰りたくないんだろ、ラフテルに。」
 顔も上げぬまま、チョッパーは単調なお声で先回り。
「う"…。」
 途端に…図星だったからだろう、何で分かるんだよというお顔になるルフィだが、
「分かりやすいって、ルフィはいつも。」
 すっぱりと言い返したチョッパーは、だが、どこか淡々とした…言い聞かせるようなお顔を上げて、
「言っとくけどサ、ラフテルでは沢山の人たちがルフィのことを心配してるんだ。たった1年で忘れられちゃあ、その人たちも可哀想だぞ?」
 チョッパーとしては。ここへの不時着をしたその直前までそこにいた、ラフテルの方こそが"自分が本来属する世界"だという観念が強いのは当然で。こっちの世界の方に執着が強そうなルフィへは、ついお説教っぽい言い方にもなるのだろう。
「ネット・アイドルだったからってだけじゃない。ルフィのお元気さは、皆の希望なんだからな。」
「…うん、分かってる。」
 おお、そうだったですか。ルフィくんたらアイドルだったですかvv でもでも、しょぼんと小さな肩を落とした姿は、ただの気弱そうな少年にしか見えない。ちょっとキツく言い過ぎたかなと、チョッパーは山高帽子のつばをちょいちょいと蹄の先で決まり悪そうにいじってから、
「そりゃあラフテルは…此処みたいに直接逢ったり接したり出来る人の数は、物凄く限られてるけどさ。」
 時空旅行なんてものが実現しているほどに、先進の科学が様々に進んだ世界なのだが、なればこそ微妙に。此処のような…人と人との直接の触れ合いというようなものは、極端に乏しい世界でもあるラフテル。実際に腰を上げて相手の傍らや待ち合わせ場所へ逢いに行かなくても…と、そういった文明ばかりが進み過ぎて、こちらの温かさに比べたらそれはそれは味気ない世界だという印象しか浮かばなくなってもしようがないのかも。ましてやルフィは、人一倍明るくて人懐っこい性格をしているものの、実を言うと…少々寂しがり屋なところもあった。お母さんを早くに亡くし、お父さんは有名な時空航海士であったがため、家族さえいないままに一人で過ごす時間がずっと小さい頃から多かったらしいと、チョッパーもその辺りは重々知っている。
「…ホント、ルフィが此処に凄く馴染んじゃったの、分かるよ。…っていうか、時空跳躍犯罪が多いのって、こういう"人と接する"って文化や風習に焦がれた人達がいかに多いかって現れなのかもしれない。」
 それは便利な道具やシステムなどといった科学技術の発達と引き換えに、手間をかけることで分かち合える人と人との"色々"を失
くし、至って無味乾燥というような環境になってしまっているラフテル。人がフレキシブルな"生まもの"である以上、柔らかくて温かい色々な接触に、本能的な部分で焦がれてしまうのもまた無理のない話。こちらでは当たり前に溢れているそれらに心奪われて、魅惑の異次元への脱出が後を絶たないのかもなとチョッパーはそうと感じたらしいのだが。…何だか話が大きな範囲へと及んだようで、
「?」
 何の話?と、キョトンとして見せるルフィに、
「………あのね。」
 少々呆れたチョッパーだったりする。まだ候補生だったとはいえ、一応は時空警察の係官だろうに。色々と洞察する習慣が相変わらず身についていない彼なのが…困ったものであるのと同時、彼らしい屈託のなさでもあって。

  "やっぱり適性的に職種を誤ってるとしか思えないんだけどなぁ。"

 そだね、うんうん。
(苦笑)





            ◇



「行って来ますvv
 ゾロが研究生として通っている大学院は此処からすぐのご近所なので、彼から頼まれた出前はルフィが持ってくこととなった。この喫茶店に下宿しているということ自体は知られているので、まま今回は"お手伝い"ということで。
「食器は下げに行きますからいつでも良いって言っとけよ?」
「は〜い。」
 時々は大学構内への出前をこんな風に手伝ってもらっているので、まあ迷子にはなるまいし、ゾロが待つ出前先だから余計な寄り道もしなかろう。

  「冗談抜きに。虫だの何だの捕まえて持って帰ってくんじゃねぇぞ。」
  「あはは…。」

  そういや苦手でしたね、サンジさん。
(苦笑)

 少し多めの3、4人分ということで、蓿
つづらみたいなステンレスの密封蓋付き縦型保冷パントリーと、サービスのコーヒーを入れた大きめの水筒を背中に負って、ほてほてと歩いてゆくルフィであり、
「さて、店の方もぼちぼち混んで来るんだが…。」
 そう言いつつ。サンジはチョッパーが引っ込んでいる居間にやって来ている。
「お店は良いのか?」
「ああ。今は春休みなんでな。バイトの子が昼からも来てくれてんだ。」
 自分の分もと昼食を運んで来て、先に食べておこうというつもりであるらしく、ソファーの間のローテーブルに並べられたのはオムライスとチキンバスケット。ルフィの分は後で改めて作るからと、二人で食べ始めてどのくらい経ったか、
「…なあ。」
 ふと。サンジが声をかけて来て、
「んん?」
 空になったお皿にスプーンを置いたチョッパーだと見て取ってから、

  「ルフィみたいに事故で行方不明になってる"時空渡航者"ってのは、
   他には全く居ないのか?」

 そんなことを訊いたサンジさんである。途端に、
「………。」
 チョッパーはどこかおどおどと落ち着きをなくしたように視線をさまよわせて見せたが、それも一時のこと。
「うっと…あのね、ルフィには内緒にしててよね。」
 そうと前置いてから、
「表向きにはね、いないことになってる。」
 そんな風な言い方をしたチョッパーだった。そして、
「やっぱりな。」
 サンジさんとしても、予測はあったのだろう。会釈をしてから煙草に火を点け、煙が外へ流れるようにと窓辺へ寄る。今日は朝からぽかぽかといい日和だったので、窓も細く開けていた。その隙間に真綿を引いたような細い煙が吸い込まれ、外へ外へと流れてゆくのを無言のまま、目で追っているサンジへと、
「でもねでもね、ちゃんと捜索専任の部署があって、救助率は96%以上で…。」
「ああ、判ってる。」
 何も"悪質な隠し立て"を疑ったサンジではないらしく、
「いくら知名度が高かったらしいとはいえ、あんなお子様へもきっちりお迎えを出すくらいだ。ちゃんと対処はしてるだろうなと思ってたさ。」
 そう言ってチョッパーを宥めるように柔らかく笑って見せた。はっきり言って…チョッパーが知ってる"救助率"とやらも疑い出せばキリがないのだが、そこまでこの子に突き付けて困らせても仕方がないのだし、そもそもサンジが訊きたかったのはそんなことではない。
「いくら科学が進んでいたっても、時空渡航ってのはよほど難しいことならしいな。」
「えと、うん。」
 サンジの訊きたいらしいことの輪郭が何となく判って、チョッパーは今度は素直にこくりと頷いた。
「ただ航海術と専用の時空艇があれば良いとか、エターナルポースがあれば良いとかって簡単さじゃない。時空艇は開発が進んで来たから、飛び出すのはさほど難しくはないけれど、戻って来るのは物凄く難しいんだ。」
 振り上げられた大きな瞳に浮かぶは真摯な光。
「時空渡航は、四次元にしかない時間軸を横滑りすることで三次元上の別空間へジャンプするっていう理屈で成り立っているからね。どこって狙いをつけて飛び出すのはそうそう難しいことじゃあない。時間や時代が"目的地"とずれてたっても、その時空内での時間移動をし直せば良いんだしさ。」
 ほほお。時間移動の方も可能なんですな。これは意外だと、サンジがかすかに驚いたが、チョッパーは気づかなかったらしくって、
「…でもね、向こうから元々居たところのラフテルへ戻って来るのは物凄く難しい。時間軸上での移動って理論を実際にやれるようになったと同時、勝手に過去や未来へ行かないようにってことで、中央政府が物凄い頑丈なプロテクトを全空間にかけちゃったんだ。突然に歴史が変わることほどの混乱はないからね。だから時空渡航局の許可が下りてて特別な誘導がない時空艇は、ラフテルの次元世界へは侵入出来ないし、たとえ力づくで入れても正確な帰還はまず無理になっちゃったんだ。」
 時空警察の渡航取締り担当官である彼でなくとも、ラフテルというところではそれが当たり前の規則や常識なのだろう。すらすらと説明出来た小さなトナカイくんは、だが、こんな話題を持ち出したサンジの意図を測りかねてか、ひょこんと小首を傾げた。そんな彼へ、
「何ね、ここいらで時々暴れて下さる例の怪しい組織なんだが。」
 ふう〜っと紫煙を細く吹き出し、
「もしかしたら大した野心とかは構えてなくって、ただ"戻りたい"だけなんじゃないかなって思ってさ。」
 そんな風に言い出したサンジである。そして、
「…あ。」
 言われてチョッパーも、その先が何となく判ったらしい。そんな察しの良さへと小さく笑いかけ、
「空間移動だなんて、此処の世界の人間にはまず出来ないことだからさ。それを使って、開き直ってこっちで世界征服なんてのを構えたらあっと言う間に完遂出来ると思うんだがな。あくまでもこそこそと行動してるのが…こっちに都合が良かったから深く考えなかったもんの、そういう大胆な行動には出ないのがやっぱ不自然だよなって感じてな。」
 彼が考えていたところというのを披露して、
「ま、それを思うと、ルフィの父上はやはり無事だろうって公算も高くなるから、俺としては"そうあってほしいな"って願望から想定してみた見解なんだけれどもな。」
 何とも大人びたお顔で言ってのけたサンジさんである。

   「うわぁ〜〜〜。サンジ、かっこいいぞォvv」

 こらこら、チョッパー。あんたまで素に戻らない。
(笑)







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 *お次は恐らく、やっとの活劇シーンかもしれないです。
  これがまた面倒なんですけれどもね。(とほほん)