Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   
BMP7314.gif 虹色の約束は守られたか? C BMP7314.gif 〜ナミさんBD記念企画
 



          



 ともすれば気難しそうな顔立ちと、力仕事専門ですという雰囲気のいかつい外見から、最初は警備担当かと思っていたものが、実は"執事さん"だったゴートさんで。声を掛けられたそのまま一緒に門の外へと出た3人が導かれたのは、屋敷の敷地を柵に沿って少し巡った先にあった小じんまりとした一軒の家である。どうやらそこはゴートさんの私的な持ち家であるらしく、此処ではあまり寝起きはしないのか、散らかってはいなかったが生活臭も薄い。先程までいたお屋敷の広間に比べるべくもない小さな居間に通されて、
「皆さんは外海からおいでの方々とお見受けしましたが。」
 大きな体つきと武骨そうなその外見に見合わない、器用な手つきで淹れて下さったお茶はなかなかに美味しくて、サンジの料理で随分と舌が肥えてしまったナミのみならず、左党のゾロまでが"おっ?"と眸を見張ったほど。そんな面々が"渡航者なのか?"という問いに頷いたのを確認してから、
「こんなことをお聞きするのは、奥様の意向ではなく私の勝手な独断なのですが。」
 そうと念を押すように前置きしたゴートさん、

  「トーラス号という船の噂を、どこかでお聞きになってはいませんか?」

 こそりと。そんなことを訊いて来た。
「トーラス号?」
「はい。中規模のごくごく普通の商船です。」
 ログポースを辿って順当にいらしたならば、この島の1つ前の島ででも噂を聞いてはいらっしゃいませんかと、それは真摯な顔になって訊いてくる彼であり、
「う〜ん。規模やら船種やらが特別で名高い船だとか、何事か事件があって噂が立ってたっていうなら記憶にも残っていようけど。」
 先の島自体がそれほど特長があった土地ではなく、平凡な補給港とその周辺には牧場や畑があった程度の小さな島。その先の春島海域にあった花咲き乱れるリゾート島や、この島からの船が、航海途中の連絡中継地に使っているような土地柄だったような…という印象しか残っていない。そこから此処への航路にしても、それほど荒れた海流や気候だった訳でなし。だからこそ、ログを逆辿りしている定期船だろう貨物船などとすれ違う機会がなかった訳ではないけれど、
"こっちが海賊船だと見て取るや、遠巻きにして避けられていたからねぇ。"
 航路や目的地に関する情報は、それなり、きちんときちん収集している彼らであり、ロビンが同行するようになってからは、彼女から…かなりコアな"その筋の方々"の情報まで入手出来るようになっており。
「航行に支障が出そうな情報は逐一チェックしてるけれど、遭難したの衝突事故があったのというよな話の覚えはないわね。」
 ナミは記憶の中を一通りまさぐってから、やはり思い当たるものがないと応じた。それから、
「ただし、海賊に襲われたという船だったなら、情報が多すぎてキリがないから名前までは伝わって来ないって順番になるんだけど。」
 それもまた、このグランドラインでは致し方のない話。漁業や商いと同様な感覚にて、海賊行為も此処に住む人間の選ぶ"生業"の1つではある。勿論、暴力的略奪行為は法的に認可されてなんていないし、税金を収めてもいないのだから
おいおい そうそう胸を張って豪語出来る代物ではないけれど。海の上では…電話を掛ければ海軍が瞬時にして飛んで来てくれるでなし、そういう間隙を縫うようにして我がもの顔でやりたい放題をするのが一般的な"海賊像"というやつだろうから。
「…そうですか。」
 執事のゴートさんも…落胆の様子を見せはしたけれど、どこかで予想はあったという雰囲気で視線を落とす。これも"グランドライン"に住まう者にはあって当然の覚悟のようなもの。海に出るなら荒れる海と海賊に、その命、攫われる恐れも覚悟の内と思わねばならない。だが、意気消沈してがっくりと落とされた大きな肩を見て、

  「ねぇ。もしかして、奥様、カララ様って、命を狙われてない?」

 ナミの側からぽつりと呟くと、

  「…っ!」

 むくつけき執事さんはハッとして顔を上げ、ルフィが大きな眸を見開き、ゾロも ちろりと鋭い視線を投げて来る。そんな視線たちからの注目に、大きくしっかり"うん"と頷いて、
「あたし…と、この二人は、港が見渡せる公園で奥様に逢ったんだけど。あそこにあったのが、あのつながり眉毛の言ってた"虹の泉"なんでしょ?」
 そもそもの切っ掛け。ナミがあのカララ奥様に思わず声を掛けてしまった、その最初。噴水のある方を見やって こそりと涙してらした夫人へと、何処からともなく飛んで来た凶刃があったから…であり、
「あんな大きなお屋敷にお住まいなのだから、財産なり地位なりのある方に違いないのでしょうけれど。どこからともなく飛んで来た小柄に狙われてたなんて、尋常なことじゃあない。しかも、そんな形でお命を狙われていることへ、ご本人にも覚えがあるような態度でいらっしゃった。」
 ごくごく普通のご婦人ならば、そんな目に遭ったら腰を抜かして震え上がるものだろうに。まるで"日常茶飯だ"とでも言わんばかり。驚きはしたが慌て騒ぐことではないと、そんなお顔になってすぐさま平静を取り戻してしまわれた。館のホールにて、あのいやらしい口ぶりの男二人を敢然と追い払ってしまった、立派にして闊達な弁舌といい、
「ああまで毅然としていらっしゃるのは、そうでいなければならない理由もお在りな方だからなの?」
 ご主人を…夫を亡くしていらっしゃるなら、それに代わる跡継ぎが居ように、そんな空気もなかったような。

  『食が細くなった私一人のためにだけという調理では…。』
  『こんな小さなおばあちゃんの寝起きに、そんなにお部屋が要るでなし…。』

 ご自分で"一人暮らしですよ"と暗に仰有っていたし、

  『いくらリオスくんの安否を知りたいからと言ってもね…。』

 外海から来た者へ気を許すなと、自分たちへ聞こえよがしという言い方をしてくれたあの一本眉毛が口にした一言も、ナミには気にかかるフレーズだった。


  「…リオスって、どなたのことなの?
   もしかして、そのトーラス号とやらに関係がある人じゃないの?」








           ◇



 船を港に着けた彼らが宿泊を予定していたのは、港町の中心部にある そこそこの宿屋。別に係留している船で寝泊まりしたっていいのだが、せっかくの陸
おかなのだしということで、ログを溜めるのに2日以上かかる島の場合、広い空間と揺れないベッドで横になりたいとナミが言い出してこうなるのがセオリーで。ここでの逗留先に彼らが選んだのは、一般の渡航者向けの まま小綺麗なホテルであり、ナミやルフィ、ゾロが玄関ホールへと踏み込めば、
「遅い遅い。」
「そいつらと一緒してたんすか? ナミさん。」
 ロビーの窓辺近くの応接セットに陣取っていたのがウソップとサンジ、
「お買い物は殆ど済ませたそうよ。」
「全部揃えて明日の昼に船まで配達してくれるって。」
 こちらは階上からの階段を軽快に降りて来た…ロビンがにっこりと笑う傍ら、チョッパーも無邪気に笑って見せていて。何でも裏通りにあった古本屋さんの店先で、中を覗きたいけど驚かれないかなと逡巡していた船医さんにたまたま通りかかったロビンが気を利かせてくれて、そこから合流して過ごしていたらしい。
「まったくもうもう。ナミさんといいロビンちゅあんといい。俺とご一緒してくれたなら、何不自由のないエスコートを致しましたのに。」
 そんな気の利かない顔触れと歩いて来ただなんて、はああ残念と。水色の眸を伏せ、勿体ぶって かぶりを振って見せるフェミニスト・シェフさんだったが、

  「目ぼしい女性をナンパ出来なかったの? 彼。」
  「ぴんぽ〜ん♪」

 ロビンからすっぱ抜かれて、しかもウソップが正直なところをばらしたもんだから…新しく火を点けた煙草の煙に噎
せること噎せること。(笑) げほがほ、苦しそうな咳をしつつも、さすがはフェミニスト。さっきから一言も発せず"む〜ん"と考え込んでいるナミに気づいて、

  「…どしたんです?」

 慌ててお水を汲んで来たチョッパーごと、グラスをひょいっと受け取り、つまりは気を散らしたまんまにて。愛しのマドンナ様へ、気遣うような眼差しを向けたサンジさんであったりした。






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  *妙なところで切ってますが、何とか本題に入れそうな気配ですね。
   頑張らなくっちゃです。うんっ。