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夕方になってチョッパーを迎えに来たサンジは、ついでに…恒例となったおいしい晩ご飯を手際よく作ってくれて。テーブルに並んだのは、茹でたアスパラガスを、豚ロースの薄切りでくるんで岩塩で軽く味付けし、カリッと炙ったグリルと、ハクサイやタケノコ、ニンジンに干し椎茸、小エビにイカにウズラの玉子。強火で炒めてから、中華風味のスープを張り、仕上げにモヤシと青ネギを足して、水溶き片栗でとろみをつけた八宝菜。
「とろみをつけた中へ、少しずつ分けて素早く溶き玉子を流し込むと、ちょっとマイルドで深みのある出来になる。」
「ふ〜んvv」
キッチンいっぱいにゴマ油のいい匂いが立ち込める。今日の晩餐は中華風らしく、春雨とキュウリと錦糸玉子の酢の物に、冷製煮豚。薄く切った鷄ももの竜田揚げには、ピーナツみそをベースに松の実を散らしたあんをかけると、熱いところが反応してジュッと小気味の良い音を立てるのが空腹には堪らない。カウンター越し、早く食べたいぞとダイニングでワクワク待ってる王子様に、時々からかうような二言三言を放ってやりの、天を貫くほどもの大魔物たちが名を聞くだけで恐れて逃げ惑うだろう天下無敵の破邪殿を、テーブルセッティングにと顎で使いのと。手がかかる奴らだぜなんて愚痴を言いつつも、お顔は楽しげだわ、素晴らしくも良い手際だわ。ほんの小半時も経たずして、冷蔵庫にはお楽しみのデザートまで待機中という、おかわり自由の玉子チャーハンと素晴らしきおかずたちという美味しそうな晩ご飯が見事に出来上がり。
「いっただっきま〜すvv」
「おう、残さず食えよ。」
ほかほか熱ちあち、揚げ物は芳しい香り、炒めものは香ばしい匂いを漂わせ、おいでおいでと誘っており、食いしん坊のルフィでもついついどれから食べようかと迷うほど。
「旨んま〜いvv」
もうもう幸せという飛びっきりの笑顔が、どんな美辞麗句よりも雄弁な賛辞であり。ふふんと誇らしげな笑みを浮かべつつ、我らがシェフ殿、充実感に浸りながら、自分はキッチンに立ったまま、新しいたばこへと火を点けたものの、
「ん…もぎゅ、そうそう。なあなあ、サンジ。今日は、むぎゅむぎゅ、何のお仕事だったんだ? はぐあぐ。」
「…食べるのか喋るのか、どっちかにせんかい。」
擬音までお元気な、坊やからの屈託のない問いかけに。苦笑しつつも、隠すことでもないかと口を開いた金髪痩躯のシェフ殿であり、
「ナミさんが夏への“風渡しの儀”へ使者を送り出すんでな、
その準備を手伝ってた。」
シャーベットグリーンのストライプシャツの腕まくりに、藍色っぽい黒のスラックスと厚手のキャラコ地のギャルソンエプロン。蜜をくぐらせたような金の髪とか、宝石みたいな水色の瞳はちょこっと奇抜ではあったけど。どっから見たって、派遣サービスの一種“出張コックさん”風の青年だってのに、その口から“〜の儀”なんてな古風な言いようが飛び出すところが…典雅なんだか、ありゃりゃんなんだか。
“ありゃりゃんってのは なんだ?”
下地が解ってない人には、風変わり過ぎて理解されにくいコトかもってよな意味ですよ。外野の声なぞ、あんまりお気になさらずにvv むむうと眉を寄せた美丈夫さんだったが、
「そういえば、ナミさんは何を司ってるんだ?」
さっそくにもチャーハンをお代わりだと、席を立って来たルフィからのお声に我に返る。いくら…自然が美しいままな世界に住まわっており、その自然を汚すことなく、しかも不自由なく生活出来るような、不思議な魔法のような力がつかえる存在であれ。天世界の住人たちの全てが、何かしらの象徴だったり、大いなる“役つき”であるということはないのだが、
“そいや、こいつの知ってる天聖世界の関係者ってのは。”
黒須センセーの前世であり、ゾロの育ての親だった“コウシロウさん”っていう天使長さんは、穏やかそうな風貌と裏腹、豪烈な“嵐と戦い”を司っていたという。ゾロのお母さん代理をしていたロビンさんは“風の使い”といって、季節を限定しない風を司る立場にあった人だった。サンジの家は代々続く封印結界の専門家で、今の当主であるゼフさんは冬を司る天巌宮を守ってもいる。チョッパーの生まれ故郷で南の聖宮・天炎宮を守っているのは、天界の聖獣たちを統率するくれはさん。坊やが屈託なくお近づきになってる面々は、やたらと格の高い人々が多い。まま、関わり方が関わり方でしたから、それもまた無理もない話ではあるんですがね。
「ゾロやサンジへ指令を下すのの他に、春を司ってるんだよって聞いたけど。」
そいで、春先には何か“式典”があるんだろ?と、知ってるだけを口にしたルフィの取り皿へ、春雨サラダを盛ってやりつつ、
「…別に俺は、あんな女の“指令”で動いちゃいねぇよ。」
ゾロがボソッと反駁したが。それでも、彼女の的確な指示があって動いてる彼らには違いなく。負世界からの侵略者である邪妖を討伐する専任部隊。各次元世界の調和を守るため、他次元世界へ派遣される、高度な技術とパワーも兼ね備えた“破邪”たちを統括するというだけでも、それはそれは大きな重責。きめ細やかな情報分析力と、素早い機転を働かせられる瞬発力、そして多数の、しかも高度なレベルの能力者たちを動かすことが可能な人格と度量。そういった要素を全て兼ね備え、これ以上の適格者はいないとの評判も高い。若いに似ず懐ろが深くて、それと同時に…過激で放埒な天使長様。そんな彼女は、
「だから、東の天水宮の責任者様サ。春とその風を担当しておいでだ。」
ルフィから問われた意味合いでの“格”を、すんなりと口にしたサンジは、だが、
「破邪の統括っていう役職の至便性を考えての配置じゃあないから、そこんトコは誤解すんな?」
「???」
いやいや、誤解も何も。何でそれらが一緒くたにされるのかさえ、ルフィには解らなくって。お料理へと挑んでいたお手々が止まり、頭の上に盛大に疑問符を浮かべてキョトンとしている坊やへと、しまった先走り過ぎたかなとの誤魔化し半分の咳払いを“んんんっ”として見せてから、
「…だからだな。」
長くて厳しい冬が明けた春先こそ、雪に閉ざされ、寒風に身を凍らせ、耐え続けて来た人々が最も弱ってもいる頃合い。また、それまでの慎重さを解いて油断しやすくなる時期でもあって。そこをこそ、邪妖に付け込まれやすく疾病に罹かかりやすい時期でもあって。
「病気って“邪妖”のせいなの?」
サンジからの説明へ、おやや?と大きな瞳をますます見開いた坊やへ。火を点けないままの紙巻きたばこを肉薄な唇の端で上下させると、聖封様はにんまりと笑って見せて、
「科学とやらで何でも分析・解析しちまえる今時の人間からすりゃ、そんな馬鹿なって思うところだろうがな。」
病は気からとはよく言ったもの。気が緩む“油断”から心掛けを怠った隙へと襲い掛かる病は、言うなれば、弱った心に取り憑く魔性が齎もたらすものと言えなくもないという訳で。
「どんなに先進の医学であたっても、気力がすっかり後ろ向きな奴には効かねぇらしいからな。」
気分が落ち込んでいる人は、抵抗力も落ちるそうですしね。これもまた、科学とやらで解析すれば“ストレス物質”であるコルチゾールが発散されないままに蓄積されるから、快癒に働くホルモンが太刀打ちできなくて…云々と、それなりの“科学的な御説”もあるのだろうけれど、
「そうだよな。ぶるって寒気がしても背中丸めなきゃそんな重い風邪にまではならないし、もっと遊びたいからとか、明日は遠足なんだから寝てなんかいられないって思えば、それだってあっさり引っ込んじまうしな♪」
「だからって、あんまりな無茶はやっぱりいかんのだからな。」
だいじょーぶ、だいじょーぶと汗も拭かないで駆け回り続けたり、微熱があるのに“俺の体は俺が一番よく知ってるんだから”なんて…昭和一桁のお爺ちゃんみたいな言いようをする坊やには、たまにのことだが、たまにだからこそ、心配させられてもいるらしい破邪様が、その鋭角的な目許を眇めている。確かにね、生兵法は怪我のもと。少しばかりの知恵や心得があるからといって、それをだけ過信するとロクなことがないのは何にでも言えることだからね。
………で、何の話をしてたんでしたっけ?
「春先は邪妖が徘徊して取り付きやすいって話じゃなかったか?」
ああ、そうでした、そうでした。(焦っ) 人々が油断しやすい頃合いだからと、そこへ付け込む邪妖が跳粱しまくるのへと対処するべく、破邪の出番も多い時期ではあるのだけれど。
「そんな風に人世界へ広く目を配らねばならない一番忙しい時期だから、いっそのこと、その活動への文字通り“追い風”となって自分の力を波及させやすいよう、春に風を回す位置・役職にあれば…というよな順番で就くこととなったっていうような、そんな配置じゃないんだよ。」
そうと先んじて念を押したかったサンジさんであるらしく、
「ナミさんは元々から“春”にかかわる、そりゃあ尊い血統のお方なんだ。」
「へぇ〜。」
さすがは日頃からもうっとり見つめている“女神様”のことだからか、サンジは随分と詳しく把握してもいるようで。今もどこか…眼差しというか表情というかが緩みかかっている彼へ、
「なあなあ。」
ルフィが袖を引くよに注意を喚起し、
「そもそも、なんで四つの聖宮ってトコが順番に風をリレーし合ってんだ?」
そんなことを重ねて訊いて来た。確か“西の聖宮”は、その名前に“風”がついてる天風宮。そこが一括して担当すりゃいいんじゃんかと、やっぱり素朴に訊いたルフィだったが、
「そんな簡単なことじゃあ ないんだそうだぞ?」
サンジは柔らかく苦笑する。自分たちには“道理”であり、乱暴な言いようをすれば“そういうもの”でしかなく。途轍もなく大きな力だから1つところに任せるのは大変だろう、もしも何か支障が出たら、誰が補佐する?支援する?という混乱を招きかねない。はたまた、ちょいと穿った見方をするなら…その“1つところ”が独断で行使し始めたら? 波及力の大きなものは、勝手な“合理性”とやらで一部の限られた者たちにばかり都合のいいように振り回したり、独占されたりないようにという意味合いからも、責任や権限は分散させるに越したことがないそうで。それでの複数分担性になっているのだそうだけれど。そんな詳細までは知らなくたって生きてく上で支障のないこと。大概は、説明出来るほどには追及もしないまま、深くは考えないでおくことだのに。なればこそ、子供からこんな風に訊かれても、どこか邪険に“そういうもんなんだよ”としか言えない、困った大人も少なくはないのに。
「風ってのは、そりゃあ大きな力だからな。」
小さき者には…表現体こそぶっきらぼうながらも心優しき聖封様。出来るだけ解りやすいようにと説明を始めた。
「自然界が“風”という働きかけによって回しているのは、時間や歳月という流れだ。」
風に乗ってそれぞれの季節が訪れ、春に芽生えた草木や虫、あらゆる動植物たちは、夏に成長し、秋には実りを向かえ、次への命を繋ぎ。1年以上の命を永らえるものたちは、初めての試練となる、冬という季節の厳しさに叩かれて試される。
「その、一等苛酷な冬を司ってるのがウチの爺さんなんだがよ。」
ここで誤解されやすいのだが、何も厳冬の凍るような風や吹雪を操っているのではなく。それらから小さき者たちを守るのが真のお務め。ただ、厳重に庇って守るような“過保護”であっては、それぞれへ自然界が与えたもう“試練”にならないので、力や能力はあるが原則は“見守るだけ”のお館様であり。そこが畏怖からのこととはいえ冷徹だと解釈されたり、果ては苛酷な厳冬そのもののように誤解されてしまうのだとか。
――― そうして。
そんな厳冬の終わりを告げつつ、さあ起きなさいと大地に生き物たちに声をかけて回るのが、春を連れてやって来る東風であり
「もともとは、ナミさんのお母様だったベルメールという聖霊さんのお仕事だったんだがな。」
「うん。」
素直に話の流れを追っているルフィやチョッパーから、少しばかり離れたところに座していた破邪殿が、その翡翠の眸をそっと伏せたのは、彼もまた…伝え聞きながら知っている話だったから。神話かそれとも真の“創世記”か、混沌としていた世界を分かつた最初の閃光、転輪王となった稲妻が、清く聖なる光として正世界に分けた最初の存在たち。のちに“神格”に据えられるそんな彼らと、その係累や眷属、従者たちが、新しき世界を整え、維持させるため、元の混沌に戻りたがった“負世界”からの影響力と戦ったのが、一番最初の“聖魔戦争”。聖霊というのは神格の眷属、いわゆる“象徴”様であり、自分が司ることへは絶対の力を持つほど。
“そんな聖霊も、今は神話の存在になって久しい。”
時代がどんどんと降りてゆき、拙くも幼かった人々の手へ“世界”を委ねたのと入れ替わるように。そのような“絶対”などという存在は世界から少しずつ姿を隠した。自分の役割は終わったからと、どこか別の次界へ身を引いた方もおいでだが、そのほとんどは現今の世界を守るため、もう1つの“聖魔戦争”にて身を裂かれた方々がほとんどで。
「今はそのお役目を、ナミさんとお姉さんのノジコさんとでこなしてらっしゃる。」
ある意味でプライバシーに抵触すること。サンジはそれ以上は詳細を語らず、簡単に話を括ったが、彼の母上もまたその壮絶な戦いを鎮める犠牲になった。そして………。
◇
そろそろこの春も終焉を迎える。春の陽だまりに萌え出た命たちが、精力的に伸びゆく夏がやってくる。1年の巡りの中のひとときだけとはいえ、時を紡ぐ大切な風を任されて。豊かな力を得もするがそれだけ忙しくもなるシーズンが、今年もあっと言う間に通り過ぎてゆくのだなと、テラスから望める風景の大半を占めるようになった、力強い緑の躍動を見るにつけ、実感出来る今日この頃で。
“ノジコってば、式典まで顔出さないつもりかしら。”
お互いにそれはそれは忙しい身の上で。自分はこの聖宮から離れられず、姉は姉で、風使いとして一か所にあまり留まってはいられないから。語らい合う機会なんてなかなか持てない自分たちであるのも已を得ない…という基本的なところは重々解ってはいるのだが。せめて、自分がそんなに動き回れぬ春の間くらい、彼女の側からもう少しくらい頻繁に逢いに来てくれても良いのにと。細い指先がなぞったのは、右の二の腕へとはめられた金の腕輪。少しほど幅があって、丁寧な透かし彫りが施された逸品で。実を言えば、これだけが、母から託された唯一の遺品でもあり。姉も対になった同じものを、その腕へと飾っている。続柄は“母”だが、生涯ずっと独身を通した人。彼女も姉も養女で、自分はあまりにも幼かったから記憶していないが、二人は聖魔戦争の戦場で瀕死だったところを別々に、戦士だった母に救助された身の上であったらしい。
“…ベルメールさん。”
天聖界の時間の流れは、地上のそれと比べればまるで永劫とも取れそうなほどにそのスパンが長い。だからと言って、何もかも忘れ得ることが出来るかと言えば、そうそう都合は良いことばかりでもないらしく。あまりに昔の出来事も、今いる人々の胸には鮮明な記憶として残っており。悲しいことほどいつまでも忘れ難いのがやはり悔しいが、悲しいのは悔しいのは、それだけ大切だったことを覆されたその裏返し。恨む形で思い出すのではなくて、その都度に幸せをこそじんわりと思い出しましょうと、そうと構えた神からの計らいなのかも。そんな風に言っていたのは、果たして誰であったやら。
“…神様、か。”
神憑りな事態の数々にもいやってほど遭遇して来たし、死に物狂いで乗り越えても来た。不可思議な、大きな、力を駆使できる自分たちへさえ脅威だった存在を復活させてしまい、選りにも選って非力な地上の坊やをうかうかと攫われて。天聖世界が引っ繰り返るほどもの騒乱を招いたのは、そう遠くもない出来事で。そうかと思えば、軽んじていた訳ではないものの…自分たちが守って来た“地上人”が企てた負界へのアプローチに、良いように振り回されもした。そのどちらにも関わったのが、あの巨妖がこんなまで果ての未来に発動するよう仕掛けていった呪い。自分が復活するために用意された、途轍もない規模・容量の陰体を収容出来るという“筺体”だった小さな少年であり。
“黒の鳳凰…。”
今にして思えば、先の騒動の前振りだったようなもの。太古の昔に封じた筈の黒鳳凰が不気味な胎動を始め、それが伝わったことからか負世界からの悪鬼邪妖たちが大挙して地上に跋扈し、天聖界にまで溢れ出しかかったほどの聖魔戦争があった。神話の時代を肌身で見知る、先の代の天使長たちが悉く、その尊き命と相殺することでしか魔の気配を押し返せず、もはやこれまでかと思われし時。北の聖宮、黒鳳凰を封じていた封巌岩へ、能力者を封じることで新たな封印結界を張ることへと採決が下り、聖封の中でも最も能力の高かった、ゼフ翁の一人娘がその悲しき人柱にされたのだが。
“ベルメールさんは、最後まで反対し続けたんだってね。”
多くの人、多くの存在を救うため、たった一人の犠牲で済むのなら。そんな考え方がどうにも納得出来なかった、気性の激しい女戦士だったそうで。だが、
『あたしたちが不甲斐ないばっかりに…。』
か弱い者は即死するほどもの強い毒性を持つ瘴気が、聖宮の結界の中にまで垂れ込め出した惨状にあっては、一番即効性があるというその案へ、それ以上の反駁も通せなくって。せめてと、天巌宮の中、一番厳重に囲われているその中にて最も強い瘴気を放っていた問題の封巌岩へまで、封印されることとなったノーザ夫人を護衛する役目を担当したのだそうだ。
『そんな護衛なぞ要りません。』
だって、こうまでの事態の大元、問題の黒鳳凰の本体が封じられている封巌岩。ただ近づくだけでもどんな瘴気を浴びるやら。だから一人で行きますと、気丈にも言い張った夫人へ、
『あなたに一切合切を押し付けた、何とも非力な私たちに、せめてこのくらいはさせて下さい。』
まだ幼くて甘え盛りの坊やを残しての人身御供。自分にも娘があるからこそ、どれほどの英断をもって決意なさったのかを思うと忍びない。何よりも自分の力不足が許せなかったという東風の戦士は、
『春を招き、春を支える後継者なら、私の娘たちが立ち働いてくれますから。』
果敢で、なのに嫋やかで、芯が強くて慈悲深い。本当の優しさをちゃんと知っている、彼女自身に気性のよく似た、気立ても器量も絶品の、そりゃあ誇らしい娘たち。彼女らに大切なことは全て重々言い置いたから、もう私に思い残しはありませんと。凛然と胸を張り、毅然と顔を上げていた、それは美しい戦士ぶりだったそうで。
“……………ねえ、ベルメールさん。”
私たち、あなたが命を賭してまで守った人を助け出せました。正確には、私たちがではなく、ルフィとゾロがだけれど。お別れだと、あなたの覚悟を言い聞かされて、一晩中泣いて泣き明かしてからはもう、そのことでは一度だって泣かなかった。そうして、迎えた大団円で。
“偉かったねって褒めてくれるのかなぁ………。”
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*何だかシリアスなお話になってゆきそうな気配でしょうか?
そんなにも肩がこるようなお話じゃあないんですけれどもね。(笑)
もうちょこっとお付き合いくださいませですvv |