天上の海・掌中の星 “風に運ばれて” H

〜ナミさんBD作品
 



          




 縦・横・奥行き、のみならず。もう1つ“時間軸”というディメンション要素が多い分、三次元の地上世界よりもちょっぴり高次に存在している“天聖界”は、四方を支えて世界を見守る“聖宮”によって調和が取られている。東南西北の順に巡る風の担当を“春夏秋冬”季節毎に渡し合うことで“時”の流転を司る“聖宮”では、天使長たちがその頂点に立って様々な采配を振るってはいるものの、何も文字通りの大上段に構えて、天界を、それから地上世界をも“統制”している訳ではなく。ただ、陰界と陽界という遠くて近い間柄同士、片やの世界があまりに乱れ歪めば、もう一方の世界へも多大な影響を及ぼすといった表裏一体の関係にあるがため、度を越した騒動や混乱が生じないようにという監視・監督を行っているものであり。殊に“陽界”である地上が天聖界と同じように接しているもう1つの次元世界“負の陰界”からの乱入者や影響を、それを察知出来ない陽界人たちに代わって成敗するという“お役目”もあり、そのお役目を専門にしているのが“破邪”という特別能力者たちである…というのが、このお話の基本コンセプトなのではあるのだけれど、

  「でけぇ、ワンコだな〜〜〜vv

 本来ならば。下層次元から上へはそう簡単には手出しも出来ず、出入りや行き来に至っては…人間が紙に書かれた“絵”やモニターに映し出された“画像”の中へと入ることが出来ないように、これもまた特殊で厳しい訓練を受けるか、若しくは“生まれつき”そういうことが可能な身ででもない限りは、天聖界側の者にだってそうそう簡単には行き来なぞ出来ない筈なのだが。とある大騒動を契機に、本人の中でも何かが目覚めてのことなのか。その特別な筈の“次空移動”を易々とこなせる…正確に言うと、障壁を越えた先で存在し続けることが出来る、奇跡の身である男の子。問題の大騒動に関わったのが、それへと対処が可能な顔触れ、大御所様ばかりであったから…という訳でもないのだが、下々にはあまり名と顔が一致しては広まってはいない筈のこの坊やのことを、
『もしかして あなた、ルフィくん?』
 自己紹介するより前に察した彼女は、
『あたしはノジコ。ナミの姉です、初めまして。』
 それは闊達そうなざっくばらんな口調でもって、それでも…年下のお子様へにしては丁寧な方だろう、ご挨拶をわざわざして下さった。冗談抜きに視野一杯を埋め尽くすほど、空飛ぶ“都庁”クラスの大物、そりゃあそりゃあ大きかった水龍を、言葉だけで叱って諭して追いやってくれた頼もしいお姉さんであり。こちらさんもまた、全っ然 物怖じしないルフィが、彼女がまたがっていた“空飛ぶワンコ”が気になってしょうがなかったらしいのへ、触ってもいいよとあっさり了解して下さって。限定解除の大型バイクか、ちょっとした軽四輪くらいはあるんじゃなかろうかというほどにも大きなゴールデン・レトリバーの、甘い茶褐色のふかふかな毛並みへと全身で“むぎゅうぅっ”と抱きついている真っ最中。ワンコの方でも全く警戒してはおらずで、はたはたはた…と尻尾を振ってご機嫌ぶりを示しており、
“チャボはもともと人懐っこい方だけれど…。”
 初見の相手へああまで触らせるのは珍しいことだなと、ちょっぴり意味深に表情を引き締めるお姉様。何も天聖界の犬だから大きさや能力が変わっているのではなく、チョッパーと同様に“聖獣”だから空を飛べたりするのであって、
“賢い子だからこそ、初見の相手へは身を躱すのが常だったのに。”
 傍目には愛嬌たっぷりに相手をからかっているような態度に見せながら。その実、一応の防衛本能から繰り出される反射にて、初めて対した相手へはそれなりの警戒を見せるのがいつもの彼だってのにねと。そんな愛犬の反応からさえ、ルフィの特性のようなものが感じ取れたらしい、ノジコお姉様であり、
「こんなところにまで遊びに来られるほどに、素養が目覚めていようとはな。」
 なかなか頼もしいことだと、禁苑へ踏み込んだこと、咎めるどころか、にっぱり笑って下さった剛毅なお人。………あれれ? でも、その言い方って?
「素養?」
 キョトンとするルフィへ、
「ああ。何だ、聞いてはいないのか?」
 自分のことなのにと、目許を細め、尚のこと笑みを深くして、
「あなたには色々とまだ眠ってる力や能力がたんとあるに違いないって。くれはさんやゼフさんが、いつも話してくれてたのよ。」
 ナミやサンジ、ゾロなんかを経由して、あなたの耳にも届いているものかと思ったのだけれどと言って、
「だって、こんなところにひょっこり居たりするんだし。」
 ふふんと意味深に笑ったのは、今になっての…ルフィの無鉄砲さへの窘めなのか。若く見えるけれど、そこはやっぱり地上の人とは寿命とか成り立ちとかが異なる天聖界の住民だからか、この人もなかなかに奥が深い人であるらしく、
「………。」
 ついついと、闊達でお元気なお姉様に見とれたルフィ。
「どうしたね? ナミとはあんまり似てないか?」
 それで呆気に取られたのかなと問うてやれば、
「ううん。」
 坊やはワンコの背中のふかふかの毛並みに頬を埋めたままにて、かぶりを振って見せ、
「笑い方はそっくりだぞ? ちょっと偉そうで、自信満々なトコとか。」
 それから…と、間を置いて。

  「こっちまで元気になれなれって、
   背中とか叩いてくれてるみたいな、勇ましいトコとか。」

 そんな共通点があると言ってのけ、嬉しそうに“しししっvv”と笑ったルフィの表情の方こそ、何とも明るく…つられて笑ってしまいそうになるには十分なくらいに屈託がなくて。
“…ああ、そっか。”
 この天聖界を大恐慌へと叩き落とさんとしたあの騒動。遥か昔の神話の時代に、邪と聖との2つに分かたれた“世界”。それを元の混沌にまで引き戻さんとした悪しき企みを…強大頑強な黒鳳の呪いを。こんなにも小さな体で、まだ十年とそこそこしか練られてはいない、健気なまでの意志の力で、頑として拒絶し粉砕した、恐るべき坊や。それが出来たのは…皮肉なことにも大邪妖自身が彼をそうであれとしておいた、巨大な能力のせいではなくて。彼自身の純粋さや、激しいまでの意志の力が成したこと。
“何たって、天聖界で随一の破邪がトリコになったほどの子なんですものねvv”
 自分で導いたオチへと“うくく…vv”と笑って、それからね。
「さぁて。思わぬ鬼ごっこで疲れたでしょうしね。今から東の聖宮まで送ってくわ。」
「わvv わvv なあなあ、ノジコさん。この子に乗っけてくれんのか?」
 期待たっぷりに訊かれて、うふふvvと笑い、

  「ええ。でも1つだけ、これを聞いてくれないと乗せたげられない。」
  「え? 何なに?」

 何でも聞くぞとお胸近くへ“ぐう”を握って見せれば、狩人のような勇ましいカッコのお姉様、
「ノジコでいいの。ノジコさん、なんて呼ばれては、鳥肌が立ってしまってしょうがないわ。」
 二の腕を自分で抱いて“寒い寒い”って真似をなさる。…これはきっと、サンジさんから挨拶代わりに口説かれちゃあ“逢うたびの毎回、何を冗談言ってるかねぇ”と思い切り蹴り飛ばしてるタイプに違いなく、
(笑)
「なんだ、そんなことか♪」
 どんな試練かと覚悟をしていたらしく、ホッとしたルフィはだが、年長さんを呼び捨てには出来ないようと、困ったように眉を下げて見せ。…ホラ、だって。この子、柔道なんてやってますから。礼儀礼節を大切にが基本ですから。破天荒で向こう見ずでも、そういうところはそれこそ子供の頑迷さ、なかなか譲れなかったりするらしく、

  「じゃあ…ノジコ姉ちゃん。これ以上は譲れない。」
  「判ったっ!」

 あいよっという合いの手のような勢いで、元気のいいお返事をしたルフィであり。何とも威勢のいい二人の会話を間近で見ていて、

  “ノジコさんとルフィって、どっかで凄く似てるのかも…。”

 はやや〜〜〜っと。憧れ半分のキラキラしたお眸々になって、チョッパーが豪気な二人を声もなく見つめていたのでありました。憧れるのは勝手だが、見習ってはいけないと思うぞ。ルフィにしてもノジコさんにしても。
(笑)






            ◇



 いくら空をかっ飛べる能力を持つ身でも限度があるぞというノリで、警戒警報が鳴り響きかねない迫力を帯びての、頭上通過を敢行しようとしていた二人ほど、さすがは天使長様ならではな、大技、

  《 誰の頭を飛び越えて行こうっていうんだいっ、あんたらはっ!!》

 別名“乙女の大恫喝”にて、自分の手飼いの二本刀、大破邪のゾロと聖封一族の御曹司であるサンジとを、過ぎるほどの集中力を一発で解除させた上で手元へと墜落させ…もとえ、不時着させた恐ろしいお方であり。そして、
「なんて事しやがんだ、このアマっ!」
「ごらぁっっ! 我らが女神様へ向かって、アマとは何だ、アマとはっ!」
 一緒に撃墜されたってのに。レディを罵るとは何たる無礼かと。ゾロの前へと立ち塞がって、素早くナミさんを庇ってしまうのは。こうなるともう“悲しき習性”としか言いようがないサンジさんだったりもするのだが。
(苦笑)
「あら。あんたたちが見当違いな行き違いやすれ違いをしないようにって、呼び止めてあげたのよ?」
 懐かしい人との ひょんなご対面から、こちらの天聖世界に居ながらにして地上組のどたばたに気がついた春の女神様。ついでにと、ご指摘のあった“南の方”を伺ってみれば。あらあら、覚えのある気配と一緒にいるみたいじゃないのよと。問題の坊やともども、こっちへ向かっていると判ったからこその、この“お茶目”であり。

  「こんにちは〜〜〜vv

 さすがはナミさんの姉上にして、東風の使い。聖宮の最も厳重に守られている筈な奥向きのテラスに直で乗りつけ、送って来た坊やを降ろしてやれば、
「ルフィっ?!」
「チョッパーっっ!」
 何でこんな段取りになっているのだと、保護者二人が仰天し、
「あれれぇ? なんでゾロが来てるんだ?」
「サンジ〜〜〜っ。」
 キョトンとしているルフィの傍らから、怖い思いのオンパレードだった…大きなワンコの背中も結構怖かったらしいチョッパーが、自分のご主人へと飛びついてゆき、


   「だから、これって、なんで?」×@


 キョトンとするばかりな男性陣を前に、偶然って素敵vvと、お姉様方が声を揃えて…白々しくも口になさったそうですが。はてさて、一番に全てを把握してなさった粋な方は、一体誰なんでしょうね、この場合vv









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  *済みませ〜ん。まだちょっと続きます。(涙)