天上の海・掌中の星

    “昨夜はハロインだったので”

         *いつぞやの“とある真夏のサプライズ♪”の後日談みたいなお話なので、
          別のお部屋のキャラが当然顔で出て来ます。悪しからず。

キリスト教では、11月の始まりの日を“万聖節(All Saint'Day)”といって、
すべての殉教諸聖者を祭る日とされており。
その宵にあたる、10月最後の晩が“ハロウィン(Halloween)”。
万聖節は“Hallowmas”ともいうので、その“宵祭り”という意味であり。
聖なる殉教者を祭ることに則しての恩赦ということか、
それとも他の亡者にも幸いを大盤振る舞いしようということか、
日本風に言やあ“地獄の釜の蓋が開く”ため。
迷い出て来た亡者らが、自分の町や家へ居着かぬよう、
もっと恐ろしい魔物に化けることで、
あの世へ追い返す集いを夜通しこなす、
何ともにぎやかしいお祭り騒ぎでもあって。

 今年はそのハロウィン、丁度日曜の晩でもあったので、
 宵に馬鹿騒ぎをするのには、ある意味 丁度いい巡り。

昼間っからそれぞれに意匠を凝らした仮装をし、
なりきりパーティーなんてのを、開いてみるのもまた楽し。
幼い和子らは袋をかつぎ、無邪気な子鬼に扮して家々を廻る。
合言葉が決まっていて、

  ―― お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!

そんな小さな魔物たちが門口に立ったなら、
“悪さは勘弁”と、
お家の人らがキャンディやクッキーを振る舞ってくれるので、
それを受け取り次ぎへと回るのだが、

  なんか地蔵盆みたいだな、と

意外やルフィがそんな古い風習を知っており、
おおおと、天聖界組のお兄さんたちが、
少なからず驚いての微妙な苦笑を見せる中、

 「…???」
 「ああ、地蔵盆というのはだな。」

こちら様も…風貌だけならキリスト教圏の存在にしか見えない、
金髪紅眸の色白なお兄さんがキョトリしたのへ。
連れの黒い髪のお兄さんが、
一から説明してやるのがまた、微妙な風景だったりし。
カソリックに例えれば…とかいう説明の仕方ではなかったので、

 「久蔵はキリスト教の人じゃねぇのか?」

思ったままを素直に口にしたルフィだったのへ、

 「…。(頷)」

こっくり頷いた、今は大人Ver.の大きさでおいでの大妖狩り様。
ちょっとした縁があって、
別の遠い町で邪妖の監視をしている彼らと知り合ったのが夏の終わりごろ。
昼の間は猫の姿に身をやつしている彼らとも、
器用にコミュニケーションを持ち続けているこちらの坊ちゃんが、
とある柔道の大会へ出るという話をしていたところ、
向こう様の家人がそれを聞いて、応援に行きますと言い出して下さり。
それで…という再会が叶った仔猫と少年だったのだけれど。

 “まさか、こういうお兄さんたちだってこたぁ、
  知られてないみたいだのにな。”

サンジやゾロも一度だけ、
彼が迷子になった折に、
わざわざ迎えに来た向こうの家人らとは逢っていて。
特に霊力が高そうでもないながら、
それでも、この久蔵がただの仔猫じゃあないってことまでは、
理解なさっているらしいかったが。
本性がこんな…どこぞかの西欧王家の王子様のような、
玲瓏透徹な風貌の青年だとまでは、
きっと知らないに違いない。
切れ長の目許は きりと冴え、
細い鼻梁に、淡雪のように霞をおびた白い頬。
淡くけぶる金絲は少しほどくせっ毛なのか、
軽やかなふくらみを保っての、
華やかな美貌へなおの雰囲気を与えており。
無駄なく引き締まった体躯は、
行儀のいい立ち居によって、
ますますとシャープな印象を醸すばかり。
あまり表情も動かさぬ彼なので、
黙って立っていればそれなりに、
クールな存在感に満ちた美丈夫…で収まるのだけれど。

 「…だ〜か〜らっ。」

カボチャはお前の家でも、
あの金髪が彫ってランタンにしとっただろうがと。
何か今更なことでも訊いたのか、
黒髪のお兄さんが“こやつは〜〜〜”というお怒りの声を上げたため、

 “…まあ、風貌が二枚目だからって中身までそうとは限らんわなぁ。”

というか、

 「なんだ久蔵、お前もハロイン知らなかったのか?」

サンジがテーブルへこれでもかと並べた御馳走やスィーツの中、
今は丁度、パンプキンモンブランを攻略中だったルフィが、
おややぁという意外そうな声をかけており。
精霊には年齢がないも同じとはいえ、それでも自分より年上を捕まえて、
そんな気安く呼び捨てにするルフィもルフィなら、

 「…。(頷)」

やはり廉直にこっくりと、それは素直に頷く久蔵も久蔵であり。
そんな彼だったのへ、
よーしよく聞けと、受け売りの由来話を始めるルフィは。
小ぶりなホールケーキほどあったモンブランを手に、
時折、それをカボチャに見立てての説明をし始め。
そして…そんな坊やの前には、
お初の顔触れ二人へと、微妙に人見知りしていた、
トナカイの聖獣チョッパーも、
いつの間にやらちょこりと座り込んでおり。
小さな身とちょこりとした腕でありながら、
三角座りという器用なことをやっている彼だったのへと。
そちら様でも関心を持ったか、
金髪の君がやっぱり座り込んでの体育座りをしたものだから。
大中小とサイズは違えど、やってることから察した“精神年齢”は、
どうやら近しいらしいそんな彼らの様子にあって、

 「…まあ、様々な知己が増えるのは悪いことではないか。」

向こう様の保護者的立場にあるらしく、
先日は魔女っ子のマスコットなんぞと取り違えた黒猫さんが、
そんな言いよう呟いたのへ、

 「おや。孤立無援って訳でもないってところかい。」

聞くともなく聞いてしまったサンジが、
どぞと、オリーブグリーンのマティニ満たした、
カクテルグラスを差し出しつつ訊き直したところが、

 「基本的には単体だがな。」

端的にそうと応じて、グラスに口をつけると、

 「精霊たちとの縁
(よしみ)も深いし、
  人の和子へも…そも関わりがあればこそ、
  その傍らに寄り添うてもいるのだし。」

 「…ふ〜ん?」

言いたくないか、それともそうである自身を掘り下げたことはないものか、
微妙に曖昧な言いようをした黒髪のお兄さんであり。
どう飲み込んだものかねと、
こちらもまた曖昧な相槌になってしまったサンジだったのへ。

 「………。」

少しほど尖った印象のお顔を、それでもほのかに和らげた兵庫さんだったのは、
紙巻きたばこを口許に咥えたまんまなサンジが、
そんなざっかけない態度でいながらも、
一線引いての…不用意に相手へ踏み込まない応酬に長けているのへと、
心からの感心半分、
そこへと甘えてか結構言いたいことを言っている自分を、
ふと自覚したからというのが半分、だったらしくって。

 “………まったく。”

恐らく相手も、見た目以上の年齢経ている存在だろうが。
それでも…納まり返ってのやたらと抹香臭いとか、
若しくは掴みどころのない超越者というよな感触がしないのは、

 “あの少年の影響なんだろうかね。”

襟の立ったシャツにアーガイル模様の入ったベスト、
黒地のシガレットパンツという、ちょいと畏まった装いは、
ホームパーティー用のおめかしか。
ニットタイが早速にも緩んで曲がり始めているのへも気づかぬまま、
緋色の山高帽子をかぶった聖獣くんを、
懐ろへと無造作に抱きかかえて無邪気に笑ってみたり。
延ばした腕の先、ケータイで久蔵を撮ってみて、
なのに仔猫にしか写らないことへ“あれれぇ?”とやはり笑ってから、
それをご本人へ見せて、むむうと眉を寄せさせてみたり。

  屈託がなくってご陽気で。

度が過ぎれば煙たいか五月蝿いばかりなはずが、
どうしてだろか、この子に限っては

  『もっと笑わせたい、もっと喜ばせたいと思う。』

今現在の家人らへと、常から感じる“それ”と同じこと。
どうしてだろか、
まだそんなに接触の蓄積もないはずの、
こちらの彼へも思う、と。
感情表現の極めつけに下手クソな同僚が、
自分でも不思議だと思うのだろう、小首を傾げて。
そんな風に兵庫へとこぼしたのは、
やっと宵が明けた翌日の帰途でであったが。

 「じゃあ、次は久蔵が何かやれ。」

おおお、そんなご無体なと、
いきなり聞こえた、ルフィ少年からの超大胆な暴言へ。
ついついマティニにむせかかった兵庫さんが見やったその先では、

 「……。」

ちょこっと考え込んでみたらしい、
金髪痩躯の大妖狩りさんだったものの。
何でそんなものがあったやら、
長いめのフリンジが下がっている焦げ茶色のストールを、
髪にぐるりと巻いての鉢巻きにして結ぶとその先を肩へと垂らし、
細い顎の先をすりすりと指先で撫でて見せて、

  「………島田。」


  …………………………………………。×@


こちらのご一家の沈黙は、意味が分かりかねてのそれであり。
唯一、背景や題材が判っていた筈な兵庫の沈黙は、

  “…………そんな芸をいつ覚えた。”

そうかそうか、
そうまでして喜ばせてやりたいと思ったか…という納得を、
この時点では全く拾っちゃあなかったもんだから。
きゅううと痛くなった胸押さえ、
息が止まりかかるのと戦う羽目になった、
黒猫さんが一番気の毒だった、
ハロウィンナイトだったようでございます。
(大笑)


  「…あー、あの髭のおっさんの真似だな?」
  「お前もまた、なんで判る。」




  〜Fine〜  10.11.01.


  *別のお部屋の方へ、
   とことこと出演したルフィだったので、( 『
晩秋の訪のいに…』 )
   こちらでも辻褄合わせをしたかったのですが。
   仔猫様、もとえ…久蔵さん大暴走で、
   何のこっちゃなお話になっててすいません。
   まま、普段もこんなややこしい人だと思って。
(こらこら)

  *もうちょこっとおまけです。( 11.02. 加筆 ) →

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