天上の海・掌中の星

     “お月見、真ん丸vv”




 「久蔵〜、元気してるか〜?」
 【 みゅうにゃ。】 【 みぃにぃ。】
 「お? 今のってエコーかかってたんか?」
 【 みいに・みゃ。】
 「え?違う?じゃあ何で重なって…。」
 【 みゃうにゃ♪】 【 みぃにー♪】
 「え〜、弟分が出来たって? クロって言うのか?
  うわ〜、そりゃ逢いてぇなぁvv」
 【 まぁうにゃうにぃ。】
 「そかー、まだ赤ちゃんなのか。
  じゃあまだお出掛けとかは無理だよな。。」

  「  …あれ?クロ?
   ってことは、あのヒョーゴとかいうのの子供か?」


こぉんな遠いお部屋でも疑われてます、兵庫さん。
(大笑)




      ◇◇


そっかぁ、久蔵もお兄ちゃんなのかぁと、
どこの親戚の親父かという
感慨深い声を出してたのはともかくとして。

九月に入ってすぐ、
凄くゆっくりな台風が来て大暴れした余波で、
ほんの何日か、一気に秋めいた日々が訪れて。

 「まあサ。
  いくら何でも、あのまま涼しい秋になるほど、
  世の中、甘くはなかろとは思ってたけどサ。」

世の中と来ましたよ、お母さん。
……じゃあなくて。
やっぱり残暑が続いている苛酷な二学期に、
否応無く突入したルフィさん。
殊に、何事もその“最初”が大切とあって、
何とか自分でロスタイムをひねり出し、
ちょみっとほど間に合ってなかった宿題の補填作業に、
ギリギリ奔走していた最初の1週間だったとか。

 「? 何だその“ロスタイム”ってのは?」

陽も落ちてのこと、
多少は涼しくなって来た、宵の涼風がそよぎ込むリビングにて。
夕飯のメインである豚ヘレの一口カツを揚げ終えた破邪殿が、
ご飯だよと呼びに来がてら、
ソファーに凭れ込み、
すっかりと気が抜けたようになってた坊やへ問いかければ、

 「だから。夏休みの宿題の〆切ってのはサ、
  一応、8月31日がリミットなんだろけどさ。」

でもサ、実質は授業が始まって最初の日に提出だろ?

 「1日は始業式で、2日は大掃除。
  3日4日は土日休みで、5日からが授業開始だったから、
  木曜とか金曜が授業初めの教科とかは、
  1週間も猶予があったってワケ。」

へへんと鼻高々に言ってのける坊ちゃんだったが、
熱もの用にはめていたミトン型のナベつかみを外して、
大ぶりの手の先、
人差し指にて頬をさりさりと掻いて見せたゾロとしては、

 「そうやって稼いだ何日かってのを、
  机に向かって消費してたようには見えなんだんだがな。」

 「………木曜と金曜って言ったのは物の例えだよ。//////」

火曜が最初の授業だった、びじつの(…美術)自由製作とか、
水曜が最初の授業だった英語の原書の感想文とか、
土日に頑張って片付けたし…と、
ちゃんと頑張って帳尻合わせたもんと、言ってのけ。

 「あと、明日が最初の授業の数学の問題集も、
  やっとさっき仕上がったしさ。」

 「ちょっと待て。」

いくらお呑気なお兄さんでも、
そればっかりは引っ掛かりなくスルー出来るこっちゃないぞと。
幾つか乗っかってたクッションの狭間、
埋もれかかってた坊ちゃんへ手を延べて、
よいせと引いて起き上がらせながら、

 「明日ってのは“火曜”だよな?」
 「おお。」
 「先週の火曜から、もう授業は始まってなかったか?」

どっかで何か勘違いしてないかと、
小学生くらいの小さい子相手であるかのように訊き返せば。
間近になった童顔が、たちまち真ん丸に膨れてしまい、

 「人をアホの子みたいに扱ってんじゃねぇよ。」
 「いや、そんなつもりはねぇけどよ。」

上手いコト言うなと内心でウケつつ、(こらっ)
滅相もないないと、男臭いお顔を真顔にしたまま、
真摯な態度でかぶりを振ったところ、

 「だから、ロスタイムをひねり出したんだって。」
 「ひねり出した?」

うんとこっくり頷いた坊ちゃんが、そのまま説明に入り、

 「ゾロが言ってるように、
  ホントは先週が最初の授業だったんだけどもさ。」
 「だろ?」

風向きが変わって、キッチンのいい匂いがこっちへ届いたか、
くんくんと鼻を立てるようにした坊っちゃんだったので。
ああそうだったと主夫殿も手筈を思い出し、
おいでおいでとダイニングまでを先導する。
揚げ立てのカツが香ばしい匂いを放ち、
シメジとマイタケとエノキのあんは、
そのまま具沢山のとろとろスープとして食べても、
カツに熱いままかけても、
ほろほろとろりと ほくほく温か。
甘くないクレープで包まれた裏ごしカボチャは、
やあらかいコロッケ風で、なんかケーキみたいに甘くって。
キュウリとシラスの酢の物はちょっぴり甘いめで、
どれもこれも大好物だと、
いやっほうと手を叩き、さっそく席に着いた坊や。
箸を短めに握ったの、これこれと注意されつつも、
お口は説明を続けており、

 「でもな? 問題集があと18頁も手付かずだったからさ。」
 「…ちなみに、全部で何頁なんだ。」
 「80頁だ。」
 「そ、そうか。」(意外と頑張ってはいたんだな。)チョー失礼

えっへへぇと ほっかほかのカツを、
まずは素のまま、さくりほふほふ、柔らかジューシーvvと堪能し。
次はえとえと、キノコのあんがいいかな、
でもでも特製タルタルソースも捨て難いしなと、
小首を傾げて悩みつつ、

 「どうしよーってチョー困って寝たらば、
  夢の中に誰か出て来てサ。」
 「誰か?」

怪訝なという方向で訊き返されたのへも気づかずに、
おおとくっきり頷き、

 「数学のせんせえとやらが苦手なんだな?って訊いて来たからさ、
  苦手っていうんじゃなくて、
  ただ、明日はちょっと会うのがキツイかなって。
  ……あ、明日ってのは先週の時点での明日だぞ?」

今日の明日じゃねぇからなと、
わざわざの注意訂正をしてから、

 「そしたらさ、
  先週の数学の時間に、せんせえ間に合わなかったんだな。」
 「……間に合わなかった?」

うんうんと大きく頷いたルフィの言い分だけでは要領を得なくて。
のちに黒須せんせえこと、コウシロウ先生に訊いてみたところが、

 『ああ、その話ですか。』

そりゃあ朗らかに笑いつつ、

 『何でも、学校へ行こうと車を出したのに、
  どうしてだか あちこちで
  工事中だの迂回してくださいだのという規制にぶつかり通し。
  それと、知ってるはずの回り道で何故だか迷子になりかかり、
  同じご町内をぐるぐるしちゃった挙句、
  とうとう学校に向かうための幹線道路には
  出られなかっただとか。』

そんなとんでもないお話をしてくれて。

 『結界でも張ってあったんでしょうかね?』
 『…先生、それってしゃれになりません。』

そんなことがあったため、
数学は自習となって、宿題の提出も延長されたらしく。

 「ゾロへ言うのもなんだけど、
  神様って居るんだなぁって、そりゃあ有り難くってさvv」
 「確かに、俺へ言うのはナンだな、その話はよ。」

この霊感少年が、一体誰へと念じたものやら、

 “いや待てよ、
  学校ってものが判る奴じゃないと意味ねぇはずだが。”

かと言って、
最近亡くなったばかりという御霊にそんな力はない。
あったなら おっかない悪霊になりかねない。
(おいおい)

 “どこの誰だろ、いやさ、単なる偶然か?”

う〜んう〜んと腕組みして考え込んでる間にも、
健啖家の坊やは大きいお茶椀に2回もお代わりして、
心づくしの晩餐を平らげると、

 「ゾロ、ゾロ、今夜は満月だぞ?」
 「おお、チョッパーが
  天炎宮からススキを持って来てくれてる。」

南の聖宮だが、少し涼しいエリアもあると、
そういや こないだ言っていたトナカイの聖獣さん。
そこから銀色の穂のススキを摘んで来てくれたらしくて。
涼風のそよぐ中、虫の声もするのが何とも風情があって。
リビングに花瓶を出し、三宝という台には白い団子を積み上げて。
お神酒も要るのかな、子供しかいない家だから構わんだろなんて。
ほのぼのとした会話を交わしつつ見上げた夜空には、
東の方から真ん丸な月が昇ってくるところだったそうな。


  「……そういや、
   あの仔猫の久蔵とやら、
   月夜見の力から生まれた眷属とか言ってなかったか?」

  「えー、そうだっけ?」


   おあとがよろしいようで………。




   〜Fine〜  11.09.12.


  *猫又に操られちゃった数学のせんせえだったんでしょうか?
   結構遠い町なのに、なんて怖い子。
(こらこら)

   久蔵ちゃんがよく判らない方は、
   昨年の拙作『
とある真夏のサプライズ♪
   『
昨夜はハロインだったので』をどうぞ。

**めるふぉvv ご感想はこちらvv

**bbs-p.gif


戻る