襲来の章
「? どうしたんだ?それ。」
今日が最後の補習とあって、いつも通り元気よく学校に出ようとしかかったルフィだったが、そんな彼が左目に白い眼帯をしていることに気がついた。昨日は昼下がりからのこっち、勝手に…何だか気まずいものを感じてしまい、この家に戻らず、あちこちを浮遊して過ごしたゾロだった。出来ることならもうちょっと、顔を合わせたくはないかもと思わんでもなかったが、それではあんまり大人げないからと戻って来た途端に、異様なものとして目に入った純白の眼帯。痛々しくてつい手を伸ばすと、
「あ、えと、何でもないよ。」
その手から逃れるように身をよじり、ルフィは短くそうとだけ言った。戻って来たゾロに、ホッとしたように笑顔を見せてくれた彼のこと、鬱陶しがっての邪険さからではなく、触れられることを嫌がってという素振りであり、
「何でもないなら、そんな邪魔っけなもの、着けたりしないだろうが。」
ほんの数日の同居とはいえ、見たそのままな気性というか何とも分かりやすい少年であることは既に承知。隠し事をしようとは珍しい。元気が余ってアザやら小さな傷やらもよくこさえる彼ではあるが、擦りむき傷は舐めておしまいだし、救急箱自体、その在りかが判らなかったらしく、居間の隅のごみ箱には薬局の小さな紙袋が無造作に捨ててある。昨日の午後辺りに何かがあって、急に必要になったこの眼帯を慌てて買って来た彼なのだろう。
「だからさ、砂が入って、だのに擦っちゃったんだ。一日触らなきゃ治るよ。」
結局、どこか硬い微笑い方をしながら同じ言い訳だけを繰り返し、今度は彼の方が…まるで昨日の自分のように、そそくさと出掛けて行ってしまった。こんなことは初めてで、
"…まさか。"
ゾロには大した読心術は使えないが、嘘はつけない少年だと、この数日間の様子から把握している。何でもないというのが嘘だとして、だとするならば…と一番に思い当たったのが。
"平気そうに振る舞ってるが、実のところは苛められてでもいるんじゃあなかろうか。"
極端な思考・発想だと思うなかれ。邪霊を払うのが任務である彼が、これまで"彼の立場から接した"ところの人世界に於いてはよく見て来たものなだけに、ついつい真っ先に浮かんでしまった代物だったのだから仕方がない。ましてや…ルフィは、正真正銘、不思議な存在を感知出来る、本物の能力者だ。見えるものを見えないと振る舞うのは難しいことなため、不自然な素振りから周囲に感づかれ、酷い仕打ちを受けていた子供らを少なくないだけのケース見て来たゾロとしては、そんなところに思いが至ると何だか落ち着けなくなった。
"………。"
どうしたものかと逡巡した結果、彼には内緒で後を追ってみることにした。近づきさえしなければ、いくらルフィでも…他の子らの気配の中に紛れた自分の存在には気づくまい。あちこち戸締まりをし、念のための結界を張ってから家を出る。(…こんなマメさはルフィのフォローをしていて身についたのだろう、恐らく。/笑)少年が通っているのは、ごくごく平凡な公立の中学校で、いつも学校へと出掛ける時には肩に引っかけていたデイバッグに染みついた気配と同じ場所を探ればあっさり見つかる。思い浮かべたその場所へは、瞬時にして迎える身の上だから、位置さえ判れば造作もないこと。あっと言う間に到着した校舎の中を、人の気配や会話を辿るように透視すれば、
「あ、どしたんだ? ルフィ。」
やたら懐っこい声をかけている男子生徒の姿が見えて、その彼の前の座席にルフィが座っている。どうやら教室にいるらしく、その窓を探すとすぐ傍らの桜の樹上に隠れんぼ。眼帯装着という異様な顔にはさすがに誰もが気がつくもので、
「どした? おおっ、何だよそれ。」
「痛いのか?」
「さては昨日のプールで結膜炎でも拾ったか?」
やはりルフィは一番小柄な男の子であるらしく、机の周りを囲まれると、すっかりと姿が見えなくなるほど。心配してくれるクラスメイトたちへ、
「んー違うよ。何か砂が入ってさぁ。」
ゾロへ言ったのと同じ言い訳を繰り返す彼であり、
「ダメじゃん、ルフィくん。」
「あ、どうせまたウソップにいい加減な応急処置とかされたんでしょう。」
「なんだとー。勝手なこと言うなよな。」
「今も痛いの? 大丈夫?」
女生徒も割り込んで来て、なかなかの賑わいだ。顔を見る生徒たちの殆どが必ず声をかけて来る。そして皆して、彼の目の異常を案じてもいる。
「平気だよぉ。」
「いいや、お前の"平気"はアテにならん。」
しまいには担任らしき男性教師までもがそう言い出して、
「保健委員、あとで目薬差してやれ。」
「はぁ〜いっ♪」
むむうとむくれる本人をよそに、全員がくすくす笑ってなかなか良いムードだ。
"…へぇ。"
ここでも友達の多い子で、周囲からは笑顔が絶えない。無論、本人もあの明るさで応じていて、教室内はたいそう清涼な気に満ちた溌剌とした空間となっている。良からぬ想いが僅かにでもあれば、無防備な子らの心情風景くらいあっさり読み取れるゾロとしては、
"余計な心配だったかな?"
苛めなどという陰湿なものを想起して、彼の友人たちにも悪かったかなとちょっとばかり反省。この辺りは"聖なる世界に籍を置く者"ならではな…のだろうが、なんか似合わんぞ、あんた。
"…放っとけよ。"
おおう、怖い怖い。(笑) 筆者とのMCはともかく、
"けど、砂ってのがなぁ。"
砂で擦ったんだという本人の言い訳には、相変わらずに引っ掛かっているゾロでもある。ただの怪我なら気に留めはしない。何だったら治してやることだって出来る。だが、何だか…見せようともしないでそそくさと出掛けたルフィの、珍しくも強引な素振りに振り切られたようなもの。どちらかと言えば構われたがりな少年だのにと思うと、そこはやはり気になるというもので。それに、
"どっかで感じたような気配があったんだがなぁ。"
思い出し掛かっていたのに、別なものが割り込んで、その間に遠ざかった記憶のような。一旦は掴んだその感触だけしか手掛かりのない"何か"。そんな曖昧な、だが、そうそう"ま・いっか"と捨て置いてて良かったものではなかったような。そんな気がして引っ掛かっている。
"…う〜ん。"
◇
昼には痛みも取れたとか。さっそく眼帯を外して、元気のいい駆け足で帰って来たルフィであり、
「補習も終わったし。明日っから一杯遊べるぞ、ゾロvv」
「…今までだって充分遊んでなかったか?」
インスタントのラーメンを、3つ作って二人で分ける。この暑いのに…と思うのは年とった証拠ならしい。(かく言う筆者も、姪からそう言われた。うう"。)無論、それだけでは足りないからと、コンビニで買って来たらしい5、6個もの調理パンも二人で山分け。
「だから。明日からはゾロとも沢山遊べる。楽しみだなぁ♪」
いつもなら父や兄、さもなくば…時々話に出て来るウソップとかいう友達と半分こしているのだろう。慣れた様子で片手鍋から2つの丼につぎ分けていたルフィだったが、
「あのさ、もしかして…。」
湯気の向こう、気のせいか彼の声の調子が少々落ちた。
「…? 何だ?」
訊くと、
「ゾロ、お盆には"帰る"のか?」
「……………。」
【お盆;obon】
盂蘭盆(うらぼん)。陰暦の七月十五日に祖先の霊を祭る仏教行事。仏壇前に"精霊棚しょうりょうだな"を作ってお供え物を置き、家の門口におがらで小さな火を焚くのが習わしで、御霊みたまは家々によって微妙に違う…らしいその煙の色を見極めることが出来るため、迷う事なく帰って来られるのだそうな。盆、盂蘭盆会(うらぼんえ)、たま祭りともいう。
「…あのな。」
幽霊ではないと、ちゃんと言っておいた筈なんだがと、ちょっと呆れたゾロだったが、
「なあ、帰っちまうのか?」
冗談ごとではないと、それはそれは真面目な顔をしているルフィだ。ホントはもっと早くに訊きたかったけれど、悪い答えが出されたら辛いから引き伸ばしてたという雰囲気であり、
"…なんて顔だよ。"
置き去りにされかかっている心細げな幼い子供の顔。いつものお元気さはどこへ息をひそめたのかと心配になるほどだ。
「………。」
ゾロはその手を彼へと伸ばしかけ、だが、途中で…テーブルの上、胡椒の方へ方向を修正し、
「帰らねぇよ。」
片手でキャップを外しつつ、ぼそっとそう呟いた。
「ホントか?」
「ああ。………微妙に宗教が違うからな。」
咄嗟に思いついた付け足しは、だが、少年には納得がいったらしい。
「そっか。そだよな。だってなんかゾロって線香臭いムードじゃないもんな。」
………何じゃ、そりゃ。
「それに、あの時一緒にいた友達。どう見ても、キリスト教? そっちの感じがしてたし。…って、ゾロ、かけすぎ。」
惰性で振っていた胡椒のビンを取り上げられつつ、
"あいつがキリスト教っぽい?"
サンジのことをそう言われ、ナミが聞いたら腹抱えて笑うだろなと、そう思ってついつい小さく笑ったゾロへ、
「へへ。」
少年もまた小さく、されど本当に本当に嬉しそうに笑う。そんな顔を見て、
"……………。"
自分は彼が少しばかり誤解しているような聖なる存在ではないし、実のところ…少々罰当たりなことだが、そういう神聖な存在の実在は信じていない節もあるゾロだ。だが、
"何かへ敬虔になってみてぇ奴の気持ちって…。"
誰かを何かを敬い、大切にし、その対象へ恥ずかしくないように身を慎むこと。あくまでも"唯我独尊"というのが、わざわざ語るまでもない自負でありモットーである自分だった筈が…最後のは相変わらずにどうかとも思いつつ、だが、そうまでの他者への思い入れ、少しは判るような気分になった。彼の持ち物であり、彼の意志で浮かび上がる、この屈託のない、幸せそうな笑顔が、何とも言えず愛しいものだと思えてやまない。
"………。"
昨日、ちらっと思ってしまったこと。この、歪曲さが充満し、あちこち淀んだ人世界にあっては奇跡のように、曇ることなく穢れのない無垢な魂を保ち続けているルフィ。無垢であるが故の儚げな可憐さというよりは、どこまでも曲がって、だが絶対折れない竹のように撓しなやかな強かさで、あくまでも前向きに物事を受け止めて来たのだろう彼の、だのに…何故だか時折見せる寂しげなところが気になる。そして、そんな気分になる自分の胸の裡うちもまた、
"………。"
実は理解し難いままなゾロなのでもあった。
「………やっぱ辛いんだろ。スープだけ作り直そうか?」
「あ、いや、良い……。」
と言いつつ、随分と時間をかけて食べる羽目になった精霊さんだったみたいだが。…この負けず嫌いが。(笑)
◇
辺りに立ち込めるは、濃密なまでの暑苦しさを充満させた、熱帯夜の大気と薄暗がり。
"………?"
何かしらの気配を感じた…ような気がして目が覚めた。一応はこれでも上級精霊。物の気配に対する感知の能力も、それが専門で得意技なサンジほど鋭敏ではないが、標準より少しばかり上のものを持ち合わせている。それが察知したのは不穏な何か。
"………。"
曖昧な感覚だったが、とりあえず、この家で自分が気遣うものと言えば…と、思うより早く、隣りの部屋へ壁を擦り抜けての移動をしている。金目のものや通帳なぞには関心もないし、そんなものより掛け替えのない対象だと当たり前の反応としてそう動いていた彼だった。そう…くうくうと眠るルフィのもとへと。
"………。"
そのルフィ自身は、顎まで引き上げた夏布団の中、何の憂慮も要らぬほど安らかに眠りをむさぼっている。カーテンを引いた室内は暗いが、そうまで郊外でなし、街灯の光がカーテンへ窓枠の陰を透いていて。それ以前に、闇に封じられるような視覚ではない。それでもサングラスは外して、くるりと室内を一通り見回して、だが…ゾロは首を傾げた。
"何だったんだ?"
至って静かな夜だ。不穏な気配というものを放っている大元の存在感はどこにもない。クーラーは嫌いだという少年は、いつも窓を薄く開けて寝るのだが、外からも何の気配も届かない。しんとした夜は、この温気がなければ秋の夜長を思わせるほど。………が、
"…ちょっと待て。"
静かすぎる。ここいらはそんなにも密集系宅地化の進んだ土地ではないから、夜半まで騒ぐ馬鹿共の声や物音はあまりしない。だが、ならばこそその代わりに届く筈な、自然たちの気配までしないのは訝しい。この家のみならず隣近所の家々もまた、庭先などに緑が多くて、夏の生育期な今、夜の間に地下と地上との栄養交換がなされる、花草樹木のひそやかな息遣いの気配が届く筈。それが全く感じられないのは…。
"…これは。"
何かの気配が音もなくその他を圧倒していて、それで聞こえなくしているのだと気づいたその途端。
"…っ。"
室内の温度が一気に下がり出した。そして、
――― みし…
家鳴りの音がした。湿度の高い日本の家屋には良くあることで、建材が膨張・収縮により軋むことで立てる音。だが、今聞こえて来るそれは、何となく妙な音だった。まるで誰かが…天井板をゆっくりゆっくり踏み締めながらじわりじわりと近づいてくるような、そんな重みと生き物なりの不規則系なリズムを持った音として続いている。
"………。"
これはもう反射のようなもの。体の側の線から少し浮かすように離した左手が、宙空から現れた白鞘の日本刀をがっしと掴んでいる。精霊刀"和道一文字"。ゾロの強靭な霊力を孕むことで、霊的存在を浄化霧散したり追い払ったり、使い手の意志のままにずば抜けた効力を発揮出来る、彼のような"破邪"には独特必須なアイテムである。夜陰や真っ黒な衣装にいや映える、純白の鞘と柄と。体の真正面へ両の手で水平に構え、その柄を握ってゆっくりと鯉口を切りかけたゾロは、だが、
――― …っ!
例えるなら、音立ててなだれ込む、質量のある代物のような。それは目映い閃光が突然眼前へと弾けたものだから、
「うあっ!」
予想だにしなかったものであり、不意を突かれた格好で、ゾロは目許を手のひらで押さえてその場に片膝をつき、屈み込んでしまった。
"陰の気の者がどうやって…。"
霊体や精神体は概ね"陰"の存在である。形のある者、若しくは外殻を持つ者が"陽"体で、そんな彼らが活動する日輪のおわす日中は、殻を持たない"陰"体には居場所がなくて行動は適わず、それがために自然と…陰の王"月夜見"のおわす夜中こそが活動しやすい時間帯となる訳なのだが、今の今、真っ向から浴びせられて目眩くらまし状態となった閃光は間違いなく"陽界"のもの。合点が行かぬまま、不自由な感覚をそれでも何とか研ぎ澄ましてみれば、
《お兄さん、陰の者を消しちまう"ハンター"なんだろう?》
そんな声がした。すぐ間近からのような、遠い地の底からのような。野太い男の声のような、甲高い幼女の声のような、何とも不思議な声音であり、
《この子から離れてくれないんだものな。ちょっとばかり策を練らせてもらったよ。》
陽の気を孕んだ光をいきなり浴びせたのは、やはり故意に仕掛けられた何かであったらしく、芯の曖昧な掴みどころのない声は淡々と続いた。
《何にもしてない者まで消しちまうのかい?
世に仇あだなす悪い奴だけを始末するんじゃないのかい?》
「…此処は貴様の本来の居場所じゃなかろうが。」
方向が掴めないのが苛立たしい。サンジの口癖ではないが、自分の能力の低さが今夜ほど忌ま忌ましいと感じたことはない。無闇矢鱈と刀を振り回す訳にも行かず、焦れた揚げ句に、
「………この子に何か用なのか?」
つい。そうと訊いていた。自分が天聖世界に戻れなくなったように、ルフィには陰の者を引き寄せるような何かしらがあるのかも知れない。だとしても、彼らには天敵である"破邪"が、たまたまとはいえ傍にいるのに、それでも諦めず、それどころかこうして攻撃を仕掛けてまでどうして近づきたいのか。すると、
《言ったところで判るまいよ。》
どこか投げ出すように呟いてから、くふふ・おほほと、まるで嘲笑するような、癇に障る甲高い声がちらりと聞こえた。
「………おいっ!」
まるで慣れた裾さばきにて衣の裳裾を翻すように、一瞬だけ仄見えた感情的な気配。それは、だが、瞬時に掻き消え、続いてやって来たのは重苦しい沈黙である。陰の気を持つ"何か"は依然としてそこにいるのに、そこが"どこ"なのかが判らない。間近には違いないのに、気配の輪郭が曖昧で読み取れない。
"…チッ!"
単なる探知は諦めて、フローリングの床へ膝をついた格好で、眸も閉じたまま、両手ですらりと"和道一文字"を抜き放つ。ゾロの持つ探知の能力のレベルは、サンジがいつも呆れているようにお粗末なものだが、破邪としての技を放つそのための集中力や意識の冴えは格段に上だ。対象を間違いなく捕らえ、照準内から逃さぬように射竦いすくめる気迫は、それだけで充分に"封じの咒"と同等なまでの力があるほどだ。
"…どこだ。"
どうしても急いてしまう気持ちを落ち着けようと、呼吸を意識し整える。
"ルフィ…。"
相手の目当ては自分でそうと言ったくらいだ、間違いなく少年の方なのだ。自分を倒しに来たのなら、こんな問答なぞ悠長に交わす暇も与えずに何がしかの"止とどめ"を打っているからで。自分が知らず引き寄せられたように、陰の気を帯びた者を…邪霊を悉ことごとく呼び招いてしまう彼なのだろうか。………と、
"……………何故だ。"
辺りがあまりに静かなことに気がついた。侵入者の気配は、位置こそ不明ながら、同じ空間の中に依然として息づいていると判る。
「ルフィ?」
この事態に、呑気に眠っている彼なのか? それほど大きな力を持たない相手だから、自分を見咎めた時ほどには感知出来ないままでいるのだろうか?
「ルフィ、聞こえねぇのか? 声、出せないなら思うだけで良い。どこだ?」
肌にまとわりつくような熱帯夜の温気がいやに重い。実際の大気の質量以上に、重苦しいものに変化しているようで、それがますますゾロの苛立ちを煽る。
"…くそッ!"
忌ま忌ましいのと口惜しいのと。日頃の対峙ではどんなに性分たちの悪い相手にだっていつもいつも余裕で完全有利であったものが、今夜ばかりは得も言われぬ焦燥にじりじりと苛立ちがつのり、そこへただならない逼迫が輪をかける。こうなったら破れかぶれ、ゾロは意を決すると…、
「ルフィっ! 良いのかっ、お前が返事しねぇんなら、俺は帰るぞっ!」
喉が裂けるかという勢いの怒号に、室内の空気がびりびりと震えた。声という波長ばかりでなく、かなりの気合を込めた"気塊"も放った彼だからで、その波動を受けてか…それとも口にした内容のせいでか。
"………ぞ・ろ。"
やっとのことで声がした。待っていた声、待っていた気配。彼の学校まで跳んだように、気配さえ察知出来れば視覚が不完全でも関係ない。他の感覚で補って拾い上げて、ビジュアルな情景を作り上げることだって出来るのだ。………が、
「………っ。」
そうやって構築された図は、何とも凄惨な代物だった。相手の姿は曖昧としたままだが、いつものベッドに先程までのまま横になったままな少年の小さな胸板の上に何かがいる。そして、そこから伸びた腕…らしき影が、少年の細っこい首条へと容赦なく絡まっているではないか。何をしているのかは一目瞭然。意志に伴うものではないのだろう涙をボロボロと零しながら、頬を真っ赤に熟れさせたルフィの姿が何とも痛々しくて。
「貴様っっ!!」
普段なら。それでも"封魔浄天"の咒を唱えてやるものを、今回ばかりは余裕がなくて。大きく振りかぶって上段に構えた精霊刀"和道一文字"を、そのままの一気に振り下ろし、怪異の輩、固執と負の思念により燻る澳火おきびごと、思いっきり払い飛ばしたゾロである。
*日記のページでも書いてますが、
こういうお話って、やっぱしお払いとかした方がいいのでしょうか?
特に固有のものを差してはおりませんが、オカルトは苦手なので気になりまして。
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