月下星群 
〜孤高の昴・異聞

   天上の海・掌中の星

    〜 黒の鳳凰 LAST DESTINY L
 

 
   幕 間



 
「………? お、ウソップじゃないか。」
「え? あ、エースさん。お久し振りっすね。帰ってらしたんですか?」
「まあな、今朝着いたとこだがな。どうした? ウチん前で。」
「いえ、あの。ルフィ、今日休んだんですよ。いつもならあの従兄弟のゾロさんが何かしら連絡して来るのが、何もなかったとかで。短縮授業だったからそんなに支障はないんですけど、そんでも担任が帰りに見て来いって。でも、チャイム鳴らしても誰も出て来なくって。」
「………そっか。」
「エースさん?」
「…ああ、いや、うん。済まなかったな。俺から訊いといて連絡しとくわ。確か…メリー先生だったよな。羊谷のメリーさんvv」
「あはは、知ってたんですか? そのあだ名。」
「ま〜な。なんたって俺らの代からいる先生だし。」
「じゃあ、俺はこれで。」
「ああ。済まなかった。」



 弟の親友、それはそれは気さくでやさしいお友達を、朗らかな笑顔で見送って。それから。おもむろに…少し軋む門扉を押してドアへと向かった横顔は、打って変わって真剣そのもの。怖いくらいに堅いそれだった。
「………。」
 合鍵を使ってドアを開き、中へと上がる。半年ぶりの我が家。
「ルーフィー。」
 弟の名前を呼ぶが、成程、応答はない。不在、なのだろうが、
"こんな平日にかよ。"
 さっきウソップが言っていた。

   『いつもならあの従兄弟のゾロさんが何かしら連絡して来るのが、
    何もなかったとかで。』

 同居している年長者。どうかすると"保護者代理"として、柄ではなかろうそういう気配り・手配りをきちんとこなしてくれていた存在が居たというのに、その彼さえ不在だというのは尚のこと解せない。
"あの兄ちゃんまでってことは…。"
 彼が"人間"ではない存在だと重々知っているエースとしては、何だか嫌な…不吉な感触に焦燥感を覚えてしまう。
「………。」
 一階を一通り見て回ってから、とんとん…とゆっくり上がった二階。いつもと大差無い、無表情なドアが4つほど居並んでいて、一番手前がルフィの使っている子供部屋。やはり人の居るような気配はなく、溜息混じりにそのドアを開いたエースは、だが、


   「………何だ、こりゃ。」


 室内の様子に眸を剥いた。ゾロとの同居が始まってからは、きちんきちんと片付けていた筈が、台風でも通ったかのように部屋中ぐちゃぐちゃ。引き出しの中身を全部、ご丁寧に床一面へと斑
ムラなくぶちまけたような、足の踏み場もない散らかりようなのだ。
"ベッドの寝具も吹っ飛んでまあ…。"
 駄々を捏ねて暴れても、ヒステリーから暴れても、こうは散らかるまい。カーテンは無理から力任せに引っ張ったように、その端がレールから外れていて、小型のテレビ前にはゲームソフトがばらまかれている。マンガ雑誌ばかりの本棚も、一冊残らず中身は床だし、机の上もペン差しが倒れて…。
"…待てよ。"
 倒れたりぶちまけられたりの方向が全部同じだと、エースは気がついた。入ったまま向かって左から右へ。どれもこれも右端の壁に向かって投げつけたという感じだろうか。それに、
"こんだけ暴れたとして、窓が無事なのもおかしいよな。"
 机用の椅子も倒れて転がっているし、ゲームソフトは結構硬い。今日びのサッシ窓は結構頑丈だと判ってはいるが、テレビのブラウン管、その他、壊れたものは無さそうなのがやはり妙。
「………おや。」
 そんな室内を見回すエースの足元、何かがちかりと鈍く光った。中途半端にカーテンが引かれて薄暗い部屋。それでもその存在を示したのは、
「これは…。」
 拾い上げると、小さなガラス玉である。
「ビー玉…にしては、やけに澄んだ玉だよな。」
 インテリアコーデュネイト用とか、金魚鉢や水槽のアクアリウムへの装飾用などに、様々な色や材質のビー玉があると聞く。そんな中には、仄かに碧がかったびーどろ調のものもあるらしいが、これはそんな安っぽい代物ではないような。
「………ふむ。」
 行方を晦ました弟と、精霊とかいうあの男と。その行き先を知ってはいないかと、ついつい物言わぬ水晶珠を覗き込んだエースであった。



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