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さて。楽しみな催しや待ち遠しい計画はゆっくりゆっくりやって来るものではあるが、それでも行事が何かと多い秋。付け焼き刃ながらも、ハロウィンに関して自分から色々と調べてみた少年は、飾り付けや当日の扮装などなど、下準備にも余念がない。料理も緑髪の精霊と二人、あーでもないこーでもないと、自分たちの腕前で作れそうなものを算段し、さあいよいよ今夜が本番とまで差し迫った、今日は十月最後の日。………だというのに、
「………ぞろぉ。」
何だか元気がない様子で学校から帰って来たルフィである。
「どした。中間テスト、もう返って来たのか?」
そう。先週末は、来月の学園祭を前に、早い目の定期考査があったらしくて。突然"ハロウィン"なんてものに少年が取り憑かれたのは、もしかしてそれからの逃避行動かと思ったくらいである。(笑)
「ん〜、まだ返って来てないけどさ。そうじゃなくて。」
金色に染まった秋の陽射しが大窓から差し込む窓辺の、精霊さんが腰掛けていた居間のソファー。そのすぐ傍までぽてぽてと歩いて来て、足元にデイバッグを落とすと、
「あんな、ウソップが来れなくなったんだ。」
「………おや。」
何でも父方の祖母が昨夜遅くにぎっくり腰で倒れたのだそうで、その看護にと母が少ぉし遠い夫の実家へ向かったその代理として、家のあれこれ手伝わねばならなくなったそうな。
「そりゃあ、思わぬ事態だよな。」
「…うん。」
気さくなウソップ少年には、まだ手がかかる小学生の弟たちが三人もいる。その世話を焼かねばならないのだから、外出や外泊なんて無理な話だろうし、きっとルフィも、
『それは大変だな。うん、こっちは気にしないで良いさ。頑張れな。』
とばかり、笑って励ましたに違いない。とはいえ…ゾロの言いようではないが、平日の夜の話だからと他のお友達には全く声をかけていなかったため、これで"来客は無し"という有り様になってしまった。
「……………。」
あれほど楽しみにしていたことなだけに、それがダメになったとなるとその反動も大きい。日頃は些細なことなど気にしない、お日様みたいな彼だのに。今はすっかり項垂れていて、その力のない様は、見ているだけで胸を突かれるほどだ。
「…ほら。なんて顔してる。」
すぐ前に立って、学校指定の濃紺のブレザーの肩をしょぼんと落としている少年に、ゾロは困ったような笑い方をして腕を伸ばした。それが一種の合図というか、呼吸のようにもなっているのだろう。
「…。」
身を屈めながらもっと寄って来たルフィが、そのままゾロのお膝にまたがると。ぽそんと。凭れ掛かったままに頼もしい胸板に頬をつける。広くて温かくてやさしくて。すかさず"そろり"と、長い腕がくるむように囲ってくれて。何も気取らなくていい、安心出来る懐ろに掻い込まれた小さな仔犬は、くすんと小さく鼻を鳴らして。
「ごめんな?」
小さな声でそんなことを呟くから。
「んん?」
「ゾロにもいっぱい準備させたもんな。」
ここからだとちょうど背後になるキッチンやダイニングには、部屋の飾り付け用のモールやオーナメントやら切り紙細工。あと、お菓子・料理の準備のあれこれがテーブルの上に出ていて。今朝、学校に出掛けるまではそれはワクワクとそれらをいじっていたルフィだったのだが…今は見るのさえ辛かろう。だというのに、そんなことを言い出すものだから。
「何言ってる。」
「………。」
一番がっかりしているくせに、まだ人に気を遣うかな、こいつはと、ゾロとしては何とも…切ない気分にもなってくる。顎の下に来ている丸ぁるい頭のやわらかな質の黒髪を、ごそもそと大きな手でそっとまさぐってやりつつ、
「…まあ、二人で騒ぐってのにも限度があるしな。」
第一、そう言うゾロ本人があまりはしゃぐような性たちではない。これでも結構、当初に比べたら随分笑うようにはなった方だが、どんちゃん騒ぎに盛り上がるより、嬉しそうな楽しそうなルフィを見やっていることをこそ幸せそうに噛みしめるという…
"それ以上言うと、あんたもえらく切ないことになんぞ、ああ"?"
………う。筆者を脅すか、あんた。びくびく…
「? ゾロ?」
「ああ、いや。何でもねぇよ。」
そ、そうですね、話を戻そう。(笑) せっかくここまで準備し、楽しみにしていたお祭り騒ぎ。それをあっさりと"終しまい"にさせるのも、何だか可哀想な気分になって。
「うん…よし。俺の伝手から助っ人を呼ぼう。」
「…助っ人?」
胸元から顔を上げて来る少年へ、
「ああ。」
それはそれはにんまりと笑う精霊様に、
「???」
事情が見えないルフィは、ただただキョトンとするばかりであった。
……………皆様には、もう、何となく察しがついていますよね?(笑)
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