月夜見

   the chase of emergency C
               〜Moonlight scenery
 


 
          




 思わぬ格好での王子直々の参戦に、ついつい呆気に取られてしまったのもほんの一時。気を取り直しての“大乱闘 in 謁見の間”が幕を開け、たかだか10人足らずが相手なんて、護衛官殿にはラジオ体操の前半分にも満たない軽いお仕事。片手にさえ余るほんの数分で全員をお見事に伸
してから………、
「おいっ! サンジはどこなんだっ! 無事なんだろうなっ! おいっっ!」
「…訊問したかったんなら、一人くらいは人事不省にしない程度の手加減をすべきだったよな。」
 既
とうに意識のない男の襟首を両手で掴んで揺さぶる王子へ、ゾロは…シャツの袖口の中、リストバンド型のホルスターへ縮めた特殊警棒を収め直しながら、ともすれば脱力気味に声をかけている。自分が故意に手加減した者へまでご丁寧にも止めを指してくれたので、相手陣営は口の利けない者ばかりとなってしまっている始末。(う〜ん。) 幸いなことには…全員怪我だけで済んでおり、死人が出てゾロがまたもや逃亡し、片平なぎさと船越英一郎が真相究明にやって来て、ウソップが苦悩の表情を浮かべて“帰ってくれっ”と怒鳴ったり、王宮にいない金髪の誰かさんの写真を悲しげに見ていたナミを思い出しながら、水谷豊が本社からのファックスを受けて考え込んだりするような展開にはならなかったが。(こらこら/笑)
「なあなあ。サンジ、無事だよな?」
 自分がやらかした"うっかり"が原因で、サンジの安否を知るためのヒントの糸口が絶えたのならば…こんな悲しいことはない。
(まったくだ/笑)
"今更なことではあるが、侍従長の命が惜しかったら言う通りにしろとか、そう言い出すのを待っても良かったんだがな…。"
 勿論、そんなもんで素直に萎縮して言うことを聞くような人たちではなくって、

   『そんなことを言って良いのか?
    もしもあいつに何かあったら、その瞬間から。
    お前らも奴に直接手を下した奴らも、帰る国はもう無いと思いな。』

 こういうカッコいい啖呵を考えてもいた筆者だのに、さっぱりワヤである…って、それはまあ冗談だが。
(笑) そんな脅迫の動きからも、例えば携帯電話を構えたならその交信記録を調べ上げるだとか、やはり何かしらの糸口が掴めたかも知れない。そういった手筈をあれこれと構えていたのだろうゾロに、
「俺、要らないことをしちゃったのかなぁ…。」
 何だかよく判んないけれど、どうもそういうことならしいと察してだろう。大きな瞳が うりゅりんと潤み始めた王子様に気づいて、
「大丈夫だ、心配すんなって。」
 しょぼんと萎えた小さな肩に乗っかった大きな手。やさしくて頼もしい声音に顔を上げれば、ゾロが余裕顔で笑って見せた。
「だって…。」
「奴は無事だよ。何かあったんなら、こいつらだって"此処にやって来る"なんて大胆な事をやってる場合じゃないからな。」
 そう。ゾロの見解は、決して単なる気休めなんかではなく、しっかりと彼なりの経験や蓄積を引っ張って来た"裏付け"のあること。
"ただ留学の話を断ったからってだけじゃあない。どんな切っ掛けからかは知らんが、恐らくは…隋臣長はこいつらの本性を知ってしまった。だから、こんな手筈になっちまった、って流れには違いないんだろうが…。"
 物騒な例え話になるが、だからといって…謀略を知られたからと言って、いきなり殺されてはいないだろうとゾロは踏んでいた。そんなことをすると余計な“お荷物”が増える。サンジが訪ねて行った先、恐らくはホテルか何かだろうが、そこから引き払った後、例えば部屋などに死体を残してゆけばすぐにも通報されるだろうし、小さな国だけに王宮への連絡だって早い。そうかといって運んで回るのも大変なこと。よって、ここは効率を考えると…ぎりぎりまでは“王子に危害を加えるぞ”とか何とか脅し賺
すかししながら、自力で歩かせての人質扱いをした方がマシであろう。
"そんなアクシデントが挟まったにもかかわらず、王子誘拐というメインの策謀を続けようとしたって事は、奴がまだ無事な証拠だと見て良い筈。"
 勿論、これだって予測に過ぎず、この連中が想像を絶するほど無計画だったり素人だったり、逆に…人ひとり死んでも動じないだけの土台や背景がしっかりした大掛かりなグループだというなら話は全然違ってくるが、
"それだったなら、たかだか護衛官一人の挑発にビビリったりはしなかろうさ。"
 ですよね、うんうん。それより前に、もっと"もっともらしい口実"を、余裕もって構えて持って来るだろうしね。特殊な証明書を作り上げることが出来るところは玄人みたいだけれど、いきなり乗り込んで来て王子を連れ出そうとした浮足立ってる様子は、余裕のなさがありありとしていてあまりにお粗末。それをもって、

   ――― 情報収集や道具を仕立てるテクを持つ、
       一端
いっぱしの"犯罪集団"ではあるらしいが、
      陣営的には大した規模の連中ではない

と、分析したゾロである。
"…となると、だ。"
 そんな連中だとするなら、王子を掻っ攫う目的が破綻した以上、サンジの身を盾にして開き直るという手にすがるしかなくなる。
"奴を捕捉しておくことになったのは突発事態だったろうに、きっちり2グループに分かれて行動してる辺りも、微妙に一応は物慣れている連中らしいからな。"
 誘拐は…その組織の大きさにもよるが、テロ組織の軍資金調達班であれ、誰ぞから依頼されて請け負うグループなどの場合であれ、割とスマートに"仕事"をこなす。彼らの目的はあくまでも金銭で、誰かの怒りや憎しみを煽ったり、要らぬ敵を作ることではないからだ。今回の輩たちの目的は“ルフィ王子を誘拐すること”であったようだから、それが果たせなかった今、必死で撤収行動に入っている筈。そんな状況下にあって、これ以上はない"楯"をむざむざ殺しはしなかろう。
"それに。せめてルフィが嫁さん貰うまでは、そうそうあっさり殺されるような奴じゃないし。"

 ………サンジさんをちゃんと見込んで褒めてるの? それ。
(苦笑)



            ◇


「ともかく。まずは奴らの行動を把握しないとな。」
 とりあえず。インターフォンで王宮警備を担当する常駐の部署に連絡し、気絶している連中を留置施設へ運ばせつつ。ゾロは心配顔のルフィを促すようにして、ウソップと共に彼の部屋へと戻ることにした。
「これが一応、連中が携帯していた身分証とパスポート。それと偽物大使代理の携帯電話だ。」
 平生となんら変わらぬ静かな空間。居間にあたる"一の間"にて、テーブルの上、ゾロがトランプを広げるように扇形に開いた小冊子数冊とコンパクトな携帯電話。書類系統の方は恐らくは偽造された代物だろうに、
「よっし。任せとけ。」
 ぱらぱらっとページを繰って中身を確かめたウソップが、得意のパソコン操作で情報を絞り始める。蓋を開かれたノートパソコンは、既製品へ彼が様々なオプションを…ソフトにも外部にも取り付けた特殊な品で、モデムの一種なのか、玩具っぽいパラボラアンテナが脇についているのがこんな場合でも何だか可笑しい。カタカタと弾かれるキーが画面上に色々なデータベースを呼び出しては、傍らからのゾロの指示も加わって、どんどんと検索が進められてゆく。
「色々と名前を変えての工夫とやらをしちゃあいるらしいがな、ウチみたいな呑気な国でそういう凝ったことをすると、それが却って浮いてしまうんだな。」
 早送りにしたビデオの、映画のエンディングのスタッフロールのように、目で追うのもやっとという速さでその一覧が流れてゆく名簿や資料。それを左から右、素早く読み取りつつもどこか愉快そうに言ってのけたウソップであり、
「??? どういうこと?」
 意味が分からなくて訊き返すルフィへ、
「ホテルやレンタカー、その他の etc. には、利用するにあたって名前と連絡先を届け出ることになってるものが多いだろ? 後ろ暗いところがない者は、ちゃんとした本名、ホントの住所を届け出てる。だから、役所や出入国管理局へ照合すればどれもきっちり重なる。当事者がいるし、それがちゃんと利用した本人だ。だってホントの情報だからな。そういう照合が出来ない名義での届け出になってる怪しい代物をすべて拾いあげて、こいつらの滞在期日や行動範囲で篩
ふるいにかけりゃあ…。」
 かちゃかちゃ・かたたた…と、軽快に叩かれるキーボード。絞り込みが佳境に入ったか、ふっとウソップが口を噤んで、
「ホテルは引き払ってるな。だが、レンタカー、ここの前につけたのとは別にもう2台借りてやがる。両方ともミニバンだな。」
 おおう、もうそういうことが絞り込めたんですね。
"王宮のチェックシステムにも、さりげなくAI式センサーやら導入されてっからな。"
 威風堂々、古式ゆかしい歴史ある建物や施設のところどころに。カメラアイだとか集音マイクだとかを設置して、周辺情報を解析しつつの監視や管理を怠ってはいない。そういうところでもこの青年が、管理者として見事な管理体制を仕切っているのに違いなく、
「それと…飛行機の予約はないな。」
 ウソップが告げたそんなお言葉には、だが、緑髪の護衛官が眉を寄せて見せた。
「そりゃおかしいだろう。さっきの様子からして、今日、今すぐにでもルフィを国外に連れ出そうって勢いだったぞ。」
 空港についてからチケットを取るつもりだったというのだろうか? 取れれば良いが、結構人数もいるのだろうに…キャンセル待ちだなんて運びにでもなったら間抜けすぎる。腑に落ちないという顔になる彼を制して、
「まあ待て待て。あ、これだ。ヘリポート。中型のブイトール、垂直離着陸機をレンタルしてるぜ。」
「それって沿岸観光用だろ?」
と、こちらはルフィからの問いかけ。この国の領土には周辺海域の孤島たちも含まれるため、そちらへ渡るための国内交通手段として用意された代物だ。国外へは飛んでかない。だが、
「操縦出来る奴がいるのなら、パイロットを黙らせて、無理から国外へ出てくことだって出来るさ。空に柵や塀はないからな。」
 もう既にドえらい犯罪者に違いない奴らなのだ。この上は…そのくらいの破れかぶれくらい、躊躇なく しでかしかねない連中だろう。
「どこのポートだ?」
「MDWFB…っていうと、ヘーゼルタウン・ポートだ。」
 コード表の羅列だったモニター画面が地図に切り替わり、その上の一点が点滅する。
「そのヘリポートて、ウチの屋上からも見えるよね、確か。」
「ああ。こっちからだけな。」
 嘘みたいに聞こえるかもしれないが、こちら寄りに背の高い木立ちや塔などがあるため、王宮側からは見晴らしがいいのに、周囲からは覗けない。警護を考えたこういう建造テクや知識・技術は基本中の基本で、
「よしっ、ちょいと眺めさせていただこうかな。」
 地図の上で距離を測っていた護衛官が、そうと言って立ち上がる。
「眺めるって…助けに行かないのかっ?!」
 ルフィが意外な方向性に慌てて後を追いつつ大きな声を上げたが、
「ここいらは王宮の防御のためにって、道がかなり入り組んでるだろうが。だから、至近とはいえこっちからも空から舞い降りた方が早い。」
「あ、そっか。」
 王宮のヘリで上空に先回りをし、通せんぼと洒落込もうという作戦らしい。長い脚での大きなストライドで先をゆくゾロに、必死で追いついてく王子の後方、
「…大丈夫かなぁ。」
 やはりついて来つつもウソップが小首を傾げて見せた。
「何がだ。」
「いや、俺の担当は今んトコ陸上と海上部門だけなもんでさ。空挺関係はよく知らねぇんだよ。だから、ちゃんと整備されてりゃあ良いんだが…。」
 おいおい、そんな。それを聞いてこちらも難しそうな顔になるゾロであり、
「それよか、警察に任せないのか?」
 ウソップから訊かれて、渋い顔のままにボソッと応じた。
「連絡はしといてくれ。だが、事実確認だの何だの手間取るだろうからな。俺たちも追っかけた方が対処としては早い。」
 そう。本来なら、警察や公安、外事課などなどの"担当部署"に任せるべき事柄であるのだが、役所である分、何かと手間がかかる。まさかに"出動に必要な書類をいちいち提出しぃの…"から入るというほどお呑気ではなかろうが、それでも事実確認など"今から"始めて動き出す彼らとなる訳で。だが、コトはそれを待ってはおられないほどの、文字通りの"緊急事態"だ。向こうに人質が取られている以上、一刻を争う。


            ◇


 シャツや髪が肌に張りつくほどの海風が吹きつける屋上ヘリポート。頭上には雲ひとつなく、青々と晴れ渡った空が…こんな場合でなければ、爽快でさぞや気持ち良い風景だったことだろう。格納庫には、確かに小型のブィトールとヘリが待機していたが、
「ああ、やっぱりな。」
 周囲から駆動部からザッと見回したウソップが大きなため息を落とした。危惧した通り、やはりすぐに動かせるような状態ではないらしい。そんな彼の傍で、やはり肩を落としたルフィ王子は、格納庫の外、屋上の端の方で遠くを眺めやっている大きな背中に向けて駆け出した。
「距離があり過ぎるな。」
 その鋭い目許をなおきつく眇めて、護衛官が見やっていたのは件
くだんのヘリポートだ。確かに此処からでも見えはするが距離が半端ではない。彼のそんな呟きに、
「だったら早く…。」
 こんなとこに居ないで一刻も早く出掛けないとと、ルフィが焦れったそうな顔をする。そんな彼の背後から、
「何の、特殊スコープだ。」
 ほれっとウソップが放って寄越したスコープは、ゾロの大きな手に難なく受け止められて。だが、
「…一体何百倍だ、こりゃ。」
 覗き込んだゾロがギョッとして目を離し、製作者に訊いたところが、
「500。いや、800だったかな?」
 …天体望遠鏡ですか。(いや、そうともなると こんなもんじゃないってのは判ってますが。)
"スコープってことは、これで照準を合わせろっていう何かがあるって事だよな。"
 銃器にしても大型魚用の銛
もりの発射台にしても、この倍率はとんでもないぞと、ゾロは思い切り眉をしかめて見せている。その理由はまた後程。
「…あっ。」
 そんな彼らの傍らで、これもかなりの倍率のそれなのだろう、双眼鏡でポートを見据えていたルフィが、
「サンジだっ!」
 一声叫んだ。観光用と言っても、この国ではそれが馬鹿にならない産業だから。どうかすると公的なものよりそっち用の施設の方が立派だったりする国だから。相当広いヘリポートであり、そんな敷地がコインくらいの大きさの空き地にしか見えないほどの距離である。そんなところにいた人間の姿がきっちり識別出来るスコープであり、それもまたとんでもないことなのだが、
「ほらっ! 奥の方の飛行機に連れてかれてるっ。手とか縛られてるのに…なんで係の人、気がつかないんだよっ!」
 とんでもない倍率だからこそ手に取るように見えているのだというのも忘れ、そんな酷い仕打ちをされてる知己を誰も助けてくれないのへ、心からの憤慨を洩らす王子様だ。そんな彼の言いようへ、
「しゃあないか。見えちまったもんは捨て置けない。」
 おいおい。くくっと笑ったゾロは、むうっと顔を上げたルフィには構わず、ウソップの方へと声をかけた。
「おい! 遠距離用の銃や高射砲はあるか?」
「ああ、こっちだ。」
 胸を張って言い出すウソップに、予想はしていたらしいゾロが尚の苦笑を見せる。そらなぁ、スコープだけってことはないよなぁ。
(苦笑) そんな彼の前へと、射程の長いカービンやライフル、バズーカまで突っ込まれたミニコンテナを台車に乗せて、格納庫からがらがら引っ張り出して来たウソップであり、その中の1つを手にしたは良かったが、
「う"〜ん。」
 ゾロがあらためて唸ったのも無理はない。遠いところへの照準合わせは、と〜に〜か〜く難しいのだ、お客さん。さっきゾロ本人が呆れていたのが“これへ”"であり、手元の1ミリが100メートル先での1メートルのズレ、なんてことになりかねない。ましてや、キロ単位の距離。とんでもないスコープのお陰様で"見えて"はいるが、そこへ弾丸を撃ち込もうとなると話はまるで別。スリムなライフルを手にし、しゃこんっとチェンバー部を開いて、中折れの銃身へ弾丸を詰める。自動機銃ではないのに連発式の特製仕様らしくて、横合いからマガジンをガツンとはめ込む。大きな手、長い腕、雄々しい肩に映える武装。武骨で厳
いかつい、温度のない鋼鉄の死神。あちこちチェックをし終えてから、おもむろにそれを振り上げて、照準合わせに………数刻の沈黙。
"暴れてくれるなよ、隋臣長。"


   「っ!」


 間近に聞く銃声は、やはりそれなりの衝撃音で。1撃目はとんでもない上空へ。そしてすかさず放たれた2撃目が、見事、ブイトールの底面辺り、動力系統のブースに命中。ついでに"たたん、たた…"と窓ガラスへ何発かお見舞いし、強化ガラスに引っ掻き傷を掠らせる。
「当たったのに何で割れないんだ?」
 双眼鏡を覗いたまま、悔しそうに言うルフィへ、
「飛行中に何が当たるか分からないからな。飛行機やヘリのフロントグラスは、凄まじい衝撃にも耐えられるような、特殊な材質のガラスを使ってるんだよ。」
 それ自体は小さな小石などに過ぎなくても、こっちが凄まじい速さで飛んでいる身。加速がついて弾丸並みの勢いでぶつかることになる。よって、そういう特殊ガラスが用いられているのだそうで。ゾロとしても、最初から砕き割るのは不可能だろうと踏んでいたが、スコープで覗いた遠い“現場”では、周囲にいた輩たちが慌てた様子で辺りを見回し始めたから、まま、効果としては御の字か。
「これで"何かやられた"ってことにも気づいただろうさ。あのまま無造作に動かされると、空けた穴から漏れた燃料に引火して爆発って恐れがあるしな。」
 でも…まさかこんなまで離れたところからのちょっかいだとは思わないだろから、一種の“神憑り”みたいな、薄気味の悪い現象だとか思われたりしてな。
(う〜ん。) さばさばとそんな言いようをするゾロだったが、
「何でさっき、最初のはあんな見当違いな方へ撃った?」
 ウソップの問いかけへ"ああ、気づいたのか"という顔になり、
「性能を信用しなかった訳じゃあない、照準のクセや相性をな、見てから撃つ癖が抜けんでな。」
 そういう場合じゃなかったのに、つい…と、自分でも苦笑する彼であり。
"ああ、そうか。"
 言ってみれば"車の試運転"というような感覚だろうか。この男は生まれた時から戦場にいた。限りなく無頼なものから、それなりに規律があるもの。どんな依頼にも応じるものや、指向や士気といったものにこだわりがあるものまでと、個々の部隊ごとに独特なカラーがあって、それぞれに何かと違うのだろう"傭兵"集団の外国人部隊。…戦闘専門の“派遣社員集団”のようなものという把握は、もしかしてちょっと違い過ぎるのだろうか?
おいおい 実際の話、戦場の只中では様々に機転を要求される。全ては任務遂行という最終目的に到着するまで何があっても生き延びるために。そんな中では、相手の装備を奪って使うことだってザラな筈。自分や信頼する仲間が準備をし、日頃からも始終触れてクセや感触を馴染ませていないもの、しかも"銃器"を扱うのだ。間違いのないようにという確認の基本セオリーを、こんな場でもそれと意識せずとも出せるほど叩き込まれている辺りは、
"随分と正統派な部隊にいたんだな。"
 そんな背景を思わせる、雄々しき戦士。今彼らが向き合っているような"非常事態"が"日常"だった、遠い国から来た戦闘工作員。
「…サンジ、大丈夫だよな?」
 不安そうに眉を寄せて見上げてくる小さな王子様の髪を、その大きな手でくちゃっと掻き回し、何とも言えない暖かな笑みを向ける頼もしい護衛官。こんな“場違いな”ところにやって来た彼へと、自分たちもまた…何かしらホッとするものを与えることが出来ているのだろうかと。時に"情けない"というか"面目ない"というかな気分が沸いても来るのだが、
「大丈夫。それよか、急ごう。」
 彼を頼みにすること、彼を信じて凭れること。腕が立つからではなくて、一緒に頑張ってくれることへ"嬉しい"と感じること。それが、それこそが。彼を人として必要としているのだと思うことが、彼の頬にぶっきらぼうな笑顔を招いてくれるらしいから。
「うんっっ!」
 ぱぁっと頬を輝かせる王子の笑顔と、それへと反応して口許をほころばせるゾロと、その両方へ何だか微笑ましくなってしまう、メカマニアさんなのだったりする。




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 *さあ、いよいよ“サンジさん救出作戦”の始まりでございます。
  年内に終われるんだろうか。それが一番の心配よ〜ん。(笑)