蒼夏の螺旋  “北窓冬垣”A
 

 
          



 いたって安穏な筈だった…師走の最初の土曜のお昼前に、突然の稲妻みたいに轟いた、不吉な破壊音と棘々しいばかりな諍いの声。しかもその声の片方は、ついさっきまで自分の傍らで幸せそうに まろやかな笑みを浮かべていた、それはそれは愛しい人のものではなかろうか。
「…っ。」
 ロロノアさんチはこの小さなマンションの4階にあり、エレベーターホールのすぐ傍らの、納戸部屋つき2LDK。近年の物騒な世情に合わせて、少しずつ新しいものを取り揃えた様々なセキュリティシステムが整えられていて、なかなかに優良な建物でもあるのだが、そんなもの、一旦侵入されてしまってからでは何の役にも立ちはしない。
「ルフィっ!」
 抱えて来た買い物を玄関脇の納戸に放り投げ、そのままキッチンへと飛び込む。きっとルフィだって そうと辿った筈であり、真っ先に視線が流れた先の流し台の上には、空になったトートバッグがくたりと置かれ、食卓用のテーブルの上にはリンゴや柿といった果物がごろんと散らばったまま。そして、

  「………っ!」

 キッチンを素早く浚った視線が、切っ先を返すように反対側へと向かったその途端、そこに異質な、そして絶対に許せないものを捉えて…、
「貴様〜〜〜っ!」
 ゾロの表情があっさりと、見るからに険しい憤怒のそれへと塗り変わる。十畳以上ほどもあるのだろうか、シンプルなデザインの応接セットを置いてもさほどには圧迫感のない、冬の乾いた陽射しがふんだんに降りそそぐリビングの窓際辺り、
「…ゾロっ。」
 寒いからと着て出た赤いダウンジャケットさえ脱がぬままに、小柄で細身の小さな身体を痛々しくも羽交い締めにされたルフィがいて。その背後には…変装のつもりか、毛糸編みの登山帽に、黒っぽい色つきのゴーグルをつけた男が立っている。ルフィよりもかなり上背があり、濃紺のジャンパーに作業服のようなズボンという質素ないで立ちだが、
"ガラスを割って窓から入ったって事は、だ。"
 外壁を登ったのか屋上から降りて来たのか、それともお隣りのベランダから渡って来たのか。どんな手を使ったのかは分からないが、動きやすい恰好なことと考え併せても、本人も身の軽い奴であるには違いない。先程ルフィを脅しつけていた怒声からして、まだ二十代くらいの若い男であるらしく。

  「…っ。」

 これみよがしに、懐ろへと引き寄せたルフィの顔の際。柔らかい頬に今にも触れそうな位置へと、安っぽい果物ナイフを突きつけて見せる。選りにも選って最もあってはならぬ構図を目の当たりにしたことで、一気に加速を帯びて沸き上がっていたゾロの強烈な怒りが、だが…そのまま爆発せずに何とか踏みとどまれたのも、その物騒な凶器の存在と意味合いを素早く把握できた、持ち前の冷静さからのこと。
「ち、近寄るなっ! 刺すぞっ!」
 荷物はない身軽な恰好だし、どうやらマンション専門の単独犯の空き巣というところか。ナイフがいかにも安っぽく、携帯に不向きな種のものであること。しかも対峙しているゾロへではなく、凶器を突きつけた人質を気にして視線が定まっていない辺り、かなり舞い上がっているらしく、
"こんな風に居直ったことは無さそうな奴だな。"
 だがだが、咄嗟のことだったろうにルフィを羽交い締めにした手際は悪くはないから、下らない喧嘩や 弱いものいじめへの薄っぺらな威嚇だけは、それなりの蓄積を持っているというところかと。さすがは武道をたしなむ御仁で、一瞥でそこまでを読み取ると、

  「その子を離せっ。」

 おもむろに。腰の入った低い声で言い放つ。
「お前、外から窓を割ったろう。このマンションには窓にも侵入者感知センサーがついてるんだぞ? そんなことをしたらすぐにも警備会社に連絡が届くし、警察にも通報されるんだ。」
「うるせぇなっ。すぐったって、どうせ4、5分はかかる…。」
 男が言い返した語尾に重なったのが、急行して来たらしきパトカーのサイレンの音で、しかも…このマンションの真下で停まった模様。

  「………。」

 後で聞いた話だが、たまたま、近所を巡回警邏中だったそうで、さすがは師走である。…そうじゃなくって。
"…まずいな。"
 そうと感じたのが、実はゾロの方。今ここに警官が躍り込んで来たら間違いなく犯人を刺激する。空き巣や小さな喧嘩くらいには、少しほど蓄積もあってそれなりに場数を踏んでもいるのかもしれないが、脅しではなく本気で刃物を振るったりタイマン張ったりという"一端
いっぱしな荒事"へは見るからに素人そうな若者だ。今でさえ十分に緊張しきって張り詰めている様子なのに、そんな厳いかめしい人々の姿なんぞを見た日には。更なる緊迫から恐慌状態に陥って…扱い慣れていなさそうな刃物をどう突っ張らかすか、分かったものではなく。さりとて、何でもないと誤魔化したところで、警備会社の人間はともかく警官の方は、一応窓を確かめさせてくれと言うのがマニュアルだろう。住人が脅されている場合だって織り込み済みだろうからで。

  「………っ!」

 そんな最中に、不意に。彼らが睨めっこしているリビングの真ん中、ローテーブルの上で、その存在を主張しだしたものがある。軽やかな前奏は今月中にクライマックスを迎える連続ドラマの主題歌で、そう…ルフィがポケットから出しておいていた携帯電話の着メロらしい。

  "こんなタイミングで掛けてくんなよな。"

 何処のどなたかは知らないが、お陰様で…、
「ひぃ…っ☆」
 ビックリした犯人が慌てて後ずさり、ガラスが粉砕されている窓枠を蹴って開け、そこから飛び込んで来たのだろうベランダへ…羽交い締めにした人質のルフィを懐ろに抱えたままで駆け戻ってしまったから、
"…う〜ん。自分で自分を追い詰めやがったか。"
 まだ室内であったなら。じりじりと向かい合ったままで玄関や他の部屋へでも向かえたものを。彼が辿り着いた先は…最も逃げ場のないポジション。これはいよいよ、穏便にという方向で説得しにくい状況になってしまった。しかも、

  《 〜♪♪♪ 》

 お次は軽やかに玄関からのチャイムまでが鳴り響く。どの部屋の窓が割られたのかも、管理人室でチェック出来るため、到着したお巡りさんたちが"現場"へと的確迅速に駆けつけてくれたらしい。携帯電話の着メロが切れたせいでか、そっちのチャイムの音もまた、犯人にも良っく聞こえたらしく、
「お前っ! このガキを助けたいんなら、警察に入ってくんなって言えっ!」
 金切り声で言い放つ。だがだが、ゾロとしては、
"あ〜あ、そんな大声で。"
 せめて こそりと指示を出してくれたなら、何も異状はないと しらを切り通すことも可能だったかもしれないのに。今の雄叫びは恐らく、ご近所様方の元へも届いたことだろし、サイレンを鳴らして駆けつけたパトカーだとあって、すぐ前の路上にもやじ馬が集まっているに違いないのだから、そこへも聞こえたかも。
"これで、俺が誤魔化して何もなかったことには出来なくなったか。"
 まだ幾らかは、いやいや十分に冷静なゾロであり、それもこれも…ルフィの蒼白なお顔が、こちらをじっとじっと見つめ続けているからに他ならない。恐慌状態になって取り乱す事なく、怖いだろうに我慢して、ただただゾロを見つめている。助けてくれると信じて、すがるような瞳を向けて来ている。それに励まされるように、何とかしなければと必死で考えつつ、効果的な行動を起こそうと構えているご亭主であり、その冷静さが犯人を無駄に煽ることなく ここまで来たのだが、
「…っ。」
 再度のチャイムに已なく…それでも無念の意を一杯込めた眼差しでベランダを見やってから、キッチンを出て玄関へと向かうことにしたゾロだった。それへと、
「いいかっ! 追っ払ったら戻って来いよっ!」
 居丈高に怒鳴るのへ、
"言われずとも。"
 戻って来てやるわいと、ついつい胸元で握った…頼もしい右手の拳。ルフィという"人質"さえなければ今頃はボコボコのズタズタなんだからなという、この彼には珍しくも直情的な憤懣を覚えつつ、それでも表面的には至って冷静なまま、短い廊下を進んだ彼である。




 玄関先には、先程のパトロールカーにて駆けつけたらしき警察官が2人と、何だか様子が訝
おかしいぞということで此処まで同行して来たのだろう、1階の受付にいた管理人のおじさんが顔を揃えていて。それから、廊下の向こうの離れた辺りに、少し遠巻きになって何人かの住人たちの姿も既に見え始めているのは、今日が土曜で休みだからと、家で朝寝を決め込んでいた人が案外と多かったからだろうか。
「警備会社からの通報がありました。窓ガラスが外から割られたようですが、どうされたんですか?」
 自分と大差無いくらいの若い後輩さんを引き連れた、ベテラン風の警官が訊く。いつもは気の善さそうな笑みを絶やさない管理人さんも、今ばかりは堅い顔つきをしていて、
"…そりゃそうだよな。"
 ドラマのみならず現実の世界でも、毎日のようにどこかで起こってる"事件"ではあると、頭では分かっているのだけれど。それこそ"ドラマじゃあるまいし"と、自分の近辺では起こり得ないとついつい思ってしまっている、明らかに"非現実的"な とんでもない事態でもあって。そこへ自らが危険物を投じるかのように、

  「凶器を携えた侵入者です。」

 ゾロは淡々とした声で言い放った。
「どうやら空き巣らしいのがウチのベランダにいたのと、買い物から帰ったばかりのウチの家人とが鉢合わせしてしまって。」
 そこまで言ったところで、管理人さんが目元をぱしぱしと瞬かせる。
「まさか…ルフィちゃんかい?」
「はい。」
 口惜しくて堪
たまらないことなだけに、ここだけは声も低くなり、
「まだ子供みたいなもんですからね。咄嗟に掴み掛かって、殴るなり突き飛ばすなりして振り払って逃げようとでも思ったんでしょう。ところが続いて俺…私まで帰って来たものだから、誤魔化し切れないと思ってか。ルフィを盾に取ってナイフを構え、侵入したベランダへ下がってしまって。」
 管理人さんが警官へ"ルフィちゃんというのは、この人のお従弟さんなんです"と説明している傍ら、この自分が、あんな下種(げす)を相手に手も足も出ないだなんて。のっぴきならない状況というのを説明しつつ、そうだという現状がますますと、腹に据えかね、頭に来たゾロだったが、

  「子供を楯にした"籠城"か…。」

 お巡りさんがぽつりと呟いた一言が、尋常ではない一大事なのだという宣告なようにも聞こえ、それが…カッカしかかっていたご亭主の頭へ"まあまあ落ち着いて"というクールダウンを招いてくれた。肝が座っているせいで冷静さを何とか保っていられるゾロはともかく、犯人の方は。逆上しているからか、それとも人目を忍んでこつこつと…というクチだったのか。4階という結構な高さまで登って来たくせに、同じ方法とやらでは もはや逃げ出せないのだろう。

  「う〜〜〜ん…。」

 そんなこんなと。ドアを開けたままに手短に説明し、管理責任者&治安保持責任者の皆さんを交えて"どうしたものか"と唸っているところへ、

  「とっとと戻って来いっ! 警察はダメだからなっ!」

 犯人の偉そうな喚
わめき声が届いた。ルフィさえ盾にしておれば、ゾロは自分の言う通りに動くと踏んだらしい。反射的に顔を見合わせた一同だったが、
「…とりあえず、私が交渉しましょう。」
 民間人をこれ以上危険にさらす訳には行かないし、人質に取られているという坊やを助け出すのも"警察の仕事"と、そうと判断したらしきベテランのお巡りさんだったが、
「いえ。私が戻ります。」
 そこは譲れず、すかさず言い返したゾロだ。
「あなたが…?」
「その制服を見たら逆上しかねません。」
 さっきも感じたことだ。この人 御本人は、それは落ち着きのある、人柄にも深みのありそうな人物なのだが、犯人にしてみればそこまで感覚も回らないことだろうから、制服へと単純に反応を示すに違いなく、
「…そう、ですか。」
 そこのところはお巡りさんにも通じたようだ。
「こんなことが足しになるとは思えませんが、私も剣道を少し齧った身です。ですから私自身への危害へはそれなりの対応も出来ますし、それに犯人にしてみれば、ただの一般人相手で言いたい放題出来る分、落ち着いて来て油断をするかもしれないです。」
 犯人が要求しているからではなく、ただただルフィの身の安全を考えて。そうと説明するゾロへ、お巡りさんも渋々ながら…仕方がないですなと頷首してくれて、
「ともかく。周辺を固めて、万全の態勢を取りましょう。」
 後ろに控えていた後輩さんへ、パトカーへ戻って署の方への応援を請うようにと指示を出し、ご本人は野次馬が集まらないようにこの通路を立ち入り禁止にしないとと、そちらへ着手することにしたらしい。
「頑張ってくださいね。」
 管理人さんがこそりと掛けて下さったお声へ"はいっ"と大きく頷いて、再び玄関へと踏み込んで。ゾロはフラットの中へと戻ってゆく。キッチンを通り過ぎ、元居たリビングへと向かえば。今の間に中へと入っていれば良かったものを、相手は依然としてベランダにいて、
「警察は追い払ったのか?」
 手摺りから下を覗き込んでいる。パトロールカーが気になってしようがないのだろう。やはりこういう荒事には全然全く慣れていないらしいと偲ばれる。いかにもおたついたような情けない態度に、やれやれという溜息をつくと、
「こんな青二才が帰ってくれと言ったところで、はい、そうですかとすごすご帰ってはくれないさ。」
 お前さんが そうなようになと、心の中で付け足して、
「ただ、事を荒立てないようにしたいって言ったら、突入を控えてくれたんだよ。」
 呆れたような口調が届いたか、そしてそれが自分への侮蔑と感知出来たらしくて、
「うるせーなっ! 偉そうに言うんじゃねぇよっ!」
 羽交い締めのままでは動きにくかったのか、片方の腕を胸元へと回し、懐ろへ抱え込む格好で捉まえていたルフィの顔辺りへナイフをかざし直して、
「お前の態度如何
いかんでもな、このガキが死んじまうんだぞっ。そこんとこを忘れんじゃねぇよ!」
 ガァッと。威嚇丸出しの罵声もどきを、喉が引っ繰り返りそうな勢いで怒鳴った犯人だったが、


  「………思い上がってんじゃねぇよ。」


 おおっっと。とうとうゾロさんも何本か切れたのか。それとも、犯人の挙げた胴間声へひやっと怖がって目を瞑ったルフィの様子の痛々しさに、何か言っておきたくなったのか。不意に…低い声になってそうと言い返した彼であり、
「ああ"っ?!」
 彼の変化に気づかぬままに がなり返した犯人へ、ぎらりと鋭い一瞥を振り向け、

  「言っとくがな。その子を楯にしただけでもお前の負った罪は重いんだよ。」

 例えるなら鷲や鷹といった猛禽類や、虎や獅子のような牙も爪も鋭く雄々しい野獣の類
たぐいの持つ、理屈抜きの威容のような。ただ向かい合っただけで ひしひしと、今にも掴み掛かられそうな、そしてそのまま切り裂かれそうな。目には見えない炎群ほむらの熱気か、鋭く冴えてどこへでも深々とすべり込む氷の刃か。肌に迫って恐ろしい、危険の香り一杯の圧倒的な存在感。
「掠り傷ひとつでもつけてみな。冗談抜きにその途端、その両腕ばっさり切り落としてやるから、そっちこそ覚悟しとけよな。」
 よく通る声での、しかも鬼気迫るほど真剣本気の一喝に、
「………っ!」
 腰の弱い空威張りが勝てよう筈がない。しかもしかも、
「ただのカッコつけなんかじゃないよ。」
 すぐ間際の懐ろから、人質のルフィが言葉を足した。
「ゾロは剣道で何年も全国チャンピオンだったんだ。それに合気道の有段者だから、納戸にはホントに斬れる刀だって仕舞ってある。」
「…っ!!」
 ボソッとした言いようだったが、だからこそ。妙に真実味を帯びて生々しく聞こえたらしくって。

  「……………。」
  「〜〜〜〜〜。」

 奇妙な睨み合いは、幾分かゾロの方が優位という方向へ形勢逆転したものの。そんな間合いへ、

 《 ♪♪♪ 》

 またまた着メロの電子音が割り込んだから、
"…ちっ。"
 せっかくの緊迫感を台なしに しおってからにと、テーブルの上を見やったゾロだったが、
"???"
 ルフィの携帯が鳴った訳ではないらしく。そういえば…先程のとは曲が違う。勿論、ゾロの携帯のそれとも違う。窓辺に沿った部分にだけ、飛び散ったままになったガラスの破片がキラキラときらめくリビングの中、どこから聞こえている音だろうかと…犯人の視線までもが加わってキョロキョロしているうちにも、再び音楽は途絶えたが、
「???」
「?」
 何やら謎めいたクラシックは、後で分かったがバッハの『チェロのための無伴奏組曲』
とかいう有名な曲だったとか。(お懐かしい『エヴァンゲリオン』で使われてたあの曲です。)…いや、そうじゃなくって。緊張感が一気に緩んでしまった対峙の場面。さて、今度はどっちが舵を取るかと睨み合いが再び始まりかかったその機先を制して、

 《 pi pi pi pi pi … 》

 今度は分かりやすい、いかにも単調な電子音が室内に響いた。そして、初期設定のままといういかにもぞんざいな呼び出しを奏でた携帯の持ち主は、
「………。」
 そうか、今度はあんたのだったか、ゾロさん。ワークパンツの後ろのポケットから引っ張り出した携帯電話を見やり、忌ま忌ましげに電源を切ろうと仕掛かって、だが、
"…?"
 液晶に綴られた"掛けて来た相手"に気づいて…一瞬眉を寄せる。
"…そっか。ってことは、さっきのもこいつだったのかもな。"
 放っておいても良いものか。次は固定電話に掛けて来かねず、それでも連絡が取れないとなったら…次はどんな手を繰り出してくることやら。目の前のチンピラよりもある意味で始末に負えない相手だと思い出し、

  「出ても良いかな?」
  「…ああ"?」

 先程、それは迫力のある啖呵を切った人物が、静かなお声で犯人へと話しかける。
「どうやら警察かららしい。俺はこういうことへは素人だからな。交渉のマニュアルさえ知らん身だから、アドバイスを送って来たらしいんだよ。」
「そ、そうか。」
 奇妙な形で携帯に振り回されてるのが、何とも今風な…んだろうかしら? 今度はなかなか鳴り止まないこともあって、犯人さんもこくりと頷いて見せる。
「い、いいな。妙な真似はすんな。こっちからの要求は逃走用の車と金だ。」
 おたつきながらも勝手なことをしっかり付け足した相手へ、口元を歪めたままに息をつき、やっと電話に出たゾロであり、

  「はい。
   ………ああ、遅くなって済まなかったな。犯人の許可を取っていたんでね。
   ああ そうだ。
   依然としてベランダに籠城中だ。人質も同じで、ルフィという男の子。
   武器は果物ナイフが1本。他は不明。以上だ。
   ………ああ"? …ちょっと待てよ、それって…おいっ。」

 以上が、不審な電話とゾロとの、やり取りの全容です。はてさて、どこのどなたから掛かって来た、どういう電話だったのでしょうか?





   ……………うふふのふ♪ なんか、白々しいですかね。



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