木曜日 “ツタさんのこと”
天気のいい日のお昼間は、ご近所のお庭の茂みや広場なんぞを駆け回って、それは伸び伸びと過ごすルフィであるらしく。一応"連絡先"を記した首輪をしているとはいえ、ゲージや囲いの中でもないのに鎖でつながずという"飼われ方"は、ご近所に叱られないかと当初は案じたゾロだったのだが。ここいらは古くからの別荘地なせいか、普通の住宅地と違って人家も少なく、人の影も街路には極端に少ない。
『そういえば、ご近所付き合いもそんなに盛んじゃないしな。』
『だろ?』
お互いがそっぽを向き合うほどに非干渉・無関心という訳ではないのだが、積極的に住民たちが集うような自治会の行事が幾つもあるほどではないというところか。
『定年を過ぎたとか、事業を子供らに任せたっていう立場の、年嵩な人たちが多いからな。若い人とか小さい子とか、普段は滅多に見ないだろ?』
夏だの冬だの、長期休暇のシーズンに入ればそれなり、祖父母を訪ねてというクチの若い世代が出入りもするが、それ以外の"常日頃"は、ただただ落ち着いた空気が静かに流れているばかりな閑静な別荘地。人付き合いに於ける、行き届いた気配りやら、誰にも隙を見せられない駆け引きなどといったものが錯綜するよな、煩わしいばかりだった生活から脱出を図った人々の住まう街…といったところであろうか。そんな街なせいか、人の目につくこと自体があんまりないそうで。そこを我が物顔ではしゃいで駆け回っているルフィならしく、子供の代わりのように各家で飼われている犬たちやら、少し先の新興住宅地なぞから流れて来た野犬たちにもある程度は顔が利くらしい。
『外見はチビだけどさ、これでも喧嘩は凄げぇ強いんだぜ。』
それと、人としての知恵も働くのだろうし。放し飼い状態の犬は少ないせいで、あちこちの家々でも彼の来訪は結構楽しみにされてもいるらしく、此の件に関してはルフィから訊いただけの"片口情報"ではない。ゾロが来てからは建前的にリードをつけての"散歩"を装って街路をゆくこともある彼らだが、どこの家からも…明らかに"警戒"ではなく"歓待"を思わせる、ワンちゃんたちの明るい声がして、
『あらあら、おはようございます。』
庭先に出ていたりする飼い主の住人さんたちから、ゾロまで愛想よくご挨拶を受けるほど。
『るうちゃんが通りかかるといつもこれで。よっぽど仲が良いんでしょうねぇvv』
にこにこと笑顔で応対して下さるお家の方々に、ははあ、そうなんですかと、ゾロも最近では…微かにだが"愛想笑い"なるものが出来るようになったらしい。
そして。一通り町内を回って帰って来ると、
「お帰りなさいませ。ご飯、出来ておりますよ?」
やさしい笑顔で二人を(見た目には"一人と一頭"を)迎えてくれるのが、初老でふっくらとした体格の"ツタさん"という家政婦さんだ。
◇
『お前、イヌとヒトとどっちが楽なんだ?』
『うっと。どっちも同んなじくらいだよ?
ヒトの恰好の方が便利な時もあれば、イヌの姿の方が楽な時もあるし。』
『そういうもんかね。』
『そういうもんだっ。………あ、でもな、ゾロと居る時はどっちでも楽しいぞっ。』
「う〜〜〜っ。」
何だか怪しい声を立てて、ルフィがゾロの部屋のあちこちの匂いを嗅いでいる。そういう時はシェルティになった方が能力的には上なのだろうに、どこか幼い子供の姿のままで、だ。表情豊かで愛らしい、それはそれは大きな琥珀色の瞳を…今は少々眇めての警戒モード。くんくんとあちこちを嗅いで回っていて、やがて、
「これ。このタオル、変な匂いする。」
触るのもためらわれると、宙に離した小さな指先で差し示して見せたのは、ウォーキング・クロゼットへの扉の前に無造作におかれたバッグから、ちょろりとはみ出していたタオルであるらしく。
「? それは昨日、貸してたのを返してもらったタオルだが。」
無趣味だった父上から譲られた様々な遺産…著作本の印税含む…のお陰様で、よっぽど派手で贅沢な生活をしない限りは、何もしなくとも何不自由なく暮らしてゆける身となったものの。元来から体を動かすのが好きだったゾロは、ぼんやりしているのは性に合わないからと、ルフィの生活ぶりから昼間はさほど傍らに居なくてもいいらしいと判ってから、隣町にあるスポーツクラブへ"インストラクター"としての登録をし、週に何回かという契約をした"仕事"に出向いている。彼が指導するのは主に筋力トレーニングの部門だが、結構大きなクラブなので夏場なぞはプールの監視員なんぞをやらされることもある様子。
「家で洗濯したらしいからな。ウチの洗剤とは違う匂いがしたんじゃないのか?」
「………それと、香水の匂いもな。」
おやや。女の人だったですね、その相手。むっかりと膨れて見せる坊やにゾロは苦笑し、問題のタオルを風呂場近くの洗濯場まで持って行った。確かにふわりと甘い匂いがしていたタオルだったが、ご本人はてっきり柔軟剤の匂いだと思っていたらしく。そんなゾロに"ぱたぱた…"とついて来たルフィは、今は…ちょっとばかりしょぼんと項垂れている。
「ごめんな。俺、なんかこの頃、我儘ばっか言ってる。」
「いいさ。微妙な季節だから、何かしら敏感にもなるんだろうさ。」
春と秋はいわゆる"さかり"の季節、発情期だ。周囲のご近所さんたちの様子・状態が波及して…というよりも、まだまだ子供な筈だったルフィへも、体の中で何かが目覚めかかっているがため、そういった反応をついつい見せているのだろう。ゆったりした七分のパンツにTシャツとカッターシャツを重ね着している、どこから見たって中学生くらいのまだどこか幼いとけない子供。それが"しょぼん"と俯くように項垂れた様子は、ひどく切なそうにも見えて。
「ほ・ら。元気出さないか。」
「…だってさ。」
坊やの…犬族なのに"猫っ毛"なふかふかの髪を撫でてやりつつ、そんなこんな語らっていると、
「旦那様、ルフィ坊っちゃま。お昼ご飯ですよ。」
にこにこ笑顔も温かい、やさしいツタさんのお声がかかる。すると…ちょっとばかりしょぼんとしかかっていた坊やも、
「………♪」
ふわりと届いた美味しそうな匂いについつい"にっこり"し。あっと言う間にご機嫌が直ってしまうから、
"う〜ん、ツタさんマジックだな、こりゃ。"
ゾロも苦笑が絶えなかったりするのである。
少しばかり年配で、少しばかりぽっちゃりした体格の、どこか頼もしいツタさんという家政婦さんは、あの弁護士さんが引き合わせてくれた人で、ここからもう少しだけ奥まったところにある隣町で息子さん夫婦と一緒に住まわっている。まだまだ体はてきぱきと動くからと、お嫁さんが家事一切を担当するようになった暇を持て余して、家政婦さんというお仕事を始めたのだそうで。お料理のレパートリーは物凄く、また、気配りも完璧。差し出がましい手出し口出しは一切しないし、よほど見かねてのことでない限りは、ゾロやルフィへの介入・干渉も絶対にしない。でも。ああこれは、表には出てないが内心で助け舟をほしがってるな、引っ込みがつかないっていう顔だなというようなタイミングには、絶妙な"合いの手"のように…声をかけてくれたり、場の空気をそぉっと掻き混ぜてくれたり。まだ滅多にないことながら、たった二人のこの世帯では喧嘩になると仲直りも結構大変なのだけれど。そんな時には必ず坊やの傍らについていて、お話を聞いてくれたり宥めてくれたり、寂しくないようにと"お母さん"代わりもしてくれる、本当によくできた人。聞いた話では、昔はずっと、近くの宿屋さんの仲居さんをしていたとかで。それで、機転とか心くばりだとかにも通じているのだとか。
「この肉団子、すごい美味しいvv」
「さようでございますか?」
御馳走にご機嫌さんなルフィへ、お代わり一杯ありますよと、にこにこお給仕をしてくれるツタさんだが、
"う〜ん。"
ゾロとしては少々考えることもあるらしい。
「どした? ゾロ。」
「いや…お前、その"赤ちゃん握り"は何とかならんのか。」
先の丸い、いかにも子供用という感じの、ファンシーショップで売ってそうな可愛らしいフォークを、がっしと縦に握って食べているルフィであり、
"器にかぶりつく犬食いよりは、何倍もマシではあるんだが。"
ゾロとて、何も今更"お行儀"をどうこう言いたい訳でない。ただ、
「これで間に合ってんだから良いじゃん。」
「…ホンットに"間に合って"るのか?」
大きな盛り鉢の中で、目的の肉団子を…そのフォークの先から逃がしまくっててよく言うよなと。それでのご意見であるらしい。とろろんと美味しい甘辛照り焼きのたれを、つややかにまとった真ん丸肉団子。それを、こちらは器用にも塗り箸であっさりと捕獲して、
「ほれ。あーん。」
「あ〜んvv」
いちいち口まで運んでやるという世話をきっちり焼いてやってるあたり。
"…説得力ないですって、旦那様。"
ツタさんもついついこっそりと苦笑。若いお父さんの奮戦ぶりは、見ていて本当に愛らしいと言いたげである。(笑)
それはそれはよく気のつくツタさんは、それでは。こんなに間近にいるのだから、ルフィの秘密には………果たして、気づいているやら いないやら。
"…お。"
穏やかな日和の昼下がり。ちょいと手持ち無沙汰になったため、居間のソファーに腰掛けて新聞なんぞ読んでいたゾロが、ふと、何にか気づいて顔を上げた。それとほぼ同時に聞こえてきたのが、
「あら、るうちゃん。」
ダイニングの大窓のお掃除をしていたツタさんの傍ら。いつの間に出掛けていたのやら、彼女を見上げるみたいにして"るう"が戻って来ていたらしい。今日は"お掃除の日"なので、家中が既にぴっかぴか。そんなところへ泥足で上がるのはさすがに気が引けたらしく、ちょこんと"お座り"している彼に…何を察したか"くすり"と温かく微笑い、
「はいはい、アンヨ、拭きましょうね。」
お掃除に使っていたものではなく、ルフィ用の足ふきタオルをわざわざ取って来て、きちんと優しく拭ってくれる。動き惜しみ、働き惜しみをしない、てきぱきと体を動かす人であり、
「そうそう。今日のおやつはスフレケーキなの。どこかで坊っちゃまを見かけたら、きっちりお三時に帰って来てって、伝言をお願い出来るかなぁ? 焼きたてでないと美味しくないですからね。」
"おや。"
ツタさんの…どこか独り言のようなそんなお言葉に、小さなシェルティは"あんおんっ♪"と明るく鳴いて見せ、そのまま"てことこ"と居間へ上がって来た。けど、今の会話って………?
「ツタさんは"るう"が賢い犬だって思ってるだけだよ。」
2階の自分のお部屋へと向かって…服を着て。さりげなく戻って来た居間で、さっそくゾロのお膝へ乗り上がって来たルフィは、どこか暢気にそうと言ったが、
「…そうかなぁ。」
大人であるゾロとしては、そこはやはり。坊やと同じほどには暢気に構えられないらしくって。
"案外と…全部見通してるけれど、こっちの事情みたいなものを見越して。言うまでもないからって黙っててくれてるだけじゃないのかな。"
ゾロとしてはそんな風に感じたらしい。
「ほら、こないだだって…。」
◇
ルフィはそのご機嫌が最高潮のレベルで悪くなると、裏庭の名も知らぬ大きなのっぽの古木に登って降りて来ない時がある。その時は一体何にへそを曲げたやら…今にして思えば ここのところの情緒不安定の始まりだったのかもしれないが。結構大きく、背も高く、葉もたっぷりと茂るところのその樹は、だが、微妙に枝が撓しなやかで細くって。ゾロでは一番下の枝でも"みしり"と不吉な音を立ててしまうため、引き摺り降ろしにと追って登ってはゆけない。
いわゆるところの"樹上籠城"。
自分の責任の範囲内にて許容出来ることであるのなら、細かいことにまでいちいち目くじらを立てない…というのは、感情的な"怒るか怒らないか"であって。行儀やマナー、倫理やモラルなぞに抵触する言動だと察知した場合、それを社会人の先輩という立場から許さず、筋道を通した説教の下に理解させ、反省を促し、その姿勢を正させること。つまりは"叱る"という行為も、一応は保護者である以上、ルフィに対して意識しているゾロであり、
「ルフィー、降りてきな。」
一体何にへそを曲げたんだかは一向に判らねど。夕刻も近い静かなひとときを過ごしていた居間での会話途中にて、突然ぷいっと膨むくれて無言のままに取った行動。さほど癇性ではなく、むしろルフィといい勝負なくらいに大雑把で暢気な性分をしているゾロであるのだが、拗ねれば何でも通ると思われるのは、やはりいただけないからと、後を追って樹の下まで。茂る葉の隙間から樹上を見上げて、ちょいとばかり堅い声をかけると、
――― ………っ☆
返事の代わりに"ぼとぼとぼとぼと…っ"と。樹上から芝草の上へ景気よく落ちて来たのは、カーディガンとシャツにズボンに靴下に、踵を踏み潰した 庭ばき代わりのスニーカー。服は"下着ごと"の一緒くたという脱がれ方をしているあたり、
"…あいつ。"
どうやらルフィくん、樹の上で"シェルティ・モード"に変身したご様子。それでも言葉は通じるのだが。姿が変わったというだけのこと、意志の疎通という点で何も変わっちゃあいないのだが。そういった事情は彼らの間でだけで成り立っているもの。誰かが通りすがれば、犬を相手に何を真面目に語りかけているかなと、怪訝に思われるのはゾロの方だけ。自分の方は つーんとばかりの"知らん顔"をしていても全然構わない。それより何より、
『オレは"犬"だもん。
人間の理屈とかジョーシキとか言われたって、ちっとも判んないんだもん』
言外にそういう意向を表明している彼だということでもあって。
"…ふ〜ん。"
そうですか、そう来ますかと。ゾロがちろりとその目許を眇める。根本的な部分では器の大きい、おおらかで温厚な、瑣末なことにいちいち眉を吊り上げるような性分ではない青年であるが。なればこそ、繊細なまでに気を遣ってあげるというタイプではなく、得意なのは もっぱら力技です、10tトラックでも何でも、遠慮なくこの胸にどんと飛び込んでいらっしゃい。おいおい という訳で、
「よーし、判った。そんなら一晩中でも好きなだけそこに居なっ。
もう付き合ってらんねぇ。ドアに鍵かけて、先に寝ちまうからなっ!」
そうときっぱりと言い放てば、
――― あおーーーーっ!
すぐさま返って来た"遠吠え"は、だが、更なる反抗の声ではない。それが証拠に。一声吠えただけで、後は…耳をすませば"クンクン・きゅうぅ〜〜〜ん"と、何とも切なげな声が頭上でする。それへと苦笑し、
「…ほら。怒ってないからさ。降りてきな。」
少しばかり柔らかな声をかけるとその途端。梢ががさがさ揺れ動き、小さな小さな足の先、見えたかと思った次の瞬間にはもう、
「あうんっ!」
幹をそのまま"とんっ"と軽く蹴り、大好きなお兄さんの胸板へ、狙い違わずのダイビング。ゾロが着ていた春向きの、浅い色合いのセーターへ。幼い爪を何とか立てつつ、必死にしがみついて来て。きゅ〜んきゅ〜んと、ごめんなさいごめんなさい寂しかったのと、懸命に言いつのっているかのように、お鼻を擦りつけて甘えてくる。
「…ルフィ。」
言葉は話せぬ犬の姿であっても、つぶらな瞳が重々に物を言う。潤んだ瞳で"きゅ〜ん"とばかり、じっとじっと見つめられると、
「判ってる、怒ってなんかない。心配しなさんなって。」
にっかり笑ってそのまんま、大きな手でふかふかの毛並みをわしわしと擦ってやる。怒っていた訳ではないのだ、機嫌だってすぐに治まるというもので。片腕は塞がったまま、それでも余裕で軽々と。足元に散らばった衣装一式を拾い上げ、お家に入ろうなと戻りかかった居間の大窓。そこから不意に…掛けられた声があった。
「旦那様。お風呂、沸かしてありますから。」
「あ、ああ。ありがとう。」
近づけばもう、ツタさん自身は"ぱたぱた…"と台所の方へと戻っていて。だが、居間のソファーには大きなバスタオルが載せてあり、
"………。"
彼女がまだ居たことをついつい失念していたと、ゾロはちょっとばかり…焦りのようなものを内心で感じた。心優しい家政婦さんは、よくよく気がつき行き届くそれだけ、屋敷の主人たちの言動にもきっちりと注意も払っていようから、
――― 見られていただろうか?
晩の食事と簡単なお夜食、きちんと準備をした上で、いつものようにご挨拶をして帰っていった彼女であったが。果たして…事の次第を一体どの段階から見ていたのやら。
◇
数日前のとある経緯を思い出し、その鋭角的なお顔をどこか気難しげに顰めて見せるゾロへ、
「でもさ。」
ルフィは相変わらず、けろりとしたもので。
「何か気づいているとしても。ツタさんて他所で言い触らすような人じゃあないよ?」
「う…ん、まあな。」
その点へはゾロも頷首出来る。気立てが良いというだけでなく、プロフェッショナルな感覚にて、仕えている方々への…厚き忠誠心にも似たほどの、深くて濃こまやかな心遣いが完璧な人だ。そこへと重ねて、
「それにさ、気味が悪いなら…何も無理から勤め続けてなくたって良いんだしさ。」
出来るだけ軽く言い飛ばした坊やだったが、
「………悪い。」
ああ、そうだ。この方向でゾロが警戒したり、柄になく気に病んだりするのは、そのまま、この子が尋常な存在でないということへ、柄になく過敏になっているということへの"裏返し"にはならないか。
「俺ってホント、気が回らないよな。」
お膝へと抱き上げた可愛い坊やの、ふかふかな黒髪に鼻先を埋めて。愛しい温もりをその懐ろへと掻い込むように、きゅうと腕の輪を縮めて軽く抱きしめる。途端にルフィは軽やかな声を立て、それは楽しそうな笑顔を見せてくれたけれど。
"ホントにな。俺がしっかりしなくてどうするよ。"
可愛い坊や。お元気な存在であるにもかかわらず、しみじみと安穏さを噛みしめられる、それは静かなひとときを齎もたらしてくれた不思議な少年。そして恐らく…生まれて初めての"愛しい"をゾロに体感させてくれている、そんな大切な存在である彼を、何よりも大事にしなくてどうするかと、あらためて大反省した保護者さんであったりするのである。そして、
「…♪」
広々と頼もしいゾロの胸板の、奥行き深い懐ろへ、愛情込めてきゅうっとばかりに抱きしめられて。その愛情を感じて"くん・きゅんvv"と満足げに小さくお鼻を鳴らしていたルフィであったが、
「旦那様、坊っちゃま。おやつが出来ましたよ。」
「あっ。ゾロ、ほらっ、行こうよ♪」
やんちゃな坊やの感性の中にあっては、大好きなゾロの懐ろも、焼き立てでふかふかのスフレにちょっとだけ負けるらしい。ツタさんからのお呼び出しへ"がばぁっ"とばかりにその身を起こし、なあなあなあとお兄さんの肩を揺すぶりながら、お膝からとっとと降りて早く早くと誘うあたり。
「お前はなぁ…。」
「え? なになに?」
まま、幸せなら良いじゃないですかvv ねっ? ねっ?
*何だか微妙な立場のツタさんですが。
果たして気がついて…いるのでしょうか?
そうだとしても、こんな可愛らしい“父子おいおい”なら、
私だったら、こっちもゲームに参加しているかのような感覚にて、
黙っててあげると思うのですが。
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