土曜日 “雨は嫌い”
父ちゃんが事故ったのも雨の日だった。道路を渡っててトラックに引っかけられたんだ。ああ、そういえば。ミホークのおっちゃんが亡くなったのも雨の日だったよな。雨の日は嫌いだ。雷が鳴らなくても、冷たい雨じゃなくっても、何だか気が滅入るから嫌い。毛並みが重くなるし、匂いが流されて迷子になっちゃうし。だから、お外に出にくくて。何だか何だか………嫌いなんだもん。そうさ。雨が降りそうだったから、気持ちも塞いでたんだ。そこへあんなこと言われたから。化け物。前に言われたのは何時だっけ。あの時は父ちゃんがいたな。気にすんなって笑ってくれた。妖あやかしか?って訊いたミホークのおっちゃんも、その後で済まないって謝ってくれた。でもさ、やっぱ、オレって"化け物"なんだろな。ヒトからもイヌからもさ。そんなオレと仲が良いなんて、損ばかりで得なんて一つもないのにサ…。
◇
ルフィが突然出掛けたものだから、何だか皆して手持ち無沙汰になった昼下がり。小さくて愛らしい、無邪気な坊や。ついつい構いたくなるあどけなさに、お義理なんかではない本心から、自然と手が伸び、意識が向く、不思議な子。サンジがツタさんを手伝って、豪華な晩餐とやらの下ごしらえを始めたので、準備の邪魔にならぬよう、そして…ルフィが帰って来た時にすぐ気づけるようにと、ウッドデッキのテラスへ退避して。そしたら、そこへと追って来たナミから言われた。
「あんた、気がついてる? 物凄く良いお顔になってるって。」
東京で会社に勤めていた頃は。いやいや、高校生の頃から既に。どこかしら浮いた存在だった青年。妙なところで偏屈で、妙なところで淡々としていて。堅物なんだか、風来坊タイプなんだか。んん?と首を傾げた彼の耳元にちかりと光ったものがあって、
「そのピアス、今でも伝説になってるわよ?」
片方にだけ三本も並んだ棒タイプの金のピアス。商社マンには不似合いな装飾品。新入社員として入社したばかりの春のお花見の席にて、よくある流れで"王様ゲーム"が始まって。どういう仕掛けがあったやら、お局様が日頃から意地悪を仕掛けていた大人しい女性社員へ無理からクジを引かせて、それで命じられたのが"ピアス穴を2つ以上開けて来い"だったのだが、
『あ、その番号、俺です。』
満座の中で泣き出しそうな顔になってた彼女から、ひょいっと番号が書かれたメモを奪い取り、姿を消して十数分後。しっかと、ピアス穴を3つも開けて帰って来た。気づいていながら誰も口だし出来なかった陰湿なイジメに、すっとぼけた顔で真っ向から立ち向かった"イイオトコ"ということで、社内の話題を一気に集め、問題のお局様は…それへと対する悪役としての知名度をやはり一気に高めた存在になったことを恥じたのか、その数カ月後に"寿退社"なさったことになっている。
「あたしやサンジくんはサ、学生時代からそうだったあんたを知ってるから、どうってことなかったけど。」
どこか風変わりな価値観で行動する"アウトロー"みたいな子。孤高の一匹狼。寡黙で言い訳は一切しない彼だものだから、虚実取り混ぜて様々に、枚挙の暇もないほど色々な風聞も立った。喧嘩に明け暮れているとか、全寮制のその寮にもろくに帰らず、繁華街のやんちゃたちの顔であるだとか、とんでもないものが大半だったが、高校生離れした、大人びて屈強な外見に似ず…実を言えば生真面目な優等生で。生活指導の先生は進路指導の先生と共に"面倒な生徒ですよね"と、くすぐったげな顔で苦笑していたそうだった。そんな彼だという馴染みがあったから、
「あんたとしては目立とうと思ってやった訳じゃないんだもんね。」
「まあな。」
何でそんなことが誰にも咎められずに通用していたのかがよく判らなかった。どっちが悪いかは一目瞭然だったろうに、どうして? 向かっ腹が立って、気がついたら腰を上げていたゾロだった。
「孤高なんてカッコの良いもんじゃない。ホントを言えば、誰も視野の中にいなかったんでしょ? そういう顔してたもん。」
「そうかな。」
「そうよ。」
剣道にばかり明け暮れていて、授業の後は学校の外の道場に通いつめていた。学校の部活では…同世代の中にはもう、対等な実力を競い合える相手がいなかったからのこと。けれど、そんな事情をわざわざひけらかしたってしょうがない。そんな行動を誤解され、ただでさえ恐持てな雰囲気があったものだから、寄って来る者は少なかったし、彼の側からも…偉そうに選んでいた訳ではなかったものの、誰にも関心は寄せずにいた。それをすっぱりと見抜いていたナミであったらしく、
「無の境地なんていう、カッコの良いもんじゃなかった。だからね、危なっかしい子だなって思ってた。」
「…危なっかしい?」
「そう。」
うんうんと鹿爪らしい顔になって頷いて見せ、
「あのね、誰も見ない、誰の存在も把握出来てないっていうのはサ。そのまま、あなた自身もどこにもいないのと同じなのよ?」
「何だ、そりゃ。」
「う…んと、どう言えば良いのかな。どう思われているのかっていう"自意識過剰"とか、その人が居なきゃダメっていう"依存"とかそういう意味じゃなくってね。」
観念的な話であるらしく、そういうものをこの武骨な青年へ説明するのは、かなり難しいことだわねときれいな眉を"う〜ん"と顰しかめたナミだったが、
「でもね、自分をきっちり把握するためには誰かという外部の存在が大切なの。」
時には"相対的"な把握のため、そして時には"自我"の向かう先を確かめるために。
「ま、難しいことはさて置くとして。」
理屈は苦笑混じりに投げ出して、だが、
「誰かを愛しいと思ったり、大切にしたいと感じたり。
誰かのための想いって、
抱えてみると結構良いものだっていうのは分かってるのでしょう?」
あっけらかんと。そのくせ、どこか言い逃れの出来無さそうな言い方をするナミへ、
「………まあな。」
舌打ちも出ないまま、やはり苦笑混じり、そんな言葉を返していたゾロである。
"相変わらず鋭いよな。"
絶妙なところを見事に貫き、容赦なく穿ほじくられたなという苦笑い。彼女と恐らくは結婚するのだろうサンジへ、ちょっと同情してみたり。そして…きっちりと見抜かれていた現在の至福へ、どこか柄にない、くすぐったそうな笑い方をして見せたゾロだった。
◇
「…ルフィ?」
成程、どうも元気がない。このところ訳もなくピリピリと神経質だったのへは、されど食欲もあったし、何よりも本人が日頃と変わらず元気だったから。気のもちようの問題だろうと構えて、さして心配はせずにいたゾロだったのだが、
『坊っちゃん、どうかされたんですか?』
未明から降り出したらしい雨の中、朝早い列車でナミとサンジが帰ることとなったその日は、スポーツクラブに出る日でもあったため、彼らを最寄りの駅まで車で送ったそのまま出掛けてしまったゾロであり。見送ってくれた時にやや覇気がなかったものの、にぎやかなお客様が帰って寂しいというだけだろうと、そのくらいにしか考えず、さして気にも留めずにいたのだが。さすがはこの家のこと…家人を含めた"全般"をさりげなく把握しているツタさんが、
『ご飯を残されてるんですよ。朝もお昼も。』
帰って来たゾロへ、すぐさまそうと報告した。おやつにはサンジが作り置いてってくれたケーキを出したのに、やはり食べなかったそうで、
『…そりゃおかしいな。』
『この雨ですから、るうちゃんの姿も見えませんし。』
この付け足しは…お外で他所の家の人に何かもらった訳でもなかろうという意味だとゾロには思われて。心当たりはないからと、それで本人へ訊いてみることにしたゾロではあったが、
「なぁに?」
2階にある自分のお部屋の真ん中の。ウール地のやわらかい太ロープを平たく輪に巻いた、鍋敷きのような…囲炉裏端なぞに置く"円座"を大きくしたような、カントリー調のラグマットの上。正座のお膝を崩したような、脚の間にお尻を落とし込んだ座り方をしている小さなルフィは、だが。ゾロの掛けて来た声へ"にこぉっ"と微笑って見せる。町を覆い始めたばかりな萌緑を濡らして、朝から間断なく降り続く雨のせいだろう。室内は少しばかり肌寒く、ルフィもフードのついたフリースのパーカージャケットを羽織っている。先日、隣町に出来たショッピングモールで買ってやったもので、外に出る時は"るう"の毛皮があるから上着は要らないのにな…なんて、可愛げのないことを言っていた彼だったのだが。自分が見立てた少し大きいチョコレート色のパーカーは、小柄な少年に愛らしく似合っていて。ほらご覧などとちょこっと嬉しく思ったゾロだったのはさておいて。
「どうした。ナミとか、帰ったのが寂しいのか?」
「…それはゾロの方でしょう?」
「? 何だ、そりゃ?」
確かに様子が訝おかしいのだが、それにしては屈託なく、にこにこと笑っている彼でもあって。ぺたんと座った床の上、あちこちに服だの雑貨だのを散らかしているのも、一見すると"お元気な坊やのお部屋"らしい腕白さに見えなくもなかったが、
"………?"
そういえば。ツタさんがきちんきちんと片付けているのに加えて、外に遊びに出るか、居間でゾロの傍らに居るかというのが常の彼であるがため、この部屋にはあまり居着かないルフィなので、此処はすっかりと…単なる洋服や小物なぞの"置き場"扱いになっている筈だった。よって、こんなに散らかっているのは、却って不自然なのではなかろうか。しかも、
「…何を隠してる?」
その背後にちょろりと見えた小さめのボストンバッグ。ただ散らかしてあるのではなくて、ゾロの目につかぬよう隠しているという様子だったのがありありとしていて。そのすぐ傍に屈み込みながら、
「あっ、やだっ!」
咄嗟の抵抗を躱すように、長い腕を伸ばして取り上げる。
「ちょっと…外に行くんだけどサ、濡れたらヤだからサ。」
歯切れ悪く言い訳をするルフィの方を見もせぬまま、ファスナーを開いて中を確かめると、
「…これって。俺が買ってやった靴じゃないか。」
既に一通りの服や靴など、揃えてもらっていた坊やだったが。昨年、街に初めて二人で出向いた時に、自分が買ってやったスニーカー。勿体ないからと、まだ一度もはいてないそれをバッグに入れていたルフィであり。
「ちょっと出掛けるのに、何でこれを持ってくんだ?」
「えと、だから…。」
「このボールだってそうだ。父さんが買ってくれたからって大事にしてるやつだろうが。何で持ち出す。どこに行くつもりだったんだ?」
ついつい問い詰めるような訊き方になったのは、背条を寒々と撫で上げる"いやな感触"があったからだ。大事なもの、宝物。けれど、日常の生活には使わないもの。そんなものをわざわざ持ち出すだなんて、まさか…と。不意に沸き立ち、払っても消えない嫌な予感。それを現実のものにしたくはなくて、早いうちに否定させようと、少しばかり強い口調で問いただしたゾロだったのだが、
「だって。」
ルフィは、ゆっくりとした語調で、呟いたのだ。
「俺がここに居るのって、いけないことなんだもん。此処に居るってだけで、好きな人が困るのはやっぱイヤだもん。」
口許へ頬へと、強引に貼りつけられたような。堅くて痛々しい笑顔。こちらを見ようともせぬままに、ルフィは掠れかかった細い声で紡ぎ続ける。
「…オレって疫病神なんだ。だから、ここには居ちゃいけないんだ。」
「ルフィ?」
「こんな"化けもの"だしさ。いっそただの犬だったら良かったのにさ。」
「こら。何を言い出すんだ。」
ゾロからの叱責へ、お膝の上、小さな手をぐっと握って。それでも笑みは絶やさぬまま、ルフィは続けた。
「ごめんな、オレ、我儘ばっか言ってさ。
オレ、ただの居候なのにサ。
ゾロはミホークのおっちゃんの遺言で、オレんコト追い出せないのに。
ここでずっと一人で暮らさなきゃならないのに。
だからさ、出てくって決めた。
そうしないと、ゾロ、トーキョーに戻れないし、結婚だって…出来ないしさ。」
必死で頑張って。心配は要らないからと、大丈夫だからと、懸命に笑って見せようとする、幼いとけない子供。
「オレ…は、ほら。困ったら人間の姿になれるからさ。
普通の野良よりは要領も良いし。だから、此処を出てっても…。」
「…いい加減にしろよ。それこそ怒るぞ。」
「………。」
「俺はこれまで、親父の遺言とか何やとか、そんなもんを気にしたこたぁない。
そんなもんに縛られて、ルフィと暮らして来たんじゃない。
もともと、イヤなもんには胸張って"ヤダ"って言える男だぞ?」
「でも…。」
「そんな、泣きそうな顔で強がったって、何も聞けないね。」
「………うう"。/////」
こんな小さな子供が。普通に育って当たり前に社会にも世間にも揉まれていない、屈託のないばかりな、一際無垢な少年が。そんなにまで悲しそうな顔で笑うなんて尋常じゃあない。ただの甘え声でも胸に響くのに、涙がこぼれてしまわぬようにと、俯くとすぐさま最初の一条が頬を伝うからと、一生懸命に顔を上げて…。そんな辛そうな顔なんてされたら、こっちの胸まで引き裂かれそうで辛い。
「俺の言ってること、分かるか? 俺は父さんみたいに言葉が達者じゃないから、伝わってないかも知れないがな。」
掻き口説くゾロだったが、
「………。」
ルフィは…とうとう堪え切れなくなったか俯いてしまい、そのまま、うぐと口を噤んでいる。そんあルフィへ、不器用で物を知らない自分の言葉では伝わり切らないかもと、そうともどかしく思いつつ、それでも続けずにはいられない。
「誰が"一人で"だって? お前が居るだろうがよ。」
ナミに言われるまでもなく、もう既にしっかと自覚していた。あの街に居て、最後に心から楽しいと笑ったのはいつだったか。それさえ覚えていなかった。自身というもの、自覚してさえいなかった、どこかで五里霧中だった自分。それが。
『ゾロっ。』
此処でこの坊やと出会って。くるくると無邪気に跳ね回り、陽気にお喋りをする彼と過ごすうち、何かが見えて来たような気がした。愛らしい姿の中に、だが、侭ならぬ重い枷を背負った少年。なまじ"人間"の寿命と感性を持つが故、どれほど辛い目にばかり遭って来たことか。それでも、屈託なく"大好きだよ"と言ってくれる。好きな人が立て続けに亡くなった悲しみさえ乗り越えて、運命にも怯まず、真っ新さらな気持ちをぶつけてくれる、気丈な子供。そんな彼の笑顔に触れると、何故だろうか…不思議とこちらまで救われるようで気持ちが良い。都会の人波の中で途方に暮れていた、指針を見失って立ち尽くしていた。そんな自分の周囲に垂れ込めていた深い霧が、晴れたような気持ちになった。そんな出遅れ組の自分が言うのもおこがましいことだが、この彼が生きてゆくための助力になるのなら、出来る限りの全て、何でもしてやろうとそう思ってもいたのに。
"…頼りあてにされてはいなかったか。"
これがちょっぴりと悲しかったが、それは自業自得だと、やはり判るゾロで。
「俺も、悪かった。」
苦々しいが、事実は事実。
「ちゃんと言わなかったよな。その…幸せだってこと。ルフィが居るから、居てくれるからこんなに幸せなのにな。だのに、そのルフィに、そんな顔させてゴメンな。」
彼が此処から出て行くつもりだと感じたその時。深々とぐっさりと、何かが突き刺さったかのように、胸が痛かったのは何故? 何も気づかず、ただただ呑気に構えていた自分の愚かしさが恥ずかしくなったから? それだけではない。ルフィがどこかに行ってしまうという、その事実こそが堪こたえたからだ。愛しい人。大切な存在。それがこんなにも悲しそうな顔で打ちひしがれていて。しかも、それはこの自分のせいなのだと判ったから、もどかしくも痛々しくて、ひどくひどく辛かった。これは罰だ。ずぼらをしていたから、それで跳ね返って来たもの。正当な比重で、それは的確に、自分の一番の痛点を貫いた罰。
「…でも。」
ルフィの小さな声が、震えていた。
「好きな人が、自分のせいで思うように生きられないなんて、俺にも辛い…んだもん。」
ああ。こんなことを思うほど、大人になっていたのかと。屈託のない様子の陰で、一杯一杯考えたり悩んだりもしていたのだろうと。そうと思うと歯痒くて歯痒くて。切ないまでに悔しくて、そんな考え方をさせた自分が途轍もなく憎々しい。
「ルフィ…。」
屈み込んだことで、小さな顔が覗き込める。俯いたお顔から、ぽつりと。光るものが落ちている。小さな肩にそっと触れると、
「………っ。」
一瞬、震えて見せたが、拒絶の気配はなかった。大きな手で引き寄せられるまま、軽々と抱え上げられて。立ち上がったゾロは、傍らのベッドに腰を下ろし直すと、
「ルフィ。」
腕の中、抱き締めて。もどかしげにその名を囁いた。何をどう言えば伝わるのだろうか。こんなにも愛しいと。こんなにも離れ難いと。小さな体が身じろぎをし、溢れてしまった涙に頬が濡れているのを見下ろして、
「………ルフィ。」
なまじ言葉を知っているから困るのだと感じた。不安げな顔。見てそれと判る、痛々しい表情。こんなに傍にいるというのに。向かい合う"向こう側"から、こちらに来てはくれない彼なのか? じっと見上げて来ることで、自分とゾロと、同じ側には立てないのだと、そう言いたい彼なのだろうか?
"………。"
そっと。ルフィの頬を拭ってやり、こつんと、額同士をくっつけた。温かな感触。柔らかでふわふわな髪がくすぐったい。間近になった琥珀色の瞳は、涙の中でかすかに揺らめいて不安げだったが、
「………あ。」
柔らかな感触が瞼に触れて、反射的に眸を伏せる。そっとそっと、何度も何度も。涙が止まりますようにというおまじないのように、優しく何度も。
"ぞろ…?"
時々ふざけて、こちらから頬にキスしたことはあったけれど。シェルティの姿の時に、甘えかかって顔や手を舐めたりもしたけれど。ゾロの方からキスしてくれたのは初めてで。しかも、
"…え?"
頬からすべって辿り着いたる口許へ。最初は仄かに触れただけ。そして、柔らかに重なった口唇であり。
"あ…。"
そこから熱い何かをそそぎ込まれたような気がして、顔が、首条が熱くなり。やがては体中が蕩けそうなほどになってしまう。
「ん…。」
何度かわずかに離れては、食はむように撫でるように繰り返される、優しい口づけ。触れている甘い感触だけでなく、大好きな匂いにくるみ込まれて、しっかり抱かれた安心感が、ルフィの頑なだった気持ちをゆるやかに解きほぐしてゆくようで。
「どこにもやらないし、誰にも渡さない。」
まだ唇が触れ合うほどに近いまま、ゾロはそうと囁いてくれたから。
「………大好きだ。いいな?」
「…………………うん。」
頷いて。沸き出して来た新しい涙が、やっぱり自分では止められなくって。ゾロの"おまじない"に頼るしかなかったルフィだったりしたのである。
――― ホントはね、大好きなの。ゾロのこと、一番好き。父ちゃんよりも好き。
そか。なんか凄い光栄なことだな。
――― こーえい?
俺なんかには勿体ないってこと。
――― どうして?
鈍感でサ。あんな泣きそうなくらい追い詰められるまで、
ルフィの気持ちに気がついてやれなかった馬鹿野郎なのにサ。
こっちからはあっさり、好きっていうのが成就して、こんなに良い想いしてサ。
――― うっと、俺が言うより先に好きだった?
ああ。狡い奴だろ?
――― うん。…狡い。
笑ったな。いい顔だ。
――― えへへvv
だからさ、大事にする。絶対絶対、幸せにするから、覚悟しとけよ?
――― うんvv 覚悟しとくvv
*うふふんvv
もうちょっとだけ続きますのでお、どかお付き合いのほどをvv
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