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今回ばかりは判りやすい全員にての“正面突破”にて一気に突入するという、正攻法にての襲撃を仕掛けた麦ワラ海賊団(但し船長不在)であり。二枚合わせの観音開き、ご立派な自然木の分厚そうなドアが向いている玄関へと一斉に駆け寄れば、
「な、ななな、なんだっ、貴様らはっ!」
「強盗かっ!」
不穏な雰囲気を感じ取ってか、慌てて飛び出して来た…一応は詰めてたんですよなガードマンたちを、先鋒役の双璧たち二人が左右へと軽々と薙ぎ倒してゆく。
「素人さんへの手加減ってのは、そういや久し振りだねぇ。」
ただの“仁王立ち”にて、相手が自分へと殺到して来ることで間合いが詰まるのを堂々と待ち受けながら、そうとは判りにくいだろうけれど…自分の身の裡うちへと膂力と集中力、双方の瞬発性バネを溜めて溜めて。
「「…っ!」」
剣が、脚が、届く間合いに入ったと同時、アイドリング状態にあった攻勢への箍を外し、その鋭くも厚みのある膂力を“そら行けっ”と一気に解き放つ。
「てぇあっ!」
ぶん回しの遠心力をも利用して、的確な蹴技を一人一人の顎やみぞおちという急所へとお見舞いしてゆくシェフ殿の傍らでは、
「哈っ!」
一応は穏便にと、峰を返して握り直した和刀にて。斬りはしないが結構重い“峰打ち”で、飛び込んでくる対手たちの腕や脚、肩や胴へと痛烈な一撃を与えてやる。どうせ素人、たまさか役人だったとしてもせいぜい巡査あたりのランクの末端の連中だろう。ましてや、こんな呑気そうな観光地の人間たち。殺傷沙汰の喧嘩の仲裁さえ、実際に手掛けた経験はないに違いなく。平和でふやけているよな連中ならば、跡が残るほどの傷を負わずとも、身動き出来ないほどの痛い目に遭えばそれだけで萎縮して追ってさえ来なくなるものだと知っている。
「うがっ!」
「ぎゃあっ!」
触れる端からばたばたと、小気味がいいほどに薙ぎ倒される警備員たちが一通り片付いたところで、
「行くぞっ。」
勇んで駆け込み、まずはのエントランス、玄関ホールを見回せば、漆喰の壁につやの出た腰板が張られた、古風な作りながらもすっきりとした内装の館と判る佇まい。ただ…入ってすぐの場所だというのに、臙脂がかった赤い絨毯の上には、奇妙なテーブルが幾つも置かれてあり、
「展示ケース?」
「そうのようね。」
宝石店なんぞでお馴染みの、ガラス張りのショーケースもどき。それが養蜂家のミツバチたちの箱みたいにずらずらと並んでいるのが、何とも異様な光景だ。しかも、
「宝石だの秘宝だのならともかく、ガラクタしか並んではいないのね。」
一体どこが秘宝館よ、何の展示なんだかねと、呆れたように眉をしかめる航海士さんに、奥向きからばたばたと出て来た“警備員・第二陣”のグループが鉢合わせしかかったとあって、
「ナミさん、危ないっ!」
しまった先を急ぐのはマリモに任せときゃ良かったと、映画のセットのように ゆるやかなカーブを描きながら二階へとかかっていた階段の途中でそちらを振り向き、ヒヤッと後悔しかけた金髪のシェフ殿だったが、
「てぇいっ!」
しゃきんっと繰り出された、棍棒の斬撃一閃。ナミさん十八番のクリマタクトによる払い技が炸裂し、掴みかかろうとした先頭の数名があっさりと壁まで吹っ飛んだ。
「女相手に何人がかりなのよ、おじさんたち。」
………ナミさん、しっかり吹っ飛ばしといてそれを言わない。(苦笑) 素人相手ならあたしだって十分太刀打ち出来るわよとばかり、三節棍を薙刀のように身構えた航海士さんの何とも凛々しいお姿に、
「怒ってるナミさんもステキだぁ〜〜〜vv」
ついつい見惚れたそんなシェフ殿の頭上からは、
「ゴムゴムのピストルっ!」
これまた聞き慣れた雄叫びが轟いて。それへと続いたのが、ドゴーンっという地響きを伴う衝撃音。上の階のすぐ手前。こちらも二枚合わせの扉になってる部屋があり、そこから慌てて飛び出して来たのが、
「おう、ウソップじゃねぇか。」
「何だお前も一緒だったか。」
知った顔じゃんかと思ってだろう。それはそれは気さくげに双璧から寄せられた…何事もなかったかのような のほほんとしたご挨拶へ、
「何でそんなに緊迫感がねぇんだ、お前らっ!」
すかさずのように“んきぃ〜〜〜っ”と怒った彼だったのは、きっと恐らく“逆ギレ”というやつに違いなく。何せ、
「何だ、お前らだったのか。」
続いてひょこりとお顔を出したのが、やはり麦ワラの船長さんであり。このおじさんが急に態度を塗り替えて、拳銃を取り出しながら俺らへ“人質になってもらう”なんて言い出したんでな…と、何とも物騒な状況にあったらしき説明を飄々としてから、
「やっぱ、そうは行かないよなぁ?」
多少は手加減したのだろうが、それでも“ゴムゴム”の技を食らっては…一般人では平気ではいられないのが道理というもの。壁へと叩きつけられてしまい、そのまま伸びてしまってるおじさんを廊下までズルズルと引き摺り出しつつ、あははは…と笑い飛ばす船長さんだったが、
「馬鹿野郎っ! 俺は十年分くらい寿命が縮んだぞっ!」
もっと壮絶な修羅場にならないと“一般人”から海賊へ変身出来ない、ある意味でこちらさんもまた豪気な狙撃手さんが、まだ十分にお怒りのご様子であったのも無理はない。怖かったろうね、ホンマに。(苦笑)
「…ま、ある意味、心配ってのはするだけ無駄な奴だがよ。」
「てゆっか、名のある海賊と判ってて声かけたんなら、それを押さえ付けられるような腕っ節の奴を控えさせとけっての。」
無謀というか、世間をなめてるというか。そうまで甘く見られてたってことかいと、楽勝の相手だったことへまで…内心では微妙に収まらなかったりする双璧たちだったのだけれども、
「軍の関係者や公安系統の人間じゃないのよ、きっと。」
せいぜい、商工会の人間ってトコじゃないのかしらねと、ナミがいかにも忌ま忌ましげに“ふんっ”と荒い鼻息をつく。半径数メートルという周囲一帯に、警備員のお兄さんやおじさんたちをきっちり伸してのお言葉というところが、何とも勇ましいが…
「………言っとくけど、半分はチョッパーが吹っ飛ばしたんですからね。」
すびばせん〜って、それもともかく。確かに、乱暴な海賊が堂々と接岸しないようにと構えての、海上での極秘臨検は海軍が手掛けているのだろうけれど、その間柄は“鼻薬”という伝手でつながってる番犬と飼い主。観光が主体の土地だから治安維持は勿論のこと大切だけれど、だからと言ってリゾート地にむさ苦しい武装集団が多数いるというのは何とも息が詰まる情景でもある。それに、海賊であっても問題を起こさないのであれば…金離れの良いお客様だという把握だってしかねない商人たちとしては。性分タチが悪い暴れ者でないのなら“脅威なし”と断じて門戸を開いてもいるらしく、
「じゃあ、俺らは相当に舐められてたってことかよ。」
素人からそんな風に勝手に断じられるのは、何だかどうも腹のどっかが収まらないんだがと、消化不良気味の“けったくそ悪い”と言いたげなお顔になってた双璧さんたちだったが、
「そこのところは微妙だわね。」
意外にも。三節棍を腰のところに凛々しく構えたまんまの航海士さんは、そんな彼らの言い分をそのまま呑むでないよな言いようをして見せて。
「で。こいつらの狙いってのは、結局 何だったんだ?」
おいおい おいおい、船長さんってば。判らないまま、素人さんを必殺技で吹っ飛ばしたんですかい。(苦笑…しかかったところが、ウソップやチョッパーまでもがキョトンとしており、
「ここの展示物を観て、あんたたち何か感じなかった?」
「…格が低いってゆか、こいつらでも接触が出来たような奴らのしか飾れてないんだなって。」
とは言っても、そこは素人なんだから仕方ないんだろなと。そうとしか思ってなかったらしきウソップへ、
「そんなところに、あたしたちの物まで飾られたらどうなると思う?」
「どうなるって…。」
どうなるんだろうかと本気で悩んだ揚げ句に、腕を組んでまでして唸ってしまった船長さんであり。しかもしかも、
「なあなあ、どうなるんだ?」
「う〜ん、どうなるんだろうな」
チョッパーやウソップまでもが“右へ倣え”をしてしまったもんだから。お顔を手のひらで覆って“こいつらは まったくもう〜〜〜っ”という情けなさげな様子になった航海士さん、早い目の正解を出してやることにした模様。
「こんなトコに飾られちゃあ、
箔がつくとか つかないどころの話じゃあない、
大したことはない奴らだっていう“晒し者”になるよなもんじゃないのよ。」
「あ…。」
見るからに歯ごたえが無さそうな、若しくは滑稽なタイプの海賊たちしか紹介されていない“英雄コレクション”。こんな展示館へ晒されたってことは、腕力ででも口車に乗せられたのでも、結局は“素人にねじ伏せられた”ってことに通じる訳で。そんな他愛もない奴に“1億ベリー”なんていう大枚の懸賞金がついているのは、何かの間違いか、それとも…海軍や世界政府にとって都合が悪い存在だからという“口封じ”のための指名手配なのか。あまりの無邪気さからそんな噂も流れているらしき天真爛漫な船長さんへ、その噂を尚のこと濃くした上で、あえて襲い掛かりやすいようにしてやろうと構えられた、言わば“撒き餌”のようなもの。
「金額は物凄いけど、実のところ、本人は大したことはないんだぞっていう方向での誤解をますます広めてしまうってことよ。」
呆れた話よねぇと、溜息混じりに“館長さん”とやらを見下ろして肩をすくめたナミだったが、
“だからこそ、侮辱や何やで怒らせたなら…か弱くて丸腰・無装備の者が相手でも容赦しないほど、血も涙もないような、若しくは乱暴極まりない、やっぱりそこは海賊なのだってことを彼らに肌身で判らせたのね。”
慎重で周到で、何より要らない騒動を好まない筈のナミが、今回ばかりは…海賊や軍人が相手ではないらしいと気づいていたにも関わらず、無計画な力技での突入を敢行させたのもそんなせいだったらしいと、考古学者のお姉様がようよう納得したところへ、
「でも…そんなことをしたらば、自分たちの非をも認めることになりませんか?」
どんなレベルであれ海賊は海賊だ。それへ関しての展示で、しかも海軍こそが“1億”なんて設定をした奴をこき下ろしてしまっては、そうと判断した海軍自体が節穴だと認めることにならないかと、シェフ殿が小首を傾げつつ訊けば、
「海軍公認の施設ならね。でも、ここはそうじゃない。今のところは個人所有の洋館って扱いだし、秘宝館としてのオープンにこぎつけても多分この島の自治体管理のものって形で運営されるはずよ。」
但し、海軍の息がかかった、そりゃあ遠い島にまで、ここの宣伝パンフレットは流通することになるんだろうけれどと、ナミが付け足すと、チョッパーとゾロの手で縛り上げられてた警備員の中の何人かが…分かりやすくも ぶるるっと震え上がった辺り、やっぱり素人さんたちであったらしく、
「大方、あたしたちが通過した後の島や海域では妙に人気が上がってるもんだから、そんな奇妙な海賊団だってことへ、誰かが危機感でも覚えたんじゃないのかしらね。」
海軍の監視の網を屁とも思わず、好き勝手なんかしちゃってる相手ですものね。悪党であらねばならない海賊の分際で民衆の心を捕らえるとは、これは由々しきことだとばかり。海の世界の実情を全く知らない、公報担当官辺りの頭でっかちが捻り出した“窮余の策”ってやつじゃあないの?
「…じゃあ、こいつらは。」
「ええ。海軍でも警察でもない、単なる商売人ってトコなその上、大方、大したことはない相手だから恐れることはない、一般人へは手を挙げない、手なずけやすくて与し易い奴らだなんて、適当なことを言い含められて“実行班”になることを引き受けたんじゃないのかしらね。」
それもまた仕方がないわよねと、これは彼らへの同情を込めて。
“だって、凄腕で冷酷な輩たちだなんて説明したらば、到底協力してもらえないってもんだものね。”
いやまあ、確かに…そんな種類の海賊じゃあないには違いないのだけれど。
「鼻薬をやってる立場なんだからって笠に着て、海軍を舐めてたからこんな目に遭ったのよ?」
まだ意識はあるクチの警備員さんへと言い聞かせ、
「これに懲りたなら、海の上での“現役さん”たちを決して舐めないことね。」
あたしたちが良い例で、人は見かけによらないんだから、と。それって威張って良いことなんだか、それとももっと威容が必要なのかなと思わないでもないような。何だか微妙な心情を抱えてしまった、団員随一の“良心とモラルの人”だったのであったりしたそうである。
「………それってどこの誰の肩書なんだ、この守銭奴女。」
「言ったわね。一銭も借金返せてない穀潰し。」
「迫力満載で地の底から響くような声で凄むナミさんもステキだ〜〜〜vv」
……………こらこら、あんたたち。(苦笑)
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