雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

       〜フォーチュンケーキは 甘甘でvv篇

     2



実はまだ、カレンダーはぎりぎり一月の最終日の朝でございまし。
今日は愛妻の日だよというサプライズを仕掛けたイエス様から、
思いもかけず、花束つき“愛してるよvv”のキスを贈られて。
朝っぱらからすっかり驚かされてしまったブッダ様。

 「や、あの、えっとぉ。/////////」

愛らしいチューリップの花束も、昨夜のうちに用意していたというから、
しきたりというのとはまた別物ながら、
それでもしっかり準備万端整えた上での“愛してるよvv”だったことが、
彼の意気込みのようなものを感じさせ。
このセレモニーのために彼なりに頑張りましたvvというのが、
“愛してる”という一言やキスの甘さ以上に、
生真面目な如来様の心をじんと沸き立たせてしまっておいで。

 “もうもう、キミってばもうっ。/////////”

思えば、何かと奔放なところが多いイエスだが、
恋心には初心者であるブッダを、それは気遣ってくれてもいて。
触れられることへ慣れないうちは、
ついのこととて飛び上がってしまっても、
わざとびっくりさせたのごめんねと先んじて言ってくれたし。
寝言ででも“寂しい”と言えば、
ぎゅうと懐ろへ掻きい抱き、ずっと傍に居てくれもする。

 大好きな人なんだもの大切にして当たり前でしょー、って

恥ずかしいじゃない、言わせないでよぉと
もうもうと照れつつも、ちゃんと言ってくれる人。
それがイエスなのであり、
そんな飛び切りの心遣いを、
ただ一人で独占出来ているという、この至福よ。

 “ああ、でも、そういうのって。/////////”

どうしてだろうね、なかなか慣れないから困りもの。
嬉しいけれど苦しいのは、どこかに遠慮があるからかなぁ?
視線が落ち着かないでいると、んん?って小首を傾げるイエスと目が合う。

  ああ、なぁんて素敵なんだろなぁ…。////////

長く垂らした髪形も それはよく似合う繊細な風貌で。
何かしら考え込んだりして眉間が険しくなると、
いかにも男の人らしい、鋭い面差しになるというに。
同じ目許を甘くたわめると、
そりゃあ優しい雰囲気になってしまうイケメンで。

 「ブッダ?」

ほわんとうっとり、こちらを見やってばかりの彼なのへ、
どうかしたの?と玻璃の双眸、パチパチと瞬かせるイエスであり。

 「いやあの、あ・そうだ、洗濯しなきゃあ。////////」

そうそうと、朝のお仕事を思い出したそのついで、
頭を冷やすインターバルに、
一旦お部屋から脱出しようと試みたブッダだったけれど、

 「ああ、そっちは私がするよ。」

ふふーと微笑ったイエス、
くるりと来たほうを振り返る格好で外へと向かいかけ。
だがだが、そのまま肩越しにこちらへ振り返って来ると、

 「ブッダはご飯の支度して。布団も私が畳むから、ネ?」
 「あ・うん。///////」

いつもの朝と同じことだのにね。
イエスがもう起きているというだけで、
何というのか、こうまで勝手が違うものなのかなぁと、
またまた頬が熱くなってしまった、如来様だったようでございます。




     ◇◇



チューリップは水揚げをしてから、
あまりに大きいからと使っていなかった、頂き物のマグカップへと生けた。
淡いグレーの地に春色が暖かく映えて、
お鍋で煮つけを掻き回しつつも、
ついつい目線がそっちへばかり行くのが困りもの。
ワカメと絹ごしのお味噌汁に、
ニラの刻んだのを溶き混ぜた卵焼きと、昨夜の残りのポテトサラダ。
洗濯機を回してから戻って来たイエスは、
そのまま六畳へ運ぶと、二人分の布団をばたばたと畳んでおり。
コタツを出して布団と天板をセットし、スイッチを入れると、
キッチンへ台拭きを取りにくるところまで、
ちゃんとこなすのがちょっと意外。

 「わあ、いい匂いだね。」
 「うん。お豆腐が多かったから作り足したの。」

絹ごしを甘辛く煮て、
溶き卵でふわっふわにとじたのもイエスの好物だが、

 「とうふ?」

とは思えぬ、
塊というか肉団子風のがごろごろと煮られているものだから、
???と小首を傾げる彼であり。
そんなイエスを、いい意味でびっくりさせるぞとの
かわいらしい目論みを胸に。
火を止めると鉢へと移し、さあさと手渡して持って行かせる。
茶碗と箸に取り皿ももう運ばれているようなので、
炊飯器のコンセントを抜くとまずはそれを提げてゆき。
それから椀へ味噌汁をついで、トレイに乗っけ。
醤油差しとそれからえっとと、要りようなものを見回しつつ、
コタツまでを運んでから、さてと腰を下ろしたブッダ様。

 「はいどうぞ。」

炊き立てご飯を茶碗へよそい、
向かいに座るイエスへ手渡す。
ああそうそう、きょうはまだテレビをつけてなかったねと、
リモコンでスイッチを入れてから、
ブッダが指先をちょいとキツネの影絵よろしく合わせれば、
砂嵐の画面がパパッと朝のワイドショーへと切り替わる便利さよ。
それから“いただきます”と手を合わせ、
箸を取ったイエスが微妙に戸惑うようなお顔になったそのまま、
それでも最初に摘まんだのが、
ブッダが丁寧に煮ていた何かの甘辛煮。
見た目はつくね団子のようでもあるが、
豆腐がどうのと言ってなかったかと、そこが想像力の限界で。
出来立ての熱さに警戒してやたらとふうふう息を吹きかけていたが、
それでも はふはふと手古摺りつつ、
何とかもぐむぐと食べているの、
こちらもついつい…心配半分、期待半分で箸を止めてまで見守っておれば、

 「うんまぁ〜いvv」

ほこほこ嬉しそうに笑ってくれる素直さにホッとする。
自信はあったが、そこは好みの問題だし、
いつもの甘辛煮と味付けは大差無いじゃないか目新しくもないと
がっかりされるかもしれない恐れもあっただけに。
満面の笑みだったのがブッダには嬉しい限り。

 「でも、これって…お豆腐も使っているの?」

それにしてはガンモっぽくもなかったし、
それより何より、

 「本当につくねっぽいんだけど…。」

ブッダは、それがミンチや練りものでも
肉や魚の調理はご法度としている身だけにあり得ないはずなのだけど。
でもでも、外食という格好で食べたことはある風味にそっくりで。
何でかなぁ、何でだろうと、
二つ目を摘まんであちこちから眺め回すイエスであり。

 「お肉じゃあないの?」
 「うん。大豆だよ?」

凄いでしょうと、ここは胸を張るブッダ様。
水きりした豆腐をつなぎにして、
細かい目のタマネギのみじん切りと一緒に
いつもの大豆の水煮を刻んで絞ったのを和えて団子にし、
一旦焼いてから、煮付けた逸品で。

 「もうもう困るなぁ。こぉんな美味しいのばっかりvv」

ご飯の甘みを引き立てる程よい甘辛風味と、
鷄団子風の食感とが相俟って。
いやもう ご飯が進む進むと、嬉しそうなイエスであり。

 「天界に戻れなくなったらどうしてくれるの〜vv」

思えば米のご飯が美味しいと教えてくれたのもブッダだし、
お野菜への好き嫌いも、気がつけば随分と減ったような気がするし。
そんなこんなという、嬉しい困ったを吐露すれば、

 「…………………それが狙いだったりして?/////////」

ぽそりと転がって来た呟きが、
こしょりという小声だったにもかかわらず、
お?と一瞬イエスの箸を止めさせる。
お顔を上げれば、やや俯いているブッダのお耳が真っ赤になっていて、

 「…ぶっだ?」
 「えっと、だからぁ。//////////」

いろんな工夫をするの自体も楽しいけれど、

 「自分だけが食べるものへっていうならば、
  こうまで色々とは考えないし、恐らく手もかけないよ? わたし。」

 「え? そうなの?」

美味しいものや工夫に詳しいブッダだから、
自分はただそのご相伴にあずかってるだけだと思っていたものか。
自身のためにってだけなら手もかけないというのは
イエスには意外なお言いようだったらしく。
キョトンとしてしまう彼なのがまた、
いかにも素直で純真で、微笑ましくてしようがない。

 そう、ただ美味しいものが好きな人と、
 食べさせたい相手がいる人との、そこが大きな違い。

 「自分が美味しいって思ったもの、
  大切なあの人は、果たして喜んでくれるかなぁ?って。
  それを思うのが楽しいから、
  お料理への手間も甲斐があって幸せなんだな。」

美味しいなぁって言ってくれたら、微笑ってくれたら、
それだけで幸せなんだな、と。
うっとりと言いつつ、
ひょいと伸びて来た手が、
イエスのお髭の端っこにくっついていたご飯粒を
手際よく摘まんでいる辺り。

 「……それって。///////」

私のこと?と、聞くまでもないと気がついて、
イエスまでもが真っ赤になってたり。

 「…あ、ごめん。ちょっと辛かったかな?」

ついのこととて味付けが濃くなるのが困りものでと、
眉を下げちゃう彼なのへ、
ぶんぶんぶんとかぶりを振って見せ、

 「ううん、凄っごく美味しいっ。///////」

お代わりっとお茶碗を突き出す無邪気さに、
ああ良かったと微笑ってくれるブッダこそ、

 “私には可愛くって可愛くって大切なんだのにね。”

こんなに至れり尽くせりなことまでも、
ブッダは、自分にとっての幸せ…だなんて言うんだ、と。
懐ろの深い優しさを惜しみなくそそいでくれる彼なのが、
イエスにしてみれば、舞い上がりそうになるほど嬉しくてしょうがない。
想いを通じ合わせる前からだって、
頼りないイエスへ弟みたいに構いつけてくれる、
それは優しいブッダではあったれど。

 『……それが狙いだったりして?/////////』

天界に帰れない、ブッダの傍から離れられないと言ったのへ、
こしょりと出ちゃった そんな本音は、
弟分を相手には抱えない想いだと思うから。

 “うあ〜、私って果報者っ。//////////”

新しいご飯を受け取って、
お味噌汁もサラダも美味しい、ニラたまも美味しいよvvと
それは嬉しそうに平らげるイエスであり。

 “…でも、太らないから羨ましい。”

まったくです。(苦笑)

 【 …というわけで、今日は“愛妻の日”だそうですが。】

ニュースや天気予報の狭間、
新しいニュースもそうそうないのを埋めるべく、
旬な話題や芸能コーナーまで
朝っぱらから色々と扱っているのがワイドショーだが、
ちょうど、今日は何の日だ?というコーナーだったようで、
こちら、聖さんチでは朝っぱらからラブラブに盛り上がったお題目が、
テレビの向こうでは、今ようやっと取り沙汰されているらしく。
ありゃまと感じたそのままお顔を見合わせ、苦笑し合ったものの、

 「けど、わざわざ奥さんの日を2つも作るなんてね。」

そういう日ってわざわざ意識しないと、
ありがとうも愛してるも、日本人には言いにくいのかなぁと、
ちゃっかり便乗しておきながら、
イエスがふふ〜んとお兄さんぶった言い方をするものだから、

 「う〜ん、それだけシャイな民族には違いないみたいだね。」

キッチンの作業台の上、
マグカップに生けたチューリップを見やって、
ブッダもくすすと小さく微笑う。

 「バレンタインデーを、
  女子の人から告白してもいい日ってしたのも、
  そうでもしないと、
  なかなか進展しない風潮があったからだろうしね。」

 「そっかぁ。」

本来とは全く異なる趣旨の日になってることへ、
あれれぇ?と思ったのは最初の年だけ。
今では、そうまでしてあっても“えい”という思い切りがいることとて
微笑ましいったらないと、風物詩としては受け入れている最聖のお二人だが、

 「でも、シャイだってところは、
  そうそう変わりようもないだろうにね。」

そりゃあ、大昔に比べれば開放的になりつつあるんだろうけれど、
それでもそんな“〜の日”って切っ掛けが要るんだものねぇと。
愛してるって言えますかとインタビューを受けてるお父さんたちの、
ちょっぴり照れてるお顔、
“大変だよねぇ”と微笑ましげに見やるイエスなのへ、

 「……イエスだって、大変だったんでしょう?」

ブッダがやんわりと微笑って呟く。
え?とテレビから視線を転じれば、
いつの間に立って行ったものか、湯沸かしポットと茶器とを運んで来ていて、
そろそろ落ち着く頃合いと見越してのこと、お茶を淹れているところ。
少しほど伏し目がちになって、一心に手元を見やる彼だけど、
長いまつげの落とす陰は、頬の縁の赤みを隠し切れてはいなくって。

 「凄いよね。ずっと内緒にし通してて。」

嘘ついてたワケじゃあないけど、それでも。
彼ほど素直な人が、なのに心に蓋をして通していたなんて、
随分とキツかったはずだし、苦しい場面だってあっただろうにねと。
この半年の自分に置き換えれば、
どれほど大変だったろうことかが いちいち忍ばれるブッダであるらしく。
重荷になってはいけないからと、お友達というスタンスを守りつつ、でも、
好きという気持ちは いくらでも育つし膨らむから歯止めが利かぬ。
喧嘩になると倍くらい辛いし、焼きもちだって覚えたし、
そのたびに、自分がいかに矮小かと落ち込みもした。
それらを、でも相手には一切知られてはいかんのだから、

 「何百年もずっと堪えてたんだものね。」
 「ぶっだ?」
 「イエスはどれほど辛かったのかなぁって。」

それこそ…私は苦行好きなんだから、思い切ってぶつけて良かったのにと、
冗談めかして言いたいところだが。
当事者である自分がそんな傲慢なことを言ってどうするかと、
生来の生真面目さが 胸へ堅い箍をがっつりと嵌めるものだから、

 “ああ、詰まらない話を持ち出しちゃったかな。”

せっかく頑張ってくれたのにね。
私ってば何でこうも、頑迷さから台なしにしちゃうかなと。
湯飲みの縁から立ちのぼる湯気をぼんやりとみつめておれば、

 「だって、ブッダが困ると思ったし。」

ああ、やっぱり君は優しいね。
嫌なものは、これでもきっぱり断るんだよ、私。
でも、そんなこと、それこそ言われなきゃ判らないものねと。
またぞろ自身の矮小さを痛感しかかっておれば、

 「でも、結局は
  一日とはいえブッダを困らせちゃったものね。
  辛かったでしょ? ごめんね。」

  ………………はい?

何なに何の話?と顔を上げれば、
朝の明るみの中、
箸も置いての姿勢を正したイエスが
真っ直ぐにこちらを見やっていて。

 「結局、ブッダから告白させちゃったんだものね。
  ズルかったよね、あれは。」

 「あ…。」

イエスへの“好き”を自覚したあの日、
何だか様子が変だったことへへ、イエスもまた気づいていたらしく。
でもでも、自分の気持ちを押し隠していたせいもあり、
素知らぬ顔を続けたところ、
ますますと不自然な振る舞いをするブッダなものだから、

 『もしかして、天界へ帰りたいの?』

見当違いなことを訊いてしまい、
結果として、
ブッダから“イエスに懸想している”と吐露させてしまったのだけれど。

 「ごめんね。私って本当に詰めが甘くて。」

結果的に辛い想いをさせてるんだもの、何にもならないと、
薄い肩をひょこりと萎えさせちゃったものだから、

 「違うよ、イエス。」

ううんと今度はブッダがかぶりを振る番で。

 「私、ずっと見守られてたんだもの。
  ちゃんと思い知らなきゃいけなかったんだって。」
 「でも…。」
 「それに、」

何か言いつのりかかるイエスの声へ、やや強引におっかぶせ、

 「私、あれ以来のずっと、嬉しいドキドキをいっぱい貰って来たし。」

慣れない想いに動揺したりもし、その時は不安で不安で怖かった。
泰然と構えてなんていられなくて、
とはいえ、そんなものは煩悩も同然と見切ることも出来なくて。
そんな“怖い”を、
ぶつけていいんだよとすぐさま言ってくれたのもイエスだったし、
いつもいつだって大丈夫と支えてくれて。

 「私はずっと嬉しい想いばかりしてきたの。」

楽しいことだけじゃなくて、大変な騒動も起きた。
恥ずかしながら嫉妬も覚えた。

 でもね、

イエスって嬉しいときはオレンジの匂いがするんだって気がついたほど、
懐ろ深くへぎゅうってされるのが好きになったし。
キスもハグも、まだぎこちないけど自分からだって出来るようになったし。
だから、あのね?


  「イエスを好きになって良かったって。//////」

  「〜〜〜〜〜っ、ブッダっ。/////////」


もうもうもうもうっ/////////
キミってば何でそうも私を萌えさせるのーーーーっっと。
勇み立っての立ち上がったヨシュア様から、
どこにもやんないっとばかりの勢いよく、
懐ろ深くへぎゅーっとされてしまった釈迦牟尼様、

 「あ、や…あのあの、えっとぉ。……いえす?///////////」

頼もしい筋骨の感触も蠱惑的な、男臭い懐ろへ頬を埋め、
長い腕にくるんと包み込まれ、
離さないよと情熱的に迫られるという格好の、
不意打ちな抱擁は予想外だったものか。
やり場に困った手の甲までも真っ赤になったそのまんま、
ばさぁっと螺髪が解けてしまい、
朝っぱらから大混乱の“愛妻の日”だったようでございます。





       お題 @“ギュ〜ッてしてvv”







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  *ヤマザキ春のパン祭りのCMがもう流れておりますね。
   毎年こんな早かったっけ?
   まだ二月に入ったばっかなのにね。

   じゃあなくて。(笑)

   まだほんの二章目ですのに、
   もうエンドマークつけて善さそうな盛り上がりです。
   変だなぁ。(変て…)
   第一、まだ二月に入ってないじゃん。
   (って、それはもーりんが亀なのが悪いんですがね。)
   導入部でこれでは先が思いやられますなぁ。
   お題のというより今回のテーマは、ずばり“二月”ですのにね。
   ちなみに、お題のテーマは『両想いな二人へ10のお題』ですvv
   毎回代わり映えしなくてすいません。


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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