人恋しき 秋の深まりに
      〜かぐわしきは 君の…

     



何てことない平日の昼下がりだったはずが、
彼らならではな事情からの突発事態に翻弄されて。
リンゴのサイダーで がらりと人格の変わった神の子に、
やや強引、且つ熱烈に言い寄られかけたかと思えば。
何とか我に返った彼が、だが、
相手へのしかかるよな体勢だったことから、
自分では何も覚えてはない暇間に、
愛する人へ罪深い暴力を振るったのではと思い込み。
根拠もないまま どっと落ち込んでしまったのへ、
そんなことないないと宥めるのへ尽力したり。
ブッダ様には本当にお疲れさまでしたの騒動で。

 『……泣いてたじゃない、ブッダ。』
 『あ…。///////』

何も覚えちゃあいなかったイエスにすれば、
だがだが、それが一番に こたえたらしかったが。
それもこれも、

 『私って、
  特に耳に限って 途轍もないくすぐったがりでしょう?』

それでと、そこへいきなりキスをされただけ。

 『そりゃあまあ、
  我慢が要ったほどには辛かったけれど。』

あまりにくすぐったくて、
ぎゅうって眸を瞑ったものだから、
涙が滲んでしまったの、と、
順を追ってちゃんと説明して差し上げ。
ついでに…というには、随分な覚悟の上で、
うんっと気張ってのこと、自らも彼のお耳をチロリと舐めて、

 『…ひぃ?!//////////』

こういうことだという体感もさせてあげたので。

 …………私、キミに酷いことしてないの?
 してない、してないvv

おどおどと再度確かめるヨシュア様に、
怒ってないし怯えてもないよという証し、
これでどうだと ついばむようなキスも贈ったことで、
ようやっと何とか落ち着いてもらえたようで。

 …でもでも、ブッダ様におかれては
 随分と大胆な振る舞いには違いなく。

後になって ふっと思い出しては
ギャ〜〜ッ恥ずかし〜〜〜っ////////と、
布団の中でじだんだ踏んでしまうかもですが。(笑)

 「さ、おやつにしようねvv」

ほどけてしまっていた螺髪を えいと元通りにし、
用意してあったホットサンドをオーブンで仕上げて、
食べやすいよう細長い台形になる
斜め切りをしての皿へ盛り付けて。
さあ食べよう食べようと、やっとの“お三時”と相成った。

 「でもね、
  じゃあ私やっぱり、キミに意地悪はしたんだよね。」

もう仲直りは済んだのだとして、
しつこく蒸し返すつもりはないながら。
先程ちろりんと、キスをというか舐められちゃったお耳へ
ぱふりと手のひらを伏せつつイエスが訊けば、

 「う〜ん、そうなんだけどもね。///////」

それこそ今更ウソをついたって始まらぬ。
ぎゅうっと身をすくめて我慢したのは事実だし、
是と頷いたブッダ様だったのへ、

  やっぱり ごめんね、と

やや上目遣いになるヨシュア様であったれど。
ご飯どきとか、寝起きとか、
風呂だの着替えだので裸でいるときなどなど、
これ以上なく無防備な相手へ、
叱ったり罵倒したりは卑怯の極みと言いまして。

 「今後は気をつけようね?」

甘いめのミルクティーを満たしたマグカップを
どうぞ、あ・熱いよ気をつけてと差し出して。
そのついでのように、
お出掛けにはハンカチ忘れちゃいけないよという程度のノリにて、
そんな一言を付け足しただけな釈迦牟尼様。
イエス様相手となると、
やっぱりやっぱり、ついつい甘くもなるようです。
なんて優しいブッダなんだろと、
きゅうぅ〜んという感動をその胸へと抱きしめつつ、
切り口からほんわりと湯気の上がるおやつをいただけば、

 「……ん、あ・美味しいこれvv」
 「でしょーvv」

 縁を定規でぎゅうって押し付けて、封をしたんだ。
 あ・それで?

 「ヤマギワパンの フレンチパックみたいになってるvv」
 「そうなんだvv」

普通のサンドイッチをオーブンで炙ると
パンが反っくり返って中もカサカサになってしまうけど。
こうするとグリルサンドと同じになって。

 「うんうん、これって中がしっとりトロリだよねぇvv」

千切りのキャベツがよく蒸されてて甘いし、
ドレッシングとチーズがまた絶妙〜vvと。
工夫を余すことなく拾ってくれて、
それは美味しそうに食べてくれるものだから、

 “う〜ん、作り甲斐があるよなぁvv”

世の旦那様、ウチのはよく出来た妻だから、
美味しいもの作って当たり前…とか思ってないですか?
それが誇りなら誇りで、言ってあげなきゃ伝わりませんぞ?
はいはい、そんなの当たり前でしょとか言い返されてもね、
そんなもん、素直になれない“ツンデレ”に決まってるじゃないですか。

 「あ、お代わりあるよ? 温めようね。」
 「うん。ありがとーvv」

ふふーと微笑ったイエスが、
あごのお髭へパンくずを降らせているの、
ほらほら・もーと苦笑しながら摘まみ取ってあげたりと、
相変わらずの甲斐々々しさも自然なそれとして出ておいで。
お外は時として冷たい風も吹き始めているけれど、
陽あたりのいいこちらの六畳間は
ほこほこと柔らかな暖かさに満たされており。

 「とはいえ、そろそろコタツを出す用意もしなくちゃね。」
 「あっ、そうだね。そろそろコタツだねっvv」

風邪は引かないが、暑さと同じくらい寒さにも弱い神の御子様が
わっと嬉しそうに声を張ったものの、

 「出す前に布団を干さなきゃいけないし、
  部屋の中もいろいろ片付けなきゃいけないよ?」

温みを逃がさぬためのカーペットを敷くスペースを確保したいし、
いい機会だからという大掃除も企んで…、
もとえ、考えておいでのようであり。
何から何まで本当に行き届いている如来様なのに引き換え、

 「あ、そうそう。」

冬へ向けての準備のお話の途中ながら、
イエスがジーンズの後ろポケットからごそごそと取り出したものがある。

 「松田さんからもらったの。」

棚の修理のお礼のつもりなのだろう、
少ししわになってはいたが何とか無事なそれは、
10月末日まで有効の、某水族館へのチケット。

 「…期限つきっていうのは珍しいね。」
 「そお?」

きっと、ハロウィンのイベントを終えて、
クリスマスのへ切り替えるからっていう
締め切りなんだろうね…なんてな。
穿った勘ぐりなんて…しませんとも、神様仏様だから。

 「…あ。でも、キミは水族館って…。」

確か沖縄にバカンスで(笑)行ったおりも、
水族館は お父様がちょっと手を抜いたり芸術に走ってしまったりした
深海魚という“作品”が
本来はそう簡単に見ること適わぬはずだったのに
まじまじと見られるから ちょっと気の毒でとか言ってはなかったか。

 「うん、でも此処は
  そこまで
  何でもかんでも集めてる大きいトコじゃあないみたいだし。」

こらこら失敬だぞ。
規模が小さいところでも、
それなりの目玉は用意しておられるというに。

 「いろんなクラゲの展示が綺麗なんだって。」
 「あ、この写真のかな。」

まるでそういう電飾を仕込んだような、
それは綺麗な蛍光色の光をまとった軟体が、
暗い水槽の中に浮かんでいるらしきカットが
パンフレットに使われており。

 「あと、アシカのショーがあるみたいだよ?」
 「ふ〜ん、それは観たいねぇvv」

修行や布教活動をしていた生前も、
海や湖などなどという“水辺”に縁がないではなかった二人だけれど、
それでもこの二千年紀もの間は、
天界という真反対の高みに居続けだったせいだろか。
海にはなかなかに関心も深い模様。
イエス様なぞ、相変わらず泳げないのに
沖縄で海の中を見たいと切望してらしたほどですしね。
そこへと容易に至る手段がないがため、
すぐお隣でありながら、
遥か彼方な宇宙と同じほど遠い世界でもあったのが、
広くて深い大海原というわけで。

 「今月末までと限りを打ってあるのなら、
  今週中に出掛けないといけないね。」

 「じゃあ明日にでも出掛けよっか?」

何たってバカンス中、
大手を振っての“サンデー毎日”なお二人だもの。
さっそくにもイエスがPCで交通手段を検索し、
さほど遠出となる距離でなしと、
明日にもお出掛けというのが決定されて。
ついでに、最寄り駅やご近所で
何かイベントをやってはないか目玉のお店はないものか、
そっちもあれこれと検索したりと、
出掛ける前から楽しみだねぇを発掘しておいで。

 「…そういえば、知ってる? ブッダ。」

ふと。
これも検索した水族館のHPを眺めつつ、
こんなお魚が待ってるよなどという説明と共にレイアウトされた
様々な限定展示や場内の写真を見ていたイエスが
何を思い出したか おもむろにという口調になって。
同じ画面を覗き込んでたこちらへ訊いて来たものの、

 「? なぁに?」

それだけのお言いようでは、
水族館と言えばの何からしいということしか予測が立たず。
案外と線の細い稜線に縁取られたメシアの横顔へ、
素直に尋ね返したところ。
大きさは控えめながらも黒々と整えられたお髭の下、
形よく引き締まってた口許が…
ふふーと柔らかな微笑う形へ引き上げられて。

 「水族館て、海の中を再現するためとか、
  水槽をこそ際立たせるためにって考慮から、
  館内のあちこちがちょっと薄暗いんだって。」

 「うん。」

そういう理屈はようよう判るし、
パンフやHPに使われている写真からも
暗い中へライティングされているかのような水槽が
やたら多いことが窺える。
幻想的な効果を狙ってかなと思いつつ、
実はこちらもわざわざ行ったことがないブッダが
“そうだね”と頷けば、

 「それを目当てに、
  カップルがデート先にって選ぶのも水族館なんだって。」

 「目当てに?」

何でなの? 薄暗くては相手の姿だってよく見えないじゃないと、
さすがは生真面目なブッダ様、
そういうことへのテクとかハウツーには疎いまんまであらせられ。

 「だからね?」

映画館が必ずしも
人目を気にせず いちゃつける場所とは限らないけれど。
それでも…勇気を出しさえすれば、
手摺りに乗ってる彼女のお手々を
気がつかなかった振りでそっと触るチャンスに恵まれているように。

 「肩を寄せ合ったり手をつないだりへ、
  もうちょっと勇気がいる段階の二人が
  その切っ掛けに出来るでしょう?」

 「あ、そっかvv」

同じ例に
初詣での人出でごった返している寺社仏閣とかありますが。
(おいおい)

 「わあ、それって何か初々しくて可愛いねぇvv」
 「でしょう?」

あくまでも健全な方向からの
ささやかな冒険へ打ってつけな場所として、
いわば“聖地”なんだねという解釈をなさったらしいお二人で。

 「まあ、私たちには今更なことだけどもね?」

割とあちこちで平然と手もつないでいたし、
こちらは さすがに人目は気にするものの、
ハグだの…ちうだのも
既に経験済みではあるからねということか、
ふふと軽やかに微笑みつつという
余裕の口調で言ってのけたイエスだったのに対し、

 「う、うん。も、もう そういうところはね。///////」

おおっと、こちら様はそうでもなかったか?(笑)
さすがにこちらは、基盤とする文化の違いというのもあってのことか、
まだまだ初心者でございますとの含羞みが出るブッダが、
真っ赤になって やや口ごもってしまうので、

 “……おやまあ。”

さっきは意気消沈していた私を励まそうと、
身を乗り出しての優しいキスまで、
わざわざ自分からしてくれたっていうのにね。
あれまあという視線が届いたか、
おぶおぶと照れつつもやや怯んで俯いてしまう彼であり。
それは嫋やかな風貌のまま、
照れ照れという初々しい可憐さを見せる如来様の可愛さへこそ、

 「もうもうもうっ。
  なんでそうも可愛いかな、ブッダはvv////////」

 「ええっとぉ。////////」

さすがインドの人で、
線のくっきりした面差しのイケメンなのに。
言動の穏やかさや所作の嫋やかさで誤魔化されがちだが、
ようよう見やればイエスよりも頼もしい体躯をなさってもいるのに。
このくらいのことで肩を縮めて恥じ入ってしまう、
そんな素朴な純真さが
イエスには、たまらなくキュンと来てしまうツボでもあるようで。

 「いぃい?
  その色っぽい唇、
  絶対 私以外に許しちゃいけないんだからね?」

 「いいい、色っぽい?///////」

いきなりそんな言われようをされたものだから。
なにかひどく淫靡な対象みたいじゃないですかと、
深瑠璃色の潤みも強い双眸を
驚きと抗議とからのこと、
思い切り見開いてしまわれたブッダ様だったれど。

 「冗談ごとじゃあないんだから、
  真剣本気で言ってるんだからね。」

 「う…。////////」

二の腕をがっしと掴んでの真っ向から向かい合い、
本気ですという台詞そのまま、
それはそれは真摯なお顔になったイエスに見つめられては。
根負けしてのこと、
問題のそのふくよかで瑞々しい口許を軽く咬みしめ、
ううう〜〜っ///////と再び照れ入ってしまう他はなく。

 「ホントにもうもう、
  どうしてこんなに瑞々しい美人さんなのかなぁ、ブッダは。」

 「やめてってば。////////」

よほどにふざけている場合を除き、
嘘とお仲間かもしれない“お世辞”なんてもの、
まずは言うはずがない人だからこそ。
叱りも出来ずで困るばかりのブッダだったが、
お膝に乗せてた自分の手を見下ろしていて、
ふと…何やら思いついたらしく。

 「……だったらイエスは、
  そんな私が 攫われたり誘惑されたりしないように、
  いつも傍にいなけりゃいけないよ?」

いつも一緒が基本じゃああるが、
時折、ブッダの知らないサークル仲間の集いとかに出掛けるわ、
使徒の方が降臨してくりゃ呼ばれて出掛けるわ、
商店街の皆様からも
“良かったらバイトしない?”という
ラブコールが絶えないわするイエスでもあって。

 神の御子だものね、
 意識せずとも振り撒かれるアガペーの力か
 そりゃあ人が寄っても来ましょうよ。

こっちだって さすがに一頃よりは落ち着きましたよ。
子供じゃないんだから お留守番も苦じゃないですよ。

 それでもあのね?/////////と、

ついつい、ぽろりと出てしまった
ちょっぴり欲心の滲んでなくもないおねだりへ、

 「……うわぁ。////////」

さすが、愛には敏感なヨシュア様。
ブッダがどれほど“えい”と思って絞り出した文言だったか、
その含羞みっぷりを見ずしてもきっちりと拾えてしまわれたらしく。

 「そんなの勿論じゃないかっ。
  ああ、でも、束縛するつもりはないからね。
  ただ あのその、ブッダの方からも、
  私から離れないでいてくれると助かるのだけれど…。///////」

 「う、うん、それはもう……。/////////」

お互いを真っ直ぐに見つめ合い、
いわゆる愛の交歓をなさっておいで。
秋の陽だまりは ほっこり暖か。
ましてや、
お互いに大好きな神様と仏様がこれですもの。
松田ハイツの屋根の上には、
もしかしてクジャクじゃないのという姿の
尾の長い鳥が翼を休めていたし。
すぐご近所の病院の裏庭では、
陽かげなんで なかなか人の目が集まらぬ一角の花壇に、
いつ植えたそれか、キンセンカやプリムラが
ささやかだけれど それはにぎやかに、
こそりと咲き乱れていたそうな。




        お題 C“さくらんぼ色のキス”




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  *相変わらずのアツアツぶりに、
   地味派手な奇跡がお目見えです。
   最聖のお二人、自制して下さい。(笑)

  *そろそろお気づきかもですね。
   今回選んだお題は、
   “kiss × kiss で 10のお題”というものですvv
   いやもう、1章の中で一回は必ずと言っていいほど
   二人にちゅっちゅさせてるもんだから、
   だったらいっそ…と選んでみました。(少しは恥じ入れ…無理か)
   何せ、まず最初が“右耳?左耳?”ですよ?
   ウチの二人へとわざわざ考えてもらったような
   そんなお題じゃあありませんかvv(こら)
   ちなみに“ちょっとだけなら”というのへは、
   たまにはブッダ様から〜という格好で対処してみたんですが、
   判りにくかったかもですね。


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv


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