人恋しき 秋の深まりに
       〜かぐわしきは 君の…

     



すったもんだの水族館見学から戻れば、
お次はハロウィンの大売り出しへすぐさま突入。

 「え? そういう順番なの?」

亡者の復活とか仮装とか、由来のお話は二の次なの?と、
イエス様が“物申す”をしたそうなお顔ですが、

 「当たり前です。」

仏としての象徴の螺髪の上へとかぶりものをし、
これを優先しなくてどうしますかと、

 「だって、今日ばかりは、
  年末くらいしか値引きしない書店もDVDショップも20%オフ!」

力ませての ぐうに握った拳も今だけは雄々しく、
いかにも好戦的に そうと言いつつ。
でもでも…ほしい新刊本は図書館でもう読んでる人なので、
買い込むものは 結局
食料品とサニタリー系の消耗品中心、
至っていつもと一緒な ブッダ様なのだけれどもね。(苦笑)
洗剤やトイレットペーパー、シャンプーに石鹸。
砂糖にサラダ油に、小麦粉にパン粉、
バターにスライスチーズに、牛乳に醤油に、あとはえっと…

 「ブッダ、ヤマギワパンって秋もフェアやってるの?」
 「ええ、そうなんですよ。」

しかも、こっちは抽選ではありますが、
点数は4点からと応募しやすいんですよね、と。
そんな詳細にまで通じておいでの、
もはや 仏ならぬ“ネ申”レベルの主夫道を極めておいで。
そんな一端をまざまざと拝せる一日を終えれば、
暦も11月へと突入し、あちこちから木枯らしの声が聞かれて。

 「あっ、イエスさんだvv」
 「キャア、来てくれたのーvv」
 「ブッダさん、
  こないだは裾上げのコツありがとございましたvv」

ご招待を受けていた学園祭とやらへも足を運んで、
そこでも一騒動あったとかなかったとかいう話は
……まあ、時間があったらご披露するとして。(おいおい)
不意に吹きつける風も日に日に冷たさを増し、
空の色もどこか霞がかって来たようで。
朝晩の寒さも徐々に厳しくなり、
街路樹は色づき、
陽が暮れるのが日に日に早くなる そんな中、

 『来月には流れ星の会だってあるかも知れないんだし。
  うん、今日から暖かくするのの強化週間だ。』

そんな風に宣言なさったイエス様のお声が届いたからかどうなのか、
最初は 10月の20日頃にと企画されていたそれが
満月の巡りと台風のせいでお流れになってしまった
『流れ星の会(秋の宵に流れ星を観る集い)』が
今度は しし座流星群を目的として、
中学生以上という条件付きで催されることとなったので。

 勿論、参加いたしますともと、
 妙に張り切ってしまった最聖のお二人だったりし。

またもやお天気との様子見ではあったれど、
今度は何とか
星空もクリアに望めそうな晴天となったため。
花火大会のときよりは早いめとはいえ、
それでもやっぱりまだかなまだかなと待ち兼ねつつ、
陽が落ちるのをわくわくと眺めやり。
窓へ張り付くそんなイエスへの苦笑をしつつ、
ブッダも腕を振るってのこと、

 「さあ。温まっていかないとね。」
 「わあvv」

ハクサイ、キクナに白ネギ、シイタケ、
しらたき、エノキに、餅入り巾着と焼き豆腐。
イエスへは小さめの別鍋へ
特別にと牛肉の切り落としも少しほど奮発し、
〆めには うどん…とする
“聖家”流のすき焼きでしっかり暖を取ってから。
集合場所であり観測場所でもあるオニ公園へと
仲良く並んで とぽとぽ向かう。
まだ吐息が白くなるほどではないながら、
短かった秋の末、
大慌てで出したダウンコートやPコートが早速のお出ましで。
一応の用心にと、
ニット帽と使い捨てカイロもポケットへと忍ばせているから
今時分の防寒対策としては万全だろう。
住宅街の家並みに両側を遮られていた夜空が
不意に ぐんと開ける公園へと到着すれば、

 「参加の方はこちらへどうぞ。」

休憩用の垂木の屋根つきベンチのところで、
ランタン風サーチライトを灯した受付が設営されている。
点呼を取りつつ、簡単な星図盤を配っているらしく、
そこの明かりを借りて周囲を見回せば、
立派な望遠鏡をセットしている本格的な人もいれば、
どういう骨董品か、
海賊映画に出て来そうな伸縮型の望遠鏡持参の人もいて。
そういった用意のない人へは、
主催の方々が双眼鏡ならぬオペラグラスを貸し出して下さる。

 「あまり遠くへは行かぬよう。
  それと夜ですから騒がぬようお願いします。」

天文学関係の趣味をもつ人、
地学系の大学生のお兄さんなどが参加しており、
栞に記された今夜限りの特設の番号で携帯やスマホで呼び出せば、
簡単な質問にはご親切にも応じてくれるそうで。
配られたボール紙の星図盤を額あたりへかざしつつ、
えっと向こうが東だからと、
街灯の下、東北東の方を向いて、
皆それぞれ、想い想いの場所へと散ってゆく中。

 「すべり台やジャングルジムは、もう満員みたいだね。」

少しでも高いところというのは誰もが思うか、
説明の途中から場所とりに駆け出してた人たちが陣取っているし。
真上を見やすいようにと、
開けた芝生の上などへ、防寒効果の高そうな銀のマットを敷いて
万全の構えで寝転んでいる人も多い。
では、木立の傍は傍で、人気はないかと思いきや、
雰囲気のいい男女が 星より素敵なカレ氏やカノ女を観るためにと
肩を寄せ合い、互いを見つめるのに忙しそうで。

 「えっとぉ…。」
 「しょうがないか。」

結局、こちらも何をしに来たのやら、
ブランコへと腰掛けて、
時折 頭上を見上げることにした、イエスとブッダであったりし。
何もない冷たい地べたへ座ることとなるよりはマシかと、
苦笑を滲ませたお顔を見合わせた二人だったが、

 「あ、そうそう。」

イエスが何か思い出したらしく、
一応は周囲を見回してから、
ブランコを寄せて来てブッダへと囁いたのが、

  あの蝶々さんは何とか馴染んだらしいと
  ラファエルからの報告があったのだとか

へえそれは良かったねと、
顛末を全て知るブッダがほんわり微笑めば。

 「たださぁ…。」

イエスの表情がやや困ったように沈んだのは、
おまけの一報もあったらしく。
案の定というか、
イエス様は甘いと使徒の何人かはご意見も下さったらしい。
けれど、

 「だからって意地悪はダメとも言えないんだな、これが。」

せいぜい穏便にとしか言えない、イエスだったそうで。
庇ったのなら最後まで徹底して…というのは、これまた人間世界の理屈。
むしろ、
そこで一方だけを庇っては不公平が過ぎるから、となるのが、
イエスに課せられた“物差し”となるらしく。

 「意見をくれた子も、私を思ってのお言葉だろうからね。」

弟子に指摘されるなんて情けないかなぁと、
ブランコをきいと軋ませつつ揺らして、
含羞み半分、玻璃の目許を細め、てへへと微笑う彼だけれど。
人と神の眷属との立場の差というか、
そこはもはや“しょうがない”としか言えないことだ。
狭間に立ってるイエスには
双方の理屈も判って、むしろ苦しいばかりだろうしで、

 “まあ、その辺は
  ペトロさんとかが
  絶妙に酌んでくれそうな気もするけれど。”

温厚な人、激しい人、清濁の別に厳しい人…と、
いろんなタイプの人たちが揃っている使徒の皆さんだというの、
ブッダもようよう知っており、
特に古株の彼ならば、
イエスの立場や思うところ、
するすると酌んでくれるだろうとも思うので。

 「大丈夫だよ。」

こちらも目許を細め、
霞むように微笑ったブッダが励ますように囁けば。
うんと頷き、
嬉しいときの癖、口許をうにむにとたわめる彼で。

 「ブッダも、ありがとね。」
 「? なぁに?」

 だって私って何の取り柄もないからサ、
 いつも助けてくれてありがとね。

殊勝なお言葉なのへ、

 何を言い出すかなぁ。

苦笑が零れる。
あらたまってどうしたの というんじゃなくて。
ほんのちょっとだけ頼りなく見えても、
それは優しくて包容力だってある人だと、
誰よりも良く知っているブッダであり。

 “いつだったかも…。”

誰にも終わらせることの出来ぬ戦さに大地が震えるとき、
突発的な悲劇の犠牲となった無辜の魂を迎えにと、
彼らほどの格の存在も天から遣わされることがある。

 『どんな怪我を治せてもね、
  その子の一番の願いは聞いてやれないの。』

自分を庇って亡くなったお母さんに
もう一度だけ逢わせてっていう奇跡とか、
天上へ向かわねばならない父親が
もう一度だけ子供を抱き締めたいという望みは、
どうあっても叶えてやれないんだものね。

 『どちらの声も聞こえるのにね、
  私って本当に無力だなぁって思う。』

一度だけ、そんな風に呟いたイエスだったのを、
その当時のブッダはまだ、
抱きしめてやることも出来なかったのが、
今になって口惜しくてたまらない。

 “歯痒いなぁ…。”

人の悲しみと神の立場と、その両方に手が届く彼は、
降臨するたび、それは苦しい鬩ぎ合いに覲(まみ)えてたに違いない。
なのに、そんな切なさや哀しさなんて欠片ほども見せず、
想像さえさせないでの飄々と。
無邪気に微笑っては
こちらの歯痒さまでも癒してくれる彼であり。

 「いっそ、取り柄のない人のほうが良かった。」
 「? え?」

人当たりが良くてイケメンで、
するすると人が集まってくるのは、でも、
神の子だからとか、アガペーのせいだけじゃあない彼で。

しっかりと男らしい風貌なのに、
んん?と目を見張ったり小首を傾げると
愛嬌があって人懐っこくて。

 「ブッダ?」

誰かに奪られたらと思ったら怖くて怖くてと
イエスが言っていたのが凄く判る。
こんな人、もう二度とは出会えないと思う。
こんな素晴らしい人が、私をと求めてくれてたなんてと、
思うだけで胸の底からじんわりした熱があふれ出す。

 「私に唇を許すななんて言ったけど、
  イエスこそ、
  気軽に誰へでもハグし倒すのは……ああいや、なんでもない。/////」

言いかけて、
ああこれって私の立場で言っちゃあいけない語彙ではと
すんでで飲み込みかけたが、
此処まで表へ出ておればもはや意味がなくて。

 「…え? もしかして妬いてくれてるの?」

目許を和ませ、無邪気に喜ぶイエスなのが、
何故だろか、少しほど もどかしくて。

 「そうじゃなくて、ただ……。///////」
 「ただ?vv」

こんな想いの丈なんてもの、
言わないでおこうとしたくせに。

 「…………これ以上。」
 「???」

通り一遍な嫉妬じゃあないって、
こっちからのただの独占欲じゃないんだからって
それをこそ告げたくなって。
えいと眸をつむり、深呼吸を一つしてから、

 「これ以上 ステキになっちゃあ
  ダメなんだから。いいね?///////」

真っ赤になっての上目遣い。
目を逸らさないでと訴えかけるように言いつのれば。

 「〜〜〜っ。////////」

あああ そんなお顔でそんなこと言うのは反則でしょうと、
夜半の乏しい光の中でもそれと判るほど、
茨の冠の陰の下、イエスのお顔も真っ赤に染まる。

 「ブ、ブッダったらずるい。//////」
 「何が。///////」

お互いを見やるので一杯一杯だったお二人ですが、
その頭上を観測史上 類のないほどの流れ星が飛び交ったのを、
うっかり見逃してたことは


  ………ある意味、幸いだったかも知れませんね。(笑)








    お題9 “星降る夜に 〜こんなにも愛しい”




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  *とうとう星まで降らすか、愛の奇跡。(大爆)
   偶然というか、
   たまたまの巡り合わせだったらいんですが…。

  *ちなみに、今年のしし座流星群、
   実際の日時をググッたところ
   観測可能だろうとされる期間は、10日から23日辺りで、
   最も多く見られるとされている“極大”の日時は、
   何とまたまた満月と重なる11月18日の、深夜1時頃だそうで。
   (月が昇るのが零時ごろだから、まともにガチンコです。)
   ただまあ、しし座流星群は明るい流星が多いとされており、
   市街地ででもない限りは観測しやすいほうだとのこと。
   観測サイトさんでは17日の晩が見ごろとして張るところが多いので、
   (休みの日の晩なので空気も澄んでるし、月が昇るのもやや早まるからかな?)
   お外での観測は、防寒対策して、あと遠出する方は眠気対策もして、
   準備万端でお楽しみくださいませね?


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