キミとの春、ひたひたと


     3



好きな人が出来るとネ、
まずはの遠巻き、相手の姿を見つけたくなる。
声が聞こえただけでそわそわしたりして。
でも、本人と目が合うのは何故だか怖くって、
ついつい物陰に隠れたり、
別にあなたを見てる訳じゃないって言わんばかり、
白々しくも目を逸らしてしまったり…。

 ああ、そうだよね。

まだ告白もしてないうちの、
本人の中ででさえ形になってない想いは、
あまりに やわらかすぎるから。
当の本人にさえ知られたくはなくて。

 だからだから、

何でもない視線でさえ、
刺激が強すぎていたたまれないんだよねぇ。




なかなかに雰囲気の盛り上がった朝ご飯を終えて、
今日は何とか陽も出ているので、洗濯物を干し出して。
特にこれといった予定もない二人は、
まずはと、通常運転のあれやこれやに手をつける。
イエスはPCを開くと、
ブログの書き込みをチェックし、
深夜放映されたドラマやアニメのレビューを書き込んで。
ブッダは そんな彼のお向かいで、
新聞に挟まって届いたチラシを広げて、
お値打ち商品のチェックにかかる。

 「…あ・そっか、ひな祭りなんだねぇ。」

さすがにこれは、
どんな世代へも話題的に外せない行事なだけに、
しかも ここまで間近に近づくと、
スーパーマーケットも商店街も
売り出しのお題目にと掲げるのは必至で。
雛飾り&五月人形は増税前に…という直球なちらしもあれば、
ちらし寿司やらケーキやら、ひなあられに白酒や甘酒、
準備はよろしいですか?というホームパーティーの味方系、
お雛様とどう関係があるものか、
アニメキャラの寿司セット配達しますというのもあって。
お子様のご成長の記録にとしつつ、
十二単の御用意もありますという写真スタジオのちらしでは、
それはかわいらしい女の子たちがサテンのドレス姿で笑っておいで。
桃の花(枝)ありますというスーパーのチラシを眺めていたブッダだが、

 「…あ、そういえば、愛子ちゃんの。」
 「………っ。」

知己の中でも一番小さな女の子の名前が飛び出して。
PCの陰で、思い出してくれるなと思うていたか、
ややうつむく格好でいたイエスが、彼の呟きへギクリと肩を震わせる。
だって、あのその、昨年は一騒動ありましたしねぇ。(笑)

 「何か訊いてない? イエス。」

招待されてないまでも、逢う予定があるのなら、
お菓子の包みくらいは用意しようかと思うておいでの如来様。
曇りなき笑顔から、そのくらいの心積もりは察しもついたものの、

 「えっとぉ、今年はほら、月曜日だし。」

ちなみに昨年は日曜でした。

 「愛子ちゃんも学校があるんで、
  今年はご家族だけでお祝いするんだって。」

 「そうなんだ。」

たまたま出先で逢った竜二さんから訊いてねと、
何とか笑顔で返せたし、
ブッダもふ〜んとあっさり納得してくれたけれど。

 『いえね、ウチの雛人形なんですが。』

話を持ち出されたおりは、イエスの側もぎょっとした。
当日まで雛人形がどういうものかを知らなかった彼でさえ、
昔の貴族の結婚式を模したもので、
女の子の成長を祝うための親心が籠もったそのまま、
代々引き継いで大切にする、
由緒ある一式だというのは把握出来たから。
それもまた“愛別離苦”の範疇か、
結婚や家庭生活というものも
苦しみへ直結しているかのよな説法を唱えておいでなせいか、
自己説教モードに入った挙句、
お人形たちを次々に出家させてしまった
困った“恋愛クラッシャー”さん(某様命名?)を
さぞや恨むか怒るかしてないかと。
普段はそうでもないけれど、この時期だけは別、
静子さんもさすがに思い出すんじゃないだろかと
ドキドキしてしまっていたところ。

 『妙なことになっちまったが、
  毛が抜けるのは 何とか
  お内裏様と左右の大臣、翁までで留まってましてね。』

 『そそ、そうなんですか。』

 『とはいえ、まさか処分も出来ねぇしってんで、
  タツの伝手に 霊感が強いってのがいるんで、
  とりあえずお祓いしてもらおうかって
  見てもらったんでやすがね。』

 『???』

そこは宗教関係者なので、
霊感とかお祓いとかいう特殊な言い回しにも理解のあるイエス様。
ちょうど居合わせたブッダが関わってるんじゃないのかな、
いやいやまさか、あんな超常現象に…と、
曖昧なことだけに口に出せなかった彼なのかなと思いつつ、
続くお話を聞いておれば、

 『そいつが言うには、
  こいつぁ途轍もない運気がついてるって
  言うんでさぁ。』

 『運気?』

はい?と聞き直すイエスへ、
鹿爪らしいお顔のまんま、
竜二さんは真っ当な肯定の意味から
“うす(はい)”と大きくうなずいてから、

 『何でも、家内安全、機縁最良の、
  それは縁起のいい運がついてるからと。
  祓うなんてとんでもない、
  誰ぞへ譲ってもいけませんぜ、
  そんな勿体ないことをって言われましてね。』

 『……おやまあ。』

とはいえ、外見はやっぱり気になるんで修理に出しやしたが、
それへの費用は、
ちょうど買ってあった宝くじが早速当たって釣りが来ましてねと。
和やかな笑いようをなさった、恐持てのおあ兄さん、

 『そういうワケですんで、
  百に一つも気になさることはありやせんが。』

ただまあ、またぞろ同じことが起きたら、
そちらさんへも あのその気まずいことでしょうしと。
この人には珍しくも ごにょごにょっと言葉を濁されたのへ。
ああはい判りますよと こちらから持ち出して差し上げ、
平日だから愛子ちゃんも学校があるのでしょう?と、
さっきの話を男二人で何とか盛った次第。

 “さすがは釈迦牟尼様の
  念の働きってことなのかなぁ?”

あくまでも人に仇なすことは起きませんというのが 基本ということか。
でもでも、結婚式のただ中から新郎を出家させたの、
ちいとも反省してなかったしなぁと。
こちらさんは、
生めよ増やせよ、地に満てよを推奨する宗教を唱える、
基本 博愛のイエスとしては、
伴侶様と微妙に異なる方向性を、
今更ながら しみじみ思い知りもした一幕だったのではあるが。

 “…でもね、あのね?/////////”

お雛様たちのゆるやかな出家モードが止まった時期というのが あのその、
彼らが告白をし合ったころと、微妙に重なってたりもして。
それでと作用が止まったのなら、何て大きな波及効果、
そんなのが出たほどのことだったものかと、
こっそり、そっちに感動したイエスでもあって。
ブッダの教義を歪曲するというよなほどの、大ごとじゃあなかろうし、
あまりに原理主義が過ぎるのは よくないと、
それはどんな宗教や思想にも言えることなので。
知らず妥協してくれるよになった、融通というのが生まれたのなら、
他でもない生真面目な彼自身を追い詰めるようなことにせぬためにも、
いい傾向じゃあなかろうかと、
ぼんやりながら、ついつい思ってしまったから。

  具体的な愛のパワーってすごいなぁ、なんてvv

 「…イエス? さっきから“つくもん”が呼んでるけど?」
 「え? え? ええ? …あ、わぁ。」

ぼんやりしつつ ややこしいキー操作をしたらしく、
向かい合ってたPCのモニターに、
一旦再起動してくださいなという旨のウィンドウが開いているというに。
しかもしかも、別のキーを押しっ放しでいたせいで、
ぴーーーーーーっという警戒音も立っていたのに、
それへさえ気づかぬままでいたイエスだったようであり。

 「ありゃりゃ。」
 「修復出来るの?」

案じてだろう、ちょっぴり首を伸ばしてくるブッダへ、
何とかねと笑って見せて。
終了&再起動の手順を手掛け始めるイエス様。
ちらり見上げれば、目が合ったブッダが ふふと微笑ってくれたので、

 いやもう、なんてのか、
 こんな幸せがふんだんだなんて
 勿体ないとか どうとかこうとかvv

 「〜〜〜vv///////// って、わあ。」

愛のパワーの物凄さ、
その身でも甘く実感しておいでのヨシュア様だったりするのである。

 「何かまた警告音がしているけれど。」
 「ダイジョーブ、ダイジョーブvv」





     ◇◇◇



さて今日の売り出しは、
お雛様関係では、ご飯に混ぜるだけタイプの寿司の素と
お刺し身セットにハマグリとアサリ。
お総菜のコーナーで ちらし寿司と巻き寿司各種と、
揚げ物のパーティーパックいろいろ。
雛あられにケーキに桜餅に、いちごのパック、
店頭で桃の枝をお配りしておりますというところ。
それ以外はといえば、
ぶりに若鷄、黒豚…は当家には縁がないからスルーして。
スナップえんどうにデコポンが旬で、
新じゃがや新たまねぎもお得となっており。
春の値上げの予定品目の筆頭、バターやマーガリンも、
今日はぎりぎりで在庫を売りますということか、
一応は売り出し価格で記されており。
シメジにブロッコリーにトマト、
あと、今朝もう買ってしまった黄大豆もやしを、
こちらは八百関さんが新鮮だよと謳っておいで…と

 『…よし。』

お買い物へのマッピングならぬチェックを終えたブッダ様。
今日の獲物はインプット出来ましたという、
微妙にきりりとしたお声を上げてから、
さてっとコタツから立ち上がったところ、

 『あ、私もついてって いぃい?』

今日は特に予定もないしと、
PCを何とか収めたイエスが追うように立ち上がって来る。
テレビも観どころはない時間帯で、
そんな中でのお留守番は退屈なのだろう。
一応のお伺いを立てて来たお行儀のよさに、
ブッダもにっこり、和やかな笑みを返し、

 『うん、助かるよvv』

そんな言い方しちゃったけれど、
実は力持ちな如来様だけに、
荷物の重さや嵩張り云々へのお言葉じゃあなくて。

  いつも一緒にいたいのはこちらも同じだったから。

コートを羽織って、一応はマフラーもして。
トートバッグを肩に提げ、
さあと馴染みのコースへのお出掛けへ踏み出した。
小さな一戸建ての並ぶ家並みの通りを、
大川の支流に沿った細い道なりにてくてくと進めば、
コンクリの塀が幾つか連なる通りに出て。
そちらも金網フェンスが巡る月極駐車場を越すと、
踏切の向こう、車も行き交う“中通り”へと出る。
今日は駅やステーションビルには用はないので、
大通りの方へは進まず、
馴染みのスーパーや商店街へ直通のコースを辿る。
今日は久々に暖かくなりそうだからか、
辻々に出ている顔触れも多く。
商店街に出れば、顔なじみも多くいて。
日曜だからか、いやさ日曜なのに、
制服姿の学生さんもこんな時間に居合わせて。

 「ああ、高校生なら
  期末テストが終わっての前倒しの春休みらしいからね。」

三年生たちが大学受験の終盤にかかるののバックアップやら、
高校へ受験して来る子たちが入試で来たりもする都合との兼ね合いで、
公立校も私立校も、三月はほとんど授業もないらしくって、と。
女子高生のお友達が多いイエスが、そんな詳細を説明してくれて、

 「それと、三月といや
  このお年頃には忘れちゃいけないイベントもあるし♪」

 「? まさか“ひな祭り”かい?」

じゃあなくてと、
それは即妙だったお答えへコケる代わり、
そのまろやかな両肩へ、
説き伏せるの図よろしく両手をおいたイエス。

 「二月の聖バレンタインデーのアンサーデーとでもいうものか、」
 「あ、そっか。ホワイトデー。」

ぽんと、手のひらを拳で叩いた様子は、
往年の昭和の漫才を思わせるノリでもあったが、
ままそこは…随分な年齢の“聖人”たちなのでご容赦を。
そうかそれで、
ケーキ屋さんやスーパー、コンビニのウィンドウに、
まだバレンタインデーですかっぽいポスターがと。
今になって、そこへ気がついたらしいブッダ様だったようで。

 「でもまあ、まだまだ認知度は低いみたいだけど。」

義理チョコをもらうのも、
ある意味で人気投票みたいなお父さんたちだって、
ホワイトデーに渡すのは あくまでも“お返し”だろうから、
そうそう凝ったものを用意もしないだろうしね…なんて。
さすがはネットに接すのが日課のヨシュア様、
俗なことほど広く浅く御存知なものか、そんな見解を口になさる。

 「…ふ〜ん。」

そんなご意見、ちゃんと聞いてたブッダ様はといや、
だがだが、視線は別なものへと留まっておいでで。

 コート姿なので微妙ながら、
 後輩だろう女の子たちからのこんにちはへ、
 妙に空威張りしてか澄まして通り過ぎながら、
 でもでも、その先にあったケーキ屋さんの
 ホワイトデーフェアというPOPと
 ワゴンに盛られたクッキーに つい足が止まる男の子。

 “…ああ、お返しかぁ。”

今の子たちにチョコ貰ったのかな、
本命でも義理でも そういうのって照れ臭いよねぇと。
微笑ましいなと感じつつ、
目許が和んでしまったブッダ様。
あんな態度はいつもなのかな。
だったら尚更、引っ込みがつかないというか、
彼女らへお返しを渡すのも一世一代の大事業かも知れないね。
ましてや、本命だったりした日には…と。

 「………。////////」

そんな彼をちらちらと
名残り惜しげに肩越しに眺めやる女の子にも気づいてのこと、
ああ何て微笑ましいんだろと、
胸元がほくほくと暖かく和んでしょうがない。
自分も告白したばかりの頃は似たようなものだった。
イエスのあの玻璃の双眸で 間近から見つめられたら、
どうにも落ち着けなくなっちゃったし、
何の気なしの手や指が、頬や手に触れようものならば、
たったのそれだけで動悸が激しくなったり、
はたまた螺髪がばさぁっとほどけたり。
そりゃあもうもう飛び上がりそうなくらいの反応が出てしまい、
イエスは驚かなかったか、彼を傷つけなかったかと、
そんな心配に胸がぎゅううと絞めつけられたものだった。
なのに、

 『あ、あ、ごめんね。
  ビックリさせよと思ってのワザとなの。
  でも、凄く驚いちゃったみたい?』

先に謝り出すやさしいイエスだったのを、
もうもうもうと甘酸っぱく思い出してしまった、
慈愛をつかさどる如来、釈迦牟尼様だったようだけれど。

 「…あ、そういえば。」

遅ればせながら、こちらも洋菓子店の店先のワゴンに気づいたか、
回想の中のではなく、今現在のイエスが
何か思いついたというような、弾みのあるお声を上げている。
ほのぼのとした心地のまま、何なに?と、
どんな楽しいことを思いついたの?と、
いかにも和んだお顔のままで促せば、

 「ほらほら、私たちってば
  チョコレートを貰ったことになってない?」

 「………はい?」

 ほら、レイちゃんたちから“アンダンテ”のアソートチョコをサ
 ああ。でもあれは、既に“お返し”という名目だったし。
 でもサ、とっても美味しかったしィvv

愛の日にちなんでいるなら、お返しをしなくちゃいけなくない?と。
そこは、そういうイベントの賑わいがお好きな、
もちょっと若けりゃ“お祭り大好き”小僧と呼ばれただろう、
そういう気性のイエスゆえの、
ちょっとした思いつきだったのだろけれど。

 「ええ〜っとぉ…。」

ねえねえと、何だかワクワクしたお顔になっているイエスを前に、
こちらは 少々お顔が引きつりかかったブッダ様。
それが、あっと何やらへ表情が弾けてのそれから、

 「ほらイエスっ、
  こないだテレビで観た、
  クロワッサン鯛焼きを売ってるみたいだよ?」

 「え? どこどこ?」

地獄に仏とは正にこのこと、
それもまたお雛様がらみ販促の一端か、
スーパーの店頭に出ていた屋台型の出店にて。
今評判のというPOPもそれなり、
飴色も香ばしそうで つやも出た、
四角いパイ風せんべい型の でも鯛焼きを、
販売員のおじさんが、いかがですかと焼きながら売っており。

 「わあ、美味しそうだvv」
 「そうだね。
  じきに行列になりそうだから急いで買わなきゃね。」

うんっと駆け出すメシア様の背中を見送りながら、
はあ何とか誤魔化せたと、こっそり胸を撫で下ろしたブッダ様。
そんなつもりは籠もってなくとも、
つか、二人からのお返しという代物になるのだろうに。
それでも…女子高生を相手に気持ちの交換というのは、
気持ちが揺れるので もうたくさんだと思っておいで。
こないだまでのお天気同様、
まだちょっと、荒れ模様の余韻が消え切らぬままらしき、
繊細可憐なヲトメ心。
そおとその胸元へ、
いたわるように押さえておいでな
釈迦牟尼様だったようでございます。





       お題 @“見つめられない”






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  *三月といえばを取り急ぎまとめました。
   何か妙に尺が長くなったよな気が…。
   なお、
   このお話に登場する 人物・団体・出来事、
   それから 関係地域とお天気は、
   実在するものと関わりのない
   筆者の脳内フィクションですので悪しからず。
   日替わり定食ですもんね、この時期のお天気は。(とほほん)
   あと、原作様での新展開が出て来かねない事象へも
   どかご了承を…。(最新本誌様も、ホワイトデーネタだったとか。)

  *えっと、今回お借りしましたは、
   “不器用なカップルさんのための10のお題”でして。
   直前のお話では もどかしさも抱えてたようだから…
   …と思って書き始めたのですが、
   でも何だか、書けば書くほど、
   どこが不器用?な話にしかならないのが、
   もしかして失敗したかなぁ?とですね。(笑)
   焦れったいカップルを見ては、
   告白したばかりの初心者だったころを思い出してみるとか、
   そういう方向で やっと辿り着いてる始末ですものね。
   あんたたち、進展早すぎっ。
(大笑)


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