キミとの春、ひたひたと


     5



ブッダの心づくしの中華まんという、
それは温ったかなお昼ご飯を もぎゅもぎゅと美味しくいただき。
食休めを十分と取ってから、

 「じゃあ、タルトを仕上げましょうか。」
 「うんっ!」

思わぬご褒美みたいに届いたそれ、
懸賞で当たった色々なフルーツを使い、
お料理上手なブッダ様、
それは手際よく、可憐なタルトを作ってしまわれる。
タルト生地からしてお手製という、本格的な逸品で。
小麦粉と卵とバター、砂糖にバニラエッセンスで、
手のひらにちょんと乗っかる、
小さめのぐい飲みのようなタルト部分を
まずは1ダースほど、
綺麗に型を取って、香ばしくも焼き上げていたけれど。

 “果物の種類も多いしなぁ…。”

リンゴは除くとしても、(笑)
あれもこれもと とりどりに作りたいとなるのは明白で。
まま、どれほどあっても構うまい、
晩ご飯あとのデザートにも回せるかもねと切り替えて。
先に作った分は調理用のバットの上へ並べてから、
再び小麦粉に分量の材料を混ぜ合わせ、
今度の分はイエスにも型取りを手伝ってもらい、
追加のタルトを焼き始めるブッダ様。
仕上げはオーブンに任せつつ、

 「さてお次は。」

小さめの鍋に、分量の小麦粉と卵黄、砂糖を入れて混ぜ合わせ、
牛乳で溶いて弱火に掛けると、木べらでじっくり混ぜつつ加熱。
なめらかになって来て、十分煮えたら火を止めて、
熱いうちにバターを加えれば、

 「…これって,もしかしてカスタードクリーム?」
 「そうだよvv」

うあ凄い、こういうのって市販のを使うしかないかって思ってたと、
手品でも見たかのように、それは素直に驚くイエスなのへ。
もうもう照れちゃうじゃないのと苦笑しつつも、
素直に褒められておいでのブッダ様で。
そやって出来た お手製カスタードクリームは、
粗熱を取ってから、
水を張ったボウルに鍋ごと浸けて常温まで冷ますと、
ずらずらと量産されたクッキー風味のタルト生地の底へ、
スプーンで掬っての順番に、敷くように充填してゆく。
その上へ、賽の目に切ったとりどりのフルーツをお好みで盛り付け、
後は仕上げに、溶いたゼラチンを塗ってつやを出して完成。

 「おお、イッツ・キュートっvv」

タルトの器にフルーツを盛るところからを手伝いつつ、
これ以上はない手元という間近で、
出来上がる過程を見ていたそのせいか。
ワクワクという楽しげな気色を見せていたイエスの顔が、
どんどんと感激の色合いへ塗り変わる過程もまた克明で。

 「順番が逆だけど、
  商品サンプルみたいに完璧で素晴らしいっ。」

つややかな出来上がりを手に、やや興奮気味に口にしたヨシュア様。
それって食べられないものみたい?と誤解されぬよに、
あのね、だからネと、
何とももどかしそうに焦りつつ、言葉を探す彼なのへ。
うんうん判るよ、通じているよと、
現に通じているからこそ、くすすと いかにも可笑しそうに、
ブッダもまた、目許をたわめ、それは楽しげなお顔をして見せて。

 「食べちゃうのが勿体ないって意味だよねvv」
 「うんっ、どうしようっ。」

いつまでも眺めてたくてか、
仕上げたそのまま 手にしていた最後のを。
それでも やっとのこと
完成したのを並べている大皿の端っこへ そおっと置いて。
そのまま調理台の高さまで視線を降ろし、
ちょっとしたミニチュアの町でも眺めるように、
どれどれと見渡し始める彼であり。

 「そんなこと言わないで、ちゃんと食べてよ?」

食べてもらうために作ったんだからと、
ブッダが そこのところを説いて聞かせ、

 あ・そうそう、松田さんへもおすそ分けしなきゃね。
 あ、うんっ。喜ばれるよ、きっとvv

ブッダからの提案へも、
文字通りの“わぁい♪”と無邪気に喜んでおいでの伴侶様。
時々 ハッとさせられる、それは頼もしい精悍さとか、
真摯なお顔に滲む男臭さとかは、

  一体どこに仕舞っているのだろうね、と

それこそ苦笑混じりに思ってしまった、
そちら様こそ、
母のよな心境になってしまった釈迦牟尼様だったそうで。

 「お茶を淹れようね。」

お取っときの紅茶の缶を棚から降ろし、
湯沸かしポットをセットし始めるブッダの手際を見て取ると。

 「じゃあ、これは向こうへ運ぶね?」

タルトの載った大皿をそっと掲げ上げると、
落とさないように、それから、お皿の上でぶつけ合わぬように、
慎重に六畳間へ向かうイエスなのが、
大仰すぎてやっぱり可笑しい。
ミルクティーからの湯気をまとったマグカップ2つと、
砂糖入れと絞った手ぬぐいとを載せたトレイを抱え、
後からやって来たブッダとともに、
いただきますの手を合わせての、さて。

 「…うあ、美味しいvv」
 「うんvv
  果物がどれも瑞々しいから、カスタードクリーム正解vv」

タルト地との歯触りの落差へのクッションになっているし、
自然な酸味がある果物へは、甘さとの橋渡しにもなってて何とも絶妙。
おウチで食べているので特別と、
手に持って齧りつくという食べ方になった二人だが。
タルト地がガチガチに堅い訳でもないので、
割れたのをぼろぼろ零すというよな粗相もないまま、

 イチゴ絶妙〜vv
 メロンも甘いよ? よく熟してて。
 え? どれどれ…あ・ホントだvv
 バナナはチョコソースを掛けても良いかもだねvv

種類のみならずカラーもとりどり、
まるで宝石をちりばめたブローチの品評会みたいな
それは愛らしいタルトと、
今日のは甘さ控えめらしいミルクティーとを、
二人して ほくほくと堪能する。
今日は何とか陽もあって、
昨日までの名残りか暖かいほうだけど。
明日辺りからは ちょっと強めの寒の戻りとやらが列島を襲うとか。
ああでも そんなの何処のお話?と思うよな、
まったりと暖かい空気に満ちた六畳間は、
広さこそささやかで、見栄えも清貧の極みじゃあるが、

 地上における別天地のような、
 居心地の良さじゃあありませんか、と

お顔を見合わせ、ふふーと微笑い合う最聖のお二人だったりし。
先に取り分けた松田さんへのお裾分け、
化粧箱に入れなきゃねと、ブッダが見やったのは押し入れで。

 「…あるの?」
 「うん。」

ほら、私たちってお弁当持って出掛ける機会も多いし、
サンドイッチやおむすびには使い勝手も良いでしょう?

 「で、その都度 買うよりお徳だからって買い置きしてあるの。」

無駄にならないものへはそういう格好の費えをすべきと、
特に自慢するでなく素で言い切るブッダ様な辺り。
イエス様には“節約も奥が深いなぁ”と、
新たなる感慨も深かったご様子で。とはいえ、

 「あ、そうだ。」

松田さんへのお裾分けと言えばで思い出した人があったのか、
明るい声を上げたイエスが、ブッダへ向けて提案したのが、

 「ねえねえ、銭湯のご主人へも持ってかない?」
 「あ…vv」

どうにもならぬが哀れだった捨て猫さんたちの、
身のよすがとなって下さった、
仁心厚きご老体、もとえ、銭湯のご主人様。
昼間であれ お顔を合わせりゃ会釈して下さる気のいいお人で、
お風呂をつかいにと毎日のように顔を合わせちゃいるけれど、
忙しい時間帯ゆえに、挨拶以上はご迷惑だろと、
あらたまってのお礼はしにくいままだったので、

 そうだね、それは良い考えだよ、イエス。
 でしょう?vv
 えっと、ご家族は何人おいでかな?
 確かお孫さんが中学生で…えっとえっと

仔猫と遊びに行ったおり、
ひょいと顔を出した子を孫だと紹介されて、
その男の子の下に も一人女の子がいるんだと言われたよ?
番台に座る大人は都合5人ほどいるようだから…と、
そらで ひのふのと数えてみて。
8つあれば良いのかな、じゃあ早速 詰めようかと、
言い出すブッダからして にこやかにしておいで。
化粧箱をしまってあるらしい押し入れへ、ひょいと立ち上がるところは、
相変わらず動き惜しみをしないお人だったものの、
一方で、あ…と遅ればせながら何か気づいたらしいイエスは、
ややもすると“ごめんなさい”という顔になってしまい、

 「…あ、ごめんね。
  今すぐじゃあなくてもいいことなのに。」

面倒なことばかりを次々に、
無責任にも思いつく端から口にして、と。
思慮深さが足りぬ身を、反省してしまう彼なのへ、

 「何 言ってるのvv」

出来れば出来立てが良いでしょう?と、
押し入れの前に膝をついてから、
こちらへ振り向いて来たブッダはといえば。
やわらかな笑みを浮かべつつ、

 「こんな素敵なことを思いついてくれて、
  私はとっても嬉しいのに。」

誰の何を責める必要がありますかと、
ねえと小首を傾げる所作もやさしくて。

 “……あ。///////”

そうそう、
編み物を教わった本山さんの奥さんにもお届けしたいな、
こうなってくると、沢山作ったのは先見の明ってやつだよねと。
見るからに楽しそうに、
胸の前にて嫋やかな両手を合わせる彼だったのへ、

 ふと。

何の声掛けも出来ぬまま、
ふらりと立ち上がっていたイエスであり。
そうそう距離があるでなし、だが、
だからこそ気づいたときにはもう、
すぐ間近にまでやって来ていた気配だったのへ、

 「? どうしたの?」

押し入れの襖へと手を掛けつつ、
立ったままの彼を振り仰げば。

 何も言わぬまま、すとんと膝をついた彼が
 やはり何をと言い出しもしないまま

 “………………え?”

今日はちょっと冷えるから、
セーターの上へジャージを重ね着した、
その長い腕を伸ばしてくると。
ちょっぴり体をねじった格好になったブッダを、
膝立ちのまま身を寄せて来る動作とともに、
丁寧にするりと抱きすくめてしまおうとする。
さすがにあまりの唐突さへは、
ぎょっとしてのこと、
深瑠璃の双眸を大きく見張ってしまったものの、

  “……………あ。////////”

どちらかといえば表情も薄いまま、
だがだが、ブッダが大好きなイエスの玻璃色の瞳には、
どこか切なげな色合いが浮かんでおり。
短い吐息から届くのは、どこか切迫した想い。
そんな気持ちに駆られての、
これでも出来る限りの優しい態度でもって、
こちらに触れて来た彼であるようで。

 「……いえ、す…。/////////」

性急だけれど優しくもある、
微妙な葛藤を抱えた腕の中は。
ちょっぴりぎこちない動作の中、それでも、
いつもの温もりに満ちていたし。
そっと伏せられてゆく睫毛の優美さに誘なわれ、
不意打ちへの驚きも、何故だか霞むように消えてゆき。
触れた瞬間、淡雪みたいな微熱が伝わって来た唇に、
否応無く意識が取り込まれてゆく。

 「…………ん。////////」

いつになく不自由な格好で受けることとなった口づけは
乱暴なのだか、健気で懸命なのだか、
どっちのニュアンスも含んでいての
怖いくらいの蠱惑に満ちており。

 日頃のあの、
 純真真っ直ぐ、天真爛漫なイエスには、
 意外なくらいに掛け離れたそれでもあって。

何が起きてのことだろかと、
落ち着いてそこを精査すべきだという理性的な処断が、
頭のどこかでちらり覗いたものの。

 “〜〜〜〜〜。////////”

二の腕や背中へと回された腕には 強引さもなく。
拘束というよりも すがりつくような気配の強い抱擁の切なさに。
それでなくとも愛しいイエスが相手、
振り切るなんて出来はせぬと。
むしろ、こちらからもその身をゆだねたことを示すよに、
ふるりと震えた螺髪が、そのままふわりとほどけてしまう。


  何を想い、何を感じてのことかは知らねども
  あなたの腕を、あなたの温みを信じなくてどうするかと……








 「…………。////////」

 「…あ、えっと。あのあのっ、/////」


何が何やらというのは、
ブッダは勿論だが、イエスの側も何故だか同じであったらしく。
愛しいお人を懐ろに抱きしめて幾合か、
甘い余韻に浸っていたものの。
肩が撥ねての はっと我に返ったそれからは、
あたふたと慌て始めるのが、これまた手に取るように届いて来て。

 「……………いえす?」

何ともそわそわと落ち着きがないものだから。
ある意味 見かねてしまってのこと、
こちらから見上げてお声を掛けたれば。
螺髪が解けての つややかな髪を降ろした
何とも臈たげな姿だったのがまた、インパクトも強かったのか。
あわわと目を見張ってのそれから、

 「ごめんねごめんね、
  こんないきなりなんて、いけないことだよね。」

目顔で“いぃい?”と訊く心遣いもすっ飛ばし、
了解もないままの強引さで押し通すなんて、と。
ただただ謝る彼自身も 随分と動揺しまくりなのが、

  何だか既視感なくないか、と。

そうと気づいた辺りから、
ブッダの方は少しずつ、落ち着きを取り戻し始めてもいて。

 「ごめんね ごめん、怖かったでしょう?」

眉尻を下げたイエスが見やったのは、
ブッダのお顔と それから
二人の間に挟まる格好になっていた手元とで。
どちらかというとそんな暇も無くてのこと、
いつものようにイエスの背へ回されることもなく、
遣り場もないまま、自分の胸元へと引き寄せていただけなのに。
それだと成程、胸元を不安げに押さえているよに見えなくもなくて、
だから余計に怖々としているように映ってしまったのだろうなと、

 “…あ、そっか。”

そこへと気づいた途端、
さっき感じた不思議な既視感、
こんな流れと似ていたやり取りをも思い出してしまったブッダ様。

 “そうだ。あれって…、”

寝しなの口づけの興奮が嵩じてしまい、
初めて…ブッダの首元までへと 唇がそのまま逸れてったあのときも。
我に返ったその途端、
いかんいかんと大反省したイエスじゃあなかったか。

 「ごめんね、こんな酷いことってないものね。」

掻い込むように抱きしめていた腕、緩めるだけでは収まらず。
その身を反らすようにして、
これ以上はないほど間近なブッダから
何とか遠ざけんとしかかるのへと、

 「イエス、御免はいいの。」

ゆるゆるとかぶりを振って見せ、
その手をこちらから、イエスの胸元へと伏せまでし、
逃げたりしないでと引き留めつつ、

 「前にも言ったよね?
  私、キミにされることは ちっとも怖くないって。」

そりゃあ、ちょっとだけびっくりはしたけれど///// と、
そこは口づけを奪われただけに、少しだけ含羞んでから。
でもネあのネと、潤みの強い眸を瞬かせ、

 「そんな風に恐れられちゃう方が、
  よっぽどのこと傷ついてしまうんだよ?」

 「………っ。//////」

先に すとんとお尻を落として座り込んだがゆえの、
微妙な身長差も生かされたか。
上目遣いになったのが、
ヨシュア様の胸をあらためてきゅぅうんと掴み絞めたようで。

 「さ、お裾分けに行こうね?」
 「あ。ああ、あ、うんっ、行こうね、うん。//////////」


恋というのは、ときに計り知れないものも生むそうで。
世紀越えだ何だかだ言っても、
今のお相手へと抱いたのが初めての恋心だという、
そこだけはバリバリに初心者同士のお二人。
春を前に、またまたひと波乱とか 有りそな予感、、なのでしょか?





       お題 G“キモチの欠片”






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  *このまま“食いしん坊バンザイ”になってしまうのかと思われた
   調理や食事シーンまるけの今回のお話でしたが。(うんうん)
   やっとのこと、お話が動き出しそうでございます。
   ほら三月って31日もあるしぃ。(おいおい)

   それにしても、
   そういや此処までキスシーンもないままだったんじゃあ?
   そっか、それで何かノリが悪かったのか…って、
   一体どういう物差しなんだかですよね。(苦笑)


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