キミとの春、ひたひたと


     6



建物をよくよく見やれば、
漆喰壁のところどこに凝ったタイルが使われた外装といい、
由緒のありそな色ガラスが嵌まった窓があったり。
脱衣場の天井板が、格子のようになった枠で升目に仕切られていたりと、
歴史を感じさせる趣きも色濃い、そんなお風呂屋さん。
風呂のないアパートなのでと
必然的に馴染みになったような順番だったが、
そうでなくとも、
こちらの皆様の温かいざっかけなさとか気遣いへは、
すんなり馴染めただろうそんな銭湯へ。
今日はまだ入りに来た訳じゃあなくてという
持ち回り品の少ない身で、ご訪問をしたイエス様。
丁度 門口へ出て来ていたご主人へ、
ブッダが作りました、お裾分けですと、
化粧箱に詰めたタルトをお渡しすれば。
番台の整理をしていた奥様からも、

 『まあまあ ありがとうございますvv』

それは嬉しそうに微笑まれ。
一緒にお茶でもいかがと誘って下さったけれど、
嬉しいですが これからお忙しいのでしょう?と、そこは丁寧にお断りして。
喜んでもらえたことを胸に、ほくほくと帰途についてたヨシュア様であり。

 『なになに、おじいちゃん。わあケーキだぁvv』

小学生のほうのお嬢ちゃんというのが後から出て来て、
箱の中を覗くと、綺麗ねぇvvと笑い、
それはそれは嬉しそうなお顔になったのが、
イエスの側にも何ともじんわり嬉しくて。

 “あああ、ブッダにも見せてあげたかったなぁvv”

動揺させちゃったの、埋めてもらえたかもしんないのにねと。
さすがに まだちょみっと、反省の度合いが濃い心持ちでおわしたイエス様。
ふと、ふうと甘い吐息をついて、おウチのある方へお顔を向ける。
何であんなコトしちゃったのかなと、
他でもない自分でも判然としないままなのが
何とも歯痒いばかりならしく、

 “私、ブッダを守るって、
  ずっと一緒にいて大切にするって決めたのにね。”

穏やかな愛で優しく包み込み、不安を一切寄せつけない。
当のブッダとの比較にさえならぬ非力な自分なだけに、
身を呈しても護り切るのは難しい局面も訪のうかも知れないが、
それでも、愛してるって そういうことなはずなのに。
選りに選ってその私が、しかも強引な力づくだなんて最低じゃないの、と。
言い逃れのしようがない事実なだけに、
ああもうと地団駄踏みたくなる彼なのであり。

 “……私も修行が足りないのかなぁ。/////////”

イエスからの提案へ
ブッダが“嬉しい”と言って、あまりに優しいお顔をしたものだから。
ああ、可愛いなぁって胸がきゅんとした…だけで収まらず、
それへと引き寄せられるように この身が衝き動かされていて。
気がつけば、そんな彼を腕の中へ ぎゅうと抱きすくめていた。
抵抗しようと思えば、こんな細い腕なぞ難無く払える人だけど、
それだとイエスを傷つけはしないかと思ってのこと、

 “だから、却って 指一本動かせなかったんだろうにね。”

強引に唇を奪ったというのに、
何て罪深いことかと慌てたイエスを、
なのにブッダは誹謗もせず、叱ることもなく、

 『前にも言ったよね?
  私、キミにされることは ちっとも怖くないって。』

むしろ、落ち着いてと宥めてくれたあの余裕よ。
ああやはり、ブッダは先達なんだなぁと、
しみじみと思い知る。
自分の中へと沸き立った、慣れぬ想いに振り回されはしても、
それをいつまでも引き摺らず。
見守る側に回れば、本来の落ち着きを取り戻し、
泰然と構えて相手を安心させられる器の大きさよ。
さすがに多少は照れてもいたし、
あのあの・それじゃあと、
それぞれ手分けしてお裾分けに出掛けようねと
話の流れを持ってって。
イエスはお風呂屋さんを任され、
ブッダは松田さんのところと、それから
本山さんというお世話になった奥さんのおウチへ向かっておいで。
そんな格好で仕切り直しのためのインターバルを取ったのには、
熱さましという意味もあったのだろうけれど。
イエスの顔も立ててのこと、
そうと運べた落ち着きある段取りはやはり、
イエスを反省させることしきりで。

 “私ごときの青二才では、到底 敵わないよね。///////”

確かに、いつまでも ごめんなさいでは、
却ってブッダを困らせ、
しまいには くたびれさせるだけかも知れぬ。
だがだが、かと言って、

 “あっさりと、もう忘れましたという態度というのも
  何か調子良くないかなぁ。”

少し雲が出て来た中、アパートまでの道をゆっくりと歩みつつ、
顎のお髭をすりすりし、どうしたものかと考える。
陰って来たせいもあるものか、寒さも増した路上には人影もなく、
俯き気味のイエスを案じる人もないのが、今はある意味 助かるかも。
お花でも買って帰ろうかな、
ああでも、物で懐柔ってのはいただけないしなと。
大好きなその上、尊敬もしきりとなった人、
最愛のブッダ様と再び顔を合わせたおりの
気まずくないよな切っ掛けとやら。
胸の裡にて、あーでもない、こーでもないと、
考えあぐねていたところ


  ………え?


胸元の真ん中、不意にチリリッと妙な感覚が立った。
シャツの中という肌の上、
考え込んでいてのこと、
少々姿勢が悪かったので、直には触れてはなかったが。
それでも、不意だったのとそれから、
刺すような棘々しい感触だったため。
わっと素早く伝わったその上、

  気のせいと片付けられない強さでの、
  何だろうか、不吉な感触だったとも言えて

インナーシャツの上にセーターを着て、
その上へダウンジャケットという重ね着でいた身なので、
外から何かが当たってのそれじゃあないのは明白。
だからこそ、この刺激は他でもない
首から提げているあの指輪から放たれたそれだと、すぐにも知れて。
これまでの時々、
ふんわりじんわりした温みを感じたことは度々あったけれど、
こんなにも激しく、攻撃的な反応は初めてのもの。
一体何が起きてのことだろかと、手のひらをかざしかけ、
この指輪と言えばの相手を思い起こしたその刹那、

  「な……っ。」

その脳内ビジョンの上に、一体何が見えたものか。
日頃はさほど、そう怒ったとしても、
激しく猛るより前に 失速してしまってか、
ついつい涙するほど気立ての優しい、
悪く言って子供のように純朴な気性であるはずな彼が。

 「…許さないっ。」

怒りに総身がふるりと震えたその拍子、
裂けようほども大きく見開かれた双眸に、
煌々と宿りし、鋭くも蒼き灼光が、
宙にぶれたような残像を描いて くらんと揺れる。
しゃにむに掴み絞められた拳が、ぎちりと軋む音を立て。
茨の冠を巡らせた頭から、背中へ流れる濃色の髪が、
重力から解放されたかのように、
その裾を浮かび上がらせ、揺らめいたそのまま、


  次の瞬間には、その姿が路上から
  ふっと音もなく掻き消えたのだった。






     ◇◇◇



やや時間は逆上り、
こちらは、松田さんチを経由して ご近所の本山さんを訪ねたブッダが、
さすがに近場だったため、先にアパートへ帰り着いていて。
ほどけた螺髪をえいと元に戻し、
まずは一階の松田さんのお宅を訪ねてから、
中通りの手前、本山家までをのしてった彼であり。
混乱していたイエスの手前もあってのこと、
気丈にも平気だよと振る舞って見せはしたけれど。
一人になると、そこはやはり、

 “〜〜〜〜〜。/////////”

いやん、何か強引にキスされちゃったvvと、
好いたらしい相手からだったからこそのこと、
野性味あふるる 雄々しいまでの強引さへの惚気半分、
まずは 微妙に浮かれた気分になりもしたものの。(もしもし?)
とはいえ、

 “いやいや、いい加減に落ち着きなさいって。//////”

ちょっぴり冷たい風の中を歩んでいるうち、
十代の小娘、もとえ、お嬢さんじゃあるまいしという
さすがは開祖様らしいそれ、理性の乗っかった冷静さも復活。
アパートへ帰り着いたころには、
そうともなればなったでと、

 “…う〜ん。”

まずは場を収めなきゃというのを優先し、
咄嗟に蓋をしていた驚きの大元もまた、
再考されるべき対象として思い起こされていて。

 “妙なことには違いないよね。”

お茶でも淹れようかと、
流しで水を汲み、沸騰ポットをセットしつつ、
思い起こすは、やや取り乱す直前のイエスの態度。
いつもなら見せる初々しい含羞みや、
若しくは、妙に余裕があってのそれ、
“おいで”と招くような柔らかな頼もしさが、
先程の彼にはまるで感じられなかった。
かといってねじ伏せるような乱暴さもなく、
強いて言うなら、
どうしても捕まえたい蝶々を陽だまりに見つけた童子のような、
逃げないでという、すがるような祈るような様子に似てもいて。

 “あのイエスでも、
  それこそ衝動的に、その身が動かされることってあるのかな。”

身内の皆様やブッダへと限ったそれ、
時々見せる 甘えんぼな態度や物腰には、
西洋ならではな スキンシップも多いようではあるけれど。
親愛の情からのものでさえ、
ちゃんと“わきまえ”というのが備わっているもの。
それに、
ずんと幼いうちから、父たる神の教えを説く身だとの自覚をし、
どんなに荒らぶる相手でも、はたまた目上の権高な相手でも、
滔々と説いて教化したという、
泰然とした落ち着きも持ち合わす人なのだから。
あんな何でもない やりとりくらいで、
我を忘れるほど舞い上がったり、
そのまま衝動的に手が出てしまうなんてことは
まずなかろうに…と思いつつ。

 “……それとも、それとこれとは別なのかなぁ。/////////”

それを言ったら自分だって、
煩悩を払うようにという説教をする身でありながら、
振り払うことなぞ敵わぬほどの、
優しく甘い恋情にすっかりと捕まってしまっており。
もはや虜もいいところなのだから、他人様をとやこうとは言えぬ。
慣れぬうちなぞ、結構な混乱に取り乱しもしたのだしと、

 「〜〜〜〜えっとぉ。///////////」

こちらも初心者に過ぎない身なので、
何がどうしてというところは、結局さっぱりと判らぬままであり。
二人の育む この恋に関しては
余裕満々に見えたイエスでも。
そこはやっぱり、木石漢じゃあないだけに、
ふと沸き上がる感情が強すぎれば、
振り回されたり混乱しちゃうらしいんだなぁということと、

 “私、そんなにも
  イエスを惑わすようなお顔をしたのかなぁ?//////////”

決して自惚れたいのじゃあなくて。
自覚がまるでなかっただけに、
こっちも驚いてしまったのであって。
多少なりとも覚えがあれば、
少しは加減というのが出来るんじゃないかなぁ……………とか?

 「〜〜〜〜っっ。////////////」

あああ、ダメだ、だめだめと、
あまりの恥ずかしさから、何度も何度もかぶりを振ってしまう。
それってやっぱり自惚れてないか?
それに、イエスに我を忘れさせるよな、
そんな顔をしちゃう自分って、何か恥ずかしくて堪らないしと。
判りやすく言やぁ、いやぁ〜〜んっvvという、
どこの小娘ですかという態度が まんま出ておいでの釈迦牟尼様。
放っておいたら螺髪もほどけそうな勢いだったそこへ、

  ぴんぽ〜ん、と

空気を読まぬままのあくまでも無機質に、
不意打ちもいいところで鳴り響いたのが、
それは凶悪なまでに朗らかだった、玄関からのチャイムの音。
わあ、もうイエスが帰って来たかと、
あたふた仕掛けたブッダだったが、

 “…落ち着け、落ち着け。”

イエスならチャイムは鳴らさない。
宅配便か書留か、
何か公的機関の検査の人か、はたまた新聞の勧誘か。
ぼんやりと考え事に突入したのが流しの前だったため、
うわあと驚いたそのまま、
ドアから遠のくようにのけ反ってしまったけれど。
イエスではないと思い直しの、
お待たせしてはいかんという判断も素早く働いて。

 「…は、は〜い。」

跳ね上がった肩、すとんと落としつつ、
逃げ腰になり掛けたドアへ、とたとたと向かう。
公的機関の検査はないな、
詐欺が多いせいか、ああいうのは前以て連絡があるものなと、
そんなことまで思い起こしつつ、
居回り用のサンダルをつっかけると、どなたでしょうかと
特に警戒もしないまま、
玄関のドアを開いたブッダ様の視野へと入ったのは、

 「………あ。」

重力なぞ何のその、
ふわりと宙に浮いていた、奇妙な人らではあったものの、
恐らくは、一般の人には気配さえ届かない存在。
ふわふわ浮かぶ身に合わせたか、
まとう衣紋もまた、
風をも透かす薄絹の条帛や領巾(ヒレ)といった異邦のそれ。
しかも冗談抜きにこの世のものではないその人たちは、

 「何でまた、天人のあなたがたが…?   …っ。」

曇りなき朗らかさながら、だがどこか画一的な微笑みを、
ぺたりと貼りつけたお顔も、それはそれは似通った二人連れ。
見たところ女性のようなので、天女に当たる彼女らの訪問は、
だがだが一切予告のないものであり。
天界で何か大きな事態でも起こったか、
そうという懸念がまずは浮かんだブッダだが。
だとしても、
言っては何だが、単なる先触れレベルの使者でしかない彼女らに
ブッダへの宣旨なり通達なりを託すとは思えない。
そうでないならという選択の思案を飛び越えて、
ハッという、正に雷光の一閃の如き、
それは鋭い…嫌な予感が沸き立ったのとほぼ同時、

 《 天部の御方様からのお達しです。》
 《 お達しです。》

鈴を転がすような声、歌うような節をつけ、
紡がれるは、一切情感の籠もらぬ単調な文言で。

 《 ブッダ様は このところ頓にお痩せになっておいで。》
 《 お痩せになっておいで。》

芝居がかった言いようなのが、
余裕からかと思えば ただただ癇に障るものの。
何で繰り返すのか、
間を与えて逃げ出す隙を与えんという、
殆ど意味のない配慮だろうかと、
ブッダが歯軋りしもって思ったのは、
イヤって言うほど覚えがある襲来だから。
一応は笑顔であるが、
きっと有無をも言わさぬ強引な行動だけを抱えて来た彼女らで。
霊験だか御利益だかがありそうな、
ややムラの出た表をした壷型の瓶子を、
空中のどこからかその手へ呼び出すと、

 《 さあさ、ふくよかなご尊顔を取り戻しなさいまし。》
 《 取り戻しなさいまし。》

片やの天女が瓶子を高々と掲げ、
もう片やの天女が、
誰か高位の天部から預かって来たのだろ、
宝珠を連ねた玉佩を、
腰から外すとこちらへかざす。
神通力を封じるものか、抵抗の力を奪われてしまい、

 “こうまで強引な仕儀だって?”

逆らっても無駄なのは判っていること、
やろうと思えば寝ている間にこそりとだって取り掛かれる代物の筈。
それをこんな強引さで仕掛けて来る意味が計りかねたまま、
動きさえをも封じられ、
上がり框の上へと座り込んだブッダへ、瓶子が容赦なく傾けられる。
螺髪がほどけ、ばさりと落ちた長々とした髪の陰から、
何で今更こんな仕打ちがなされるのだと。
こちらの意志をも蹂躙せんとす、
冷徹な使いの彼女らを苦々しく見据えていたところ、


  「………何をしているっっっ!!」


耳をも弄する一喝と同時、
どんという圧と共に正に鳴り響いたは 突然降りそそいだ強い光。
明るさなんて桁を越え、
突然差した真夏の灼光のように、痛いほどの強さをはらんだ光の塊が、
彼らのいた空間の、視野いっぱいを塗り潰す。
わぁんっと膨張して襲い掛かったは、
天界の神聖な存在さえも蹴散らす豪の覇気。

 《 きゃあっ!》
 《 あれぇぇえぇっっ!》

あれほど取り澄ましていたのが嘘のよう。
正体の判らぬ強大な力の急襲に、
恐怖からだろ、ぎゃあとお顔を引きつらせ。
強すぎる光に飲まれての蒸散を恐れてだろう、
互いに抱き合うように庇い合い、
…いやいや我先に逃げんとしてのこと、霊道への入り口を奪い合い。
見苦しいほど慌てふためく、
そんな天女二人をてぇい邪魔だと亜空へ突き飛ばし、

 「ブッダっ!」

玄関から…ではなさそな頭上の高みから、
どんな障壁も意にとめず、飛び込んで来た人こそ誰あろう、

 「…………いえす?」

やや遠く離れた出先に居たはずなのに。
ブッダへ襲い掛かる気配を察し、
動転というよりも あまりの怒りからだろう、
それは凄まじい気概の塊、
何と稲妻に転変して駈け戻ったらしきイエスであり。
何でどうしてと茫然としているブッダでさえ、
その身をくるむ神々しい金の光が去るまでは、
それが誰だか判らなかったほど。
あまりの目映さに姿が判然としなかったからではなくて、

 激した感情を満々とたたえた
 冴えた双眸は剣のように鋭く尖り。
 堅く強ばった表情は、
 繊細な作りはそのままなのに、
 どんな荒ぶる神像にも見られはしない、
 無類無比の切っ先で
 一瞬にして斬り裂くような怒りを孕んで恐ろしく。

  さながら、
  戦さをつかさどる荒らぶる鬼神が
  獲物を求めて飛び込んで来たような

殺気さえ感じられそうなほどの、
圧倒的な覇気をまとった乱入だったため。
その気魄の凄まじさに怖じけづき、
みっともないほどの取り乱しようを隠しもせずに、
泣きわめきつつ逃げ去った天人らの陰になっていた大事なお人。
そんなブッダが座り込んでいる様を目にするや否や、
あれほどの激情をふっと幻のように掻き消すと、



  怪我はない?怖かったの?と
  へたり込むブッダを抱き寄せたイエスだったが…






 「…ん? あれ?」

きゅうと抱えた愛しいお人。
天界の存在に襲われるなんて、なんて由々しい事態なんだと、
憤慨半分だったれど、

 「どうしたの?」

私だよ?とあらためてのお声を掛けたのは、
どうしてだろうか、腕の中の存在がいやに抵抗して来るような。
本気の抵抗を構えれば、
くどいようだがイエスをあっさりと突き飛ばせるはず。
そこまでは剣呑だと思ってのことか、
腕をぐいぐいと突っぱねる格好で、
寄らないでとの意向を伝えて来る彼であり。
こんなに元気なら、怪我や消耗は無さそうながら、
もしかして自分を見分けられずに怯えているのかな?

 「ブッダ、判らない? 私だよ?」

見えるようにと、距離を取るため、
抱擁の腕を緩めかかったイエスだったが。
その動作がふと止まり、

 「………あれ?」

イエスの方が、何かに気づいてしまったような声になる。
それを聞いたのだろうブッダが、

 「……。」

懸命に抵抗していた腕から力を萎えさせたけれど。
それにさえ気づかぬか。
緩めかけてた腕を再びきゅうと回し直して幾刻か。


 「ねえ、ブッダ。
  もしかして…ちょっとだけ、大きくなってない?」


他には誰もいないというに、こそりと耳元へ囁いたイエスだったのへ、

 「〜〜〜〜。//////////」

男性相手なのだし、
二人とも ふくよかさこそ幸いとされた時代を生きた身の上。
こっそりという告げ方もまた、
決してデリカシーがない訳じゃあない対処じゃああったが。
そこを常々、こっそり気にしてなくはない身には、
少なくはない痛手でもあったようで。
ヨシュア様からの、
それは大切な人だからという、優しくも温かな抱擁を受けながらも。
やや口惜しそうに唇を咬みしめた釈迦牟尼様、
ほんのちょっぴりふくよかになられた…らしき頬を、
くぅうんという仔犬のような声と共に、
愛しい人の胸元へ埋めてしまわれた。





       お題 H“意外な一面”






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  *そうなんですよ、
   実は…例の“天人たちの強引なアレ”ネタを扱ってみようかなとですね。
   どうやって持ち出せばいいのかが難しくて、
   (いや唐突で良いっちゃ良い代物でもあったのでしょうが)笑
   何か手をこまねいてたんですが、
   えいっと頑張って何とか放り込んでみました。
   でもなんか、
   何されたのっ?て訊かれても、
   ちょっと言いにくい事には違いないよなぁ。
   太ってた頃って黒歴史なのにとか言ってたブッダ様だけに。


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

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